3月20日付テキスト群。


長野まゆみ「月の船でゆく Le bateau "LUNARIA" 」/光文社/1996/4/25

これぞ長野まゆみ、と言った内容の一冊。
冬の街、不思議な少年、謎の女性、わがままな少女、猫、月、音楽。

《夜猫》で、ジャスが、女友達のパロマの電話につきあってから
テーブルに帰ってくると、鞄や本を置いて有った筈なのに
見知らぬ少年が場所を奪っている。
「・・・・ぼくは月から来たんです。パパを探しに。」
と真面目に言う少年ティコ。
彼の態度の異様さに、行動の儚さに、惹かれていくジャス・・・

主人公ジャスの造形が些か「背が伸びすぎ」というか薹が立っているというか
(今をときめく新解さんに因れば、薹が立つ、は「少年が、青年になりかかる」
という意味で紹介されてます。男権論者の新解さんらしい話。)何せ高校生である。

今までならこういう不思議少年に惹かれる・・のは大抵14才とか15才と相場が
決まっていたように思うのだけど・・・。粋がって冬でも薄着の、主人公。

その女友達でわがまま少女のパロマ。彼女の、相手の話を聞かない一方的な
話し方、が生み出す雰囲気(あまり楽しくはない)は、長野作品に「少年」の
現れるときの理解無き現実的女性像の典型か。例えば母親とか・・・
少女の、可愛さ以前に不快感をもたらすわがままさを良く描いている。

それに対する大人の女性としての叔母のマリオンや、謎解きのキーを持つシルビィ。
この二人は結構いいキャラクターで、冷静に事態を判断し、展開を先へ進める。
あ、結構女性が多いな・・・これは・・・


気に入りなのはジャスの行きつけの店《夜猫》(イット)で、高校の近くにあり、
学生向けなそのカフェの雰囲気が、作品の中でかなり大きい位置を占めている。
個人的な話になるが、高校時代周りがその手の喫茶店だらけだった(と今なら分かる)
のに買い食い願望より古本屋!だった人間として、こういうのは今でもアコガレ
なのである。未だに「行きつけの」喫茶店なんて無い・・・かつて友人がバイト
していた店に通った事も有ったが・・・いやそれはまた別の話でした。

