白炭屋カウンターへ

本棚・メインへ


萩尾望都



萩尾望都「イグアナの娘」/小学館/1994/07/20

萩尾望都の作品を全て読んできた訳ではないので、実際の所は
わからないんだけど・・・この作品の様に、マンガに描かれた姿と
本当の姿(作品世界での)が違って描かれる・・・例えば
他の人には美少女に見えるのに、本人と母親(と妹?)には
彼女が醜いイグアナにしか見えない・・・とかいうのは
この作家には珍しい手法なんじゃないか・・・

で、こういうのって、どうしても大島弓子との対比になってしまう・・・
ああ、でも、ここで描かれているイグアナの姿と、大島のソレとは
道具としての作りが全く違うか。大島のソレは「そう言う風にも見える」
という読み替えの世界だけど、このイグアナは、そう見える人達にとっては
間違いなく真実なのだ。そうとしか見えない。最後まで。

・・・確かに、(子育ての中心が母親の社会においては)母親に
植え付けられたレッテルっていうのは(程度の差はあれ)一生を
左右するものだ。自分は醜いのだと、そう思い込み、そう認め、それを
踏まえた上で、それでも生きている・・・案外そう言う人は多いだろう。
母親でなければ社会。生まれたときからお前はイグアナだと言われ続ければ
自分の姿はそう言う風にしか見えないだろう。
そう言う自己認識の歪みは、私にも有る様な気がする。

もう一作、矢張り実在の姿と描かれる絵のズレを手法として持ち込んでいる
「学校へ行くクスリ」は、これも或いは論理的に裏付けのある
手法と展開なのかも知れないけれど、その見え方のズレによる効果は
その実さほどでもないのだった。
・・・どうでもいいけどヒロイン中川さんの、80年代中期の
ぼたっとしたファッションが可愛い。

・・・やっぱ、「読み方」が掴めてないのかなぁ・・・
@@@@@@@@@@@@@@@@ [JUN] @@@@@@@@@@@@@@@@
(99/07/12)

