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980410付けテキスト


逢坂みえこ「永遠の野原 16」/集英社/1998/03/30

10年越し連載の完結編。

もう買う人はとっくに買ってるだろうてんであらすじなど云うと、
柳と一姫さんはついに結婚。
勘当がとけた太は横浜の中華料理屋へ帰り、野沢もまた。
それぞれの門出の中、いろいろいろいろあった二太郎とマリコさんも
肩をよせあい「永遠の愛」ってやつを感じるのだった。をはり。

この1冊が「最終話」そのものである。2クールドラマの26話。
10年越しでつき合ってきた方々には、その感慨もひとしおのことと思う。
僕にとっては出逢ってより約一年。でもこの一年、卒業、就職、そして・・・
という中で、この作品は物凄い「支え」であってくれた。特に昨年の春、
この作品に出逢ったばかりの頃、枕元に積み上げて、もう何度も何度も
読んだものだった。
まぁ、それも終わって暫く経って。

こうしてまた再び春の陽気の下で彼等の門出を祝うのも何かの縁であろう。
ラストには間に合ったのだから、良しとすべし。
ホントは「もっと早く出逢っていれば!」とも思ったけれど。


正直な話、もっと二転三転してドロドロして行くんじゃないかと思ってた
(特に二太郎の大学(阪大だよな)関連で)のだけど、でも、
実際はこんなもんでしょ。人生そうそう出会いもないし
派手なドラマだって毎日起きてる訳じゃない。
人に与えられた「ドラマする時間」には限度があるのだ。
僕たちはいつまでもこのままではいられない・・・・から、
物語は終わるべき時に終わる。
タイトルの「永遠の野原」できちんとシメてくれたのには感激した。
ラストの見開きから始まる(P101一姫の)「永遠って信じる?」に対する
答え・・・めいた一文は、この作品の末尾を見事に飾った。
プロットだけを話すと陳腐な恋愛ドラマだが、これはTVドラマじゃなくて
漫画なのだ。斯う言うとき、漫画の没入感、共感度合いはTVの比ではない。


ラストを包む「嵐」のイメージは見事。
出発(たびだち)に大風は相応しい。嵐の後の空の「凄さ」を肌で感じる。
此処にあるのは只の線とトーンだけだけど、確かに強い風に吹き流されていく
雲の動きが見える。雲の上にある高い青空が見える。
或いはその湿った空気を肌で感じることさえ出来る。
p135・3コマ目のマリコさんの表情に、彼女の心の動きを読みとることが出来る。
あの表情こそは二太郎と並ぶに相応しい「マリコさん」だ
(あ、拙者二太郎凄く買ってます。彼奴はイイ奴だ!)。
一体どうやったらここまでキャラが立つのだろう?
下手をすると実在の友人達より猶立体的な彼等。

・・・彼等の(二太郎の)喜怒哀楽を我が事と感じ、一緒に浮き沈みする快楽。
漫画(虚構を)を読むというのは、つまりそう言うことなんだ。

太と野沢。
野沢のめげない性格が好きだった。多分実際に居たらうっとおしい(暑苦しい)ん
だろうけど、それくらいのパワーがあって初めて太を参らせることが出来るわけで、
実際良いコンビだと思う。
彼等の「ラストシーン」は然し太の性格からいって随分先のことになるのは
間違いない・・・という風に、この二人を、「野原」世界のこれ以後の
展開の「可能性」としてちゃんと残してあるあたり・・・
これでこの物語は終わることなく(読者の中で)生き続ける訳だ。
太個人は決して女性に冷たい奴じゃない。ただ、「それ以前」に女性関係が
有ったことが彼の心を頑なにしているのかも知れない。その心をもう一度
振り向かせられるのは、野沢しか居ないさ。
実際太はマリコさんの事をどう思っていたのか・・・
奴は−

