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森岡浩之



森岡浩之「夢の樹が接げたなら」
森岡浩之「月と炎の戦記」
森岡浩之「星界の戦旗 II−守るべきもの−」
森岡浩之「星界の戦旗 I−絆のかたち−」
森岡浩之「機械どもの荒野(メタルダム)」
森岡浩之「星界の紋章」


森岡浩之「夢の樹が接げたなら」/早川文庫JA/2002/03/15(単行本:1999/03)


「夢の樹が接げたなら」(SFM 1992/03)
「普通の子ども」(SFM 1996/06)
「スパイス」(SFM 1993/06)
「無限のコイン」(SFM 1992/11)
「個人的な理想郷」(SFM 1994/10)
「代官」(SFM 1992/07)
「ズーク」(SFM 1995/03)
「夜明けのテロリスト」(SFM 1998/02)

の8編を収録。

「星界の紋章」「星界の戦旗」シリーズで名を馳せた(やや過去形なのか)作者
のデビュー作を含めた短編集。粒ぞろい、とは言わないが、バラエティに富んだ
SF短編集となっている。

以下適当に雑感。

デビュー作にして表題作の「夢の樹が接げたなら」は、言語を脳に直接インストール
する技術が定着した世界を舞台に、人間の「認識」を根底から変える人工言語の登場
を描くもの。思考方法の変化による「進化」という考え方はシマックの「都市」を
思い出させるけど、「哲学」じゃなくて「言語」というより具体的なレベルでの
パラダイムシフトの予感を語っていて、その意味でより「SF的」と言える。
キャラの作り込みは流石に若々しく、男女の立ち位置もどこか生々しい(そこがまた
イイ)。然しデビュー作からして「言語」か。流石は独力で架空言語を生み出して
しまうだけはある。実際、ああいう才能は他に聞いたことが(寡聞にして)無い。
そういう「趣味」を持っている人って世の中にどれくらい居るだろう?
言語ネタでは「ズーク」もそう(小品だけど)。


この短編集中最も読者にインパクトを与えたであろう「スパイス」は、掲載当時に
読んで非常に何というか、嫌な気分になった記憶がある。実際吐き気がして、その
後の講義に出られなかった(ナイーブなんじゃなくて、自主休講の理由は何でも
良かったのであろ>自分)。兎も角嫌な小説を書く作家だなぁと、その後「星界」
に出会うまでの数年、そういう印象だった。今回久々に読んでみて、矢張り嫌な作品
だったという。
疑似生命体に憐憫は必要か?人が作った入れ物に宿った「魂」は「本物」か?
「助けて!」と泣き叫ぶ理想の普通少女(でも心も体も全部作り物)を所有者から
「助ける」権利は誰にもない。


個人的にこの短編集の中でベストを上げるなら、「代官」になる。
支配・被支配の関係の難しさ(面白さ)こそは「星界」作者の面目躍如。この人
こんな事ばっかり考えてるんだろーか。何でこういうのを思いつくのか、不思議。
作品の入り口で小難しい名詞を立て続けに並べて作品に一気にゲタをはかせ、敷居を
高くしたそこへ読者を迎え入れる。その後はもう作者の為すがまま。荘園時代の日本
とおぼしき舞台に飛来する空飛ぶ円盤。その絵だけでもうSFだ。

で、実際面白かった。ぐいぐい読まされた感じ。「この後どうなるんだ?」という
単純且つ強力な牽引力で、最後まで読まされた、が、オチが余りに乾き過ぎ。作品の
持つ「格調」に作者自身が追従してしまったというか、あーせめてもう少しベタな
泣きを、と思わないでは無い。でもこの作者、基本的にそういうとこ乾いてるよ
な……実務的というか。ラストの”ナヘーヌ(地上世界)の連中の事はどうでも
いい”みたいな感じが実に。

ナヘヌードの阿栂の造形の切なさには惚れた。でも、ただ彼女は必至で「仕事」を
こなそうとしているだけなんだよね。命を助けてくれた上司達の信頼に報いたい、と
ただそれだけ。その姿に恋するか否かは、男の勝手で。