萩尾望都「海のアリア」全3巻・角川書店あすかコミックス/1989-1991 萩尾「11人いる!」望都による中編SF。 実は古本屋で買った。 某吉田屋である稀覯本(と言ってもSFだけどさ)を半日違いで買われてしまい くやしまぎれに買ったのです。 好きな人、スマン。 いや、まーハズレは無いだろう、と。萩尾望都だものね。 絵は相変わらず超美麗。漫画が表現し得た「眼」の中でも氏の描く眼は恐ろしく能弁で 最も完成されたものといっていいと思う。 勿論一番凄いのは「恐るべき子供たち」だけど。 さて内容は、 似てない双子の少年達が夏の海でヨットをだすが、風で覆ってしまい、 片割れのアベル、よく出来るほう、が行方不明になってしまう。 死んだものとおもわれていた彼は、記憶喪失の様になって見つかる。 実は事故があった日、彼には「ベリンモン」と呼ばれる鉱物の生命体が「重なって」 しまったのだ。そのベリンモンは、精神感応で音楽を鳴らす楽器である。 やがて不安ながらもアベルは日常生活へ戻る。アベルの変わりようはかつての彼を 知る者にはショックの連続・・・ ある日、その楽器を探して有亜人という男が音楽の先生としてやって来る。 アリアド(と読む)はアベルを刺激し、彼の中の「ベリンモン」を呼び覚まそうと する。アリアドはベリン結晶を破壊してしまい、その精神体が丁度意識を失った アベルの身体にとりついたというのだった。ベリンモンの持ち出しは厳しく規制 されており、アリアドは自分と共鳴するベリン結晶を見つけたものの、それを証明 できず、無断で持ち出したという弱みがあり、それを追って保安部のニキが・・。 さらに、何故アリアドがベリンモン(アベル)と完全に共鳴できないか、の 悲しい謎が明らかにされ、(このくだりが素晴らしい。流石は萩尾望都。SFってのは コレよ!!)果たしてそのトラウマを取り去ってアリアドはアベルと共鳴出来るか。 常に主要な物語を離れそうな展開の不安定さにフラフラと読みすすみ、気が付けば 萩尾SFオペラの美しく壮大な世界へと引き込まれていく・・・・ 「センス・オブ・ワンダーの秘密」は「起・承・転・外」だそうだが、全くそう。 とにかく、1、2巻の静かな盛り上がりと、3巻のSFな展開に、SF者の血は 沸き立つのでした。いやー、良かった。これで300円(古本)とはね。 やっぱり萩尾望都、とくに萩尾望都のSF、は良いね。思わぬ発見でした。 本当は多分有名で、みんな読んでるんだろうけどね。 僕「あすか」は読んでないから・・ うーん。久々に面白かった。何より本当に絵が綺麗。線が綺麗。表情が良い。 プロの漫画だ。絵ヒトコマとっても全く気が抜けない・・・ やっぱり凄いね。ハギオモトは。 萩尾作品を読んだ事がない人はいないと思いますけど、もし、読んでないなら せめて「11人いる!」だけは読んでみて。 古典にして永遠の傑作。本当に泣ける。SFとしてみても素晴らしい。 何度でも泣ける私。あー・・・ 価値観が多様なマンガの中で、数少ない、迷わず他人に勧められる作品です。 @@@@@@@@@@@@@@@@ [JUN] @@@@@@@@@@@@@@@@
萩尾望都「萩尾望都作品集・2 塔のある家」小学館/1977 すまんす。 実はこの「作品集」そろえてないです。 とりあえず古本屋で「萩尾望都を適当に見繕ってくれ」と言ったら これが出てきたの。 「キロ500円でどや?」「だんな〜これは萩尾望都でっせ?マルペやあるまいし」 という会話が有ったかどうかは定かではない。 で、感想。 「モードリン」/1969 あっ、これは読んだ事あるわ。漫画文庫に入ってたのでは。 一人前の大人として扱って欲しかった少女は、ある秘密を持つことで満足するが・・ まとまりの良い短編。 「かたっぽのふるぐつ」/1970 凄いぞ。「公害」テーマの漫画。こんなん有ったのか。 そういう時代も有った。 学校では演劇が指導として行われていたし、空は公害で黒かった・・・ だがここに有るのは今やノスタルジィと寒々と冷えた研ぎ澄まされた感性だけ。 当時だとまだリアルだったか。ただ今は懐かしい。 懐かしくて泣ける・・・ボリス・ヴィアンな感じ。 ヒロイン格のヨーコさんがメガネで長髪で押さえている。美しい。 「ジェニファの恋のお相手は」/1971 ガリ勉で色気の無い(実はかわいいんだけど)の孫を気遣う祖母。 その祖母を死神か迎えに来る・・あと13日の余命だという。 その13日を、孫娘と入れ替わってみたいと望み、それはかなえられた! 入れ替わりモノの基本パターン。 これぞ「少女漫画(古典的な)」のノリ。楽しくて良い。 