いやー正直マリコさんが太LOVEモードに入ってからというもの、
何か辛くてさー。読むの。でも今思うと彼女中心に思考が展開してたというのは、
つまりすっかり二太郎に移入してた訳で。
読むのが辛い、でも読んじゃう。なかなかそういうのって無い。
マリコさんの「自分が自分でなくなるくらいみっともない恋」の前で、
それでもがんばり続けた二太郎。
「もーいーや女のことは」と太と笑いあってる時は「そうだ!」と頷き、
それでもマリコさんちに行ってしまう二太郎にシンクロし、ラストの
幸せを一緒に体感し・・・



まぁ、ラストの二人を見ていると、もう、何も言うべき事は無いのだけれど・・・




・・・・例によってまたまとまりのない文章でした。
もすこしマシな感想が書ければ良いんですけどね。
経験が少ないもので・・・・いやその・・・・

はぁぁ。
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(980410)

田中芳樹「中国武将列伝 上」/中央公論社/1996/11/15 「中国武将列伝 下」/中央公論社/1996/12/20 タイトル通りの内容。田中芳樹が独断と偏見で選ぶ中国名将100選。 99人だけど。近代を除き、また帝位についた人間も除いて、 あくまで中国にとっての名将、を講演調(ちょっとくどい)に並べ語る。 まぁそれなりに面白かった。 ただ、名将、というのは至極真面目で人徳がある場合が多いので 人としての面白みが薄いというか・・・・ 僕が期待する「猛将」というのとはまた違ってて。 ・以下気に入った武将を少し。 一番最初の「私撰中国歴代名将百人」の中で可成りの行数を持って語られた 「王玄作(おうげんさく)」がやっぱり格好いい。 西暦六四七年、唐の太宗皇帝より命を受けてインドのマガダ国の シーラーディティヤ王訪問に旅立った彼だが、苦労してたどり着いてみると王は死去、 アルジュナという人物が王位を簒奪しており、王玄策一行は牢獄へ放り込まれて しまった。だが王玄策は脱出し、中国へ帰ればいいものをそのままインドを北上。 ヒンドゥスタン平原を越えてネパールまで行き、アムシュヴァルマン王に談判して 七千騎のネパール騎兵を借り受ける。で、マガダ国にとって返して3万(象部隊含む) の簒奪者アルジュナ軍を倒し、マガダ国を平和に導いてから唐に帰っていく・・ 帰ってしまうのだ!征服とかしない。損害賠償とか要求しない。 流石中国武人。で、中国に帰ってきても、別に出世するわけでもなくて、 「インドに行って来たか、御苦労」で終わってしまったという。 然し中国武将がネパール騎兵を率いてヒマラヤ山脈を背にヒンドゥスタン高原を 疾駆する絵なんてちょっと浮かばない。誰か映画にしないものか、と田中先生。 まぁ実際他の領土を征服しないのは中国の伝統で(侵略とかすると直ぐに 財政破綻したり内乱が起こったりして、後で「涜武」とか言われてしまう。)、 自分の土地(長城より南、ベトナム以北)が侵略されたときは命懸けで戦うけど、 基本的に他の領土を侵略とかはまず考えない。 朝鮮半島は中国の領土だと思っているので何度も手を出すが、 日本には攻めてこない(世界帝国を築いた元はその辺「中国」とは全く違う・・・ 日本にも攻めてきたし。)。そう言う発想で行くと、モンゴル自治区の独立は 遠いかもな・・・・だって彼処は古来の中国領土なんだし。 有名どころだと鄭和とか(1371〜1434。明の宦官)も。二万数千人の乗った 数百隻の船を率いてアフリカまで行っちゃうその統率力は並の者ではない・・・ 何か最近ではオーストラリアを発見したんじゃないかなんて言われているらしい。 でも別に行ったからって征服する訳じゃ無いんだよな・・・朝貢貿易するだけ。 