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谷川史子



谷川史子「くらしのいずみ」/少年画報社/2008/03/01

■収録作品メモ―――――――――――――――――――――――――――――――
「1軒目・染井家」YKアワーズ増刊 アワーズプラス 平成18年6月号
「2軒目・小嶋家」YKアワーズ増刊 アワーズプラス 平成18年9月号
「3軒目・高橋家」YKアワーズ増刊 アワーズプラス 平成18年11月号
「4軒目・矢野家」YKアワーズ増刊 アワーズプラス 平成19年1月号
「5軒目・島岡家」YKアワーズ増刊 アワーズプラス 平成19年6月号
「6軒目・冬木家」YKアワーズ 平成19年1月号
「早春のシグナル」YKアワーズ 平成20年3月号
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

あとがきに曰く、夫婦ものしばりの単行本。

いやー、なんていうのもう、「これこれ!これでんがなー」という。
「いつものやつ」を期待して、期待していた「いつものやつ」が出てくる、
このうれしさよ。

特に一話の「染井家」の、この感じ、なんだろーなー、取材、っていうか、
友達から聞いたオモシロ奥さんのはなし、をオモシロかわいく描いてる感じ、
いいなー、と思う。どこかにこういう人が居るんだろうか、居るんだろうな、
と思う、そういう「自分とは違う人たちの生活」を想像させるってことが
(僕にとっては)谷川まんがの魅力、なんだよなー、とか改めて思うのだった。

あとあれ、

「盲腸はぼくのせいじゃないけど」
「僕のせいならいいとも思った」
うはっ

あと、いつもの「空と公園」の図ね。ラストのラストで「空→芝生の公園」が
出てきたときは、もうなんかうっとりと。なんか公園いきてーなー、とか
思います。



ほかの作品も、なんかしあわせだなあ、しあわせねえ。というカンジ。
たとえ一度失っても、まだ幸せ。

ああ、なんか「当たり前」だと思ってちゃいかんなあ、「当たり前」だと
おもって日常を”流して”いってはいかんよなあ、とおもう。
当たり前の中にこそ幸せは、感動はある。

夫婦ってこうだ、こうでありたい、こういうことにもっと気づいて
こういうことにもっと驚きたい。

タイトルの「くらしのいずみ」の的確さに驚いてみたり。

どこにでもある物語、逆に言えば「物語はどこにでもある」ということ、
そういう短編を生み出し続けてくれる限り、やっぱ、読み続けるんだろうなー。

仕事でキリキリしてるとき、その気持ちを「家」に持ち帰らないようにするために
(昔の)槇原敬之の歌を聴く。つまり、「そういう」効能があるマンガ。

このひとのまんが読んで、「何か」を受け取れてる間は、まだいけるかな、と
思ってたりする
@@@@@@@@@@@@@@@@ [JUN] @@@@@@@@@@@@@@@@
(08/07/06)

