971005付テキスト


酒見賢一「童貞」/講談社/1995/1/27

酒見賢一を読むのは久々。でも1995年作品なのよね。
何となく手にとって読み始めて、気がついたら読み終わっていたという。

伝説王朝期の古代中国(と思われる)、大河の河畔にある女性上位の邑
シャのシィでは、女性がその邑の実権を握っており、男性はただそれに仕えるのみの
完全女権社会が営まれている。これは子供を宿すのは女のみの力であり、男は
その能力のない不具者といった考え方が社会通念となっているからである。
妊娠は媒(正しくは「示某」と書く。子を求める祭を高示某(コウバイ)と言った)
という力による者であり、男はそのきっかけをつくる程度の存在なのだ。
男は肉体労働に従事し、或いは大河の氾濫を鎮めるために贄として殺される。

ある年、その贄に選ばれた男が自分に時間を与える様に言い、
男達の力を持って治水工事を始めるのだが、工事半ばにして大河の氾濫の前に
負れてしまう。
果たして彼が女達の手によって切り刻まれる所から物語は始まる。

その男を尊敬していた少年ユウは、その死を見て女達に復讐を誓う。
美しく成長した彼は、邑の女系社会に組み込まれるのを拒み
全てを破壊して旅立つ。この辺の下りは古典的な物語構造といえる。
身体を傷つけ、足を引きずりながら放浪する姿は聖人冒険譚の類の香りがする。

・・・何というか、女性が読んで気持ちいい作品かどうか・・・
男の復権の物語、の様な所があって、今一つ。だがこういう性差による権力構造の
転換というのは結構有ったのかもな、とは思われる。ぬくぬくとした女系社会から
力が正義の男権社会への転換は、有ったろう。其れが良いか悪いかは別として。


・・・ラストの開放感は意識しての事だろうが、その後彼がどうなって行くのか
についての言葉が無いので、今一つ。治水の夢はただの妄想で終わったのか
或いはそれを治めて王にのし上がっていくのか・・・

絵的には諸星大二郎。「幸福の沼」とか。
あ、でも「ナムジ」との類似点も多いし・・安彦良和的かもしれん・・・

そこそこお薦め。矢っ張り文章は読ませるし、言葉遣いも気持ち良い。
ぐいぐい読ませる力は本物だ・・・
@@@@@@@@@@@@@@@@ [JUN] @@@@@@@@@@@@@@@@


