白炭屋カウンターへ

もののけ姫初感


映画:「もののけ姫」初感

「もののけ姫」を見てきました。
初日の土曜日、最終22:30〜。
30分前の22時に映画館に到着するも、行列が・・・
徳島は映画冬の時代を体現しているような所があって
SF映画の初日とか行くと広い館内に5人だけ、とかいうのが当たり前なんですが
いや驚いた。広告の力か・・・。

見終わった後の「感想」は、語り難いですね。
安易な「感想」を生ませない様な作り。
むしろ映画全編を通して「議題」を与えられた様なもの。



プロットはおおむね「シュナの旅」とアニメ版ナウシカ。
テーマそのものは、言うなればナウシカの最終巻、アレだ。
「絵」的には(特に前半部は)レイアウト・作画・美術等々、最高の部類といえる。
だが今回は絵は添え物でしかないのかも知れない。

人は生きる為に「樹」を斬らねばならない。だが森が死ぬとき人も又死ぬのだ。
人全てがディープエコロジストに成れるわけではないが、
しかし共存の道は無いのか?

疑問だけを提出して終わる。ここに「解方」が示される事を少なからず
期待していた私は、やはり「見つめる」だけで終わらざるを得ない、その
苦悩を感じるのだった。

徹底的に感情移入を拒む主役キャラ達には正直「?」という部分もあった。
特にアシタカのキャラの造形はナウシカと通じ、あの「曇りなき」眼に
自分が見据えられたときの恐怖すら感じる。
心を動かされたのが、作画面や音楽のみという、言わばヲタク的な部分に
限られたのは私だけではあるまい。
惚れたはれたの多い、或いは感動の押し売り的な色の強かった過去の作品群とは
余りに違う人間描写の少なさ。別の演出家の作品のようにも見える。
(唯一色があったのは冒頭のカヤとの別離のシーンだけ。)

エンタティメント性が無いのだ。これには。観客の中に何らかの感情が
生まれようとするその手前で、カットが変わる。
安易な人間同士の惚れたハレタを別の次元に置いた、全く別の世界の作品。
ベタベタと感情を引かない作りだが、それが果たしてどうなのか・・・

結局ナウシカでたどり着いた「人と森」という対立概念の結論を、
もう一度問いなおした(だけ)、と見るのが正解か。



だけどそれじゃ駄目では?

監督が「今わたしゃこんな事で苦悩してるんだよ」というそれだけを描いて
どうするというの?そりゃ今までの功績から制作が認められた作品では
有ろうけれども、でもあんまりにもやりたい放題が過ぎる。
正直観客はおいてけぼりだ。これじゃまるでエヴァだぜ。

マニュアル世代の悪い癖だが、せめて嘘でもいいから「解方」を描いて欲しかった。
映画としてのカタルシスを求める者である。
二時間を越す長編故の大作感とそのラストの「映画の世界から去り難い」と
感じる様な切なさ、明日への希望、等々をひっくるめた「泣き」のカタルシスを。
ドラマが有るようで全く無い。有るのは状況だけ。全体を包んで居る筈の
呪いや怒りさえ、状況として説明されるだけ。

或いは情動がまったく動かなかったのは僕が歳を取りすぎたせいか?


映画を見るまではと封印していたアニメ誌等の、監督のインタビューを読んだが

「映画というのは、問題を提示して、こうすれば良くなるんですよなんていうことを
 示すために作るわけじゃない」のだと言う。ただ現実を見つめさせる。
今現実を取り囲む状況こそは「人と自然」である。
それを見つめるために生まれた「映画」なのだという。


・・・だけどなぁ。「映画」ってそうだっけ?
という感じなのでした。


ていうかこの主人公で企画が通るんだったら、まず「シュナの旅」では!?
厳しい自然と共に生きて、ぼろぼろになるまで働いて死んでいく
貧しい人々を救うために、麦の実という「文明」の基本を苦労して持ち帰る
聖人冒険譚。実は無茶苦茶好きなんですが。
だがアシタカは村へ帰る事すらしない。同根のキャラとは言え・・

現実を見つめ、人としてこれ以上自然を破壊しないまま、美しく
自然と共に生きて死ぬか?平均寿命も短く、地虫と風土病におびえ・・
本当に宮崎駿の言うように「人間は度し難」いだけなのか?
本当に21世紀(つまり科学技術の進歩)には夢も希望もないのか?

まだ科学には人(と森の関係)を幸せにする力が残っていると僕は思う。
産めよ増やせよというか、人の版図はもっと外へ外へと広がっていくものだと
信じているのだけどな・・・技術的なブレークスルーが、あっという間に
全ての問題を解決!!とかな。基本的にSF者は楽観主義社なのだ。


ともかくこの映画、簡単に「面白かった」とか「凄かった」とか「イマイチ・・」とか
そういう感想を言うのは本当に難しいです。

・・あーだめだ。何にも結論にたどり着かない。最近脳味噌使ってないからなぁ。
しばらく頭の中で反芻しながら考えてみます。

答えは出るのかしら?
@@@@@@@@@@@@@@@@ [JUN] @@@@@@@@@@@@@@@@


日記最新号へ

白炭屋カウンターへ


junichi@nmt.co.jp inserted by FC2 system