谷川史子「花と惑星」/集英社/2006/07/19 ■収録作品メモ――――――――――――――――――――――――――――――― 「花と惑星」■クッキーボックス・平成18年新春号に掲載 「春の蕾」■クッキーボックス・平成18年春号に掲載 「チヨと私と庭先で」■クッキー・平成15年4月号に掲載 「告白物語」■描きおろし ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――― うわーん。いい。いいぞ。 読んだかよ!読んだ!泣いた!泣かいでか! いやもう。 3本立ての最後は、もう、アカンでしょ。 世に言う「気持ちだけかりそめOL」の心をわしづかみでしょ。 ここにも気持ちだけかりそめ会社員がいますけどね。あー。うー。 そんでとどめが「春の蕾」ですよ。 樹木医か!「あんたに会いたかっただけだ」て! 俺の胸の音も聞け!どこまで乙女チックロマンチックやねん! はー…… 絵がねぇ。もうねえ。かわいくて。あかんわ… 見てるだけで幸せになる。模写もするぜ。 喫茶モモンガはいつのまにか別館までもっちゃったらしい。 湯泉川の兄貴元気にやってんのかなー。 個人的にはなずなの話あたり(中学生)で永遠に短編を描いていて欲しい、と 思う反面、オトナな女子達の美しい姿も描いていて欲しいなどと思う今日この頃。 @@@@@@@@@@@@@@@@ [JUN] @@@@@@@@@@@@@@@@ (06/12/03)
谷川史子「積極 −愛のうた−」/集英社/2006/10/24 ■収録作品メモ――――――――――――――――――――――――――――――― 「積極」■コーラス・2006年3月号掲載 「スパイラル ホリディ」■コーラス・2006年7月号掲載 「風の道」■コーラス・2004年10月号掲載 「告白物語」■描きおろし ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 読み終わったときの満足度が凄かった。 毎日残業に次ぐ残業でヘトヘトになりながら、ああ、谷川作品買っちゃった、 どうせ今みたいに余裕の無い状態じゃ少女マンガはフックしないだろう、 脳に入ってこないだろう……と思いながら読み始めたら、うわ面白い面白いよ。 特に「スパイラル ホリディ」の鮮やかさ、すがしさはどうだ。 まさにホリディ。ボロボロでも楽しい。メタクタでも結果オーライ。 こういうプラス度数の高い作品を読んで、自分が内側から賦活されていくのを 感じるとき、ああ、マンガっていいよなあ……とか思うのだった。 「風の道」も、思えばこの夏は「時かけ」だったなあ、と思いつつ読む。 大林時かけのラスト「特にこの原田知世が立ち上がって歌い出す エンディングが最高なんだよ」には今さらながら強く強く頷くものである。 あの頃のときめきをもう感じられなくても思い出せる。思い出そうぜ。 そしてタイトル作の「積極」。 一つの詩を軸にして作品を描く、こういうセンスがこの作者の中には 絶えず息づいている。そのことが(何とはなく)うれしい。 教授が「はい」と青リンゴを渡すとき、たまにしか覗かない瞳に、初めて 見せるその「魂」。この「はい」の表情が全て。美しい。 背景がまたいいんだよなー。アシスタントのコントロールができているという べきか。書き込みの的確さとか。雰囲気がつたわってくる描き込み。 どの作品も、背景まで含めて全体的に明度の高い単行本。 読んで気持ちよくなる、読んで気力が沸いてくる、読んで楽しくなってくる。 あー、ホンマ、久々に大ヒットでした。個人的に。 きっちり、オススメです。 @@@@@@@@@@@@@@@@ [JUN] @@@@@@@@@@@@@@@@ (06/11/04)
谷川史子「一緒にごはん 前編」/集英社/2002/11/20 谷川史子「一緒にごはん 後編」/集英社/2003/05/20 ■収録作品メモ(前編)――――――――――――――――――――――――――― 「一緒にごはん」前編■クッキー・平成14年5月号・7月号・9月号に掲載 「秋便り」■クッキー・平成13年11月号に掲載 「告白物語」■描きおろし ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――― ■収録作品メモ(後編)――――――――――――――――――――――――――― 「一緒にごはん」前編■クッキー・平成14年11月号・平成15年1月号・3月号に掲載 「弥生如月」■クッキー・平成14年2月号に掲載 「告白物語」■描きおろし ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――― ウーン。格好悪くてステキだ!! いやネー歳を取るとこういうのも描けるのだよなあー。いいなあー。 こう、かっこつけてた(と見えた)男が、実はそうでもないんだけど、でもそれは それでステキ、みたいなさー。こういうのいいなあ。安心します(男として)。 普通の恋愛なんだと思う。それも割とおとなしめの。それでも、それだからこそ、 笑いあり涙あり。「当たり前」が一番美しい。 前編ではギャグを主体に「楽しい大学生活」、後編は一気に恋愛マトメ。 この作者も長尺こなすようになったねえ、流石ー、とか思った。短編で詰め込む 様なネタをバランス良く配置して、でも間延びしないで読ませるのは「上手い」 って事だろう、やっぱり。 で、前にも書いたけど、やっぱ後編の「看病キス」シーンの数頁はたまらんぜ。 キスしてからカクカクとドアの外に出て、口押さえて顔真っ赤。この初々しさ+ エロさ!これだ!これが!これが……(泣く)ッ!この!発情スイッチ入ったぜ! みたいな!(ちょっとうるさいよそこのオヤジ) 梅ちゃん(ヒロイン)の造形は、正直、ちょっと「落ちる」感じ。美人!とか カワイイ!とかじゃない。ただ、それが、いざというときの「いい顔」効果として 上手く作用していると思う。下手にキャラ自体に魅力を乗せないで行こうとしてる のかもしれないなーとかは思った。読者が己を重ねる「影」としては、描きすぎる とまずい、のかもなあと。いや可愛いけどね。読者が自分を重ねられる程度には。 で、「読者」が憧れるべき松ちゃん(王子様)の造形は、いやもう実にいい。 男から見ても良い。何でも出来る、ぶっきらぼう、謎な過去、とか、最初はただ 格好いいんだけど、それがだんだん生活力や田舎っぽさ、「男臭さ」にちゃんと 「抜け」ていくのは本当にうまい。なんだか凄い人、から、愛せる対象に移行 していく描写力。 「知らなかった/そうだったんだ/松ってそんななんだ  そんなにきれいな指で/深い声で/私  このひととキスをしたんだ」 くはー!