もちろん技術は当時から超一流だ・・本当に「漫画」という表現技法を 使いこなしている・・今の絵コンテだか漫画だか解らないのとはえらい違いだ。 「塔のある家」/1971 ファンタジーだが、まとまりを欠く。 短編にしては詰め込まれ過ぎた時・・・・ 物語が先行していて、漫画としてはいまひとつ。勿論物語る能力は素晴らしいが。 ブラッドベリの「みずうみ」を思い出す。 「花嫁をひろった男」/1971 冒頭、体重計に乗り、コインを入れると体重と運勢を印刷された紙が出てくる。 それを見てつぶやく主人公・・・SFじゃん!いやまあ実在した機械かもしれんけど そういうんじやなくて、ソレを冒頭に持ってくるあたりが、さ。 軽いノリの楽しい短編。 「かわいそうなママ」/1971 重いストーリーと美しい画面。 死んだ母親の事を息子が語る・・・ パターンだが様式美か。 人を愛しても愛しても、離れてしまえば体温の近い男を選んでしまうのは 女の性か・・・ 美しいが頭の弱そうな、愛されなければ生きていけない様なママの姿が秀逸。 「小夜の縫うゆかた」/1971 これも読んだ事が有る。 名作だ。読んで泣け。 美しくて、懐かしくて、1970年代だ、泣ける。 会話のひとつひとつが繊細で、ナマナマしくて、凄い・・ てなところで。 @@@@@@@@@@@@@@@@ [JUN] @@@@@@@@@@@@@@@@
萩尾望都「銀の三角」白泉社文庫/1994 以前SFMで連載(80〜82)されていて、ハードカバーで出たけど 死ぬほど高くて買えなかったのが、文庫で出たので買いやすくなったのね。 でも古本屋で買った。すまん。 ごっつい難解。 連載で読んでた・・というか古本屋で買ったSFMで読んだ時は 「解ってる積もり」だったんですが。 通して読んだら全然難しいじゃんか。 5回読んでどうにか構造が解った・・・ 脳の構造が組み変わった様な感動を覚える。センスオブワンダーだぜ。 しかし・・・ まだ実は全然解ってないのたも知れない・・・ まだしも「百億の昼と千億の夜」がわかりやすい・・・ それはそれとして。 ラグトーリンの美しさよ。 絵は既に完成していて、「これ以上」は神の領域だと思う。いや本当。 このタイプの絵では最高峰。これ以上、という事になると壊れかねない。 深い感動を得たけれど、言葉で表すのは難しい。 機会が有れば是非、読んでみてください。ただし3回以上。 @@@@@@@@@@@@@@@@ [JUN] @@@@@@@@@@@@@@@@
萩尾望都「完全犯罪 フェアリー」小学館/1988 甲斐バンドの曲をBGMにミュージカルを!という 実験的と言えばあまりにも実験的な作品。 まず甲斐バンドのアルバムを持ってないと楽しめないのでは、という。 だがそれは違うぞ。 そもそも詞のイメージが凄いので、マンガの中に入っていても十分効果を上げているし 萩尾望都の入れ込みからか、コマと詞がセッションして実にリズム感が有る。 内容はミステリ。サスペンス・ドラマ。 美しく、きらびやかで繊細な都会の「芸能界」。 そこを舞台に繰り広げられるドラマ・・・ 萩尾望都風味が良くて好きな人にはおすすめ・・・ってもう皆さん読んでるわね。 せんに「海のアリア」読んでからなんとなくハマってしまって、 最近の作品を読んでます。 どの作品もマンガとしての完成度は高く、それでいてマンネリには陥らず、常に 変わり続ける作者・・・理想的ですね。 @@@@@@@@@@@@@@@@ [JUN] @@@@@@@@@@@@@@@@
萩尾望都「残酷な神が支配する」小学館/1993− とりあえず3巻まで入手。 読んでみて吐きそうになった。なんだこれは・・・! すさまじい嘔吐感におそわれる。 ホモが出てくるマンガだ。それだけ。もうよう書かん。 だけど凄いぞ。続きは読んでみたいが。 でも完結したら二度と読めない・・・ @@@@@@@@@@@@@@@@ [JUN] @@@@@@@@@@@@@@@@
萩尾望都「感謝知らずの男」小学館/1992 ダンサーのレヴィは不眠症に悩まされていた・・・ 生命力や人間関係、そういうものに不安を感じるナイーヴな青年の心理を描く・・ ダンスをするキャラクター達の身体のラインを描くことに喜びを覚えている様だ。 美しい。 デッサンに関しては崩れる、という所から最も遠い漫画家である氏だけど、この作品 ではダンス、という人間の身体構造の限界みたいな動きとそれに伴う美しさを表現 する事に命をかけている感じがする・・・ 内容は前半と後半でかなり雰囲気は違う。 前半のロンドン、後半のパリ、友と出会って、友と別れ・・・ 後半は実はかなり尻切れ感があって不満足なんですけど、どうでしょうか? ちょっと萩尾望都読みすぎて食傷気味の @@@@@@@@@@@@@@@@ [JUN] @@@@@@@@@@@@@@@@