巻末の「夜明けのテロリスト」は、SFならではの展開と同時に、男の人生の悲しさと
いうか、そう言うのにも反応してしまった。「機械に支配され(かけ)た世界」の
中で、反抗しつつも、次第に機械に丸め込まれていく人間を描く……のかな、と
思っていると、そのうち主人公が思い出す「人間に価値のあった時代」の「彼女」の
姿にグラグラときてしまい。そこに描き出される(一方的な)情愛の深さは、作品
の中でアンバランスな程だ。だが、その深さはこの後の展開の鍵でしか無くて……

いや、読者たる僕などは、途中「おっ、カジシン的に”泣き”で落とす?」とか
思って読んでたので、もー途中からの展開に驚きっぱなしだった。うわっこう
来たか、え、でもそう行くのか、うわー!(ラストシーンは非常にSF的)みたいな。
いや、やられた。こういう風呂敷の広さもあったのか。


「普通の子ども」「無限のコイン」「個人的な理想郷」なんかは、シンプルに
「少し先の未来」モノ(多少ペシミスティックな)で楽しめた。「無限のコイン」
なんかは、「みんなが無限に大金持ちになったらどうなるか」という思考実験に
なっていて、興味深かった。オチは無理からって感じもする(手塚治虫的なオチと
思えた)けど。


どの作品にも、作者独特の魅力的な「女性」の存在感がある。「夢の樹」の彼女とか
「普通の」の母親とか、「代官」の阿栂とか……普通の男じゃちょっと押し切られ
そうな強さとけなげさ。ああ成る程、ジントの軽口が必要な訳だ……


冒頭で粒ぞろいじゃない、って書いたけど、その分どの作品もそれぞれに強烈なの
で、是非ご一読をオススメ……する前に、みんなもう読んでますよね。スイマセン。
@@@@@@@@@@@@@@@@ [JUN] @@@@@@@@@@@@@@@@
(02/08/30)