タ マ ラ ン ! ここ!という所でここ!という少女漫画技術を投入するこの職人魂よ。 メガネで瞳が見えない(表情のない、クールな)キャラが、ラストで告白しに 突っ走ってきたときはメガネを外してつぶらな瞳の「男子」の顔になってるところ とか、いや、ホントに上手いよ……教科書だよなもう。ラストはまた格好良く なってるしさー。白昼堂々、の下りは非常にステキでした。 ……で、問題はタケちゃんなんだけど……うーん、彼のキャラについては 深く突っ込まないのが良いんだろうな……実は今3人で一緒に住んでます、って いう恐ろしいオチはどうだ!とか思ってた。いきなり異次元ラストかよ。まあ 納まるように納まってシメ、という。 で、そのやや格好悪い(のがステキな)「現実」味を補うのが、各巻に入ってる 夢物語(……)という。前編に収録された「秋便り」は幼なじみで今大学生で同居 してるんだけど、男の子が振り向いてくれないの、実はあたしたち手も握って いません!でも実は好きだったんだ俺!みたいな。男っぽい月子ちゃんの造形が めちゃくちゃ好みです。素直そうな表情。あとあの髪の毛と眉毛がたまらん。 後編収録の「弥生如月」はまさにドリーム。ドリーム過ぎて解説するのもつらい。 これさー、田舎暮らしの女の子(でもいい年で独身だったり)が読んだら発狂 しないか。そうでもないのか。なんか拳固で喧嘩売られたみたいな気になったよ。 まあここまで思い切った上でちゃんとオチは谷川的に収まってるんだから傑作は 傑作なんだけど。あと女の子の方が一方的にスキスキ言ってる時の男ってこう だよな(相手のこと好きかどうか、あんまし深く考えない、失いそうになって 初めて気付く。エレーン!)とか思った。この人の「バカ女」を描く時の冷めた (でも愛はある)筆力は男の感性に近いんじゃないかとも。あと振られ訳の ブ男も、ブ男なりに作者の愛を感じるよ。なんかね。 まーここんとこ安定の谷川節。読んで損なし。いやー、少女漫画は良いねえ。 @@@@@@@@@@@@@@@@ [JUN] @@@@@@@@@@@@@@@@ (03/09/02)
谷川史子「魔法を信じるかい? 3」/集英社/2001/12/15 谷川史子初のシリーズもの遂に完結。 面白かったヨ。 いや、面白かったのは面白かったん。 以下その上での個人的な嫌事。すいません毎度毎度。 所詮こういう奴です>自分。 ■収録作品メモ――――――――――――――――――――――――――――――― 「魔法を信じるかい?」■クッキー・平成13年4月号から平成13年9月号に掲載 「告白物語」■描きおろし ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 「あんたと寝るとサブローが死ぬのよ!」とか言われてもなあ。 クッキー立ち読みしてて思わずクラっとしたよ。 いやどうも。途中でミサオに感情移入しちゃって。 何度読んでも気がつくとミサオ側で読んでるんよ。最後のビンタの応酬、 めちゃくちゃ辛いっちゅーねん。つらー。 映画とか見てると、必ず追いかけられる側とか撃たれる側とかに感情移入する タイプだったんよな>自分、と改めて。 薄いキャラ造形から脱却する為に「二面性のある悪い男」を産み出したはいいけど、 「悪い」っつーのが死神面よかどっちかっていうとヒモ系駄目男だっていう辺り。 喋らないし何考えてるかわかんないし、オマケに昔の女と寝放題だし。うーん。 ドリコメやってるときは「無口で変で面白い奴」なんだけど、「男」になると 何だか良くわからない。わからないけど好きなの!という事か。言葉は必要ない、 けど言葉の裏付けも欲しい、と。 まーひなたが幸せならそれでいいんだろうけどさ。漫画的には。 あーほんっと「恵まれてる奴」嫌いだよな>自分。ヒネてるぜ…… みんなは素直に読もうネ! あと「男はそういうものよ」論には多少「そうなのか!?」みたいな所もあるヨ。 ラストでマルコと一緒にいるミサオに希望を託して @@@@@@@@@@@@@@@@ [JUN] @@@@@@@@@@@@@@@@ (01/12/29)
谷川史子「魔法を信じるかい? 2」/集英社/2001/05/20 ■収録作品メモ――――――――――――――――――――――――――――――― 「魔法を信じるかい?」■クッキー・平成12年11-12月号と平成13年2-3月号に掲載 「雪物語」■クッキー・平成12年vol.2に掲載 「告白物語」■描きおろし ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――― Stage6の終わり方、オシャレだなー。なんかもーコレが谷川だよ、と思う。 多分シリアスタッチで終わろうと思えば終われた、というか最初はその予定 だったんじゃないかと思うん。それを割と無理矢理に「天使編」に繋げた下り なんだけど、兎に角オシャレ。これはもうあの作風があってこそ。 「クッキー」のバックナンバーを借りて読んでて(流石に毎月は買えない) みるみるコメディタッチになっていく様には殆ど感動をさえ覚えたものだ。 おー、こりゃ長期連載の構えか!?とかさ。 あっ、もう作者ひなたが可愛くなっちゃったんだろ!あのいじりっぷりから すると!とか。いや実際ひなたは可愛い。(ちょっと前の)大学生の風体を取り 入れた造形も完成度高いし、何より谷川主人公ならではの表情の豊かさ!が! サブローもむやみとカッコイイ/可愛いし(サブローといいマルコといい 「細っこいけど結構胸板が」みたいなのがブームなのか)。なんか各キャラに 愛が乗り移ってる度合いは今までのどの作品よりも強い感じがする。 いやもー兎に角イイ出来。キャラクターが走ってて、いちいちの仕草が 「そのキャラらしい」感じになっている。何より今巻、谷川作品らしい明度の ある空気に満ちていて・・・それだけで嬉しいのさ結局。んー。谷川史子の 描く世界が好きだ、ってのが大前提にあるから、その辺何とも。スイマセン。 あとコマとコマのつながりの自然さ、とか。読んでいてストレスを感じない。 前コマでの情報(でかいシュークリームとか)を綺麗に次コマへ渡すあの独特の コマ内密度管理が好き。物語だけじゃなくて、手法としての漫画を楽しんで 描いてる感じ。 いやそれにしてもこの作者、短編も良いけど、長編も良いヨ。連載には連載の 良さがある。連載が積もれば、キャラに対する(作者及び読者の)感情移入の 度合いが(短編とは)段違いに深くなるしさ。そういうのがちょっと新鮮でも あったり。さて果たしてこれがあとどれくらい続くのか・・・ ・巻末収録の「雪物語」はまたお兄ちゃん好き好きモノかッ。でも好き。いい話。 ちょっとキャラ(の感情)が入り乱れてて詰め込みきついかなーとも思ったけど 短編を読む目で読み返してみたらそうでもなかった。長編と短編では矢っ張り中に 流れる時間が違うなーと実感。トコロデ、まぶしいとくしゃみが出る人と出ない 人が居るみたいですね。トトロでメイがくしゃみしてる描写が長年謎だったワタシ。 @@@@@@@@@@@@@@@@ [JUN] @@@@@@@@@@@@@@@@ (01/06/20)
