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アニメーション映画「メトロポリス」雑感


「私は、誰?」

このティマの問いを鍵にして、深読みをやろうと思えば出来ると思う。 ティマの、世界を滅ぼしてしまおうとまでする哀しみと絶望に同調しようと 思えば、或いはケンイチのあのラストの気分を想像しようとすれば、出来る。 だが、それはこの映画が語っている事の、あくまでも個人の中での引き延ばしで あって、DVDを50回位見てから語っても遅くは無いだろう。この作品をネタ元に して、自分の下らない持論を展開し出す前に、そういうの抜きで少し雑感を。

成る程ティマは確かに可愛かった。手塚キャラ的な愛らしさを持っていた。 ケンイチへの思慕の表現、それだけで十分と云えば十分だ。つーかティマ萌え〜。 前半のマチュア状態(裸に上着だけ)に萌えまくり。名倉キャラでありながら 萌え波動を発するキャラ。素晴らしい。しかも生体部品をいっさい使わない 「人造人間」だし。その辺、ティマはティマであって人工細胞から生み出された ミッチィとは根本的にその位置づけが違う。あの「よくもぼくをつくったな」を 入れないで「反乱」に至る痛みを表現する事は難しい。結局「狂った」という 表現でしか説明されていなかった(勿論その「心理の流れ」を機械の上に読み 込むのは観客の自由だが)。ティマの「哀れさ」を過剰に描くのを避けたい 気持ちも解らないではない。でも、それにしたって、もう少し・・・うーん。 最近「泣ける」かどうかが最大の評価ポイントになっている駄目日本人の一人 として、多少泣ける所も欲しかったとは思うのデスヨ。そりゃビルが崩れる作画を 延々と見せてくれるのは、それはそれで楽しいけれど。

ティマの部品を拾って涙ぐむケンイチの、ミッチイ、じゃねえティマへの「愛」 は寧ろモノへの愛っぽかった。I can't stop lovin' you。それ(ロボットへの 愛は人への愛とどう違うのか)をテーマに描くだけでも本が一冊書けるな。メカ愛。 ミッチイの持っていたどうしようもない痛み、手塚作品の持つトラウマ的「痛さ」 は、むしろロックに代弁されていたか。毎度毎度可哀想な奴だと思う。ただロックが ティマを恨む「理由」が(理屈では解るにしても)伝わらなかったのはどう なんだろう。

前情報から予感はしていたんだけど、作品を縦に貫く「主人公」が居ないってのは、 これだけの規模の作品にしては冒険だったのではないか。キャラクター全員が 観客から等距離に置かれていて、尚且つさくさくとカットが切り替えられるので、 感情移入する暇がない。そういうのも確かに手塚マンガ的ではあるけど・・・ みんなそれぞれのドラマを勝手に生きているだけで、観客は画面上で誰かに 感情移入して見る、と云うことが出来ない作りになっている。何故人はそこまで ロボットを嫌うのか、ロボットは人間の事をどう思っているのか、この街に住む 人間が何を考えているのか、伝わらない・・・何よりティマの最後の行動を、 どう理解したものか。所詮機械?それとも哀しみと絶望からの行為?感情は 動かされず、ただ謎だけが残る。謎が残されるのはイイとしても、この手前で ティマにもう一歩観客の心を掴ませて居れば・・・掴んで欲しかった・・・

嗚呼せめて「ケンイチとティマ」の描写をもう少し、それが駄目ならレッド公と ロックとの絡みだけでも・・・矢っ張り「漫画映画」を目指すなら、あざとくても 感情移入対象キャラを置いた方が良かったのではないか。でも大友×りんじゃ 無理か。まあその分「破壊」映像に心血を注いだ作りにはなっていた。イメージ ビデオっつーか。映像だけ見てろ!っつーか。「お話」は添え物としか思って ないんじゃ・・・結局超超高層ビル群及びその地下世界、空を走るロープウェイに エアカーに・・・といった懐かしの未来都市像は、大友調破壊美学(アキラとかの アレ)で徹底的に破壊し尽される為の設定だった訳で。

映像はもう言葉も無いくらいの出来。初期手塚キャラがあそこまで徹底的に リファインされて描かれているだけでも感動モノだ。それだけでも十分凄い のだけど矢張り見所は「メトロポリス」そのものの魅力。CGを「アニメ」に とけ込ませる技術の驚異。キャラ以外の絵の臭いは見事に大友+りんたろう。 もうそのまんま。ビルの上の大きな看板は必ず落ちるお約束。破片の飛び散りが 徒に大友。あとパイプとかコードとかがうねうねうねうねしてるのも。巨大建築の 描き方はりんたろうだよな。キャラの生活感の無さはまあ初期手塚由来として。 つーかぐァつぐァつって飯食ってるケンイチとか有ったらそれはそれで凄いが。 物語は原作の部品を綺麗に生かして、原作ファンも(ある程度の違和感は含みで) 納得の出来だと思う。兎に角物語以前に画面の持つ圧倒的な情報量に押し流された 感じ。映画館を出て暫くボンヤリ。スゲー。スゲー映像だった。スゲー映像だった からこそ、「なんだかなあ」という言葉も出るのだ。イヤホント、絵は凄いよ。 とんでもない。・・・その労力をティマの心理描写にほんの僅かでも注いで くれれば!せめてあと5分、あと5分でイイからティマに演技を・・・

一回や二回見ただけでは把握出来ない程の情報量が詰め込まれた作品。これでこそ 「メトロポリス」だ。冒頭のモブシーンなんかは実に気持ちよかった。原作の 冒頭を彷彿とさせる。マンガはそこでページを止めてじっくりと読み込む事が 出来るけど、アニメは画面が流れていくので、とても全てを把握できない。それが この「大都会」の雰囲気作りに繋がっているんだろうけど。あー、結局DVD買え って事か。でも50インチ位ないと判別出来んかも。公開日にセル画プレゼントとか やってたらしいのを見ると、全編CGって訳でも無かったのかなー。あの モブシーンは「ノートルダム」系のCG処理だとは思うけど(でないとあんなに セル重ねられないだろう)。

都市描写で難点を挙げるなら、原作もそうだから何とも言えないけど、作品世界に 「広がり」が足りない。展開が狭い街の中だけで進行していて、劇空間としては 楽しいものの、何かしらうそ寒い感じもある。街の外は荒野なのではないか、 とか。これが「来るべき世界」とかになるとまた視点が世界中を移動して広がりが 出るんだけど。でもこの閉塞感有ってこその「メトロポリス」なんだろうな。

あとは矢っ張り音楽の底上げ効果絶大過ぎ。一緒に見た友人曰く「音楽で二段位 下駄がはかされてる感じだった」。個人的には底上げと言うよりは相乗効果と 云うべきかもな、とは思った。絵も凄いから。いや、兎に角格好良かった。ここぞ、 と云うところであの歌。気持ちいいったらない。僕は音楽はまるで駄目男なので これ以上の語りは入りませんが。でも確かに賛否両論有りそう・・・あの歌が サントラには入ってないってのも良く分からない話。うーん。

然しこれで「スチーム・ボーイ」が感情描写ばりばりの漫画映画だったらそれは それで驚くだろう。あー、また「絵は凄いけどねえ」にならなきゃ良いけど・・・ ならないわけ無いか。撃ってきまーす。

スタッフロールの最後、左のウィンドーの中。あれを見て皆さんはどう 判断されましたか。まー、手塚一流のサービスカットだと云われればそれまで だけど。

いじょ。

(2001/05/27)


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