森岡浩之「月と炎の戦記」/角川書店/1999/07/25 まあ今更っちゃあ今更なんですが。漸く読みまして。 月の神ツクヨミと狩人の少女カエデの関係ってのは「星界」の ラフィールとジントの裏返しのようにも見える。 こういう「身分/性別/種族を越えた友愛」ってのを書かせるとこの作者は 本当に巧い。或いはイザナギの「神々しい」性格描写なんかも、可笑しみと 多少のそら恐ろしさをもって描かれていて、これまた「らしい」のである。 より高位の存在のもたらす強烈な違和感(嫌味なものではない)の執拗な 描写(人が蝶の個体をいちいち気にするか?)とか見てると、結局「これ」が 得意技なのかしらんと思う。 しかし相変わらず・・・と言ってもまだまだ読める作品は少ないので ホントは何とも言えないんだけど・・・物語の大筋はテキトーな感じがする。 テキトーというか何というか・・・・アマテラスが岩戸に閉じこもってるって 設定なんで、世界は真っ暗なもんだから背景の描写も必要最小限だし。 うーん・・・「メタルダム」の時も感じたんだけど、キャラ物のときは 「新しい物語」を生み出そうという欲を完全に放棄してしまうみたい。 既存の設計図、既存の物語展開に手持ちのキャラを乗せて「軽妙なトーク」を 聞かせる。しゃべくり漫才みたいなものか。いやまあそれが良いんですけどね とか言ってると「お前はス○イヤーズでも読んでろ!」とかまた言われそうな 気がするんでアレですが。いやスレイ○ーズも読まなきゃなーとは思ってるんですよ。 そのうち。 でも、ホント、いちいちの会話が心地良いんだ。セリフの中での、漢字とかなの 使い分け方が独特で、そのバランスに飲まれてしまう。作中人物の吐く文字列が するすると頭に入っていくこの感触は、なかなか得難いものだ。こういうセンスは どうやったら身につけられるのだろう・・・いっぺん文体模写とかやってみると 面白いかも。 いや、で、そういう風に視点が著しくキャラよりになってても、この作者の 持ち味は全然衰えない。・・・つまるところ私ゃ森岡作品に対しては前々から キャラ萌え至上主義者だった訳で。ああこのままじゃファンシーミホ((C)水玉) に殺戮されちゃいますねどうも。 ・・・ところで以前にもどこかで言った気がするけど、銀英伝の同盟側の描写とか ドラゴンブラザーズの描写と非常にかぶる部分があると思うんですがどですかね。 センス似てると思う・・・だからどうだって言われてもアレですが。 あ、キャラ的にはやっぱりツユネブリがおいしくて好きです。っていや 食料としてじゃなく。だいたい名前が可愛いし(肉食だけど)。いろんな意味で いい性格してるしさ・・・寧ろこいつがジントかも。 あとがきで語られている「星空にの衝撃」こそが この人の「SF」の根本の様な気がする @@@@@@@@@@@@@@@@ [JUN] @@@@@@@@@@@@@@@@ (99/10/31)
森岡浩之「星界の戦旗 II−守るべきもの−」/早川書房/1998/8/31 今頃感想書いてる奴。 なんかねえ。感想書きにくくて。 いや、面白かったんですよ。面白かった。例の戦闘シーンもちゃんと有るし。 読んでる間はもう殆ど転がり回りながら読んでしまったりしたのよ 特に「アブリアルの涙」の下り(スポールとの対話がもう!)なんかはさ。 読んでいる間のドライブ感覚は矢張りとんでもなく強い。 活字面からその作品世界へ入る速度が他の小説の100倍位速いと言う。 ・・・・でも、それだけ、なんですよね・・・・ こう、言葉にして取り上げるようなものがもう無い・・ 結局「設定萌え」だったのかなぁ・・・ イヤ・・・違う。 結局ラフィールに萌えられなかったというのが この「ハズレ」感の最大の原因だと。 ラフィールが、ねえ。なんかすげー「女の子」なのよ。 ヤじゃん。それ。ラフィールはあの喋り同様の「王女様」(女王様じゃ無くて) だから萌えたわけでさーって別に王女様フェチじゃないですけど。 いやグラドリエル姫とか好きですけどね。 ・・・女の子、として「崩れる」のが早すぎる・・・人としての成熟? でも、基本的にアーヴってのはもっとこう・・・特にアブリアルなら・・・ スポールさんとかネフェー/ネレースとか「いかにも」という キャラの一人であって欲しいわけですよ。