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諸星大二郎
諸星大二郎「栞と紙魚子と夜の魚」/朝日ソノラマ/2001/08/30
安定した異世界バカマンガ。これで完結という話だけど……
諸星大二郎先生の他にコレを描ける人間は居まい。
兎に角「愛すべき」と言いたくなる作品。
毎回毎回良くもこれだけ、と思えるズレ具合。独特の画風と奇妙なノリが
渾然一体となって、実に心地良い「酔い」を与えて呉れる。
物語世界をくるむ「闇」のもつ暖かさというか、懐かしさというか。
何とも慕わしい。
発売当時、書評家達の間で評判だったのは「古本屋地獄屋敷」で、これは
何というか「身に覚えのある」人間には実に怖気持ちいい傑作。どこまでも続く
古本(平積みで今にも崩れそう)の迷路の中を、当て所もなく奥へ奥へと入り
込んでいく、この悪夢にも似た心地良さ。怖いんだけど、布団の中で観た夢の
様な、妙な懐かしさ、慕わしさがある。そこに「帰っていきたい」様な……
やばいのでは>自分。
昔は古本屋の中で何時間でも居られたものだよ。一山いくらの文庫本の谷間に
座り込んで、何時間も掘り出し物を探した頃もあった。
短編モノでは「忘れっぽい幽霊」が好きだ。あのグロテスクな馬鹿馬鹿しさは
作者ならでは。
或いは「見知らぬ街で」の、最初から夢オチと分かっていながら一気に引き込ま
れる幻想世界では、作者の魅力が爆発。猫マントもさることながら、p121の、
草原の中の廃墟、その上に浮かぶリリエンタールなグライダー……。
巻末を飾る「夜の魚」は、シリーズのオールスターキャストで送る長編傑作。
静かで不気味な導入から始まって、「ゼノ奥さん」系の不思議次元ではリッパー化
したきとら先生や、人魚?化した段先生の奥さん(萌え)が大活躍、オチの(笑)
に至るまで、その「諸星ど次元風味」にただただ浸れるという。
いやー、きとら先生凄いよ。なんかもう。あの性格、たまりません。
好きな台詞は「あの奥さんを呑むなんてただものじゃないわ!」全く。
基本的に単行本派なので、今どこで何を描かれているのかサッパリ知らないん
ですが、まあ次の単行本を気長に、楽しみに待つことにします。
「室井恭蘭全集」と言えばまだFCの「暗黒神話」を解いてない
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(02/03/04)
諸星大二郎「栞と紙魚子 殺戮詩集」/朝日ソノラマ/2000/01/30
相変わらずのノリ。何かもー勝手にやってなさい的。
位相のズレがますます酷くなっていく。
以前の様な、ちょっと裏筋に潜んでいる異次元、みたいな恐怖は薄れて
代わりに「胃の頭町」そのものが一種のユートピア的世界、或いは
「ど次元世界」に突入している感じ。心が安まるというか何というか。
冒頭、禁断の魔書「アッカバッカ」を巡るドタバタは流石モロ☆先生という感じ。
「違いますよ プープービヨマンカは遠縁の伯母さんです」とか最高。段先生の
奥さんは由緒正しい血筋の邪神らしい・・・。
今巻のタイトルたる「殺戮詩集」を出版したストーカー、菱田きとら先生や
謎のペットを飼うゼノ奥さん、アッカバッカ社の帽子を愛用する一つ頭の兄弟等々
どんどん変な人に浸食されていく作品世界。このまま胃の頭町はモロ☆ワールドに
なってしまうのか・・・と思いきや、長姫の登場から一気に諸星伝奇調に。
妖怪ハンターもかくやという段先生の語り口とか見てると、作品が軽くなったら
この手(長姫登場)で引き締めるというパターンが有りそう・・・とか思ったり。
個人的にはもうこのままどんどんアッチへ行っちゃって欲しいというのも
有るんだけど、でもあんまりヘンなのにキャラ立ちされるのもどうか・・・と
いうのもあるし。慣れるでしょ、その変さに。いやそれはそれで楽しいんだけど
でも最初の「生首事件」の時みたいな狂気を通り越した笑いの異常さを
また感じたいんだ。餌食って育つ生首。育てる方も育てる方だが。説明不能の
異常事態でありながら妙に地に足の付いたリアルさ。今巻でも例えばケヒリヒの
卵産んだ後の「へにゃへにゃへにゃ」とか、そういうちょっとしたところが
たまらなく良い。こういう一見どうでも良くて其の実どうでも良いという様な所に
こそリアリティは有る。まさに神は細部に宿るというか。嘘です。
今巻はでも「ゼノ奥さん」シリーズでしょう。あのペットの行き先の世界は
