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貞本義行


Sadamoto Yosiyuki

貞本義行「新世紀エヴァンゲリオン 7 男の戦い」/角川書店/2001/12/01


「おまえには失望した」


父親に言われる台詞の中で、多分これが一番「効く」だろうな、と思う。

アニメ放映当時、将来の選択に迷い、日々不安を抱えて生きていた僕には、この
ゲンドウの台詞が恐ろしくてならなかった。そういう記憶がある。

「私はあなたに夢を託していた、期待していた(なのに裏切られた)」とは
全く大人の勝手な言い分だが、それでも「失望させてしまった」という事の
悔やみは大きい……筈、だ。

だが、友人を握り潰してしまったシンジには、もう何の感情もわいてこない。

あの頑なな無表情の裏に、大音響で鳴り響く「拒絶」のノイズが聴こえる様だ。
「心を閉ざす」というのがどういうことか。客観で語られるのではなく、また
引いた描写でもなく、彼自身のモノローグで説明させる事で、読者とのシンクロは
維持される。


そのシンジが、「僕を初号機に乗せてください!」に至る経路、が、加持の
昔語りというカタチで解りやすく(明確に)描かれている。曰く、

仲間の命を代償として生き残った加持。父親の命を代償に生き残った葛城。
彼等は自分の命が何故ここにあるか、を明確に「知ってしまって」いる。
そして、自分達をこんな運命に叩き込んだ、「セカンド・インパクト」とは
何だったのか、を追い求めた結果、が現在の彼等なのだ、と。

「俺たちは2人とも 幸せになってはいけない運命なんだよ
 そしてシンジ君 君も同じだ」

お前が頑張れば彼を助けられたかも知れないが、躊躇看過した為に彼は死に、
然しお前は生き残った、生き残った奴には死んだ奴の分まで戦う義務がある。
そうだろ?

そう、なのか?今となっては、解らない。そう思えるか、どうか。
だが、まあ色んな意味での「悔恨」に囚われているシンジなら、それに反応
するのは理解できる。

で、まあ終半はお笑いエヴァンゲリオンの代表シーン、「思わせぶり台詞」の
オンパレード。今読むとどーしても「グルグル」でのパロディが浮かんで
しまって駄目だ……

取り敢えずアニメの方で「可能性」として残された無限の解釈を、収束の方向へ
もっていってる感じは継続してある。唯一ではないにせよ、「正解」が語られる
ことを期待する。問題は、あと何年で終わるのかという。


……大学時代のミサト&加持のカップルの空気は、いや、いい歳してこういう事
言うと情けないけど、やっぱ憧れる……はー。
@@@@@@@@@@@@@@@@ [JUN] @@@@@@@@@@@@@@@@
・この巻では、フィギュア付きのバージョンが出ていた事も記憶しておくべき。
(02/02/09)

