風が吹いていた。 夕暮れ空に覗く月。 春先の空気が、静かに、 しかし確かな量感をもって動いている。 背中に当たるセメントの感触が心地良い。 静かな。 全ては忘れ去られてしまった いまは、 ただ風が吹き 月が覗くだけ。 無くした帽子のことを想いながら 月を供に歩き出す。