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田中芳樹


田中芳樹「カルパチア綺想曲」/光文社/1994/03/25

大学生の頃古本屋で買ったまま寝かせていた一冊。寝かせすぎ。
正月に実家に帰った折、旅の友にと持って帰ってきたのを漸く読了。

19世紀末、具体的には1898年、舞台はロンドン、ブダペスト、カルパチア山脈。
主人公のジョーは駆け出しの新聞記者で、実は女子……とかそんな設定は実は
どうでもいい。この作品の主人公はジョーの父たるジェラード・アッテンボロー
元自由党下院議員。この人のパワーだけで物語が持って行かれる感じ。

このジェラード元議員が登場した瞬間から、このキャラの脳内映像が夢幻狂四郎
(夢幻紳士こと夢幻魔実也の親父。大魔神の格好してる)に固定されてしまって、
とうとう最後までそれだった。いやもう。なんかね。ぶわっはっはと。
再版するならイラストは是非高橋葉介氏にお願いしたい。

最後まですらっと読めて、読後特に何か心に残るような作品でもないけど
(いや、正直なところ、そういう感想)、なんかちょっとした街の風景とか
雰囲気とかがよく描き込まれていて、読んでいる間は何だか旅行してたみたいな
気分で、気分転換にはいい小説だった。いや、小説ってそれでいいんじゃないか。

ペミカンとやらを作って食べてみたくなった
@@@@@@@@@@@@@@@@ [JUN] @@@@@@@@@@@@@@@@
(2006/02/10)

田中芳樹「創竜伝 13<噴火列島>」/角川書店/2003/06/06 忘れた頃にやってくる田中芳樹のシリーズ新刊。 発売が予告より2年位遅れたのはまあいつものことで。 それだけ待っても作品世界での経過時間はたった半日という。恐ろしいな…… いやしかし面白い。面白いよー。 なんつーか、もう小説なんだか愚痴なんだかわかんないけど。 ひたすら「社会時評」で埋め尽くされた内容に、ワクワクしてしまう。 いや、もう(僕は)これで良いんですよ。てゆーか、「創竜伝」といえばもう これ、みたいな。もうね。 「うるさいわね。世界の正義と自由を守るアメリカ軍に、これ以上さからったら、  悪の枢軸とみなして無差別爆撃してやるわよ。第一、正体を明かして、証人を  生かして帰すと思ってるの!?大米帝国万歳!」(p106) 「それは異とするにたりませんな。アメリカ政府は、キリスト教徒ではない。  キリスト教徒なら、右の頬を打たれたとき、左の頬を出すはずです」(p111) ……巻末の参考資料一覧なんかたまらんよ。曰く  「アメリカこきおろ史」  「だからアメリカは嫌われる」  「イラク戦争」  「イラク攻撃を中止すべき10の理由」  「だれがサダムを育てたか」  「アメリカと独裁政権」  「アメリカよ、奢るなかれ」  「アメリカの国家犯罪全書」  …… まあ、全編そういう内容な訳ですよ。これがねえ、なんつーか、大衆的な視点で スカッと切り捨ててて、ホント気持ちいい。こう、言葉が一々わかりやすくて、 スポスポと心に入っていく。娯楽ってのはこーでなきゃねえ。 物語の方も、わりと大きな展開を迎えた、様な気がする。 富士山の大噴火で降灰の中にある関東。どさくさで新首相の座に着いた男とその黒幕、 或いは富士山の降灰の中を歩き回る謎のアメリカ軍や、日本の「その後」を算段してる 国々などがそれぞれの思惑で動き回っている。 京都では、自らを征夷大将軍に任じ、「京都幕府」を立ち上げる怪女あり、そして また悪運尽きずに京都幕府に身を寄せた前首相……と風呂に入る竜堂兄弟。彼等への 牛種のちょっかいは続くが、京都に征夷大将軍ある限り、なんかもう何も恐いモノは 無いって感じだ。くわばらくわばら。 キャラの魅力、存在感、その説得力は、ヤッパリその辺田中芳樹だなあと思う。 いや、小早川奈津子の魅力だよなーこの巻は。なんかもーいよいよ良い感じに。 