貞本義行「新世紀エヴァンゲリオン 6 四人目の適格者」/角川書店/2000/12/15 アニメの17話「4人目の適格者」18話「命の選択を」を、マンガ読みながら見返して みる。久々に見ると声優の演技が濃い・・・つーか必要以上に緊張感が有る・・・ 特に三石。あとカメラが引いてる印象。表情が声によってのみ演出されている感じ。 つーか、動かない・・・口パクすらない・・・んだけど、やっぱ久々に見ると、 イイ・・・美しい・・・ うーん、然しこの頃になると随分違うな。「本来こうあるべきだった」のか、 それとも貞本的に「こうありたい」のか、その辺は解らないけど、個人的には このコミックの方が好ましい。そういう感じ。特にシンジの造形は、明らかに 読者とのシンクロ率を高めるものになっている。もう声も緒方声じゃなく、 ちゃんとした少年の声の様な気がする。 アニメの方にある、熱に浮かされたような雰囲気は無い。何が違うと云って 3号機のパイロットがトウジで有ることを、シンジが最初から知っているという。 アニメの方の、誰が乗っているのか解らないけど「人が乗ってるからイヤだ」という シンジに比べると、悲劇の展開は同じでも、印象がかなりすっきりした感じ。 シンジにちゃんと理性が残っている、というか。その分感情移入もしやすい。 ので、こっちの方が好き、という訳。 ただ問題はこの後だよな。アニメの方はシンちゃんの逆切れ内圧がどんどんどんどん 高まっていって、ますます熱に浮かされたような展開になって行くわけで、その辺を この「貞本シンジ」がどうやって「男の戦い」を戦い抜くのか。多分シンジの行動 そのものはアニメをトレースするんだろうけど・・・ アニメの方の「おとこのたたかい」は後期エヴァ最高傑作の一つで、良く落ち込んだ 時とかに見返したりしたものだけど・・・ああいう「社会に対する無闇な怒り、 自分の無力さに対する絶望と、ヤケクソをさせてしまう熱い血」って一時期本当に 「必要」だった。久々に見て、やっぱり身の内に熱いモノがこみ上げるのを感じる。 あー。安彦調に云うなら「血の奥底を熱くする」って奴。でも其の後がなあ。ああ。 ラストの「思わせぶり台詞大集合」みたいな所で苦笑してしまうよ・・・ ってまた何か関係の無い話でお茶を濁しつつ。いいじゃん。エヴァだし。 @@@@@@@@@@@@@@@@ [JUN] @@@@@@@@@@@@@@@@ (01/02/20)
貞本義行「新世紀エヴァンゲリオン 5 墓標」/角川書店/1999/12/17 現象としての「エヴァンゲリオン」の嵐が過ぎ去ってから、もう 無限とも言える時間が流れ去った。 だが、マンガはこうして何事もないかのように続いている。 また、これからも続こうとしている。この感触はなかなかに得難い。 物語は今もまだアニメの上をバウンドしながらトレースしている。 だが、手法はあくまで「少年漫画」(例えば、巻末で加持の口から ”読者の投影”たるシンジに対して謎が開かれる下りとか)であるから 何だか全く別の作品を読んでいるような気分にもなる。読んでいて、実は心地良い。 やっぱり、このペンタッチが、絶望的な物語から角を取っているんだと思う。 枚数を重ねても、この独特の「整理され切れていない」描線は変化しない。 整理するつもりも無いのだろう。入りも抜きも無い、独特のちょっと荒い感触が 「少年漫画みたい」だと感じさせるのか。 アニメ版のキリキリとした痛々しさはあまりない。 鬱病患者の内心吐露オンパレードだったアニメとは違って、それなりに不安を 抱えながらも、自分をきっちり持って生きていこうとしているチルドレンの姿。 ・・・あの綾波さえもが「自分」を持っていることを感じさせる描写は、何だか こんな事を言うと変だけど、ホントに救われた気がした。読んでいて、自分の中に 刺さった刺が融けていく様な・・・勿論最後の最後まで気が抜けないのは解ってるさ。 でも、今のところは、純粋に(とはとても言えないけれど)少年向け SFマンガとして楽しんで良いんじゃないか・・・そう思う。思いたい。 無限に生まれ消えていったエヴァ同人とは、やはり一線を画す。「本物」なのだ。 単にお墨付き、というのでもなく。唯一無二の「新世紀エヴァンゲリオン」。 成る程他の作家ではこの作品のマンガ化は無理だったわけだ。 いや、マンガが先だったんだけど。えーと、何が言いたいんだ僕は。 ・・・要するに、「アニメで受けた傷をマンガで癒せるかも知れない」という 可能性に(まだ)拘泥してるわけですよ僕は。駄目だねえ。ホント駄目だ。 P72からの碇ゲンドウと碇シンジの対話は、思えばエヴァという現象そのものを 通して何度も何度も言い聞かされ続けたことだけど、このマンガでこの台詞を 見ると、(アニメではあれだけ不可解だった)ゲンドウの「内心」が読める ・・・様な気がしてしまうのだ。 