6月24日付テキスト二つ。

Greg      Bear "QUEEN OF ENGELS"                 /1990
グレッグ・ベア「女王天使 上・下」酒井昭伸・訳/早川書房/1997/1/31


近頃噂の一冊(二冊だけど)。

結構いろんな雑誌で取り上げられてたので、タイトル位は
目にされた方もいらっしゃるかと思いますが−

いかんせん翻訳が遅すぎた感があるですな・・。
SFってのは科学技術や思想、哲学系のネタの新鮮さが売りな部分もあるので
この七年という時の遅れは致命的だった・・・・かも知れない。
ナノテク、超高層建築・巣宮(ハイヴ)、真の人工知能、孤独、夢枷ヘルクラウン、
変容処置、宇宙探査、潜脳、幼児期虐待、ギネー、ヒスパニオラ、セラピー・・・
・・・いや、むしろ七年前に読んでたら結構判らない描写も多いかも。

七年前の私は、まだシロマサ(士郎正宗)を知らなかった・・・

「絵」的には完全にシロマサ。ネタ的にもほぼ同系統と言える。
シロマサの近作(週刊誌・・・)が読めなくて辛い人達(特にアップルファンは)
読んで吉でしょう。高層建築のイメージはまさにオリュンポス。

内容的にも、全体的に情報過多、ドラマあっさり、裏設定どっさり、という
例のアレです。


どれがメインともつかない四本のストーリーが時に絡みつつも
然し基本的には独立して進んでいく。・・ザッピングSFとでも言おうか。
飽きさせないと言うよりは然し散漫さを与えはしないか。

正直、長編に有るべき、読了時の独特の満足感が薄くて・・・
ネタ帳見ただけ、というか・・・やっぱり「物語」は欲しい。
貫く思想というか・・・
おかげでタイトルの「女王天使」が現れる部分の(盛り上がるべきなのに)
盛り上がらない事と言ったら。この作家って人間描くの巧かった様に
思うのだけど・・





+セラピーが行き渡り、犯罪の激減した都市、ロスエンジェルス。
そこで、高名な詩人が、8人もの弟子を殺害して姿を消すという事件が起きた。
事件を担当するのはロスエンジェルス公共安全保証局のマリア・チョイ警部。
全身をナノで漆黒の美女へと「置き換えた」変容者である。シャチのような、と
形容されるその美貌。だがその下にはかつての白い自分も眠っている。
彼女は詩人、マーティン・ゴールドスミスを追ってヒスパニオラへ向かう。

+ゴールドスミスと知己であった詩人、リチャード・フェトル。
何年も書く事の無かった彼は、事件を境に爆発的に書き出す。
ゴールドスミスの、殺人へと至る心の流れをなぞった詩だ。
妻子を失ってよりこの方、浮き上がる事の無かった彼の詩想が、別の視点から
ゴールドスミスを削り出す。

+ゴールドスミスによって殺された若者の親より、ゴールドスミスの脳に
潜脳してくれるよう頼まれるマーティン・バーク。かつて追われた研究所に戻り、
再び潜脳専門家として甦る。チームを組織し、嘗ての右腕とコンビを再結成し・・
果たしてゴールドスミスの脳に潜っていく準備は整っていくが・・

+ジルと呼ばれる人工知能。だが「彼女」は今だ「自我」を持たない。
私、とは何か。個とその他を作る領域は何か。それは彼女の前身を載せた
探査機がいよいよ探査目的の惑星へたどり着き、観測を始めたとき
明らかになって行く・・


どの「ネタ」も面白かったんですが、私個人としては矢張り、
「精神」構造の語りが楽しかったですね。この世界は、精神が
ルーチン・サブルーチン等にシステム化して語られている。
これが結構エキサイティングで。

人格という主ルーチンを軸に、タレント・エージェントと言った
人格のサブセット群がその都度表に現れて仕事をする。
サブセット群は基本的には「人格」の未発達なものであるが、中には独立した
サブルーチン(亜人格)や閉じた副人格などもある。これらは専業ルーチンで、
時には(状況に応じて)首位人格ともなる。例えば父/母/夫/妻/男/女、として。
−そう言うものの総体が人の精神活動なのだ、とする「語り」なのだが、
パソ者には馴染みやすい感覚であろ。
また、その各ルーチンの成長を或いは抑制するなどしていくのが
「セラピー」なのだという・・・。この辺のアイデアはきちんと作品の中で
生かされている。巧いねどうも。

後興味深かったのは、人工知能ジルが思い悩む「罪と刑罰」の因果関係。
彼女が自意識を持ったときに感じる罪感覚が結構SOW(センスオブワンダー)だった。



反対に解りたかったけど知識不足で今一つ残念だったのがハイチ文化。
特にブードゥー関連は作品の根底の一部であるだけに、その辺の知識が有ればより
「予定調和」の気持ちよさを味わえたかも知れない。うーん。

作風が往年の日本作家に酷似しているのは私も認める。
この話だってまるで筒井のアレと小松のアレみたいじゃないか!!
でもまあ、そんなことは知らなくても大した問題じゃないし。
ただ、日本人ウケしやすいかな、と・・・