初期の雰囲気のファンには申し訳ないけど、僕はもうこのゆるーく、ご都合主義に 筆の赴くままに展開する最近の「創竜伝」が好きなんですよ。床屋政談っていうん ですかね、そういうの。 「国をあげての幻想から解放され、適当なところで落ち着いて、平和な小国と  して生きていけるなら、政府が幕府に変わってもべつにかまわんよなあ」(p126) とか、まあそんな事を言いながら、現日本国政府に敢然と(いやがらせの為に) 立ち上がる京都幕府の明日はどっちだ。日本の夜明けは近いぞよ。 @@@@@@@@@@@@@@@@ [JUN] @@@@@@@@@@@@@@@@ (03/10/29)
田中芳樹「春の魔術」/講談社/2002/09/18 「夏の魔術」(1988)「窓辺には夜の歌」(1990)「白い迷宮」(1994)ときて、 とうとう完結編。 田中芳樹の「完結編」なんてもう一生読めないんじゃないかとか思ってた人には 朗報と言えよう。この人は(書けるなら)ちゃんと完結編を書く人なのだ。多分。 とは、いえ。何だろうねえ。この薄さ。 元々伝奇もの故の独特の「狭さ」は有ったんだけど、今回はもう、過去の作品の 魅力におんぶにだっこ、というか、もうナニ、竜頭蛇尾?蛇足ってやつ? そこまでいうか。言うよそりゃ。だって来夢が中学生に!そんな事がこの世に あってたまるか!(結局そこか)ああ、僕には見えるよ。どんどん成長していく 来夢に、彼女が美しく成長すればするほど興味を失っていくコーヘイ兄ちゃんの 姿が、いや、田中芳樹先生の姿が!いや、ホント、(この作品の中では)たった 数ヶ月前の事だというのに、ああ、あの来夢はどこへ行ってしまったのか! いや、そりゃキュロットから伸びたタイツ(に対する簡潔にして強力な描写)には 萌えたよ!萌えたけどさ!バン!(机を叩く音)違うんだよ!そこだけじゃなくて! 違う、そうじゃないんだよ……(最後は涙声) とかいう与太は置いといて。 でもホント「夏」の頃は、もっと熱く語れたものだったがなあ(遠い目) 既に二十歳は過ぎていた男共が深夜のボックスで来夢の素晴らしさについて 語り合った事もあったげな。 シリーズ完結、という謳い文句に嘘はない。 完結するからには、今までの不幸な人達や、その他シリーズの「ヒキ」に使った 伏線(ラスボスとか)を拾い集めておかないと気が済まない、という感じ。 かなり義務的というか、残務処理やりました、という。 そんな残務処理感溢れる最終巻を読んで、まあホッとしこそはすれ、うーん、 何なんだこれは、みたいな。終わりよければ、とも言うけど、終わりがダメだと 全部ダメになることもある。まーこれはそこまでは行ってないけど。 シリーズものの最終巻、というには、あまりにテンションが(他の巻と比べても) 低すぎた。もう主人公達が場慣れしてるのと、超能力持っちゃったりしてるのとで 緊迫感が全然無いし。降りかかる火の粉をぱっぱと払っただけ、みたいなレベル。 社会の理不尽に対する田中節もあんまり聞けなかったし。この辺は次の創竜に期待 するか……うーん。まあ、この作者の作品で、ラストに向かって盛り上がる、 っていうのは実は有り得ない展開なのかも。ラストは尻すぼみ、という。 アンチハリウッドというか…… ただ、ふくやまけいこの表紙の来夢及び亜弓さんの魅力だけが。 いや、でも、どんな状態であれ、オトシマエをちゃんと付けるのが「当たり前」 だと、そういう事を考えられる作家なんだなあと。嫌味じゃなく。 シリーズを読んできた人は、まあ、最後だと思って是非。 @@@@@@@@@@@@@@@@ [JUN] @@@@@@@@@@@@@@@@ (2002/10/15)