で、やっぱり外側にあんまり興味のない中国は、鄭和が死んだら その航海技術書も航海記録も全部焼いてしまうのだった。海外遠征なんて 「無駄な出費」だと思ったんだろうな。後のヨーロッパ人みたく 植民地とか作って現地人搾取したら金になったんだろうけど、それをしないから。 「この焼いた人の名は、もう、千年後まで伝えましょう。劉大夏という男です。」 (P163)。まぁ遠征を止めるのはイカンとは言わない、が焼くのは勘弁ならん、と 田中先生お怒りである。 「劉大夏のやったことは人類史的にやっぱり許せないことだと思います。」(P165) 中国の経済哲学は倹約の美学なので、兎に角「無駄な出費」を許さない。 儒教的。日本人も省エネとか好きだしな・・・侵略戦争なんて何でやったんだか。 さて、然し今の中国はどうなんですかね・・・華僑とか居るし・・・ 他にも紀元前五五年、中国武将陳湯V.S.謎の重装歩兵軍団とか。これも面白い。 同年ローマの執政官クラッススが行った東方遠征で、パルティア軍と戦った ローマ軍は潰滅、クラッススも殺された。その時6千人が包囲を突破して 逃げ延びたのだが、彼等はローマには帰っていない。 恐らく彼等はパルティアに追われて東へ東へと逃げ延びた後、 匈奴の傭兵となっていたのではないか−という。うーん、燃える。 軽装騎兵で知られる匈奴の軍団の中に、いきなり金髪碧眼の重奏歩兵がいたら やっぱ吃驚するよな・・・ 荀灌(じゅんかん:荀ケ(じゅんいく:曹操の軍師)の6代目の子孫。当時13歳) という少女が東晋成立期の混乱で自分の居る城が落城しそうになったときに わずかな兵士と共に助けを求めに行く(然も2カ所から連れてくる。)とかいう話も 良い。こういう「武将」じゃない人の話も結構挿入されているので、登場人物だけなら 400人は居そう。 あ、あと高校世界史の中でどうしても忘れることの出来なかったのが 「韋叡(いえい)」(442〜520)。南朝梁の老将。名前がイカス。イエイ。 生涯を戦場で過ごしながら、甲冑をまとわず、馬に乗らず、 儒学者の格好のまま木星の輿に乗って竹の杖で全軍を指揮したという。 赤壁と並ぶ著名な戦い「鍾離の戦い」でこのイエイに対するのが 北魏の猛将楊大眼(&潘氏のラブラブペア)。この楊というのがまた 南北朝時代最強の武人らしくて、頭に三尺の布を縛り付けて走っても 布が地面につかないと言う身体能力の高さ。イカス。その恐ろしさは 泣く子を黙らせるのに「楊大眼至る」と威したと言われる程。 北魏50万対梁20万。まぁ最後は北魏が敗退するのだけれど、 智将猛将入り乱れるこの「鍾離の戦い」はかなり面白そうなので いずれまとめて読んでみたい・・・翻訳されてれば、の話・・・・ 田中芳樹は作中、如何に日本で読まれている中国古典が偏っているか、を何度も語る。 三国志ばかりが読まれ過ぎていて−楊家将演義(前にBSでTVドラマやってた?)とか もっと知られるべきだ!と。中国では三国志よりもっとメジャーなドラマは 沢山有るらしい。特に宋の時代にはドラマのネタになるようなヒーロー/ヒロインが 続出している。穆桂英とか。文天祥とか(田中先生はどうもこの文天祥がお いたく気に入りらしく(確かにエライ人ではある)、なかなか凡人にああは出来ない、 と何度も言っておられる。) で、中国古典がまだまだ日本に浸透していないと嘆き、せめて中国正史二十五史位は− 「文部省あたりが国家事業としてやるしかないでしょうが、まずありえませんね。  不良金融機関を救済する資金の百分の一でいいんですけど、日本はほんとうに  文化にはお金を出さない国ですからねえ。」(下・p121) 等と思わず創竜伝臭い田中節が炸裂してしまう程。 まだまだ中国歴史古典と言えば三国志しか知られていない、というのが実状。 僕も知らない・・・ 田中先生に言わせれば、「日本の作家達はこんなにオイシイモトネタの宝庫を なぜ放っておくのか」という。