うう・・・ 然もそれに追い打ちをかける様なあの扉の絵!赤井!手抜いてんじゃねえ的。 こんなんラフィールじゃねえ!!!!はあはあはあ。 オマケに、あのアニメのキャラデザ見た?がうああああ。 SF大会の星界企画では誰も「そのこと」に触れなかったが、 後で「・・・でもあのキャラデザはなぁ・・・」とか言う声が。 あ、でも主題曲は凄く良い。交響詩的雰囲気で、実に良い・・・。 しかし、だがしかし! ああああ。もっと、もっとこう・・・溢れる気品というか・・・ 不器用さというか・・・ラフィールの 「人としてはバランスイマイチだけど、でも愛らしい/美しい」 的な魅力は、もうここには見られない・・・・ って結局俺様王女様フェチなのか。ナウシカとかに刷り込まれた? あ、でも面白かったんですよ。無茶苦茶面白かったからこそ 悪いところしか印象に残らないって事も有るです。 「ここがこうだから面白かった」っていうのは、結局批評する目で 客観的に読んでるからで、それすら出来なかったってのが正直なところ・・ @@@@@@@@@@@@@@@@ [JUN] @@@@@@@@@@@@@@@@ (98/10/17)
森岡浩之「星界の戦旗 I−絆のかたち−」/早川書房/1996/12/15 兎に角今や日本SF唯一の(と言える。「らせん」や「パラサイト」は自らを SFとは言わないからな・・・)ベストセラーである所の「星界の紋章」の 「本伝」の開幕である。とは言え「外伝」の方を未読だと結構読み解けない部分も あるので(特に専門用語やアーヴの背景など・・・)、先に読んでることが前提。 いや、未読の方はまず「紋章」からであろ。是非ともあの軽妙な会話と熱い冒険を 楽しんで頂きたい。設定だけでも燃える! 近来稀にみる、100人が100人とも「まあまあ」以上の点を付けるSFでした。 で、この「本伝」は、まだ始まったばかり。 とはいえ各キャラクターの魅力、台詞回しの(相変わらずの)見事さ気持ち良さ、 世界観の完成度は流石のものである。 アーヴの「らしさ」が、例えばネフェー/ネレースの会話やなんかに良く表れる。 何と言っても「らしい」と言えばスポールさんで、もうあの性格たるや。ああ。 SFM2月号の外伝読んでさらにファンになりつつ有る・・・ 我らがラフィール&ジントは出番が(主人公格だった前作に比べれば)少ないものの、 今回も実にオイシイ描かれ方をしている。ラフィールがジントを助けるシーンなんてな もう・・・ ・・・実年齢的に見ればジントのカマトトぶりが多少鼻に付かないでもないが、まあ 良し。ラフィールと「ラブコメ★」をやるには、これくらいじゃないとねえ。 しかしラフィールのバツのわるいシーンにばっかり声をかけるジントは結構 イヤラシイ奴だと思うがどうか。 「飲物でもどう?」 言っていいのかどうか・・・でも言ってしまうと、この本の面白さは有る意味 「銀英伝」の同盟側の台詞劇をずっと読んでられる様なものだ、と思うんだけど・・・ 違うか・・・ まだ「敵国」である人類統合体の姿が見えにくいのは少々不満だが(それはそれで 面白いシーンが見られそうで)取りあえず一巻は「こんなもん」でしょ。と。 まだ一巻ということで100%オススメとは言いきれ無いけど、ホントは、 100%オススメ。読むがよい。他に読むべきものが無ければ。 @@@@@@@@@@@@@@@@ [JUN] @@@@@@@@@@@@@@@@ (1997/03/05)
森岡浩之「機械どもの荒野(メタルダム)」/朝日ソノラマ/1997/6/30 ソノラマなんか買ったの久しぶり・・・昔はあの緑の背表紙が出る度に チェックしてた事もあったのだけど。 で。 この本は「あの」森岡浩之の新作なのである−! ・・・って本屋で見かけるまでその存在すら知らなかった奴>私。 待望の新刊だが、例によってその読み易さのあまり、2時間で読了(・・・)。 ああああああ惜しい。 然しその辺も含めて実に「ソノラマ」っぽくて良。この作家ソノラマ向きかも。 内容は「グレイ」(と「明日に向かって撃て!」な感じ)。って知らんか。 昔たがみよしひさという人が少年キャプテンという雑誌で連載してた 漫画なんですけどね。