谷川史子「魔法を信じるかい? 1」/集英社/2000/12/16 ■収録作品メモ――――――――――――――――――――――――――――――― 「魔法を信じるかい?」■クッキー・平成12年7月号から10月号に掲載 「マイ ボーイフレンド」■クッキー・平成11年vol.1に掲載 「告白物語」■描きおろし ―――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 物語の展開とは無関係に、読んでいて酷く切なくなるワタシであった。 どの辺が、というと、つまりは「大学1回生の頃の飲み会の空気」。 あの「トニカク盛リ上ガットケ!」的な飲みの風景にタダタダ胸が 締め付けられる。ああ帰らぬ日遠い昔。全てが「はじめて」で、初めてなのに 居心地が良くて、頭がフワフワしたまま毎日を生きていた時代・・・等と いつものオヤジ敵青春悔恨ネタフリは、おいといて。 受かると思っていなかった大学に受かり、一人暮らしも順調、いいバイトも 即決、タコヤキ一個貰えばタコが二切れ。おまけに最近彼氏も出来てラブラブで ・・・という、もう幸せ過ぎて死んじゃうんじゃないかと思える位の毎日。 これぞ「大学生活」の理想型(そうか?)という感じの主人公ひなたを 不幸が襲い始める。性格には彼氏の方を。死神が、彼の命を取りに来たのだ。 拾ったピアスをつけた事で、死神(No.326だからサブロー)の姿を見ることが 出来る様になったひなただが、ピアスを返すと彼氏の命は取られてしまう。 返すわけには行かないが、返さないまま着けていると・・・ サブロー(死神)だってひなたの彼氏が憎い訳じゃない。それが仕事、なのだ。 それが解ってしまうから、ひなたは死神にも心を開く。そこへ持ってきて 彼氏が他の女(実はこいつも死神。330番だからミサオ)と・・・という。 展開は割と激しい。作者の持ちキャラの、各受け持ちベクトルをそれぞれ 引き延ばしたって感じのキャラ配置が興味深い。ミサオのキャラとか良いぞ。 主人公を落とすときのあの徹底した貶めぶりなんか特に。作者やるなぁ、と いう感じ。果たして今後(ひなたの心が)どっちに転がるのか・・・今後が楽しみ、 というのは、この作者の漫画を読んでいて初めての経験だ。単行本派なので。 (その後掲載誌を買って読んでみたら、何かいつの間にかライトギャグになってた。  一体どういう展開があったのか。) 同時収録の「マイ・ボーイフレンド」はもしかしたら「魔法」のパイロット版 かもと言う感じ。矢張り大学生が主人公の、でもこれはかなりオーソドックスな 谷川節。節回しがきいている。 忘れられない男の子が居る。昔付き合ってたんだけど、引っ越しで別れちゃって それっきり。ところがひょんな事からまた出会って、やっぱり格好良くて、でも その彼にはもう彼女が居て・・・みたいな。 この作品でも学生の飲み会描写が出てくるんだけど、これが実に、良い。場の 空気感が良く出てる。泥酔横町在住の作者ならではの観察が生きている(のかも)。 ちなみに「ひょんなことから」ってのは結局「酒で気を失う」という必殺の 場面転換機能をフルに活用。目が覚めると彼の部屋でした、的。 主人公のはじめちゃんも良いが友達の弥子ちゃんの造形が個人的にツボにハマる。 髪型とピアスがなんかこー「ああ居た居たこういう奴!」みたいな。以前の 短編集なら、この娘が主人公の回も有りそうな気配。 物語は正調谷川節で展開して、終わる。安定感のある一本。 にしても大学生、なんだよなあ。この「クッキー」っていう雑誌そのものが対象 読者をその辺に置いてるんだろうか?りぼんっ子ちゃんの上の世代向けというか。 池野恋の女子大生ツバメものとか。主人公が大学生っての、固定読者の年齢層が 上がったのに対応しての事なんじゃないかとも思うんだけど、これって結構ヤバイ橋 わたってるかもよ、と思ったりも。いや永遠に高校時代を描いてくれる作家だと 勝手に思いこんでたからかなー。うーん。まあでも考えたらデビュー作アレだし・・ ま、ともかく。 ・・・今でも、今の生活は夢で、目が覚めるとまだ飲み会の最中なのではないかとか 思う事がある。まだ大学にも入ったばっかりで、漸く慣れてきた大学生活に、さて 次はなにをしよう・・・?とか考えてる頃。やろうと思えば何でも出来た(何も しなかったけど)。明日の約束も来年の予定も無かった・・・あの頃位「明日をどう 生きるべきか」とか考えた時期も無かった。自分という存在を初めて等身大で捉え ようと努力し始めた頃で・・って何又自分語りに入ってん。止め止め。虚しいぜ。 ではまたー。 ・・・あっ、喫茶モモンガ、また出てたな・・・あの店大丈夫なのか。 @@@@@@@@@@@@@@@@ [JUN] @@@@@@@@@@@@@@@@ (01/02/20)
谷川史子「王子様といっしょ!」/集英社/2000/02/20 ■収録作品メモ------------------------------------------------------------ 「プリンセス・プリンセス」■平成10年りぼん秋のびっくり大増刊号に掲載 「王子様といっしょ!」■平成11年りぼん初夏のびっくり大増刊号に掲載 「北風とポスト」■りぼんオリジナル・平成11年2月号に掲載 「泥酔横町」■描きおろし -------------------------------------------------------------------------- ちと醒めたかな、というのが正直な感想。あんまし前みたく熱く語れない。 少女漫画は「少女エミュレートモード」に入り込むまでに結構時間がかかるから まとめて読まないと、今回みたいに入り込めないまま読み終わっちゃって 「こんなもん?」みたいな感想しか出なかったり。ま、それでもちゃんと面白かった 訳ですけども。こういうマンガはやっぱ感情移入がどれだけ出来るかで、その価値が 全然変わるからさー。うーん・・・ 小学校に上がる前、外国に行っちゃった仲良しの赤毛の女の子・・・・ ・・・だと思っていた男の子が、長期休暇を利用してフランスから帰ってきた。