神林長平「敵は海賊・A級の敵」/早川書房/1997/7/15 この世に食えないものはない 今巻は今までとは少しノリが違う様だ。何というか、ラテルチームの影が薄く、 ヨウメイ(此の漢字、出ないよねぇ。作者は手書きなのだろうか?)のキャラも 何だか違う感じである。 作品そのものの作りとしてはシリーズと言えるのだけど・・作者の言を借りれば 「いってみれば、同じ「敵は海賊」という設定を利用して、複数の作者が 競作しているというような感じです。」という、成る程そういう感じ。 彼等の代わりに登場したのが海賊課宇宙刑事セレスタン。アプロと並ぶ大食漢で、 食い物にはとことん弱い。巻頭の言葉からもこの巻全体が「食う」という行為に 染められている感じが読みとれる。 決して無能ではないが感性が少しずれた男。パワードスーツをベビーピンクに 塗ってしまうこの感覚・・・途中からやっぱり脇役になっちゃうんですけどね。 今巻も「情報を操る」と言う意味での「海賊」が敵なのだが、何と今回は (ネタバレを承知で書くが)「情報そのもの」。情報はハードに依存する物か否か、 「情報はモノか」という議論の下りはお馴染み神林調炸裂である。 「同じ情報を発信しても、伝達手段の相違で内容はまた変化する。情報の量は  伝達過程で必ず増える、というのが古典的情報理論だ。熱力学でのエントロピー  増大の理屈と同じことが、物質でないはずの、情報を扱うときにも起きる。  これは、情報というのは物質系の状態と同じように記述できることを示している。  (中略)  エネルギーを加えれば、その場は変化する。情報を加えても、同じようなことが  起きる。ということは、エネルギーと情報は等価なんだ。で、エネルギーは物質で  もって記述できるから、情報も物として記述できるだろう。つまり、情報は、  物なんだよ」(P219) 詭弁だよなぁ。弁論術的。でも「『情報』が物質界に物理的に影響を与える」という 神林一流の論がこうして今も書き直されながら生き続けているのは面白い。 流石に「言葉使い師」で受けたショックに比べれば、これはその延長線上 と言うこともあってショックは何程でもないが・・・ ・・そう、実際この巻はいまいちだったと思うですよ。他人の評価を聞いて いないので何とも言い難いけですど、私的には、イマイチ。 これが単に「駄作」なのか、それとも自分の読書能力のキャパシティを 超えているのかが解らない・・・銀乞(銀河乞食軍団)を読んでて、 巻を追う毎に、どう考えても「SF」として納得行かない部分が どんどん増えていったのを思い出す。でもこういうのは、大抵自分の読者としての 経験値不足だったりするので、後で読むとまた面白かったりするんだろけど。 ちなみにこの論を某防衛隊の隊長に話した所、「誰がそんな狂った事を」というので 神林長平だと言ったら、ああ成程とか納得されていた。さもあらん。 この世界にあるΩ変換という技術が今回の要となる。Ω変換自体は元々「ワープ」 の代用技術として扱われていた様な所があるのだけど、この技術について 語られている所を引用すると 「Ωドライブを実行すると、ドライブされた物はΩ次元を介して、ある通常  宇宙空域に対して均一に広がる状態を引き起こす。そのどこにも等しく存在する、  という状態だった。そうしておいてから、ある目標に向けて収縮する。  目標時空点における自己の存在確立を限りなく高める、と言うことだった  (中略)  単純な移動ではなかった。存在確立の制御で、そうなる。」(P195) このΩ変換を使うことで、「情報」をハードウェアに依存させることなく 空間全体に広げておくことが出来る。閉じた系の中でエントロピーを増大させる 事も無く、情報量は変化しない。この系を共有する事で、ハードウェアに依存しない 情報は、ハードウェアが壊れてしまった後もアクセス可能なのである。(何処かで 聞いたことがある様な。トンデモ本に引用の多い(本人の研究は正当な物・・らしい) シェルドレイクの形態形成場っぽいよな・・・ってそういう聞きかじりのこじつけが トンデモを生むのね・・・気を付けよう・・・)。この非時空論理回路の考え方に 従ってザクセンの開発した偵察ポッドは、その内部にΩ変換装置を持ち 情報をΩ変換する事で(破壊されやすいという性質を持つ)偵察ポッドの情報を 純粋情報化し、確実に読み出す事を可能にしたのだ。 だがその存在する領域には先住者・・というか先住情報が居たのだ。 タイトルのA級の的、とは即ちA級知性体。 ラジェンドラはおろかカーリー・ドゥルガーよりも以前に メルチド・ザウラクの生み出した人工知性体である。以前に語られた様に 初期型は安定せず、暴走、自閉などを繰り返し、その実験の成果は後に AAA級人工知性体ラジェンドラへと繋がっていくのだが、その暴走した初期型 純粋人工知性体、クルトン・Vが今回の敵なのであった。 あのアプロが喰われてしまい、あろう事か負けを意識する程(でもこれも 口先だけかも知れないけど)の強敵だ。なまじ相手がニワトリ(何故かクルトンは ニワトリの姿をしているのだ。小さく切り分けても矢っ張りニワトリ、大きくても。 ホロン的。死に方のオチがまたニワトリ的でおかしいのだ。こないだのNASDAの 実験で死んだニワトリを思い出す)なだけに、アプロも油断してしまった様。 ラストの緊迫した雰囲気はかなりのものではあった。 ・・・何か今回のアプロは全体的に可愛い。ドギィバッグに入れられたり、 一生懸命ラテルにおみやげ持っていこうとしたり。ホントは恐いんだけどな・・ こういうアプロも、でも好きだ。きっとマーシャから見るアプロって こんな感じなんだろう。・・はッもしかして精神凍結されてる? ・・・所で、既に誰かが指摘しているとは思うのだけど、この「敵は海賊」の 世界って結構松本漫画。特にサベイジのバー軍神なんて、何かヘビーメルダー (ていうかトレーダー分岐点)な感じ・・・。 然も其処へベビーピンクのパワードスーツで乗り込んでいって 「ミルク」と注文するセレスタン。このおかしさ。 カーリーの内部の雰囲気も何となく松本だしさ。内部に自然が有って、そこへ 女海賊のマグファイヤ達が乗り込んできて・・・て下り自体がかなり松本だと思う。 ハーロック的。ていうかこの辺読んでる時は、頭には松本絵が浮かんでいるのだった。 勿論ヨウメイには頬傷が。 ・・・結局宇宙戦艦といえば松本、なんでしょうね。私の頭には。 ヤマトの権利も買い戻したと言うし(西崎氏はこれからどうされるのか・・・)、 999再発見ブームも含め今年は松本零士の名を聞く機会が多い年の様ですな。 って全然関係ない話でした。 999でも見よう・・・ ・・終わることのないレールの上を、夢と、希望と、野心と、若さををのせて 列車は今日も走る・・・そして今、汽笛が・・ 駄目だ・・・何かすっかり松本話になってしまった・・・ @@@@@@@@@@@@@@@@ [JUN] @@@@@@@@@@@@@@@@ 追記:初版の目次、「センスタンとエクサス」になってる。    2版からは「セレスタン」に直ってるのを見ると、矢張り神林長平は    今も手書きなのだろうか。少なくともフロッピー入稿とかじゃ    無さそうだ・・・「レ」を「ン」に間違えるなんてのは明らかに原稿起こしの    段階でのミスでしょうから。    どうでも良いと言えば良いんですが。まぁ書いてて「ら抜き表現」とか指摘    されないで自由に書く事は大切かも。    「私を生んだのは姉だった」が書けなくなる日は近いか?