田中芳樹「創竜伝 12<竜王風雲録>」/角川書店/2000/08/17 忘れた頃にやってくる田中芳樹のシリーズ新刊。 彼等竜王達と牛鬼の因縁を軸に宋代の中国を鮮やかに描いてみせる。 面白い。 何でこんなに出るのが遅いのか、とか、いつまで外伝やってんだもう21世紀だぞ とかぶつけたい鬱憤は無いでは無いのだけれど・・・ 面白いんだもんなあ。しょうがない。 兎に角この作者の登場人物達に対する愛の深いこと深いこと。 もう溺愛と言っても良い位。三男四男あたりの描写の何とも言えない朗らかさ。 六仙の愛らしさ。兄弟が互いの悪口を言い合う様さえ愛がある。 p59で長兄を評す段なんかもー。 物語は長兄(青竜王)を捜しに白竜王が人界に降り、宋代の中国をさまよう・・・ んだけど、その辺はまあ軸であって身ではないというか。メインは結局宋代の 「人界」の描写にあるのであって。最強の宦官秦翰や鉄鞭の呼延賛etcのヒーロー達。 或いは太子太保趙普の「冷静で剛毅な態度」の描写。そして何より中秋の名月を前に した「街」の空気のきらびやかな事。メシのうまそうなこと! 「あたりまえだ。後世のように国民総生産でいうと、宋は世界の五十パーセントを  しめていたんだからな」(p100) この辺から始まる巨大都市開封の観光シーンこそはこの作品の眼目と言える。 ラストの大がかりな戦闘シーンも実に「絵」になっていて良かった。最後まで末弟に 気をつかってやるあの心配りの深さ。ああもうああもう(おすぎ/ピーコ調に)!! てな感じ。 巻末、なっちゃんの気配も匂わせつつ。さて次はいつになるのやら・・・・ @@@@@@@@@@@@@@@@ [JUN] @@@@@@@@@@@@@@@@ (00/10/31)
田中芳樹「中国武将列伝 上」/中央公論社/1996/11/15 「中国武将列伝 下」/中央公論社/1996/12/20 タイトル通りの内容。田中芳樹が独断と偏見で選ぶ中国名将100選。 99人だけど。近代を除き、また帝位についた人間も除いて、 あくまで中国にとっての名将、を講演調(ちょっとくどい)に並べ語る。 まぁそれなりに面白かった。 ただ、名将、というのは至極真面目で人徳がある場合が多いので 人としての面白みが薄いというか・・・・ 僕が期待する「猛将」というのとはまた違ってて。 ・以下気に入った武将を少し。 一番最初の「私撰中国歴代名将百人」の中で可成りの行数を持って語られた 「王玄作(おうげんさく)」がやっぱり格好いい。 西暦六四七年、唐の太宗皇帝より命を受けてインドのマガダ国の シーラーディティヤ王訪問に旅立った彼だが、苦労してたどり着いてみると王は死去、 アルジュナという人物が王位を簒奪しており、王玄策一行は牢獄へ放り込まれて しまった。だが王玄策は脱出し、中国へ帰ればいいものをそのままインドを北上。 ヒンドゥスタン平原を越えてネパールまで行き、アムシュヴァルマン王に談判して 七千騎のネパール騎兵を借り受ける。で、マガダ国にとって返して3万(象部隊含む) の簒奪者アルジュナ軍を倒し、マガダ国を平和に導いてから唐に帰っていく・・ 帰ってしまうのだ!征服とかしない。損害賠償とか要求しない。 流石中国武人。で、中国に帰ってきても、別に出世するわけでもなくて、 「インドに行って来たか、御苦労」で終わってしまったという。 然し中国武将がネパール騎兵を率いてヒマラヤ山脈を背にヒンドゥスタン高原を 疾駆する絵なんてちょっと浮かばない。誰か映画にしないものか、と田中先生。 まぁ実際他の領土を征服しないのは中国の伝統で(侵略とかすると直ぐに 財政破綻したり内乱が起こったりして、後で「涜武」とか言われてしまう。)、 自分の土地(長城より南、ベトナム以北)が侵略されたときは命懸けで戦うけど、 基本的に他の領土を侵略とかはまず考えない。 朝鮮半島は中国の領土だと思っているので何度も手を出すが、 日本には攻めてこない(世界帝国を築いた元はその辺「中国」とは全く違う・・・ 日本にも攻めてきたし。)。そう言う発想で行くと、モンゴル自治区の独立は 遠いかもな・・・・だって彼処は古来の中国領土なんだし。 有名どころだと鄭和とか(1371〜1434。