で、 主人公、のばらの家にステイする事になるんだけど・・・という、もうマンガか! みたいな設定。いやマンガなんですけどね。斯う言うところに引っかかるあたり 「なりきれてない」訳よ。うーん。 で、ですね。この赤毛の少年カンナちゃん、いやカンナ君のキャラが、うーん、 という。こういうお元気(「外国育ち」と形容)な少年キャラって、何か違う。 谷川史子の「男子」つーと、もう少しこう、物静かで、でも実はバカ、みたいな 「あこがれの対象」になりうるキャラが殆どでしょ。カンナ君は格好いいけど むしろ可愛い、という描かれ方なんだよな。その分主人公ののばらちゃんの キャラが薄いっつーか・・・いつもと逆なんだ。うーん。いや或いはこれが イマドキの少女の視点からちゃんと語った「少女漫画」なのかも。 あと気になったのは燃え上がるだけ燃え上がった大島先輩の心のケアでしょうか。 で、その勝手な「理想」を(多少なりとも)叶えてくれたのが、同時収録の 「北風とポスト」。フラレ男でお人好し、香椎君のくしゃみの勢いで、出しちゃ 駄目なラブレターを投函してしまった祝寿。ラブレターはそのメデタイ名前に あやかったトモダチからの頼まれものだったんだけど、この寿もドの付くお人好しで 何とかこのラブレターを取り返そうと努力する。その原因となった香椎君も一緒に ・・・という。視界のちょっと狭そうなパワフル少女と、振り回されるお人好し少年。 バカさ(若さ)あふれるドタバタは、うーん谷川、って感じで良いのだ。こういう 「始まりの風景」には弱いしね。何よりホラ、「北風」だし。冬物は良いねえ。 巻末描きおろしの「泥酔横町」はちょっとお姉さん体だけは大事にしてくださいと 思ったりも。過信すると後で来るっていいますし。いや酒は美味いけどね。 って年がら年中泥酔してる奴が言っても説得力まるで無しですが。 総体として、そこそこ、って感じでした。次回作に期待(何様のつもりか!?)。 @@@@@@@@@@@@@@@@ [JUN] @@@@@@@@@@@@@@@@ (00/03/14)
谷川史子「愛はどうだ!」/集英社/1997/02/19 ■収録作品メモ------------------------------------------------------------ 「愛はどうだ!」■りぼん・平成8年6月号から10月号に掲載 「ごはんにしよう!」■平成8年・りぼんティーンズ増刊号に掲載 「ふたりの肖像」■描きおろし -------------------------------------------------------------------------- 今更だけど、矢っ張りこの作品の感想を書かないと終えられませんねどうも。 谷川史子に出会った、その最初の作品。 実は谷川史子なんて聞いたことも無かったんですよ。それまで。 発売直後から各地で火の手が上がっているのを見聞きして、 何故この作品が斯くも人を萌えさせるのか、それが知りたくて買ったのでした。 で、読んでみて成程納得。斯くしてそれから数ヶ月の内に谷川史子作品を 全巻揃える羽目になってしまうのであった。ミイラ取りがミイラに。 ああただでさえもう置き場所が無いというのに。 で、そうやって谷川作品一通り読んでみて、またもう一度 この作品をこうして読んでいる。 この作者にして5ヶ月分の連載というのは、同じキャラ、同じ世界観を用いて 短編を積み重ねる、というのを除けば、最長記録なのでは無かろうか。 ・・・やっぱ凄い。凄いわ。 谷川史子をすすめるときは、やっぱりこれをすすめてしまうよ。 谷川史子の最大魅力の一つ、ブチ切れた見たいな元気少女小町ちゃん。 この作品の魅力はもうこの娘の造形にある。 あの力入ったときのカラスの足跡みたいな目がもう。 P77で御徒町を前に熱弁を振るう小町ちゃんのあのパワーがたまらない。 或いはP81で垣根を突き抜けてくるあの顔とか。 思うにこの性格は母親譲りなのであろう。P105からの爆走ぶりは小町ちゃんと 良い勝負である。多分この母親と妹に挟まれて、厳格な父はおねえちゃんにのみ その理想を預けたに違いない。解る気がするよ・・・ このおねえちゃんとの「仲の良さ」も魅力の一つ。 P71のパワー溢れる弁当受け渡しシーン、コマ間タイミングの見事さは 谷川漫画のなかでも最高の部類に入る。 「残さず食べてネ」のハートマークが凶悪。 ラスト、御徒町の「しょうがねえなあ」は、この小町パワーの前に 出るべくして出る見事な台詞。ぽすっとハマる、良いラスト。好きだ。 「ごはんにしよう!」もそれなりに愛らしい作品だけど、でもこれは 割と谷川史子オーソドックスかしら。良いけど。 あとはやっぱり「ふたりの肖像」を初めとする、友人作家連との お遊び感覚に充ちた単行本の作り。似顔絵コーナーとかね。 ニギヤカで、とても楽しい単行本に仕上がっていて、 作者やその友人達がこの作品を如何に愛しているかが伝わってくるのだ。 「好きな人に愛されたいなあ」 だけじゃなく 「好きな人にはしあわせになってほしいな」 っていうのは、ホント、人の根本にある一番大切な心情なんだよね・・・とか 今更考えてみたりさ・・・ とにかく、谷川漫画の魅力のつまった単行本。入るならまずこれから! @@@@@@@@@@@@@@@@ [JUN] @@@@@@@@@@@@@@@@ (99/01/01)
谷川史子「ぼくらの気持ち」/集英社/1996/04/20 谷川史子が最もその特性を発揮する冬属性の短編集。好ましい。 収録作品メモ----------------------------------------------------------------- 「ぼくらの気持ち」■りぼん・平成6年11月号別冊ふろくに掲載 「あなたのてのひらの」■りぼんオリジナル・平成6年12月号に掲載 「最初のクリスマス」■りぼん・平成7年12月号に掲載 「告白物語−真夏の血痕編−」■平成7年・りぼん夏休みおたのしみ増刊号に掲載 「彼の時間、彼女の時間」■りぼんオリジナル・平成7年12月号に掲載 「それゆけ告白物語」■描き下ろし ----------------------------------------------------------------------------- ・[ぼくらの気持ち] 冬の木立と空の色。これに尽きる。これ読んだときは夏だったけど (感想書いている今は冬。寝かせすぎ)、肌寒くなったのを覚えている。 今読み返すと実にいい感じだ。 しかし、ラブロマンスものの映画見せようと思ったら連れの女の子が 任侠モノ観たがったり、その帰りに冬の公園で缶ジュースだったりする 古典文法は今でも通用するのか?