少年・・ティコの「猫っぽさ」、猫特有の媚びないあつかましさは、それを
あつかましいと言うより当然と感じさせる雰囲気は流石だ。「らしい」。

「物語」としてはいつもの「謎めいた部分は完全には明かされないまま」
終わってゆく作品、ですが、冬の街、を存在感たっぷりに描いたという点で
私個人の中では傑作の域に入るのでした。
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長野まゆみ「上海少年」/集英社/1995/11/30 読み出す前に長野マニヤの友人から「これはつまんなかったな」と 言われてはいたですよ。でもホントにつまんないとは・・・ 読んでいて、てっきりデビュー直後の作品集かと思っていたら、実は'94〜'95の近作 ばかりでしたが。 つまんないっていうか、違う、のだ。これは長野まゆみの作品じゃ無いというか・・ 長野っぽくない。時代(場面)設定が「戦後日本」と明確に設定されていて、 (今までは漢字名はあっても、それは別の「そういう世界」だった。)それが 非常に没個性化を押し進めてしまっている。ファンタジックな世界でこそ生きる 「美」の世界は、地に足の付いた(まして土臭い)日本、を舞台にしては全く弱い。 「そうでない」、今までの物とは一線を画した作品世界を展開しようとしているの なら、今の所それは成功しているとは言い難い・・・ 唯一、今までのノリで読めたのは表題作の「上海少年」であった。 ラストのオチが「なんじゃこりゃあ」だったが。 妙に閉じられるのも気持ち悪いものだ。閉じきらないラスト、が長野の真骨頂だなと 今更ながら思ったり。 やはり、「ファンタジー作家」としてのヒラキナオリが欲しい・・・ @@@@@@@@@@@@@@@@ [JUN] @@@@@@@@@@@@@@@@
筒井康隆「夜のコント・冬のコント」/新潮社/1994/11/1(初/1990/4) 筒井氏が断筆中に未読のものを読んでやる、などと言ってましたが、 結局「朝ガス」すら読めぬまま、先日ついに筒井氏は執筆を 再開されてしまいました。ファンとしては喜ぶべきですが・・・。 さて、この文庫もその未読だったもの。 短編集であり、内容は割とバラエティに富んでいます。 どれを読んでもツツイ風味で読ませる・・・読ませるんですが、 「風味」がどれも(かつてのそれに比べて)弱すぎる気がします。 発表の媒体が文芸誌だから?いやそれなら今までも・・・ ・・最近久々に「バブリング」を読んだら 裏小倉とかもう息も絶え絶えの大爆笑になってしまって、 やっぱ「昔の」ツツイは凄い!!と再認識した後だったもので その面白さというか息も絶え絶えさが出ていない、様な気がするんです。 それでも勿論オモシロイのは面白い。 「傾いた世界」なんかは如何にも「筒井らしい」といえます。 女性を醜く描くノリは昔のそれでしょう。でもこのラストも妙に静かで・・・ 昔のスラプスティック的しっちゃかめっちゃかで 収集が着かなくなってフェードアウト、とかそういうパターンが好きなんです実は。 その意味では「最後の喫煙者」のラストはソレに近いです、が、 この作品はこの作品で中盤の盛り上がりを欠く・・・ 何か過剰な期待をしてますか?>俺。 「都市盗掘団」なんかはその静かな世界から椎名誠作品だと言っても通用する。 椎名誠っぽい、というとまた問題があるんでしょうが、こう・・・なんか 違うんですよね・・・確かに幻想系も傑作は多いんですが・・・ オチに至る作りが違うというか・・・ 結局一番「らしい」と思ったのは「火星探検」。 人間の心理ほど「あてにならない」ものは無い、と言う・・・ これは筒井にしか描けない唯一無二の作品。 「池猫」や「乗越駅」的傑作といえます。 救いの無さも含めて非常に「良くできた」作品。 他人に真似の出来る物ではないでしょう。 ちなみに「「聖ジェームス病院」を歌う猫」は受験生必読! ていうかこの雰囲気は・・・これは「図書室のドラゴン」・・・ しかしこの作品もオチが渋過ぎる・・・ でも、面白かったんですよ。どうも過剰な期待が・・・ ていうか単に好き嫌いの問題ですな。当然読んで損無しではあります。 まだ未読処理中の @@@@@@@@@@@@@@@@ [JUN] @@@@@@@@@@@@@@@@
杉浦日向子「百日紅(さるすべり)」/ちくま文庫/1996/12/5 漫画サンデーに1983/11より88/1まで掲載されたものの集。 かつて、実業之日本社から出ていたものの、再編、文庫化である、らしいです。 葛飾北斎、その娘のお栄、弟子の英泉達の「生活」を中心に、江戸を描き出す。 その会話の、空気の生々しさは、まるで「見てきた様」である。 「その道」では知らぬ者とて無い言わば基本の書、らしいんですが、 実はこの文庫化で初めて読みました。ワタシ。初めて読んで、惚れ込んだ・・・ 成程これは杉浦日向子の代表作と言われるはずだ。時代を軽く超えて 未来に伝えられる魅力を持つ。台詞回しや物語世界そのものに描き出される空気が、 もはや他人の追随を許さない出来である。尋常ではない。 文化文政期の江戸ってのは、全くこうだったのだねえ。しみじみ。 と、ただただ作品世界にどっぷりと浸かり込み、魅せられる事を許してくれる、 完成度の高い世界観。膨大な知識と、現代日本きっての江戸感覚の上で描かれる 淡々とした明るい(粋な)日常は、生半可な知識では太刀打ちは不可能である。 むしろその世界の心地よさに浸かり込む事で、純粋に楽しむべきであろう。 なにせ相手は今や日本屈指の江戸風俗研究家(肩書だけじゃなく)なのだから・・ しかしこんなに面白いというか気持ち良い漫画が有ったとはね。知らなかったなぁ。 いや不勉強でした。 好きな話数は数有れど、中期という事でか、其の十六「火焔」と其の十七「女罰」が 特に気に入り。