明の宦官)も。二万数千人の乗った 数百隻の船を率いてアフリカまで行っちゃうその統率力は並の者ではない・・・ 何か最近ではオーストラリアを発見したんじゃないかなんて言われているらしい。 でも別に行ったからって征服する訳じゃ無いんだよな・・・朝貢貿易するだけ。 で、やっぱり外側にあんまり興味のない中国は、鄭和が死んだら その航海技術書も航海記録も全部焼いてしまうのだった。海外遠征なんて 「無駄な出費」だと思ったんだろうな。後のヨーロッパ人みたく 植民地とか作って現地人搾取したら金になったんだろうけど、それをしないから。 「この焼いた人の名は、もう、千年後まで伝えましょう。劉大夏という男です。」 (P163)。まぁ遠征を止めるのはイカンとは言わない、が焼くのは勘弁ならん、と 田中先生お怒りである。 「劉大夏のやったことは人類史的にやっぱり許せないことだと思います。」(P165) 中国の経済哲学は倹約の美学なので、兎に角「無駄な出費」を許さない。 儒教的。日本人も省エネとか好きだしな・・・侵略戦争なんて何でやったんだか。 さて、然し今の中国はどうなんですかね・・・華僑とか居るし・・・ 他にも紀元前五五年、中国武将陳湯V.S.謎の重装歩兵軍団とか。これも面白い。 同年ローマの執政官クラッススが行った東方遠征で、パルティア軍と戦った ローマ軍は潰滅、クラッススも殺された。その時6千人が包囲を突破して 逃げ延びたのだが、彼等はローマには帰っていない。 恐らく彼等はパルティアに追われて東へ東へと逃げ延びた後、 匈奴の傭兵となっていたのではないか−という。うーん、燃える。 軽装騎兵で知られる匈奴の軍団の中に、いきなり金髪碧眼の重奏歩兵がいたら やっぱ吃驚するよな・・・ 荀灌(じゅんかん:荀ケ(じゅんいく:曹操の軍師)の6代目の子孫。当時13歳) という少女が東晋成立期の混乱で自分の居る城が落城しそうになったときに わずかな兵士と共に助けを求めに行く(然も2カ所から連れてくる。)とかいう話も 良い。こういう「武将」じゃない人の話も結構挿入されているので、登場人物だけなら 400人は居そう。 あ、あと高校世界史の中でどうしても忘れることの出来なかったのが 「韋叡(いえい)」(442〜520)。南朝梁の老将。名前がイカス。イエイ。 生涯を戦場で過ごしながら、甲冑をまとわず、馬に乗らず、 儒学者の格好のまま木星の輿に乗って竹の杖で全軍を指揮したという。 赤壁と並ぶ著名な戦い「鍾離の戦い」でこのイエイに対するのが 北魏の猛将楊大眼(&潘氏のラブラブペア)。この楊というのがまた 南北朝時代最強の武人らしくて、頭に三尺の布を縛り付けて走っても 布が地面につかないと言う身体能力の高さ。イカス。その恐ろしさは 泣く子を黙らせるのに「楊大眼至る」と威したと言われる程。 北魏50万対梁20万。まぁ最後は北魏が敗退するのだけれど、 智将猛将入り乱れるこの「鍾離の戦い」はかなり面白そうなので いずれまとめて読んでみたい・・・翻訳されてれば、の話・・・・ 田中芳樹は作中、如何に日本で読まれている中国古典が偏っているか、を何度も語る。 三国志ばかりが読まれ過ぎていて−楊家将演義(前にBSでTVドラマやってた?)とか もっと知られるべきだ!と。中国では三国志よりもっとメジャーなドラマは 沢山有るらしい。特に宋の時代にはドラマのネタになるようなヒーロー/ヒロインが 続出している。穆桂英とか。文天祥とか(田中先生はどうもこの文天祥がお いたく気に入りらしく(確かにエライ人ではある)、なかなか凡人にああは出来ない、 と何度も言っておられる。) で、中国古典がまだまだ日本に浸透していないと嘆き、せめて中国正史二十五史位は− 「文部省あたりが国家事業としてやるしかないでしょうが、まずありえませんね。  不良金融機関を救済する資金の百分の一でいいんですけど、日本はほんとうに  文化にはお金を出さない国ですからねえ。」