(・・本当に知らない人は今直ぐ読む様に。基本。) 発達した人工知性が、人類に良かれと人類を間引きする未来。 それを防ぎ、再び人類に支配権を、と立ち向かうワカモノ −とかいう話。 って身も蓋もないんですが、ホントにそうなんだもの。 「機械知性によって支配された人類の暗い未来」って奴で、もう使い古しとか 二番煎じとかそういうレベルの問題じゃない位に「ありがち」。 でもこれが異常に面白い・・・。まさに異常だ。 結局この作家の魅力は「物語」以前に会話に有るんだぜ。会話文のセンスが全て。 ・・そんな事言ったらあの「星界」の狂ったような細かい設定は・・ いやあれはあれで凄いんだ。 だけどミリオンセラーの秘密は、まず読者をその複雑な世界に引き込む 「話術」が有ってこそだったんだな、と。 主人公の「おれ」ことタケル、幼馴染で今は部品屋(兼花屋!)のカーシャ、 同じく幼馴染で電脳調教師の鴉(カァ)。そしてタケルがしとめた獲物で、 物語の「動機」である所の、Eブレインの”チャル”(9世)。 この4人(?)がもうえんえん会話しながら、お約束のラストまで突っ走る といった実にニギヤカ極まりない佳編。 「世界を救う」割には壮大さを欠くのがアレだ(世界が妙に狭いのは矢張り 気になった。状況描写がかなり少ないのだ。)し、あんまりにもありきたりな 「容れ物」には正直驚いているのだけど(だって「星界」じゃアレなのに?) それをキャラの魅力だけ(!)でパワフルに纏めてしまう辺りに、この作家の 天性の力量を感じる者である。 状況描写が少ないと書いたけれども、あまりに「ありがち」を貫いている為、 借景の効果が恐ろしく強い。結果、個人的にはかなりビジュアルの浮かぶ 作品であった。アニメや漫画で何度も見た光景が、類型として頭に残っている 読者にとっては、「当たり前の」状況説明は寧ろテンポを崩すだけなのだ。 どっかで見たような風景の中で、どっかで聞いたよな物語が展開する。 ただし、役を演じるキャラだけが全く違うのだが−という。 ・・これは実は無茶苦茶凄いことをやっているのでは・・・ ・・・あ、あと絵なんですが・・「SFは絵だ!」(所で遂に野田大元帥が 動き出したらしいですな。今月('97/7)のSFM見たら、40年ぶり!に 「絵以外も読み出した」らしいじゃないですか。全くこれだからSF者は 業が深いというのだ・・・閑話休題。)と言う点から観ると、一寸オイオイという 絵なんですが(ファンの人御免。でも赤井絵に比べるとねぇ。実際表紙一つで 売上部数は随分違うし・・・)、でも基本的に問題無し。っていうかイラスト 入って無くてもOKな位、文字の力が強い(正直イラストは邪魔・・・)のである。 でもやっぱ赤井に描かせていればああもあろこうもあろ・・ とか思ってしまうのだった。貞本でも可。 「ガイナックス制覇計画」はどうなったんだ>森岡氏。 兎も角早く読めてそこそこの満足感。 「物語」的には少し物足りない感もありますが、 結末に至る過程を演じるプレイヤー達の、その魅力を味わって吉でしょう。 割とオススメ。 (二時間で読み終わって感想書くのに二時間かける奴) @@@@@@@@@@@@@@@@ [JUN] @@@@@@@@@@@@@@@@ (1997/07/21)
森岡浩之「星界の紋章 1 −帝国の王女−」/早川書房/1996/4/15 森岡浩之「星界の紋章 2 −ささやかな戦い−」/早川書房/1996/5/15 森岡浩之「星界の紋章 3 −異郷への帰還−」/早川書房/1996/6/15 今年中盤のSFシーンを大いに揺るがした純正スペオペの傑作。 もう皆さんも多く読まれたこととは思いますが、ワタシも遅ればせながら・・ いや、面白かったです。全く好ましい作品でした。既に読まれた方には同意して 貰えると思います。そうであろ? 作者はこれが長編デビュー第一作目、というから才能というのは、あるところには あるものである。 「浸透と拡散」を経て滅び行くSF界に、単行本3巻書き下ろしで鮮烈なデビュー。 尋常なことではない。もはや「SF」というジャンルは死に瀕しているのだ。 そんな所に新人デビューしようという事自体がもうスゴイ。 だがそんな背景はどうでもいいのだ。この作品そのものは、痛快無比の少年少女向け 小説の体なのだからな・・・ 未来の宇宙。