萩尾望都「萩尾望都作品集17 A−A’」小学館/1984 個人的な萩尾望都ブームも随分落ちつきまして、なんとなくダレてましたが 偶然古本屋で見つけたので、買って読む。 うーん・・・ 僕が感じる萩尾望都のすごさってのは、長編の構成の見事さに、なんですが これは、あんまりにも切り取り過ぎで思い入れがし難いです。 やっぱり書き下ろしみたいな形での長編が望ましい・・・ 勿論短編だとしてそれはそれで凄いのだけどさ。 表題作の 「A−A’」 はクローンものの秀作。クローンの悲しみ、 というのはもう何十年と描かれてきたものだけに、どうしても「似た」展開は 避けられない。ここでそのテーマを萩尾望都色で描くとこうなる、という例。 ところで、冒頭ムンゼルでの事故、アディが流動氷に呑まれるシーンを観てワタシは 谷甲州「惑星CB−8越冬隊」(稀代の傑作。最近やっと再刊されたので是非一読を) を思い出した。読んだこと有る人は絶対思い出すと思う。 あれもゼリー状の氷にのまれちゃうんですが・・・ ま、それは余談。 世界設定に酔う方なので、気に入りました。良いですよ。 「4/4<カトルカース>」まるで、というか「マージナル」を彷彿とさせる話。 一角獣種のトリルの造形は素晴らしい。非常に美しい眼が印象深い。 哀しさも喪失までの時間経過とページ数の薄さでちょっと・・単に思い入れの差? でも初読の印象が重要だと思うワタシとしては・・・ファンの人、すまんす。 内容はともかく、世界観がアシモフ寄り・・・ファウンデーションな感じ。好き・・ 「X+Y」 これこそ「マージナル」だな。 性転換の薬ってのはアレだけど(短期間での性器とかの変形は怪しいでしょ)、 ナマナマしいなぁ。オトコでも女でもない、むしろ女に近い・・・ 同じ様な性徴以前、にしたってフロルは・・ (どうせかつては11人いる!に狂ったクチよ) しかし、最近特に少女漫画にSF作品が多いとはいえ、ここまでちゃんとSF、と 断言出来そうな作品は少ないよね。 SFは「何でもあり」だけじゃないんだぜ。まぁそれだけでもいいけどさ。 考証やなんかより、「SFマインド」がいかに有るか。 それがこの作者には有るですね。 んじゃまた。 @@@@@@@@@@@@@@@@ [JUN] @@@@@@@@@@@@@@@@
萩尾望都「萩尾望都作品集8 訪問者」小学館/1985 何となく買う。 表題作 「訪問者」も素晴らしかったけれど、「いつもの」パターンと フェードアウトなラストはちょっと頂けないかも知れない。 「城」は説教臭い内容が、しかし好ましくて、 サイズからいってもきちんと収まっているのが良いですね。 「偽王」には 胸を打たれました。この「物語」そのものに畏怖の念さえ抱くというか。 根元的な「物語」観を賦活させられる程のこの力。 これだけ、これだけの内容を描くのに、どれだけ我々は苦労するものでしょう。 類型を挙げればキリはないですが、それはあまりにも多くの物語に触れて 麻痺してしまった貧しい感覚故・・・ 僕の貧しすぎる語彙では感動の幾分も再現出来ませんが、 機会が有れば是非一度お読みください。 稲垣足穂のバブルクンドもかくやという美しくも強烈な物語が有ります。 「花と光の中」は、ブラッドベリの「みずうみ」の変形と言って 差し支えは無いと思われますが、如何。 別の形で描かれた「少女の記憶」。 それだけに、少女の造形には細心の注意がはらわれていますが ああしかしそれは嘗てブラッドベリを漫画化した際 「みずうみ」で使ったほほえみではなかったかしら。 んじゃまた。 @@@@@@@@@@@@@@@@ [JUN] @@@@@@@@@@@@@@@@
萩尾望都「萩尾望都作品集5 3月ウサギが集団で」小学館/1977 収録された作品順に 「ごめんあそばせ!」/1972/1 タイトルに「チャームなプレイガールにひっかきまわされた        グループサウンズのおそまつな話」 とある。GSというのは如何にも時代だが(24年前!)、つまりはそうゆう話。 非常に出来は良い。時代を感じさせない「日本ではないどこか(ナントカ州)」と いうのが、今もその機能を発揮している。 「チャームなプレイガール」エマ・ディズニーの造形は魅力的で表情も豊か。 「毛糸玉にじゃれないで」/1971/12 傑作。 舞台は日本。 高校受験に悩む小川さんが主人公。 たとえこれが25年前の作品(!!)であっても、現状の「受験」が 有り続ける限り後十数年はそのまま読まれて良い作品だと思う。 