かなりいい感じ。近所の人のあの造形とか、もうホントにいい味なのだ。
いい感じに狂っているというか。「こいつら口から出まかせ言ってない?」
このシリーズ自体そういう感じもするのだが。
・・・うーん、やっぱ絵柄が強いよな。この絵柄でなきゃこの味は出せない。
悪夢的なんだけど、ユートピア的。笑いと恐怖が何の無理もなく同居している。
この内容で絵柄がいしいひさいちみたいだったらどうだろう。いやどうだろうと
云われてもアレだけど。それじゃ「今月の見せましょう」だよ。
怪奇と笑いが同居する、このシリーズは最もこの作者「らしい」ものかも知れない。
ムルムルの情けない顔が結構好きな
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(00/02/28)
諸星大二郎「諸怪志異(三) 鬼市」/双葉社/1999/11/29
相変わらず「アシスタントに来られて最も困る画風」は味わい深い物がある。
今巻からは宋代の開封城外に住む「五行先生」とその弟子「燕見鬼」による
一本の物語が中心となっていく。
「羽化庵の来訪者」の、あの小人とか、うーんモロボシ、と言う感じ(どんなだ)。
魚石(p67)とか、こういう挿話が実に「らしい」んだけど・・出典はなんだろう?
こういうの元ネタ探しするのも楽しいとは思うんだけど、何せそっちの方の
素養が全くないんで、どこから探したものやら・・・
「推背図」はそれでも聴いたことはあったり。この書物の擬人化、というのを
ここまで直球で描いてしまえるあたりは、もう他人の追随を許さぬ境地というか。
「また荘さんの話は壮大でとりとめがない」
「わしの知は大知だが君たちのは小知というのだ。知ってるかね北冥に・・」(p152)
「背中を押すと黙るんだ 面白いやつだろう」。・・・・面白すぎる。
「推背図」とは・・・「シン(ごんべんに籤)書だよ。未来の予言書だ・・」
唐代に書かれたこの予言書には、この物語の主人公の事も書いて有るという・・・
つまりこの「鬼市」の底本は、この予言書にある、らしい。
これまた不勉強で読んでないんですけれど。
そう言うのを知らなくても十分楽しめる作品では有るんですけどね。
ただ、そう言うのを「知りたい」気にさせる・・・
続刊が楽しみです。
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(99/11/24)
諸星大二郎「栞と紙魚子と青い馬」/朝日ソノラマ/1998/05/30
何かもう無茶苦茶面白いんですけど。好きすぎる。
絵柄はいつもの恐怖系だけど、ノリが初期のノリになってきてる気がする。
言うところの「独特のユーモア」という奴で、こればかりは
もう読んで頂くしかないのだけど−
読んでると、何かほっとするんですよね。
こういう漫画読んでほっとするって言うとアレかも知れないんですけど
僕等の身の回りには、まだまだ僕等が気付かないだけで、
いろんな世界が平行して存在しているのだ−という事が、
結構癒しになっていたりして。
あと、物語もそうなんですけど、風景が懐かしいですよ。どこもかしこも。
昭和40年代〜50年代・・・というよりは、子供の頃感じた「知らない町」の
風景が漂っている。特に「空き地の家」の空き地のイメージは、
自分の中にある古い記憶を呼び覚ます・・・
勿論本気で「恐い」作品もあって、例えば「頚山のお化け鳥居」等は
作者自身が「妖怪ハンターみたい」と自己言及してしまう程に
ユーモアよりも「恐怖」が先にある。
冒頭、諸星大二郎のキャラの口から「たまごっち」等という言葉が出たのには
笑ったのだが、後半の「絵の恐さ」はすさまじかった。
鳥居人間のノリは殆ど「暗黒神話」。
「ラビリンス」も割と恐い方かも知れない。僕は割と方向音痴の気があって、
幼児期に迷路で恐ろしい体験をしたらしく、あの手の巨大迷路は
未だにあまり気持ちの良いモノではない。
こういう「トビラを開けるとその向こうは別の所に繋がっている」展開は
ドラえもんでも有ったが、昔それが恐くてその巻だけなかなか
読めなかった記憶もある。以後筒井康隆や岬兄悟等でこの手の話には
いくらでも出会ったが、未だにちょっと駄目。でも「ウィザードリィ」は
好きなんですよね。あれは「迷わないために地図を作る」という
自分の迷路に対する恐怖心を補完していくゲームだったからかも。
・・逆に癒されたのは「青い馬」で、何とも言えない「非日常」感が