(下・p121) 等と思わず創竜伝臭い田中節が炸裂してしまう程。 まだまだ中国歴史古典と言えば三国志しか知られていない、というのが実状。 僕も知らない・・・ 田中先生に言わせれば、「日本の作家達はこんなにオイシイモトネタの宝庫を なぜ放っておくのか」という。成る程な小説家の視点。 ・・・うーん、確かに中国古典は物語の宝庫だろう・・・ 田中先生の今後の作品ではこの「中国武将もの」が大きな位置を占めてくることは 間違いなさそうであり、本人もそれ(古典の紹介)が天命だと思っている節がある。 まぁ、田中先生の「長編」がちゃんと読めるなら・・・正直「銀英伝」以後 長編らしい長編って無いでせう・・・アルスラーンはアレだし・・・ ・「隋唐演義」は徳間から出てるらしいので、一度読んでみたい所存。 ていうか史記も刺客列伝の十二とかしか読んでないので基礎がなってないす。 あーもっかい読みなおしてみるか・・・ ではまた。 @@@@@@@@@@@@@@@@ [JUN] @@@@@@@@@@@@@@@@ ・どーでも良い話。さっき「中学武将列伝」って書いてしまって笑った。 中学で武将、とかいうと思わず轟天寺ヨシオを思い出すわたし。ヨシオは小学生か。 (98/04/10)
田中芳樹「晴れた空から突然に・・・」/朝日ソノラマ/1994/06/30 初出は1989年「獅子王」 1990年9月にソノラマノベルズとして刊行・1994年文庫化。 今更という感じだが、読了。表紙の神村幸子が今一つで(神村氏の絵柄自体は 好きなのだが)なんとなーく敬遠していたのだ。 話の作りとしては、特に化け物妖怪の類は出てこな−いや、出てくるか、 ゾンビが出てくるけど、まぁそのへんは「SF的常識」の範疇内なので良しとする。 近年の田中芳樹の作品の多くに見られる幻想的−と言うか悪夢的な世界ではなく、 あくまでも現実、なのだ。・・・今となっては寧ろ違和感が有るが。 主人公は30代の考古学者、梧桐俊介、ヒロインはその姪日記(11歳) この言わばオジサンと少女、のモチーフは、父親と娘、大学生と小学生という形で 何度も彼の作品に現れるお馴染みのもの。ロリコンと云われる所以であろう。 いやまぁ「夏の魔術」に比べればこの作品はそれほどでもないけど(何がだ)。 飛行船という巨大な(500m)舞台を用意しながら今一つその描写に力が無く、 その辺の面白さには欠けた。背景設定が生きていない、というこの手の 田中ものでは珍しい作品。ていうか他の伝奇物が背景に頼り過ぎなのか。 日記のキャラもその描写が今一つ。これが来夢(「夏の魔術」)になると そのケの有る人達には覿面に効く「少女描写」が走り出すわけだが− 金にうるさく脂ぎった実業家、有本の描写は流石。汚い者はとことん汚く、 格好良い者はとことん格好良い(でも軽い)と言う田中節は此処にも生きている。 で、一番好みだったキャラはテロ請負業のリーダー、冠木で、これはもう 「ポリスノーツ」のレッド。あの冷徹さが。声は塩沢兼人で決定だ。 何だかまた文句ばっかり云っているようで恐縮だけど、 それでも結構読ませたのは事実。普通の考古学者(って一寸普通じゃないか)が プロの戦争屋相手に勝っちゃうあたり、まんがだよなぁ、とは思うけど、 でもちゃんと(一応の)説得力がある。この作者は矢張り巧い。 読者を引きつけて放さない強力且つ軽妙な語り口はこの作者の素晴らしい資質と 言えよう。後はもすこしシリーズ物に対する愛が有ればな・・・・ホントに。 どれだけの人間がアルスラーンを待ち望んでいると思っているのか。 実際みんなもう忘れてるかと思ってたけど、 先日飲み屋でそういう話をしていたら、割とみんなまだ(五年以上も!) リアルタイム感覚で待ち続けているのだった。 あー。取り敢えずまた夏の魔術シリーズでもいいし (但し来夢の成長は最小限に止めることが条件だが)。 @@@@@@@@@@@@@@@@ [JUN] @@@@@@@@@@@@@@@@ (98/03/16)