まあ読むに値する作品ではあります。お暇でしたらどうぞ。




☆特別付録・良く解らない人物解説。−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

●マリア・チョイ・・・シャチのような黒い肌を持つ女。
ロスエンジェルス公共安全保証局勤務の警部。

●エマニュエル・ゴールドスミス・・・詩人。殺人犯。セラピー忌避者。

●リチャード・フェトル・・・詩人。同セラピー忌避者。
ゴールドスミスの弟子であり、友人でもあった。彼の殺人を機に詩想を蘇らせる。

●ネイディーン・プレンストン・・・リチャードの女友達。

●マダム・ド・ロシュ・・・詩人集団の女主人。セラピー忌避者の集まりを開く貴人。

●マーティン・バーク・・・元IPR所長。潜脳家。その職を追われてより数年。

●アルビゴーニ・・・ゴールドスミスに娘(ベティ・アン)を殺された男。
マーティンにゴールドスミスの潜脳を依頼する。

●キャロル・ニューマン・・・セラピスト。元潜脳家。嘗てのマーティンの右腕。
現在は技術系大企業のマインドデザイン社に勤務。アルビゴーニにマーティンを
紹介する。

●アーネスト・ハシダ・・・日本人とヒスパングリッシュのハーフ。
映像系スペシャルエフェクトの達人。マリアの恋人にして飼い犬(・・・)。

●ラフキンド・・・前大統領。「王の目」「王の耳」を作り、文字通り全てを
監視した。悪名高き大統領らしい。

●サー・ジョン・ヤードリー大佐・・・ヒスパニオラの統治者。ゴールドスミスは
彼の事を崇拝していた。白い体に黒い心を持つ。
・ヒスパニオラ・・・旧ハイチとドミニカ島。現在は観光都市。主な産業は
軍人の輸出。法は、国際的に疑問視されている「夢枷」による刑罰を用いる。
また、夢枷(ヘルクラウン)の輸出でも知られる。

●AXIS・・・ニューラル思考体。外宇宙探査機に搭載された人工知能。
世界は彼の報告に固唾を飲んで聞き入るが−。

●ジル・・・ニューラル思考体。人工知能。5人の研究者の人格パターンを統合し、
「自意識」を持つようデザインされた。AXISの発展系。内部にAXISの
独立系エミュレーターを持つ。それを通して、AXISの「自意識」を知る。