まぁそれは兎も角として、 この作品の主人公は男子。男の側から女の子を追いかける視線、っていうのも この作者は巧いよな。ただその分ヒロインであるところの 雛ちゃんのキャラが薄いのは否めないが・・・・ ・[あなたのてのひらの] 作者お得意の幼なじみ話。この主人公は女の子で名前は羊(ひつじ)ちゃん。 このネーミングセンスが好きだ。で、オマケにヘアバンドでセミロング。 もうこの記号に無茶苦茶弱い私。あああ。 で、その幼なじみの寅彦君は年上のヒトの小鳥(ホント巧いネーミング)さんが 好きな訳だけれども、この小鳥さんの造形がまた良くて。 「大口あけて笑っても美人」なヒトっていますな。性根の綺麗なヒトね。 少女が主人公だけにストレートに話が進んでさくさく読める。 窓ガラスに小石で呼び出し、雪の降りしきる夜を二人で歩く。 基礎の基礎みたいな展開だけど、谷川史子が描くと、それが実に「らしい」。 あと主人公の性格が「いい子」なので感情移入もし易かった。 爽やかで暖かくての一押し。 ・[最初のクリスマス] 出た。湯泉川。の兄貴。喫茶モモンガのバイト。ちょっとヴァッシュ似。 このヒト好きでさー。何か。と、兄貴はおいといて。 サンタクロース姿でケーキ屋の前でケーキ売るバイト、ってあんた みつはしちかこの漫画じゃあるまいし、とか思ってたらこないだ実物観てしまって 世の中の侮れなさに愕然とした私でしたが。 冬の中に夏の回想シーンを入れるのもお約束の形式だけど、髪の毛の短さとか 微妙な表情とかで細かい考証が入っている感じ。巧い。 p120の手のふるえに目が行く描写なんて絶品だよな。 ・[彼の時間、彼女の時間] [君と僕の街で]の続編。前作を知らないで読むとよくわかんないですね。 わかんないというかキャラに思い入れる部分を端折っているので、 初読の時は「???」という感じではありましたな。 桃花の「その後」の成長ぶりが描かれていて好ましい。 ラストのリクオ君の大人びた表情、男らしさはこれまた絶品である。 (若さ故ちょっとヤンキー臭いけど) 「長いつきあいになるんだ」 Q.こういう瞬間が、私の人生にも訪れるんでしょうか? A.その予定はありません。 @@@@@@@@@@@@@@@@ [JUN] @@@@@@@@@@@@@@@@ (99/01/01)
谷川史子「きみのことすきなんだ」/集英社/1991/05/20 収録作品メモ------------------------------------------------------------------ 『きみのことすきなんだ』■りぼん・平成2年7月号に掲載 『乙女のテーマ』■りぼんオリジナル・平成元年冬の号に掲載 『騎士のテーマ』■りぼんオリジナル・平成2年冬の号に掲載 ------------------------------------------------------------------------------ 表題作は、作者曰く「ごく単純な話ですが割と気に入っています」な作品。 ワタシも気に入ってます。ホント単純だけど、その持つ単純さは、純粋さでもあり、 後の谷川作品に通底している感じのそれ。「悪くない」。 しかし・・あがた森魚なのか・・・この人もまた・・・聴かねば・・・ 「乙女」「騎士」は谷川作品では珍しい「女の子同士の友情」がメインテーマ。 女の子3人組を見ると反射的に川原泉のアレを思い出すワタシですが・・・ ・・・うう。スカートの丈の長さに時代を感じるなあ。何やら古めかしい。 松竹くんが性格を変えようとした理由が割と泣かせ所。 後悔をバネにして生き方を変えられる辺りが良い男の条件て訳か。 次の後悔をしないために、さ。 後はやっぱり樋口さんの悲恋話も切なくて良い。やっぱり「家」や「血」からは 無縁では生きられないのよね、というか。これも谷川史子にしては珍しい トーンの作品でお薦め。 由子ちゃんの話もかわいらしくて良。 竹をよじ登って会いに来るヒロインに乾杯。 ではまた。 @@@@@@@@@@@@@@@@ [JUN] @@@@@@@@@@@@@@@@ (99/01/01)
谷川史子「君と僕の街で」/集英社/1994/07/20 何が凄いって・・・・p63-64、 真枝氏と待ち合わせしてる「つきあい始めたばかりの」 すみれを盗み見て、そのドキドキがうつってしまう・・・・ という描写。 読者の私にもそのドキドキは伝わって。 たまらない・・・! やはりこの作者は斯う言った連作オムニバスが似合いだ。 最もそのセンスを生かせるパターンだろう。 結局の所、私ゃ別にこの作者に「新しい物語」を求めてる訳ではなくて、 その絵そのもの、あるいはそのシチュエーションそのものに惚れてるんだ・・・ 例えば、下校時に立ち寄るうどん屋、とかそう言う「シーン」。 何気ない日常の、何という切ない、美しい輝き。 ・・勿論拙者だって友人達と飯屋に行ったりしてたけど、「こういう」のとは まるでちがってた気がする。 ここに描かれているのは、いわば「下校時にうどん屋立ち寄り」という シチュエーションのイデアみたいなもので。 P95、うどん屋「平八」の、その1コマの爽やかさ。 ここにこの作者の魅力の全てが有る。 あと・・・ このラストの一本は「ぼくらの気持ち」の「彼の時間彼女の時間」の 二人じゃないかー。そう言えば喫茶モモンガの湯泉川君も出てるなあ。 もしかして谷川漫画って舞台全部同じ街だったりする? その辺に注目しつつ、一度全部通して読んでみなくてはね・・ あと、どうでも良いことかも知れないけど この単行本、表紙で凄い損してると思う。 この表紙はちょっと・・・ショボくない?いや、良いんですけどね・・・ 最後まで買わなかった理由がこの表紙だった @@@@@@@@@@@@@@@@ [JUN] @@@@@@@@@@@@@@@@ (981028)