田中芳樹「創竜伝 11<銀月王伝奇>」/講談社/1997/12/05 あんまり話題にはならなかったみたいだけれど、ひっそりと (と言うには少しばかり盛大か)”あの” ドラゴンブラザーズの新刊は刊行されていた。 タイトルからも解る様に、今巻はいつにもまして伝奇調。 それもその筈、後書きである所の”竜堂兄弟座談会反省篇”によれば、 かの伝奇の傑作「夏の魔術」同様、夢からのインスピレーションを元に 一気に書き上げたものであるらしい。つまり、これは、「外伝」なので−。 元より本伝の方が小早川センセイの登場以後 無茶苦茶且つ複雑怪奇の度を増してきており、 正直私などは始兄や続兄の口から出る(あるいは作者の筆から出る) 「解りやすい政治批判」とかそう云う部分に 楽しみを求めているのであって・・・・・ (これが耐えられなくて読むのを止めてしまった人を何人か知っているが) その辺はまぁそこそこという毒の量で。 ・・・もう少し毒が有っても良いのだけどな。 でも矢っ張りP68で久々に次男坊の口からきつい台詞が流れ出した辺りで 「来た!」的喜びに震える私−という図式。 吉本新喜劇の定番ギャグにツボを押される様なものか。 詰まるところP208の小早川先生の格好良さ(格好悪さというか・・・つまり 「お約束」シーン)に思わず拍手が出てしまうという所にこの作品の神髄が有ると。 いやこのシーンとかスゲェ好きで。 小早川先生の出ない創竜伝など創竜伝ではないわ。 をーっほっほほほほほほほほほ! ・・・展開は如何にも「伝奇」という体で、 最後は巨大な怪物(バルンガ体と思われる)対ドラゴンブラザーズで締め、 というもの。この辺も何処と無く「夏の魔術」を彷彿とさせる。 軽妙な会話、毒のある視点、軽快なアクション・・・ キャラモノとしての良さで読めば80点はカタいのだが・・・ たださ・・・いや言うまい。これだけ楽しめたんだし。 銀英伝がもう一度読めるなんて幻想は・・・でもせめてアル・・いや・・・ 良い。いいのよもう・・・ @@@@@@@@@@@@@@@@ [JUN] @@@@@@@@@@@@@@@@ (98/02/17)
田中芳樹 「夏の魔術・3 白い迷宮」 徳間書店 750円/1994 これまた買ってから半年以上寝かせてしまって・・ 先の引っ越しの時に田中芳樹は書庫(というはおこがましいか)に おしこめてしまってて最近発掘したです。 いやまぁ寝かせるのもまたよし・・ 田中芳樹唯一とも言える正当伝奇物のシリーズ第三作め。 と言っても一部を除く男性読者の目は来夢にしか注がれていないだろうけど。 いや、実際来夢はかわいい。ふくやまけいこ氏の表紙に負けて ふらふらと買ってしまった一巻から通して、ただただもう来夢かわいさに 読んできた感がないでもない・・ いずれはもの凄い美少女になり美女となるであろう彼女ですが今はまだ しつこい程に「第二次性徴も訪れていない」という描写で語られているように まぁアレです。これぞ少女というかダイアポロン尊師の言う所のスジっ娘という。 田中芳樹の趣味なのか。しかし正直うまいわ。 あからさまにそういう描写をしておいても下卑たものに成らないあたり。 伝奇ものですから、実際世界設定はいいかげんなのですが(伝奇物、というのは そういうものなのかしら)キャラクターの魅力でぐいぐい読ませます。 後半満州なんか出てきて「好きじゃのぅこのオヤジも」とか読んだ後で 先に読んでた友達と話したりしましたが、実際ただ趣味で出しただけの様で・・ でもちょっと今巻は物足りなかったかも。4時間程度で読めてしまいました。 あと惜しいのはふくやま氏のイラストの味がちょっと変わってしまった事。 どっちかというと一巻の頃の絵がよかった・・ナマナマしくて。 今の来夢は、「るるちゃん」みたいでいまひとつ。(って鬼畜な嗜好じゃのぅ) でも「夏の魔術」はイラストで魅かれて買ったという人が多い(僕の周りには)ので 割とそういうの重要なファクターよね。SFは絵だ、というか。 まぁ姫ちゃん好きな人にはおすすめ(なんと来夢ファンの10人に9人は姫ちゃんの ファンである:一部限定調査に拠る)ですねって違っても怒らないでね。 ではまた。 @@@@@@@@@@@@@@@@ [JUN] @@@@@@@@@@@@@@@@