自らの子の遺伝子をデザインし、宇宙に適応しているアーヴと呼ばれる 亜人類(だいたいにおいて美形)が、銀河に一大帝国を築いている。そのアーヴが 惑星マーティンへ侵攻した所から物語が始まる。民主制をしいているこの惑星を、 帝国の支配下に組み入れよう言うのだ。彼等の圧倒的な戦力に対し、マーティンの 国家主席は、惑星の領主の地位を代償に、降伏を選択する・・ その息子、主人公のジント・リンは、遺伝子的には我々人類の末裔だが、領主の 息子、ハイド伯爵公子、つまり「アーヴ」として、その義務(兵役)を全うするため に帝都へと旅立つ。だが、彼の乗った船は平面空間(これがイイ!)で戦闘に巻き 込まれ、帝国皇帝の孫娘とともに脱出する・・・ ありがち? ありがちかもな。 ただ、これが凡百のヤングアダルト向けファンタジー小説と違うのは、その細部に わたるSF小道具の設計設定にある。「SFの神は細部に宿る」。 SFは絵だ、というか、野田元帥の言葉を借りるならば「作品世界観光」が十分 楽しめる。欲しい描写を十分に準備して展開。独特の文法(があるらしい)アーヴ語 や、アーヴ独特の価値観念、航法の設定、平面宇宙戦闘の描写などなど、本当によく 設定されている。正直この3巻で終えるには惜しすぎる世界観だ。 しかし!ああ!何より素晴らしいのは帝国王女ラフィール ・・アブリアル・ネイ=ドゥブレスク・パリューニュ子爵・ラフィール・・・ の造形の見事さであろ。その喋り、その性格、そのヒロインぶりたるや!!!! 殆どベストヒロイン像である。 彼女の美しさの描写の破綻の無さ。赤井の表紙の素晴らしさ。言うこと無し。 ああ・・・ スペオペの類型でありながら、決して真似事に陥らず、何より其の会話文のセンスが 光る。特にジントの追いつめられた時の軽口がたまらなくいい。 なかなか書けないよね。こういうの。 久々の「愛すべき作品」であり、日本が世界に対して誇れるスペオペけだと思う。 いや海外の傑作といわれるスペオペだってこの域には達してないものが多いし。 ただ、難を言えば、少々バランスの破綻がみられる様な。 後半になるに従って、展開の舞台が、妙にあちこちに飛び、キャラは増え、3巻に 至っては主人公達の影がかなり薄くなってしまう。悪くはない。 物語の完成度としてはこういう風に周辺を絡めて描いていくのが良いとは思うの だけど、それにしても3巻ではきつかったのではないか。 このペースで行くなら5、6巻くらい有れば・・・・ いやしかしそんな事は小さな事。この魅力有る世界を堪能するのに問題は無い・・ これより構成のまずい作家はいくらでもいるし・・・ハインラインとか・・ あと個人的に読後感がちょっと寂しいな・・という・・・ ラフィールとジントは「恋仲」には成れないのだぜ。遺伝子改造によって死の至る 200歳近くまで、殆ど老いることのないラフィールと、時とともに老いていく ジント。いやまぁ遺伝子改良改造があたりまえ(いじらなければまともに生まれる事 さえ出来ない程にアーヴは改造されている。その原因は作中で明らかにされるが) なんだし、「愛の児」は可能か。いやその。 ラストの、ジントの言葉が今のワタシには重い。 「生まれもった自由を売り払った値段で、人生の価値は決まるんだ。」 いい言葉だが。 ジントの様な状況に置かれても、オレはああは出来ないよな・・・ さて。 来年の星雲賞国内長編部門は殆ど決定したものと考えるが如何。 「処女作に勝る傑作は無い」とも言われますが、この作者はとうてい新人とは 思われぬ力量であり、次回作に対する意気込みなどを見ていると、益々楽しみ なのである。 「SF」という瀕死のジャンルにあえて飛び込んできた作者に、大きな期待が かかってしまうのは仕方ない事だが、それに潰されずにこういう生き生きとした 作品をどんどん書いて貰いたいもの。 勿論、文句無しにオススメ。全巻購入して一気読みして下さい。 読み終わって一週間が過ぎようと言うのにまだ夢に見る @@@@@@@@@@@@@@@@ [JUN] @@@@@@@@@@@@@@@@

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