※登場人物が交錯するので、読んでいて混乱しそうなときはお役立て下さい。


ではまた。
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草上仁「無重力でも快適」/早川書房/1989/2/25 高校時代、この本を読みたいと、どれだけ夢見たことか。 隣町の町立図書館で開かれた古本バザー、 そこでこの本が転がっているのを見てワタシは驚喜した。 っていうか4月に手に入れて何で6月に読み終わってるか>俺。 実質は4時間くらいなんですけどね>所要時間。 草上仁'87〜'88の、真に絶頂期に編まれた短編集である。 収録されたどの作品も傑作で、これぞSF!といった 「正統派」の香り紛々たる名品ばかり。SFで切なくて・・ もう言うこと無し。各短編にはきちんと「オチ」があり、 ひねられたソレは、古いスタイルながらも衝撃的で、新鮮だ。 SF短編「定型」の魅力が詰まっている。 表題作も笑えるし(後のビジネスマンものの走り?)・・・ 「太公望」はその各登場人物の個性が渋くて素晴らしく、読んでいて本当に飽きない。 短編とは言えこのキャラクターの作り込みはどうだ。兎も角魅力的である。 「ヘイヴン・オートメーション」は、テーマがテーマ(職場のOA化)だけに 古臭くなりそうなものだが、今読んでも全く褪せないブラックさである。 それに徹しているのが「プロ」っぽい。 然し何より、この単行本の要は 「ウィークスを探して」だろう。 もうこれには参った。ノースウェストスミスシリーズを彷彿とさせる− −具体的にはあの「シャンブロウ」を彷彿とさせる設定。 だが、単なるパロディというにはさらに深く、然し草上短編ならではの気の利いた、 ひねったSFオチ、がラストに待っている。テーマそのものの哀しさ (例えば、シャンブロウを魔性の生き物と知っていても、それでもシャンブロウしか 愛せない男、の様な−)、アイデアの奇抜さ、オチの効き方、全てが一流である。 全てがこれ以上ないくらい「SF」なのだ。 アイデアだけではない、SFは絵だ、空気だ、というならばこの話の冒頭の描写、 「タブ−どこにでもある、資源開発星。  タビア−どこにでもある、活気と汚辱に満ちた港町。  クロムとプラスティック、レーザーとキセノン・ランプの繁華街。  酒と食物の匂い、香と麻薬の薫り、ざわめきと歌声、  快楽と誘惑を約束する暗い路地。」(p167) もうこれだけで充分。イラストは自ずと松本零士が浮かぶ。 正直先日読み終えたばかりの「女王天使」文庫上下巻、よりも この一編の方が「よりSF」的な感動を与えてくれた。 少なくともこの頃の草上仁は天才的だった・・・。 いや、やっぱり草上仁は面白い。読者を楽しませる自信に満ちていて、 その自信たっぷりの筆致が、読者に安心して「騙される」快感を与えてくれる。 会社員をやりながらの、二足の草鞋のSF作家。 堀晃氏などと並ぶ、その代表格。 それが作品に「現実感」を与えているのだろうか? 地に足のついたSF、というか−。 虚構の感動は現実の延長線上にあってこそ、なのだ。 @@@@@@@@@@@@@@@@ [JUN] @@@@@@@@@@@@@@@@
ポケモン 6/24。 勿論ブラッドベリだ。灯台と言えばこれ。 だがどんなに焼き直してもあの切なさは失せない。 丁寧だよねぇ。いちいち作りが。 いい脚本。流石は首藤。数有る首藤脚本の中でも、 10本の指に入る傑作であろ。 首藤脚本の傑作と言えば番外編的な話が多いのだけど、今回は違った。 作品世界を丁寧に形成する。結局オリジナルアニメは脚本だぜ。 何処の中学生が書いてんのかと思う様な脚本に 妙に美麗な絵が付いてるだけ−みたいなアニメに 慣らされてる昨今・・・ どーもね。 ラストの(ロケット団含む)明るさは本当に理想的。 ポケモンには限りは無いのだ。可能性も未来も限りない。 無限の可能性。これこそはお子様アニメに有るべき明るさなのだ。 大人が子供のために作った話だなぁと思う。悪い意味じゃ無く。 こうでなくては。 ・・・・・しかし、最近本当に「ポケモン」が面白くてならない。 TVアニメの方がである。 矢張り首藤・湯山コンビの名を見た瞬間に録画決定して正解だった。 ふふ。 先週のゼニガメ話も、実際陳腐直前の脚本でありながら、 それが「首藤世界」で展開されるや、魔法の様に視聴者を虜にする。 独特の台詞回しも、やっと板に付いてきた。もうどう転がしても安心だ。 台詞回しと言えば、今月のメージュのコラム部分で、首藤氏が 新作の「ロミオとジュリエット」を見ろ、と強く言っているのを観た。 シェークスピアの韻を踏む台詞回しを感じろ、と。 韻を踏む、という事の意味をことさらに言う辺り、この「作家」が 何を大切にしているか解るように思う。 ・・・・・・・っていうかピカチュウ可愛すぎ。 もうそれだけで見てると言っても過言じゃない。 小学館の学年雑誌の表紙には、どの学年も此処数ヶ月 大抵黄色くて丸い奴の姿が有るし。コロコロ、ボンボンならいざ知らず、 「ちゃお」までが表紙にピカチュウを持ってきた(と聴く。未確認)という現在。 アニメ雑誌もピカチュウを表紙にしたら売り上げ倍増したりするかも。 ピカチュウが何かやらかす度にビデオ巻き戻してるのは俺だけか。 ちゃは〜。 ちゃ? も、むっちゃ可愛いし。 ああ。買ってしまいそう>ゲームの方。 ていうか買うぞ。買わなくちゃ。絶対買ってーやるーッ。 あの主題歌もなんだかんだ言われつつ気がつくと すっかり馴染んでしまいました。 やっぱアニメって見続けないとどう化けるかわかんないです。 ・・・・・・ライディーンとか。化けたねぇあれも。いろんな意味で。 ・・・所で私の友人に「ま゛」という渾名の奴が居て(以下略)。 ではまた。 @@@@@@@@@@@@@@@@ [JUN] @@@@@@@@@@@@@@@@
DS9 6/24 あれだけの戦闘の後、またえらくあっさりDS9の中に話が戻って来たな・・。 やっぱりこういう「駆け引き」がDS9の本性だよな。 この危機にどう立ち向かうシスコ! ここんとこ影が薄かった指令官だが・・・・・ 岩になって悩んでるオドー。「解らない・・・」。 然し彼は彼で、また群体で出来た集合体なのでは。 「自我」が崩壊しちゃったりしたらアレだな。 オドーは流動体生命が送りだした、外宇宙探索用の プローブみたいなものだったらしい。 結局流動体としての体をもちながら、固定種としてしか生きられないのか? 「正義」と秩序、は違う。違うのだ。 うーん。ガラックがまた怪しくて・・・一番怪しいよな。 「・・ガラック・・どうやら我々は似た者同士の様だな」 「ええ・・人生は驚きの連続ですから・・」 撃たれても裏がありそうで・・・実は裏の裏が・・ ・・然しチーフオブライエンここんとこやられ損ばっかり。 役者の人が打たれ強いとかそういう・・・ ・・・・・・・・・・・こんなオチかッ。 しまった良くあるパターンなのにすっかり騙された。純真な私。 わははははは。拍手喝采。流石だ。侮れないぜDS9。 然しますますオドーが格好良いですな。 クァークとのコンビがまた観られるかと思うと嬉しい限りです。 @@@@@@@@@@@@@@@@ [JUN] @@@@@@@@@@@@@@@@

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