谷川史子「きもち満月(フルムーン)」/集英社/1991/11/20 ■収録作品メモ−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− 『きもち満月』 りぼん・平成2年12月号から平成3年2月号 『緑の頃わたしたちは』 りぼんオリジナル・平成3年初夏の号 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− この2作、どっちもイイんだけど、世間的評価としては矢張り 「緑の頃わたしたちは」に票が集まっている様で。 基本的に「人が集まってわいわいやってる」雰囲気が この作者を好きになった所以であれば、私は前者の其れも好きなんですけども。 特にこういう・・3人(+1人)の登場人物の構成は、結構好き。 主人公月岡みちる、は豆腐の暗示により、白くて四角い物(消しゴムとか) を額に乗せると馬鹿力を出してしまう羽目に。 この秘密を知ってしまった(というか彼がそもそもの原因なのだが)小梅君と 矢張りその秘密を知ってしまった豆腐屋の娘萌子ちゃん。 最近変な人に尾けられている萌子ちゃんは、月岡の馬鹿力を見込んで ボディーガードをしてくれと頼んでくるのだが− オチとか全体の構成とか、オイオイ無茶苦茶だよ的なんだけど、 その無茶さが逆にとてもいい感じ。 なんつーか・・・アバタモエクボですねこりゃ。 季節は例によって冬。ストーブとかコートとか。実質11〜2月の連載。 もうそれだけで嬉しい冬フェチの私であった。 −で。その後者。 主人公が憧れるのは司書の人。年上の、大人の人。高遠つーと、 なんか往年のパンクルックの編集者が目の前をよぎったりする私ですが、 このタカトオさんも頬のこけた青年。彼の笑顔が見たくて 図書館に通い詰める主人公は、どんどん彼に惹かれていく。 そして、ある理由から「誰かを好きになるなんて2度とないと思ってた」 高遠氏もまた− この作品が前者と違うのは、「人を好きになる過程」がきっちり描かれていること。 谷川作品のライトさは、時としてそのライトさ故にその辺の描写が曖昧だったり (或いは最初から好きだったり)する様なのだけど、これはその辺に踏み込んでいる。 特に(二度と人を好きになる事がないと思っていた)高遠氏が唐澤あかりを 好きになっていく下りは、実に切なくてイイのだ。 いや・・・何というか・・・「お おそまつさま」(P136)は名台詞だと思う・・・。 読み返す毎にその持つ爽やかな哀しさ(郷愁という言葉がもつ、あの切ない感じに 似ている。中身は違うけど)がどんどん染み込んでくる感じ・・・ p149-152に流れる空気の清涼さよ。p149の、声をかけるのを一瞬ためらってから、 思い直したように声をかけるタイミングの巧さ。 ・・・でもちょっと暗くて。 やぱし谷川作品には元気印を期待してしまう私です。 暗さの原因には、画面そのものの「黒さ」も有るんじゃないかしら。 主人公のスミベタの髪も、心なしか重たげだし・・・ いや、こういうのも好きなんですけどね。 優柔不断男 @@@@@@@@@@@@@@@@ [JUN] @@@@@@@@@@@@@@@@ (981028)
谷川史子「くじら日和」/集英社/1993/5/19 「”あきらめない気持ち”というのが、このお話のテーマだったからです」 成る程・・・ 93年作品。 この作品は、基本的に主人公の一人称で物語が展開するので− この主人公たる「女の子」に感情移入できなかったワタシとしては・・・・ 実はイマイチな作品なのだった。 他の短編の類が「物語」を第三者的なスタンスから描く事が多いこの作者、 こういう長編になると、多少毛色の変わった作品になってしまう様で・・ ・・・いや、あくまで個人的に「そう思う」ってだけの話で 何の根拠もないわけですが。 ・・・キャラが弱い、ってのは確かに有るでしょうね。 シチュエーション萌えな作風・・だからこそ短編が生きるわけで・・・ あ、でも小町ちゃんはキャラ立ってましたけど。そのへんも進歩してるのか。 ま、然し今の所は−あくまで個人的な印象ですが−谷川史子は 元気・短編・そして冬、にこそその魅力があるのでは・・・とか思うのでした。 言いたいことはそれだけか? ・・はい。 ちょっと弱気な @@@@@@@@@@@@@@@@ [JUN] @@@@@@@@@@@@@@@@ (98/10/16)
谷川史子「花いちもんめ」/集英社/1989/10/18 収録作品メモ−−−−−−−−−− 『花いちもんめ』 『ちはやぶるおくのおそみち』 『祭・長月』 『きみの夏にとびたい』 『早春(はる)に降る雪』 「愛はどうだ!」から始まった 谷川作品逆行の旅の終着点(まだ未読作有るけど)、作者最初の単行本。 巻末の「告白物語」が実にこう、「若さ」に溢れてて、 そのへん感慨深いものがある。 で。矢張りイイですね、一番最初の単行本てのは。 どの漫画家も、それぞれにイイ。 特にこの単行本は、絵柄の揺れが大きくて、それがまたイイ。 デビュー作、2作目、3作目辺りまでは「いかにも」なレベル (一生懸命でホホエマシイ)なのが、4作目「早春に降る雪」(1989)では もう完全に今のレベル(絵柄は違うけど)になっているという。 巧い・・・・何というか・・・安定度が高い。 その「巧さ」を感じさせずに、その画面の向こうにある作品世界/キャラクターに 読者を連れていく、というこのレベルの高さは最早今の作品と比べても 見劣りしない。視点(カメラ)の位置とか、緩急のリズムとか・・・実にイイ。 ・・・まぁ然しデビュー作を越える傑作は無い、というのは 普遍的法則じゃ無いですよね、特に少女漫画界では・・・というか。 この単行本の中では、例えば「祭・長月」なんかは当時の作者の置かれている 状況などがモロに反映されている様で、荒れた画面がそれはそれで味わい深い 訳だけれども、これは流石にちょっと。 そう言うわけで、矢張りワタクシ的には「早春に降る雪」を推します。 光/影の使い方、喫茶店の空気、夕焼け、星空、等々。 谷川記号がちりばめられたこの作品。 9年前の作品ながら、古さを全く感じさせない作りがその普遍性を物語る・・・ ・・・然し何故少女漫画家のヒトタチはその初期作品で 方言ば使うトデすか。それに、何故そういうのは初期作品のみで 姿を消してしまうトデすか。 少女漫画界にはそういうしきたりでも有るんですかね・・・ やっぱアレですか、「母国語で思考せよ」? @@@@@@@@@@@@@@@@ [JUN] @@@@@@@@@@@@@@@@ (98/10/15)