成る程な小説家の視点。 ・・・うーん、確かに中国古典は物語の宝庫だろう・・・ 田中先生の今後の作品ではこの「中国武将もの」が大きな位置を占めてくることは 間違いなさそうであり、本人もそれ(古典の紹介)が天命だと思っている節がある。 まぁ、田中先生の「長編」がちゃんと読めるなら・・・正直「銀英伝」以後 長編らしい長編って無いでせう・・・アルスラーンはアレだし・・・ ・「隋唐演義」は徳間から出てるらしいので、一度読んでみたい所存。 ていうか史記も刺客列伝の十二とかしか読んでないので基礎がなってないす。 あーもっかい読みなおしてみるか・・・ ではまた。 @@@@@@@@@@@@@@@@ [JUN] @@@@@@@@@@@@@@@@ ・どーでも良い話。さっき「中学武将列伝」って書いてしまって笑った。 中学で武将、とかいうと思わず轟天寺ヨシオを思い出すわたし。ヨシオは小学生か。 (980410)
竹本泉「乙女アトラス 1」/学研/1998/04/26 何でアトラスかというと、彼女らは地理学会社所属だから? ラブコメ・・・かな?ラブコメ風味ちょっとだけ−みたいな。 然し近作の竹本作品の少年って何で皆「このテ」なんだろう。大人しいというか ボーっとしているというか。これではラブコメが成立しない!いやその。 森村みたいな感情移入できるキャラを・・・ 「のんのんじー」の世界設定をそのまま踏襲。 「地球のコピー」が大量に存在する世界−つまり パラレルワールドが物理的に存在する宇宙が舞台。 1962年に枝分かれした(コピーされた)と思われるこの「地球」は 過去ニワトリ型のシュランプ、ハト型のポッポ、ネズミ型のタルタレン という三種の異星人によって侵略されている。で、200年後、 人類は一応形だけの独立を果たした−という世界。 この世界に「東地理学会社」所属(と彼女らは云う)の三人の少女 アルヲル・ヴィ・ヤホ、オード・ハルビ・アマザキ、ヒラタイ・イクシー が、航法コンピュータ(アーキテクトは火星製?)ミスター・スミスの 断食サイクルに外れるという理由で、この地球に強制的に 降ろされてしまった所から物語は始まる。 彼女等はこの地球にとって「異世界」の人間である(より「中央」に近い?)。 「どんなことでも普通と違うことは記録しなくちゃいけない」 観察院の記録員草帯あけるな、が彼女らの「記録」を担当することになるのだが、 各陣営がそれぞれの理由から彼女らに手を出してくる・・・というのが この1巻のおはなし。 兎に角絵が良い!結構竹本風味全開なので好き嫌いも有ろうが、 拙者的には思わず模写してしまうウレシサである。特にヴィ。 毎回「変装」してるし・・・毎回髪型が違うってのは、特にこの作者の場合 割と冒険だと思う。でもちゃんとキャラ立ってるからなー。うー。 この三人娘が並んでると、なんか香水というか化粧品の臭いがしてきそう。 イトコの姉妹を思い出す。この子ら姉妹じゃないんだけど、何かそんな気がして− 大中小だし(・・・・いやその)。 話を戻して、そう、ヴィが良いんだ。ヴィとあけるな君の 少々ラブコメタッチ入ったやりとりが好き。P116とか。 ああッもっとやってくれー! 兎に角続巻が待ち遠しい。久々の本格連続物(「さより」は殆ど一話完結物 だったし「ねこめ」も違うし・・・「てきぱき」や「しましま」も違う)で、 その上ラブコメ入りで三人姉妹(姉妹じゃねえ)でおまけにSF〜! 大体竹本泉の新刊なんだからそれ以上何も望む物はないんですが。 竹本泉キ○ガイ @@@@@@@@@@@@@@@@ [JUN] @@@@@@@@@@@@@@@@ (980410)


夏がまた来る。思い出は連れて来ない。


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