97年10月新刊 ワタクシの買い。 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 【秋田書店】  おもかげ幻舞              4完 こやま基夫     390  むじな注意報!             5完 小山田いく     390 【朝日ソノラマ】  ねこぢるだんご                ねこぢる      660 【エニックス】  護衛神エイト              3  吉崎観音      390 【角川書店】  新世紀エヴァンゲリオン         4  貞本義行      540 【講談社】  スノードロップ                秋元奈美      390  ゲゲゲの鬼太郎                水木しげる     476 【集英社】  るろうに剣心             17  和月伸宏      390  LIBIDO              1  くつぎけんいち   800 【白泉社】  パタリロ!              64  魔夜峰央      390 【小学館】  GS美神極楽大作戦!!        28  椎名高志      390  犬夜叉                 3  高橋留美子     390  夢かもしんない             5  星里もちる     486 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− ・・・薄いですねどうも。何か今月は当たり無しという感じです。 というか古い作家ばっかし。もー今の漫画シーンが全く見えていないのがバレバレで それはそれで可笑しいですが。 ホントに新人発掘(自分の嗜好としての)が出来なくなった・・・ 「これぞ」というのが無い。もう駄目なのね・・・。 せめてもの一押しは「夢かもしんない」。この「一見定型、でも実は・・」という 作りが好き。一時の「同棲時代」物読んでて「あーこの人ももうアッチの世界 (まんが職人)に行っちゃったのね・・」とか思ってたんだけど、この作品で また評価が変わりつつあるですよ。わかんないですが。 巧いことは巧い。デビューしたときから変わらぬ巧さ。 やっぱ「わずか」で号泣したしなぁ俺。キャプテン本誌、あの2冊だけ 何年も本棚に置いてたのを思い出す。 あとは美神かなぁ。うーん。定番が多くて豪華ではあるのだけど。 あと文庫ですが −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 【小学館】  ポケットモンスター           1  首藤剛志      543 【富士見書房】  わらべうた殺人事件              安田均       480                         草ナギ琢仁 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− がお勧めかと。 前者は首藤ポケモンのオフィシャルなそれであろうと期待。 後者はイラストを買う。 ではでは。 @@@@@@@@@@@@@@@@ [JUN] @@@@@@@@@@@@@@@@
ポケモン27話。 カスミ、コダックをゲット! ・・・って、戦わずしてゲットするのが彼等の流儀なのか? いいけど。 俺なんかもう何回戦った事か・・・でもまだ20匹・・・まだまだじゃな。 で、今週もぴかちゅうは可愛いのだった。 うつぶせで「ぴかふ〜」とか言ってるのがツボ。 見るべき所はそれのみ。今回は脚本もいまいちで・・・ 作画も妙に媚びてるしなぁ。特にカスミの演技が媚びててヤだった・・。 あの、男の子を「キミ!」て呼ぶ、あのはきはきした味に カスミの良さは集中しているのだぜ・・・そうか? 来週はスペシャルだ。アニメのスペシャル枠なんて クレしん・ドラえもん・ジャンプ格闘以外にも許されるのね・・・ ああ、湯山の編集技が拝めようとは。 かつては夢のフェナリナーサ一筋だった @@@@@@@@@@@@@@@@ [JUN] @@@@@@@@@@@@@@@@
ウテナ27話「七実の卵」比賀昇脚本。 七実がタイトルロールで出て来るとなると「それ系」の期待は高まる。 そしてその期待は埋められるのだった。この一歩違いのオカシサは 決して正統ではないが、そもそも「正統」などは無いのだと思えば・・・ 演出のスタイルは先の「カウベル」をママ踏襲しているだけだが、 それでもオカシサはつのる・・・ただ作画が。 ついに来たかの荒れ様だ。やっぱこの絵は崩れるとなぁ。 演出が走るにはそれなりのハードが必要だという事だぜ。 いっそいつもの様にバンク使いまくれたら良いのだが・・・ 所でアンシーはペットに七実ってつけるの止めろ。 BGMが「るるる」になった瞬間に勝利は決定した。これが勝利の鍵だ。 ・・・ああ作画。惜しむらくは作画。 まぁ息抜きというか骨休めというか、作画のスケジュール調整の意味で作られている 七実編では、ある・・・・ 然し此のアニメも読めないねぇ。 沈殿しきってしまったようなアニメ界でも、偶にこういう「従来の枠」を外れた 傑作が出る。決して正統にはなり得ない、サブカル風味としての面白さ。 リアルタイムで楽しんでこそ。ビデオなんか待ってちゃ駄目だぜ。 ・・・既にアンシーの正体については各方面で憶測が流れていますが やっぱり綾波説は多いですね。 「私はたぶん、4番目だから・・・」 @@@@@@@@@@@@@@@@ [JUN] @@@@@@@@@@@@@@@@
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