谷川史子「各駅停車」/集英社/1992/10/20 収録作品メモ−−−−−−−−−− 『各駅停車』■りぼんオリジナル・平成4年春の号から初夏の号に掲載 『両手でも足りない』■平成4年・りぼん2月号別冊ふろくに掲載 各駅停車、は全3話。 これがもう。イイ。イイぞ・・・・ 秋冬だし、日差しは低いし、海だし、電車だし、保健室だし。 舞台は鎌倉。最近鎌倉に縁がある・・ というか鎌倉ネタを続けざまに読んでしまう事だよ。 七里ヶ浜駅、というのが実在するかどうかは知らないが・・・ 各キャラがもうひたすらイイんだ。泣けるよその「良さ」に。 読者としてのレベル(対谷川)が上がっただけなのかも知れないけど とにかくその息づかいが感じられる造形にはただただ惚れ惚れしてしまう。 特に女子。 男子の造形はその分甘いけど(少女漫画なんだから必要ないかと言えば・・・)。 特に藤沢まみこの造形には参った。切ないんだよーもーひたすら。 p45-46の、「さみしい平穏」みたいな空気がたまらなく良い。 そういう演出をすべき所で、ちゃんとその効果を発揮する演出がなされている。 あー。イイなぁ・・・ 舞台効果を最大に生かしているのが第三話で、 地元観光のシーンなんかも実にオイシイ感じ。こういう一歩引いたような 乾いた(でもやさしい)目線が好きだ。谷川史子の良さたる所。 で、例の続編の元たる「両手でもたりない」は実にこー、少女漫画。 そんな奴ぁいねえ的な恋愛に鈍い女の子、その幼なじみの眼鏡少年、そして その女の子にせまるアクティブ野郎。 これはちょっと文法通り過ぎて、ファンでなきゃ「それっきり」になりそうな (別冊ふろくならなおさら)内容ですね・・・ちょっと甘みが強い感じ。 それもまた良し。 あー、もう「イイ」としか言えないっすよ。完全に壊れてます。 鎌倉にいかなきゃ・・・・この漫画をより楽しむために・・・・とか思う @@@@@@@@@@@@@@@@ [JUN] @@@@@@@@@@@@@@@@ (981005)
谷川史子「一緒に歩こう」/集英社/1995/09/19 ・収録作品メモ 「一緒に歩こう」■りぼん・平成7年2月号から4月号に掲載 「一緒に帰ろう」■りぼんオリジナル・平成7年6月号に掲載 「抱きしめたい」■平成5年・りぼん春のびっくり大増刊号に掲載 幼稚園児の語り口がいかにも谷川史子という感じでイイ。 その分続編は蛇足感が無いでもない。 しかしなんつーか。展開に重みがない。無さすぎるよ! 甘いって訳でもなくて、ただ恋愛主体の少女漫画にあって、 モノガタリ自体の軽さが凄い。全盛期の柊あおいと比べたら比重が 1:0.05位なんじゃないかというマイルドスーパーライトさ。 いやそれがまた良いんですが。 某氏の指摘通り、「短編ならではの軽さ」が「良い」ですよね・・・ そもそも内容がどんなだろうと絵が綺麗だからイイや的なワタシ。 この辺までさかのぼってくると流石に今とはタッチが違っているけど それでも巧いには違いない。 多く慣れ下手の作家を生んできた少女漫画世界の中で、 この作者は、その10ン年という漫画家歴の中で、着実に「上手く」 なってきている。単に上手くなっているだけじゃなく、その絵のもつ 「伸びやかさ」が加速されている感じ。 兎に角、見てるだけで幸せになれる絵・・・ そういや昔ファンだったCG描きの人の絵に 似てるよな・・・って、多分彼(だか彼女だか)の底絵がこの当時の 谷川絵だったんだろうなあ。とか。 んー。「抱きしめたい」の絵も良いなぁ。 ナチュラルロン毛にはホント弱いぞ>拙者。 ・・・おお、これは続編なのかッ。 さらに源流へと遡る旅を続けなくては・・・ ・・なんかもう戻れない太陽の牙ダグラム的気分。次は長谷川センセイですか? (また勢いだけで内容のない駄文を書いてしまって後悔中) @@@@@@@@@@@@@@@@ [JUN] @@@@@@@@@@@@@@@@ (980916)
谷川史子「ごきげんな日々」/集英社/1997/12/14 くはー。良い。良いぞ。良いぞW小林晶!みたいな。 そういうわけですっかり谷川史子三昧の昨今ですが みなさまいかがお過ごしでしょうか。 某氏に言わせれば「谷川史子は薄い」という一言に尽きるらしいんですけど、 いやもう好きになったら最高ってやつでして。 絵が良いんですよ結局。絵を眺めてるだけで割と幸せ。 模写なんかしてそっくりにかけるともっと幸せ、的な。 背景の処理もホント良いし。 p66の暮れかかった空とか、その流れでの風の使い方とか。 こういう「シーン」に無茶苦茶弱いのよ拙者。 確かにドラマは薄いかもしれない。 でも、この場合ワタシはそのシーンに乗って展開される「絵」を 楽しんでいるので(冬の街とかオンナノコの表情/仕草とか)、 正直どーでも良いのであった。いやどーでも良くはないけど。 ってこんなところで弁護してもな。 で。 谷川史子はイケル、という思いを決定的にさせたのが、p137の1/4スペース、 「ごきげんな季節」の 「冬は好きです/寒ければ着込めばいいし、 寒い中を歩いているとなんというか闘志がわいてくる」 の下り。 うをを、そうなんだよう、という。ワタシ根が冬属性なんで。 まぁ雪国の人には解らない感覚かも・・・厳しい冬って短いからさ>南国徳島。 えーと、そう言うわけで。 内容に対する感想が出ない言い訳にはなったでしょうか。 最近めっきり言葉が出なくなってしまって。 日々薄れてゆく何かを感じつつ。 @@@@@@@@@@@@@@@@ [JUN] @@@@@@@@@@@@@@@@ (980916)
谷川史子「外はいい天気だよ」/集英社/1998/07/20 流石は王道。24歳のオヤジがてらいなくラブコメできる希少な作風と言えよう。 はぁぁぁ。然しこの人も無茶苦茶巧いですな、「絵」が。パースとか。 舞台背景の選定含め、総合的なバランスの良さが心地良い。 タイトル作3話+読み切り1本。 テーマは説明不足故のすれ違い?ってそんなんいつもか。 −で、 やぱしワタクシ的には第2話でせうかね、と。 ワタクシの中では「少女漫画=秋冬」という嗜好の偏りが有って、 その上夕焼けとか星空とかが有るとなお燃えるという (その辺(昔の)柊作品には良く突かれたものだが)。 まさこちゃんもいいんだ。ナチュラルさが良い。ああいうロングで ナチュラルなキャラにも弱い私。杢子ちゃんとかさー。 んー。いや、p76-83の流れは、久々にハートわし掴みだったですよ。 秋冬(この作品では冬)の夕空の持つ演出能力はやっぱダントツに高いわ。 こういう「町の中の開けた空き地」もツボかも・・って類型探して安易に 型にはめるのは良くないか。でも「野原」然り「星の瞳」然り、そう言う 「空き地」を中心軸に少女漫画を−ってそれは昔夏目先生がやってた様な。 いやあれは四方田センセイでしたか。 ・・・p64の朔巳君のノリがもう好きで好きで。 この瞬間、ワタシの気分は完全に彼とシンクロしてたよ。 再読、三読すると、この前後の各々の意図、というか気持が見えてきて、 ホホエマシイ気分になるのだった。いや、でも良くできてるわ。流石に。 あと・・・ドーナツ屋(DO-NUTS club)の描写が妙に好き。印象深かったんで しょっちゅう出てきてたのかと思ったけど、2回だけなのね・・・ デビュー作から系統的にきっちり読んでおきたい気分の @@@@@@@@@@@@@@@@ [JUN] @@@@@@@@@@@@@@@@

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