少女の受験に対する心の揺らぎ、恋心、「あたしのやりたいことって何?」 彼女の家は当然今から25年前の日本である。懐かしい! 日本人だなぁ・・・と思う。 縁側のある家、割烹着を着た母・・・ 木造の学校、木枠にはめたガラス・・ そして本棚にはSFだ。 星君(憧れれの彼)だって「アルジャーノンを原語で・・なんて言っている。 時代だったんだね。 最後のページに流れる空気の清冽さ!その透明感。 それを支える画力。最後のページの主人公の表情はどれも見事で息を飲む。 少女漫画の絵ってのはいろいろな方向へ進化を続けているものの、 基本的な線ではこの作者を越えないのではないだろうか。 「3月ウサギが集団で」/1972/1 表題作。 タイトル通りの3月ウサギな内容。 こういう勢いのある漫画も上手い。上手かった、と言うべきか。 「もうひとつの恋」/1971/8 氏の作品ではたまに見られる双子ネタ。 結婚式前日に死んでしまう姉。 実は死神の勘違いであった・・・という。 ちょっと作品内で完結してしまっている感有り。 この手のネタでは坂田靖子の「死神の来た夜」(「水の森綺譚T」収録) が秀逸で良いです。 オススメ。 「妖精の子もり」/1972/3 これも似たモチーフを何度か読んだことがある。 親が再婚する相手の息子を秘密で覗きに来る・・・ ページ数が少なく、ちょっと駆け足・・ 初夏の明るい日差しが素晴らしい。 「10月の少女たち」/1971/8 言わずと知れた傑作。 だからあえて描かず。いいじゃん。 「みつくにの娘」/1971/11 日本昔話的民話的世界。 これもいろんな作品集単行本に収録されていて何度読んだことか。 いい話だが、ありがちなモチーフでページ数も弱い。 少女の華麗さもちょっと弱いか。 「ラブ ポエム」 書き下ろし? 何にしてもハギオモトである。矢張り凄い、としか言いようがない。 例によって古本屋で適当に買ったんだけど、(まとめて買うのは恐い。) 絶対はずれない・・・ 特に「毛糸玉に・・」には感銘を受けた。 心にコード変換されないでそのまま流れ込んでくる様な・・・ マイッタ。 やっぱ「漫画」って凄いよね。 ではまた。 @@@@@@@@@@@@@@@@ [JUN] @@@@@@@@@@@@@@@@
萩尾望都「萩尾望都作品集17 アメリカン・パイ」小学館/1977 収録された作品順に 「アロイス」/1975/6 以前これがタイトルされた単行本ありましたね。 買って読んでました。 多重人格もの。 最近では珍しくもないが・・・ 結末は全く「それらしい」もので、少々不満も残る。 「アメリカン・パイ」/1976/1 古い古い歌が/昔−昔つくられた古い歌が・・/だれが歌ってたのかわからない古い 歌が・・/それをつくった人の名も/歌った人のことも/なにもかも/忘れられ消え ても/・・・その歌は残っているように/・・・いく世代すぎても/・・・歌は/思 いとともに/時をこえて歌いつがれて/そこに残っているように/そんなふうに/時 のおわらない限り/生命の消えぬ限り/いやもし・・・/すべてがおわり消えても・ ・・/想いだけは残るのだ 傑作。 死の病に犯された少女は、家出してあてどもなく彷徨う。 解説の斎藤次郎の言う 「彼らはリュシュエンヌの背負った荷の重さを知っていました。彼らといっしょに くらしていると、時はとまってしまうのです。だからリュシュエンヌはリューに変身 して、流れる時の帯の上に「いま」を刻もうと志したのでした。」(P236) マイアミにたどり着いた彼女をバンドマンのグラン・パが拾う。 現実から遊離した状態の彼女の精神、その風体を見事に描いている。 作者の音楽やダンスに対する嗜好は既に決定されていたのだろうが、 歌う、という事に対してここまで語った漫画家も少ないのではないだろうか。 「海のアリア」にしてもそうだったし・・・ 勿論というか、この作品は「死」について正面から渡り合う内容で、あらためて メメン党のモリさん((C)筒井康隆)という気分では有る。 「−時が動いていくのが目に見えるようだった−  そうしてオレたちの人生はゆきすぎうずもれていくのだが  そのゆく道のはたに残るものはなんだろう?  ・・・・そうして  やがてすべては失われてしまうのだ・・・」(P162) 全体のトーンが暗めであるのに対し、場所がマイアミという明るさが どうにかつなぎとめている・・・ 良い作品です。 「白い鳥になった少女」/不明 原典は童話かなんかね。 それらしい絵柄が合っていて良いです。 これも以前どこかで読んだなぁ・・・ 「赤っ毛のいとこ」/1976/8 コミカルなんだけど なりきってないあたり・・ 今一つ「起承転結」を欠く。 ノリはいいのよ。いかにも「モトちゃん」的。 さて。 矢張り「アメリカン・パイ」に尽きますね。 これは凄い。 改めて漫画の表現能力には限界がないと感じさせられる・・ ではまた。 @@@@@@@@@@@@@@@@ [JUN] @@@@@@@@@@@@@@@@
