白炭屋カウンターへ

本棚・メインへ


草g琢仁



草g琢仁「上海丐人族 弐 黒龍江的亡霊」/角川書店/1997/7/28

待望の(出ると云う噂を聞いてから半年待ったんだぜ)第弐巻。
巻末に「黒龍江的疾風」を加えて、この密度。
相変わらず絵が巧すぎる。こんな絵で漫画を描いちゃいかん・・とは水玉の言。
だが既に、少しずつ絵柄の移行は見られる。この後更に回数を重ねると、
段々線がシンプルになっていくのだが・・・巻末付録みたいな絵柄も好きなんだけど。

今巻はストーリーテリングが然し今ひとつ・・・
<魔都・上海>への憧れだけでは「物語」も難しいか。
もう少し複線をいろいろ(読者の目に見える形で)張った方がいいのかも。
今巻で明らかに「それ」と解るのはp21の写真、その文明の姿。
文明の「片割れ」が絡んでくると、又話が面白くなるのであろう・・
全てはこれからか・・・



然し・・・巧すぎる・・・

p54の、東風が自分の血を戦場の色に変えて行くシーンの見事さは最早神業だ。
黒白故の明らかさ、早暁の空の、そのトーンワークの見事さと墨の勢い、
もう全てが草g琢仁の個性というか才能だけで形成されている。
夜明けの黄漠を吹き渡る冷たい風を感じる。
バタバタと鳴るマントの音が聞こえてくる。
堪らない!


或いはp72〜73の酔猫徒達の馬鹿騒ぎぶりの気持良さよ。此処には嘘がない。
いや虚構なのは元よりだが、彼らの生き方に嘘がないんだ。
読者は無理にキャラクターの心のヒダを読む必要もない。
ただ彼らの豪放な生き方を楽しめばよいのだ。くそう。フーリガンじゃないが
ぐでんぐでんに酔っぱらって銃器をがんがんブッ放す快感なんて
この現実世界じゃ死ぬまで味わえそうにない・・・。

p130〜131の見開きも見事。見開きってのはこう使うんだ・・
変形版である事の効果をも計算に入れた巨大艦「雷」の迫力・・・
こういう絵を統一された雰囲気で纏めてしまう辺り、この作者の
内的世界の広さを感じさせる。ああホントにこんな絵で漫画なんて・・

・・・あ、でもこのラストの甘粕は違うだろう・・
いや史実とは何の関係もないとしても・・
やっぱりイメージが・・・ううう・・・難しいよな・・・こういうの・・・



この人長編より短編向きだと思うんだ。
オチの無い、アンチクライマックスな、一種不気味さの漂う短編とか・・・
あああ「モダン都市文学」調の短編作品をもっと!「妖シヒ博物誌」とか、
あの手の怪しげなコラムってのは実に1920年代でたまらなく良かった。
今まで読んできた短編はどれを取っても傑作揃いだし・・・
上海−とは別に、短編作品も描き続けてくれると、読者としては嬉しい感じ。
でもこのクォリティじゃなぁ・・・

漫画としてどうこう、以前に、そのイメージの豊かさと画力の高さに痺れて下さい。
これで1000円出してお釣りが来るってんだから買わない手は無いですぜ。

最後の「したした怪人族!」でとどめを刺された
@@@@@@@@@@@@@@@@ [JUN] @@@@@@@@@@@@@@@@
(97/07/25)


草g琢仁「上海丐人賊 壱 巖鬼城酔猫事変」角川書店 850円/1994 (タイトルは簡体字なので違ってるです) 実はまだ買ってなかったという・・某Genkiとかで読んでたし・・ ああ。 堪能できますぜ。 まぁこういうの好きな人ならもう買ってるでしょ。 舞台は魔都上海。 100年前の大戦の頃生まれた「蛮別」と呼ばれる獣人達。 大戦の後奴隷として使われ、今も被差別種として生きている。 先の戦争(おそらくは中国軍と満州軍のソレであろうか)で人間と共に戦った 蛮別、匪 東風(フェイ トンプウ)は無類の酒好きであり、シャングリルと言う 幻の銘酒の酵母を持つ少女にその酵母と少女自身を護ってくれ、と頼まれる。 しかしそれは東洋斬と呼ばれる彼を蛮別の都、虹華梁へ連れていくことで あった様でもある。 このへんだけ見るとまるで「アップルシード」の冒頭。 事実設定が似ているだけに「アップル」の二番煎じは免れていない。 ただ、まぁ作者の1920年代嗜好が濃くて、 アップルに比べると間口が少々狭いぶん、ハマれる様にはなっていますが・・ 絵柄が好みかな、という方も多いでしょう。 僕もそのクチですが。 女の子がかわいいですね。エロチックで。 士郎正宗並(僕の歪んだ眼でみた、という意味で)の漫画家がもう一人いる、 という事はしかし驚きです。 こういう作風はえてして消え去りやすいモノですが、このレベルに達すると・・ 今後の展開に期待。 とにかく、角川方面でなくても「買ってソン無し」という数少ない漫画のひとつ。 おすすめです。 僕はすっかり首までつかってしまいました。 でも興奮して語ろうとすると簡体字の嵐。辞書と首っぴきでもダメ・・・ うーん。やはりもっと文字フォント(ユニコード改良型とか)を 共通化すべきだぜ・・・ハングルとかさ・・特に漢字。 @@@@@@@@@@@@@@@@ [JUN] @@@@@@@@@@@@@@@@
白炭屋カウンターへ

本棚・メインへ


tamajun■gmail.com(■をアットマークに読み替えてください)
inserted by FC2 system