「人は皆自分ひとりの力で生き、自分ひとりの力で成長していくものだ」 「自分の足で地に立って歩け」「私自身もそうして来た」 「人と人とが完全に理解し合うことは決してできぬ」 「人とはそういう悲しい生き物だ」 ゲンドウさえ、「許して」しまえそうな気分になる。 このシーンが表紙画にされているが、アニメでは一種病的な空気を漂わせていた 墓場のシーンが、ここではノスタルジックな情景とも見えてくる。 これはもうひとえに貞本の「絵柄」の所為だろう・・・ 絵柄、と言えば、各話の扉やカラー扉で描かれているミサトと加持の 学生時代のスナップなんかも実にこう胸にせまるものがある。 貞本氏自身がこの若い二人を「題材」として気に入ってしまったのであろう 本当に切なく味わい深く描かれている。これがまた良いんだ。良い。 取り敢えずオチまではつきあう覚悟。でも作者の心労を思うとなかなか。 辛いよね。多分。「最終回」まで投げ続けることが出来るのかどうか・・・ @@@@@@@@@@@@@@@@ [JUN] @@@@@@@@@@@@@@@@ (99/12/21)
貞本義行「新世紀エヴァンゲリオン 4」/角川書店/1997/10/22 考えてみると不思議な漫画。展開は似ている様でいて、作品としては (今のところ)全くの別物と云って良い。「あの」ラストに至るまでに あとどれくらいの歳月が必要なのか見当もつかないが、全く違った 「ラスト」が用意されているのではないか・・・と思えてしまう。 その意味では、全く「エヴァ」は一人庵野秀明のものではなく、 「原作:GAINAX」なのだなぁと。 少なくともこの巻の後半では、シンジとアスカの間に「察しと思いやり」が 流れ、「会話」が成立している様に見える。この時点で既にアニメ版 (と敢えて云おう)とのズレは決定的だ。 果たしてこの作品は、このマンガは、我々があのTV版25.26話を 見終わったときに「本当はこうあるべきだが、諸般の事情でこうせざるを 得なかったに違いない」と信じようとした(そして結局信じ切れなかった) 「本当の展開」を見せてくれるのだろうか? p155のシンジは、確かに「我々が望んだ」主人公の少年像である。 回を追う毎に成長し、男に、理想像としての(タフで優しい)大人になっていく 成長する(ありがちな)少年の姿、だ。 努力することで乗り越えていく−スポコンというか 友情努力勝利の理念が見える。 −結局、虚構である以上「真実のエヴァンゲリオン」は無いわけで。 これもあり得たかもしれない世界の一つ。最近確率論大流行だからなぁ。 我々の存在もまた確率に過ぎない訳で・・・正体はやっぱり黄色い水かも。 然し同じタイトルを持つものとして、かたや全く成長しない主人公 (これは意図的にそうされたもの)、かたや弱いながらも「男の子」として 「少年」として成長していく(様に見える)少年シンジ、では もう全く別物だ。・・作者が意図してそう描いているのならば。 ・・正直「あんまし考えないで描いているのでは?」という感じも しないではない。それはそれでいいのだ。 「絵」的には、−というか線は相変わらず独特の、垢抜けないというか垢抜け 過ぎているというか、なもの。アニメとの差別化をという意味では大切かも。 でもこの作者の巧さってのは、コママンガじゃない様な。 コマページと各話の扉ページとではもう全然印象が違う。この人の「巧さ」は 各話の扉に集約されている様に思う。まぁそれも作家性か・・・ STAGE24の扉とか、類型的だけど好きだ・・23のミサトさんも無茶苦茶イイ。 この作者は矢っ張り、根がイラストの人なんだと思う・・・ 兎も角次巻を待つしかない・・・この作品世界に関して、 僕はあまりにも(下らない事ばかり)語りすぎた。 今またマンガ版を前にすると、もう何の言葉も出てこないのだった・・・ ふむ。 @@@@@@@@@@@@@@@@ [JUN] @@@@@@@@@@@@@@@@ (97/11/12)
貞本義行「新世紀エヴァンゲリオン 3 白い傷跡」/角川書店/1996/11/7 一年になろうとしている・・・・ 貞本EVA、とでも言うか。 この漫画は、一本の時間軸が有って、ちゃんとドラマを形成している。 恐らく、シンジはこのまま「成長」するのでは、と思われる。 それが「救い」かどうかは兎も角。 成長した筈のシンジがまた退行している、あのもどかしさを再び感じることは 有るのだろうか。 この巻が、EVA最大のクライマックスの一つであり、その中で「成長」した筈の シンジ。果たして・・・・ いや、もう止すのだ。 兎に角、もう答えは僕の期待しているソレではないのだからな。 そこには無い。 貞本絵は相変わらず美麗。 個性派というか、この線を引く人間を他に知らない・・・ P53の綾波のお腹。 貞本のデッサン感覚は此に尽きる。 一年前のあの頃。 どうしても観たくて、タイマーセットして有ったにも関わらず 講義をサボって見に帰ったものだ。