萩尾望都「萩尾望都作品集9 半神」小学館/1985/3/20 表題作は、ある意味「そのまま」なので、いまいち・・・ いや、いいんですが・・・ しかし、この巻は特に作者のSF趣味がよく出ていて、好きだ。 全編SF或いはそれに類する作品である。 中編「ハーバル・ビューティー」は、作者の得意とする 男でも女でもない、でも本当は女、といったキャラクターが登場する。 ・・・いや、流石にフロルとはいかないけどね・・・ しかし何より傑作!と手を打ったのが、「マリーン」(別冊セブンティーン1977/5) で、これがもうカジシンばりの叙情時間SFなのだ。 ドラマとしての作りも美しいが、何より時間テーマ作品特有の 「せつなさ」を見事に表している。 しかしあまりに「時尼」だと思うのは僕だけか?いや、 後先で言うと、カジシンの方が後なのだが・・・ ううむ・・・ ではまた。 @@@@@@@@@@@@@@@@ [JUN] @@@@@@@@@@@@@@@@
萩尾望都「萩尾望都作品集 5 ばらの花びん」/小学館/1985/10/20 中編「ばらの花びん(前・後編)」と「ゴールデンライラック」を収録。 表題作の方は、オチがいかにも、でまぁ楽しかったのですが、短編ものにある様な、 物語の濃厚さはむしろ薄い様で、スラプスティックなノリが主眼なのでしょうが、 どうも今一つノリきれないです。 最近の氏の作品はなべてそういう感じもします。それもまた好し、ではありますが。 ただ、絵は近作のとも初期のとも少し違った味わいがあって良いかも。 勿論超絶的に美しいのは言うまでもないです(重複)。 「ゴールデンライラック」は、ロンドンを舞台に、第一次大戦、飛行機野郎などを はさんだ(チボーですね)数十年という時間を密度高く漫画の中に閉じこめた傑作。 こういうのは流石、萩尾望都だなぁ感じがします。 これだけで真に一本の映画になりうる密度の高さ。 そこそこに格調高く、ドラマがあり、なによりも長い時間の流れがある。見事。 物語類型ではあるかもしれませんが、とにかく読ませるそのペン先の吸引力・・ こう完成されていると、もう何を書いていいやら・・・ そういえば先のBSの漫画論の奴で、岡田氏が「何年も前に、ハタチやそこらの 女の子が描いたドラマに、今更ながら感心してしまう。あの頃も面白かったが、 今読むとさらに新しい発見があって凄い」という様な事を言ってオラレタましたが、 全くその様な感じがします。 萩尾作品もまだまだ全く読みが足りないワタシですが、また気が向いたときに ゆっくりと読んでいく積もりです。 ではまた。 @@@@@@@@@@@@@@@@ [JUN] @@@@@@@@@@@@@@@@
萩尾望都「萩尾望都作品集 15 この娘うります!」/小学館/1977/6/20 表題作は200ページに及ぶ長編。 表紙のレヴュー姿の登場人物達を見ても解るように、実にもう賑やかで 「これぞ黄金期少女マンガ」という楽しさに満ちています。 起伏に富んだ展開、密度の高い時間、美麗な線、美しいキャラ、夢のような空間、 饒舌なコマ・・・1975年というから21年前か。全く・・・ が、この巻では実はその表題作よりも、 「ミーア」(1972)という25ページの短編が個人的お気に入りなのだわ。  男の子の名前を付けられてしまった少女が、サマーキャンプで男の子の組に 入れられてしまい、逃げだそうにも途中で帰る旅費も無い。 でもどうにか男の子のふりをして、少年達と楽しく過ごすのだが、正体がばれて しまって・・という、まぁ向こうモノにはありがちな話ではある。 でもだけど。この作者のペン先が生み出す「サマーキャンプ」の空気の凄さ、 十代半ばの少年少女の、手を離すと弾けとんでしまいそうな勢いに、最後の あっさりしたオチ、等々、もうなんかいたく気に入ってしまったのです。 まだアメリカのTVドラマが日本のTVでも幅をきかせていた時代の最後の生き残り 世代のワタシとしては、なんとも懐かしく(懐かしさ、が味付けをしている事を 否定はしない)楽しい作品なのでした。 でもサマーキャンプと言えばやっぱりPEANUTSだよな・・・の @@@@@@@@@@@@@@@@ [JUN] @@@@@@@@@@@@@@@@

白炭屋カウンターへ

本棚・メインへ inserted by FC2 system