田中芳樹「創竜伝・10<大英帝国最後の日>」講談社/1996/5/16 今頃感想書いてますワタシ。うう。 しかし・・・ なんかこー、虚構と現実をどうクロスさせようか・・とか悩まなくなってる感じ。 しいて言うなら 「よくわかる住専問題」 「よくわかるHIV訴訟」 「よくわかる天下り」 てな所か。 ついでに英国観光ガイドも有りよ、という。 いや、面白いんだけど、もうそれだけね・・・ 伝奇ロマン、というのが下火の昨今、こういう手も有り、か。 但し、これは虚構。 くれぐれも、信用しないように・・・どうも危うくて。いや自分。 なんか気が付くとこの作品の論理で社会問題考えてるのよね。 ちゃんと「実際」を知らないと、恥をかく・・・ さて。 人類の敵達も、今巻はあんまり目立ち所無し。 小早川奈津子様の豪快な活躍こそは見物である。 まーしかし、「こういう本」なんだから、いいんですが。 銀英伝の感動は、あれは幻だったのだろうか・・・ 確かに、面白かったんだがなぁ・・・ @@@@@@@@@@@@@@@@ [JUN] @@@@@@@@@@@@@@@@
田中芳樹「創竜伝・9」講談社・740円/1994 随分寝かしていたのをやっと読みました。 うーん。 いつも通りですな。 いつも通り。期待通りとも言える。外れでは無くて・・・ だんだんに伝奇色を濃くしていくのはなんとも・・・ 始まったときとは随分社会も変わったし・・・ 相変わらず4兄弟は元気でよし。ただちょっと粗暴になったかな・・ 地震と富士山の噴火による被害の対策に頭を痛める(フリをする)政治家などは しかしタイムリーというか・・・これ出たの去年の11月だから・・ うーむ・・・ あ、政治家資産家権力者公安警察達の描写はこれまたあいかわらずで 笑いながら読めるぶんには問題ないと思いますが、信用はしないように・・ 現実の例と虚構が入り交じって・・・ でも「〜といっている人もいるという」などと発言責任の所在をぼやかしているし それを論拠に批判(らしきもの)をしているのだし、攻める謂れはないか。 しょせんはフィクション・・・・ でも面白かった・・・ もっと頻繁に(せめて一年一冊ペースで)出せないものか。 読みたい。下手なヤングアダルト向けよりは絶対面白いですし。 @@@@@@@@@@@@@@@@ [JUN] @@@@@@@@@@@@@@@@
「夢幻都市」田中芳樹/徳間文庫 文庫に落ちてたので読む。 ジャンルとしては ホラー・サスペンス だそうです。 完成度はお世辞にもいいとは言いがたい・・他の彼の作品に比べて。 展開のバランスの悪さもめだつ。 「せっかくの舞台設定を生かしきれなかったような気がします」と 後書きで本人も認めている様に、状況描写が彼にしては少なかった様な。 まさに舞台となったウラル(霧)の中の様な・・・ ただ、相馬親子の会話他、会話の軽妙さキャラクターの造形などは 見事な田中節で面白かった。ウム。会話の軽妙さにつきる。 創竜、もそうだけど現実にやったら殺されかねない恥ずかしい会話を 田中作品の連中はいともあっさりとやってのける。そのへんが魅力でもある・・・ あと、 北海道のリゾート地に集った5000人からの人間が居るのか居ないのか さっぱりな所もいまいち描ききれてないなぁ・・とか。 すぐ読めますのでそのへんはオススメですが。 では。 @@@@@@@@@@@@@@@@ [JUN] @@@@@@@@@@@@@@@@

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