挙げ句いい加減な発表をして 吊るし上げられたのだが、そんな事は眼中になかった時期・・・ 先日の学会でその吊るし上げて下さった教授と久々にお会いして、一気にあの頃の アンダーな空気が甦った。決してうきうきと見ていたわけではなかったのだな・・ 此の単行本も本屋の店員に聞くと、注文が殺到して、その上なかなか入らないしで 大変だった、のだそうである。田舎の小さい本屋にしてそれか。 劇場版ではチケットに行列(最近見なかったよねぇこう言うの)ができたと言う。 LDはここからいよいよラストに向けての天井破りを記録するであろう。 そして劇場。 それによって、庵野の言うように「スタッフに還元」されるのがどれほどのものか 僕は知らない。 此の漫画が、アニメ終了後、ブーム(と呼べるのだろうか)後も何年も続く事に なれば、その意味も自ずと変化して行くのだろう・・・続いて欲しいものだ。 否定はしない。「QJ」での庵野の言うことは恐らく全て真実だから。 ただ「理解」しようとするのは(僕にとっては)徒労感が強いだけ。 脳がモノを考えることを嫌がるだけ。 @@@@@@@@@@@@@@@@ [JUN] @@@@@@@@@@@@@@@@ (96/12/02)
貞本義行「新世紀エヴァンゲリオン 2 ナイフと少年」角川書店/1996 このペースで行くと、一体何巻で完結するのやら。 連載の方は全く読んでいないので、現在どうなのか知らないんですが 随分アニメとは別方向の動いて居る様では有りますね。 キャラクターの性格が、まるで違う。いや、それでいいんですが。 ただ、もう「アニメの読み解き用教科書」としては使えないかなぁ・・・と。 SFな部分の解読にはまだ使えるかな。説明さえしてくれれば、ですが。 ま、終わっちゃったし、いいか。 巻末のあさりよしとお氏の言葉が(今となっては)面白い。 こうして支持していた「メディア側」の反応が、何よりあさり氏の「TVアニメ版」 最終回に対する感想が、今は本当に楽しみ。意地悪な気持ちではなくて・・・ またぞろアニメ版の「批判」をする積もりも気力もないけど、 「シンジ君の成長ドラマ」だ!そう見ろ!と言われてハイそうですか、とはね。 多分中盤以降も「ついて来てた」7、8割の人間が「こりゃあかん」と裁定を 下しても猶、「一部の人だけ解れば」ってのは・・・ああ、 エヴァが始まった時からずっと言ってた事ではあったな。 ついていけなくなった者、の僻みか。 兎も角。 貞本氏の、独特の儚げな線が矢張り個性的。 良くも悪くも、普通の「まんが絵」の線とはかなり違いますよね。 イラストレーターならでは、か。 正直少々読みづらいのだけど・・・ それも個性よね。 ふむ。 ポン橋のディスクピアのエヴァラッシュが全て空しく見えた @@@@@@@@@@@@@@@@ [JUN] @@@@@@@@@@@@@@@@ (96/04/02)
貞本義行「新世紀エヴァンゲリオン 1 使徒、襲来」角川書店/1995 実は連載読んでなかったんですが。 アニメそのままですな。 アニメのフィルムコミック化したらこんなか。 いやアニメの方のエヴァもどうにか3話までは上がってきてるらしいけど・・・ 違う点は、冒頭、使徒とエヴァ(レイが乗ってるのね)が闘ってるシーンと シンジが切れてしまってから、アニメの方は「知らない天井」(2話)で 目覚めるんだけど、それが漫画では時間の流れ通りに描かれている事くらいか。 多分一話の方はまんまだと思う。 どっちにしても、「庵野原作、貞本絵」という感じ。 巻末の庵野の言葉が貴重。 確かに酷い、暗い、救い様のないアニメ(といってね1,2話しか見てないけどね) ではあったけれど、これから、だよな。全話(2クールと言ったか)終わってみれば 感涙しているかも知れない。それは「トップ」の時だって・・・ ところでやっぱしエヴァの発進シーンの格好良さは漫画では表現出来ないなぁ。 如何にもガイナックスな発進シーンで、これは良いですよ。 とにかく「わざと」暗い設定、変なメカ、でスタートした訳で、 これでコケたらもう駄目だぜ? ただ、「TVで見られなくてもいい、LDでじっくり見える、     アニメファンの為のアニメ」を目指すのも悪くはなかろう、と。 下手に制約食らって駄目アニメが増えていく中で、数少ないオリジナルアニメ。 期待はしてます。当然ですが。 それはそれとして貞本絵が思いきり堪能出来る(当たり前だけど)のは良いです。 10月からの放映に対しての予習という事で買ってみては如何? でもこれ1巻で1,2話カバーしてるから、2クールだと13巻まで出るのかなぁ? @@@@@@@@@@@@@@@@ [JUN] @@@@@@@@@@@@@@@@ (95/12/13)

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