前者はお栄の「人」としての深みを、後者は英泉(池田善次郎)の ちょっとした因果を描いてみせる。後者の笹の散るカットの見事さ、爽やかさよ! お栄、という一人の確固とした「人」の魅力もこの「百日紅」では大きい。 ちゃんと自分の世界を持っている、一人の女性。というかオンナノヒト、だな。 江戸の絵書きならばそうでもあろうと思わせる、しっかりした個性。 紙の中で(作者が見ていないところでも)息づいている様な生々しさが魅力だ。 その後の其の十八「酔」も、ラストまでの流れが鮮やかで好きだ。何より遊女滝山の 造形に惚れた。洗い髪のものすごさ、色っぽさ・・・ ああ。しかし杉浦日向子の描く江戸。 こんな風にのびやかに生きられれれば・・・のびやかで、然も粋だ。 のびやかだから粋でいられるのか。「粋な会話」だけで構成された漫画・・・・。 社会的生活の自由を得ると共に、失われた規制の下での息抜き的自由。 「あの時代」に比べ、一個人が生み出す生産物は何倍(何十倍)にもなっている。 特に衣食住の基本的な「物」の生産量は、かなりダイナミックに変わったはずだ。 それなのに未だにあくせくしなくてはならないのは何故か。 コンピュータ導入前に比べれば、一人が一定時間に処理できるデータ量も 格段に増えたはずだ。だが相変わらず多くの日本人は単純労働に従事している。 今の半分ほども江戸の人達は(町人だからな・・)働いていなかった様に見える。 閉じた世界なら、それで良かったのだ。幸せは、規制の下に有る・・・奴隷根性? とにかくお薦め。こんなに「良くできた」世界を覗かない手は無いですぜ。 ってみんなもう読んでますねきっと・・・ 杉浦日向子「百日紅(さるすべり)」(上)/ちくま文庫/1996/12/5 杉浦日向子「百日紅(さるすべり)」(下)/ちくま文庫/1996/12/5 @@@@@@@@@@@@@@@@ [JUN] @@@@@@@@@@@@@@@@
コメディーお江戸でござる コメディーお江戸でござる、が好きだ。 最近忙しくて見てなかったのを、今日久々に見た。 相変わらすえりなかずき君は演技が巧いが本当に小学生なのか。 エマニュエル坊やかも。 しかし・・噂に聴く「てなもんや三度笠」てのは こんなのだったのでは無かろうか。 完成度の高い、嫌みの無いおもしろおかしい(しかも泣かせる)芝居が テンポ良く続く。これは脚本以上に、練習と経験の賜物であろう。 だからこそ笑いは全て「出来がよい」ものだし、キャラクターは立ってるし、 ゲストの扱いも巧い。見ていて気持ちいいのだ。「プロっぽい」。 そして個人的にはラストの杉浦日向子先生が一つのツボだ。 この人を出演させ、「考証」を加えさせた事で(しかも制作側でなく観客側から、 「本当は違う」点を切り出して見せてくれる。現代とは少し違う「江戸」の空気を 明確に見せる仕掛が素晴らしい)かなり高尚な・・ というか「NHKらしい」ものになっている。 ああ。また来週も忘れず見よう・・・・ @@@@@@@@@@@@@@@@ [JUN] @@@@@@@@@@@@@@@@
ナデシコ。 なんか展開は早いわ演出は古くさい(意図的?桜井だし)わでもう・・・ 久々の火星が新たな展開を・・・ってあと一話なのに? ボソンジャンプシステムって。流石は火星だよな。何でもある。 プロスさんラーメン屋に転身か。 「人の思いこみや熱血は自己犠牲を生むだけだ。いいじゃないか。  自分の為に戦ってみよう」 アカツキは確かに指導者向きだと思う。 結局方針が見えないときは艦長の指示に従うしか。 という空気を一瞬だけど描いていて好き。 正義はどちらにもある。 正義の相対化は当然お互いを「正義」ではなくしてしまう。 ガンダム以降の一時代・・・ どうやら「まとめて」くれそうで安心。 ちゃんとした最終回ならそれでよし、だ。 それだけの作品でしかなかった・・・・ そうか? まだわかんないです。実際。 キャラが(ルリルリは首藤さんが居たから別) 立たない事この上無い作品でしたね。というか やはり個性化は(無理にでも)するべきなんだ・・・ 自戒しよう・・・ @@@@@@@@@@@@@@@@ [JUN] @@@@@@@@@@@@@@@@
セイバーマリオネットJ。 ああ。まとめに入ってる。エンディングが良いぞ。 最後に良い奴になる(んじゃねえ)ファウスト。奴の「そうか・・」ってのは 失うと分かっていてはマリオネットを育て切れないという事? 知らないから出来るとか。違うか。 しかし育て上げた物を失う悲しみ・・・・プリメの父親な気分。 ってすぐにをたくな転化をするのは駄目人間な証拠だな。 うーん。設定勝ち。切ない設定が上手い。 こういう特攻的な話はイヤラシイなあ、あざといなあ、とは思うけど それは相手を人間だと思ってるからだよな。 キカイだってば。人形なんだよ。あの継ぎ目みたろ? アトム以来ずっとそうさ・・・ でも、私個人には、ライムの「悲しいよ」が、かなり薄い。来ないんですよね。 胸に。ぐっと来るべきカットなんですが・・・感情移入能力の欠如か・・・ ライムは「マリオネット」から、より「人間」的にはなれたものの、 「女の子」には結局見えなくて・・・・。 小樽に恋する女の子、じゃなくてもっとこう・・・ 見ていて、小樽との関係が親子、とかご主人様と犬(下僕)、とか そんな感じから抜け出せませんでした。 実は記号的でもいいからライムには「オンナノコ」になって欲しかったの・・・ ライムに「照れ」が欲しいなあ。ほっぺた赤くするとかさ。 彼女が照れたとき全ては完成するのかも。 ここ最近の展開から、期待していたんですが・・・ ・・・・・ってそれは単なる個人の趣味じゃん。同人誌でも作れ>俺。 兎に角次回だ。 @@@@@@@@@@@@@@@@ [JUN] @@@@@@@@@@@@@@@@

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