素晴らしかった。「普段と違うこと」に飢えてる証拠だな・・・
でもホント、飢えてるんですよ。最近毎日が毎日の繰り返しだから。
一歩、いや半歩だけ、次元をずらして生きてみたい・・・
アッチー(これはかつて「アシアトゴン」として描かれた怪物と同じものであろう)
を探し続ける老人の様に、視点の違う、価値観の違う人達が居てこそ
世界は多様であり得る。
・・・ムルムルの造形は秀逸だ・・・・
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(980629)
諸星大二郎「ぼくとフリオと校庭で」/双葉社/1991/8/19
表題作の空気は、生活が全てに於いて幻想世界に半分浸かっていた少年時代を
見事に再現してみせる。だれしも「そんなことあるもんか」と思いつつも、
覗き見てしまった不思議を一つや二つは抱えているものだ。
私にもフリオの様な友達が居て、彼が見せてくれた闇方面の世界は
今思えばどうという事はないのかも知れないが、当時は途轍もなく広いものだった。
他のどの作品も一作で語るに足る迫力を持つが、何と言っても巻末の「蒼い群れ」は
その絵と内容のの持つ迫力という点で突出している。浮浪者たちの専門用語の使い方、
青年の「本当の」不安、「大きな力でもぎ取られる」事で不安が解消されるとは
どういう事か・・・「痛みも苦しみもない」と言ったのは「生物都市」だった・・・
「城」は諸星大二郎一流の巨大コンプレックス(構造体)の中で苦しむ一人間という
テーマもの。たった一つの書類の決裁を貰うのに一生を費やす世界・・・
「恐ろしく煩サで複雑」な・・・
かつて駅の地下から地上に出ようとして果たせなかった男が居たのを思い出す。
思わず何度も読んでしまうのは、それが原初的な恐怖感覚だからか。
「流砂」も傑作。社会全体が「新しい展開」を望まない中で、それを決行する若者。
数々の妨害の前に仲間は去って行き・・・ラストの「おいていかないでくれ!」と
いう叫びは、まだどう解釈していいのか迷う。「若者」はその澱が無いだけに
「ユニーク」であり、それが「小さい街」に閉じ込もる事を拒否する。
「都市と星」だ。基本的な展開であり、それに対する頑迷な社会・・・等と、
方法は安易な現代社会風刺であっても、その持つ迫力は本物である。
ドラマの展開もきちんとしており、学ぶべき部分は多い。
今更ながら読んでみましたが、出た当時にたち読みした時は「全然面白くない」と
感じた事を思い出します。自分の嗜好も随分と変わったもの。
今読むとどの作品も傑作で・・・
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(97/03/04)
諸星大二郎「天崩れ落つる日」/集英社/1997/2/9
あの「ゼピッタ」シリーズと「怒々山博士」シリーズに加えて諸星いや諸☆氏の
ナンセンス漫画を再編したもの。・・・なんか全部どっかで・・・
それはそれとしてやはり「ど次元世界物語」は傑作だ。
中学生の頃に読んで何とも言えない魅力を感じた。
何と言っても「カーラスムギガホーサクダヨー」である。インゲンマメモ・・・
私の精神形成に大きな影響を与えたもの・・・・。
まだナンセンス漫画集成とは成りきっていないが、かなりのものは
これで読む事が出来よう。OUT掲載の軽いタッチの「白い」諸星世界も
素晴らしく良い。他にも何作か・・・コミコミのは未読だったので収穫。
しかしどの作品も一言では説明できない魅力というか空間を持っていて、
特にゼピッタのシリーズはその背景世界の設定の妙が突出している。
ちょっと普通には描けない設定である。諸星大二郎の力技有ってこそ。
どれも80年代初期までの作品だが、是非ともまた描いて欲しいシリーズ。
読んでいて、カジシンの「エマノン」シリーズを思い出すのだが、そういえば
エマノンは書き続けられているのかもそれないな・・・
「ど次元世界物語」未読の方は是非どうぞ。
・・しかし集英社が出している「JUMP SUPER ACE」シリーズの
諸星大二郎の作品集は大概買ってしまう・・何か揃いとして・・・
ハメられてるような・・・乱丁本多いし・・・
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(97/03/04)
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