5月13日付テキスト群。
逢坂みえこ「永遠の野原」/集英社/1995/10/30〜
現在も続く少女漫画の人気シリーズである。
先のGWに、1〜14巻を一気読みする機会に恵まれた。
成程。これが「あの」野原、なのか。
かつて私が大学生に成り立ての頃、古書店のオババ(今はもう居ない)が
ひどく熱心に薦めてくれていた本があって、結局その時は買うこともなく
時だけが過ぎてしまったのだが、それを今斯うして読んでいる。
「感想」は持ちがたい。
似たような世界観(だと私は思う)でありながら、
「わかつき」とは全く違う・・・
しかしその「影響力」に置いては似たところを持っているのではないか・・・。
影響力は強かった。
読了後一週間経って、今その効力が判る。
自分の周りに彼らの世界が二重写しになる「あのマジックフィリング」が
今も自分を取り巻いているのが感じられる。つくづく影響を受けやすい
タイプだとは思うが・・・
タイプと言えば、私の好きな世界観は、割とタイプ別に
分類できてしまうのだが、その中でこの「野原」は、
川原泉とわかつきと高野文子の周辺という感じであるのだった。
まあ直ぐに類型化するのはアレだけど。
然しタイトルがいいよね。何か。「永遠の野原」。
この作品のイメージは、その大部分が日の光の下で展開するにも関わらず
夜の空気−春宵というか、春の深夜、或いは冬の凍てつくような夜、を感じさせる。
静かな、懐かしい、豊かな夜だ。それはシリーズの初期がそうであったからだが
その「空気」は、全巻通して続いているのだ。
数年前、私にとって「夜」はこの上なく豊かだった。
今はただ眠っている間に過ぎ去ってしまう「日中ではない時間」でしかないが
かつての夜は、本当に豊かだったものである。
何かを創造できる、と信じていた人間にとっては。
その豊かさを思い出させてくれた。
その意味でこの「野原」は、少女漫画であると共に、「創作」という
呪いにとり憑かれ、その呪いの生み出す大いなる苦しみと、
僅かばかりの快楽の循環から抜け出せない人間の姿を描いた
ドキュメントでもある。何かを生み出す行為の苦しさと快感は、然し
多くの場合、夜生まれるものだ。
この作品は、あの冴えた闇を思い出させてくれる。
勿論「少女漫画」として見ても、どのキャラも生き生きとしており
(少々飄々としすぎるきらいは無いではないが)皆魅力的だ。
友達になりたい奴、が多い。
私が古本屋の常連だった当時、「サイファ」や「アレクサンドライト」といった
成田美名子の作品群に心を奪われていたことを知っていたオババが薦めたのも
今になれば頷ける。或いは「もう一つの動物のお医者さん」という評価も又。
今月中に新刊も出ることだし、一読されてみては如何。
@@@@@@@@@@@@@@ [JUN] @@@@@@@@@@@@@@@@
岡崎京子「くちびるから散弾銃」/講談社/1989/8/11
岡崎京子「くちびるから散弾銃 2」/講談社/1990/4/23
漫画家は岡崎京子しか信じない、とは某氏の弁だが兎も角。
交通事故の後、現在リハビリ中と伝えられる作者の近況はどうだか知らないが
生きてさえいれば、またその作品を拝む事も出来よう。
この作品は1987/8から1990/5にかけて「Me−twin」誌に連載されたもの、
であるらしい。「時代性」という点で、実にヲカザキらしい作品だ。
代表作と言っても良い。いや、そういう感じなのだ。
岡崎京子作品には全く疎い私でも、その存在は昔から知っていたし。
内容は、巻頭の作者の言によれば「ポスト・ポスト・モダーンなかしまし三人娘の
勝手気ままなおしゃべりにつき合っていただくわけで、サンキュウ」という訳である。
その言葉、或いはタイトル通り、ただただ続くおしゃべり。それが作品の主眼だ。
今更この本を読んだのには、理由が無いでもない。
先日遂に私は23歳になったのだった。
いや、彼女達は、その作品のスタートに於いて23歳なのである。
それが理由と言えば、理由。
連載の続いていた間(1987〜1990)、歳はとりつづけるものの、
スタンスはほぼ最初のままである。進歩も退歩も無い、その虚ろな生活感。
勿論作者は意図的にその「虚しさ(良い意味でも)」を
浮き彫りにしているのだろうが。
・・・然し、「高校時代からの友人と駄喋る23歳」というのは
実際「こういうもの」だ。男でもな。身体や身分は大人なのだが、
会話は何だか全く進歩がない。
というべきか、敢えて馬鹿話をしてしまう。
虚しさがつきまとわないでもないが、そのリアリティが「凄い」。
「虚しさ」というのはこの作品のメインかもしれないな・・・
虚しいという事と、不幸感とは直接つながるわけではないのだ。
勿論充実していても、幸せ、とは言い難い。
彼女達の話はすぐに高校時代、或いはそれ以前に帰っていく。
「あの頃は楽しかったよねぇ」という話。自分がそういうタイプだけに、
その姿は辛い。建設的な会話、ってどんなものだったのか。忘れちゃったな・・
心底幸せだと感じる「瞬間」は思い出の中にしか無いのかしらねぇ。
難しいものだが・・・
これもまた時代と作者のキャラクターが相まった「珠玉」であります。
時間と財布に余裕がある方はどうぞ。
ではまた。
@@@@@@@@@@@@@@@@ [JUN] @@@@@@@@@@@@@@@@
戻る