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岩本隆雄



岩本隆雄「鵺姫異聞」
岩本隆雄「イーシャの船」
岩本隆雄「鵺姫真話」
岩本隆雄「ミドリノツキ」
岩本隆雄「星虫」


岩本隆雄「鵺姫異聞」/朝日ソノラマ/2002/09/30


くあー。にやにやしてしまうことこの上なし。やっぱいいわー。ほんまにいい。
この作者の、”さらっと大変なことを語る”はいいなあー、とつくづく。
極小から銀河規模の極大に、何の準備もなくステップできる、その移動感に
なんともいえないぞわぞわとした快感がある。言うなればジェットコースター的。
比喩でなく、ほんとにジェットコースターに乗ってる感じがする。体感的に。

正直「星虫」初心者にはすすめられない……と思ったけど岩本作品初読の人が
「これ面白かった〜」と言ってたので(その後「イーシャ」を貸したらドはまり
してた)、案外イケるのかもしれない。

でもやっぱ、読む順番、は関係ないにしても、「星虫」「イーシャの舟」
「鵺姫真話」と併せて読んでいきたいところ。他の作品に出てくるキャラの
総登場、ニヤリ感がうれしい。キャラといえば、主人公、隆の人柄の好ましさは
最早異常ともいえる。さなのヒロインっぷりも実にいい。水浴びしてるところに
落ちてくる、とか、海賊の仲間になって、夜は宴会で思わず大ウケ、とか、もう
ベタすぎるほどベタなのに、そのいちいちの描写がもの凄く瑞々しくて嬉しい。
特に宴会のシーンの嬉しさ(うまく表現できない、兎に角顔がゆるむ!)は
近年稀に見る、というか、岩本作品以外では得られない感覚だ。
なんていうの、ほら、本当に美味しい日本酒飲んだときに、勝手に顔がほころぶ
でしょう、アレですよ、アレ。顔がにやつくのを止められない。

p166からの「うまい酒」の描写は、もう、うひー、これはうまい!と口内に
ヨダレがたまる有様で。たまらねえー!

酒と女のために時間を超える。実際、(隆のような)男ならこれ以上の何があろう。
生き物としてのシンプルな理論と、神々の戦い(これがまたいい”画”で)が
共存する、その独特な味わいを、是非とも味わっていただきたい。

他の岩本作品とは、少し毛色の違う、ちょっと外伝的な、その意味ではまさに
「異聞」な作品。でもこれはこれで!
岩本作品なら、僕はどれでも全力でお勧めなのです。

てゆーか、新刊どうなってん……
@@@@@@@@@@@@@@@@ [JUN] @@@@@@@@@@@@@@@@
(06/06/15)

岩本隆雄「イーシャの船」/朝日ソノラマ/2000/11/30 寝る前にちょっとだけ、と思って読み始めて、そのまま一気に読了してしまった。 凄い、凄い!なんかもう辛抱たまらん。怒り、笑い、泣き、ドキドキしっぱなし。 読み終わった後、その日は眠りに就くまで、顔からニヤニヤ笑いが消えない傑作。 いや、ホント布団の中で、まだ思い出し笑いが止まらない。こんな作品を、一体 どうやったら描けるのか。惜しむらくは他作品とのリンクのくどさだけど、それ を覆い隠す程の素晴らしさ。いや、マイッタ。まいったよ。マイッタ!!いや、 もー、ホントに……面白かった!面白かったよ!他にボキャブラリーを持たない。 正直、これ読むのが怖かった。「青春アドベンチャー」版の感動が大きすぎて。 いっそ新潮版を読むのさえ怖かったんだ……で、まあ、結果としては、もう、 ああ、面白かったよ!チクショウ!と。 つーかもーイーシャが可愛すぎ。ダメだ。あんなの犯罪だ。若しくは誰か俺に カタカナでたどたどしく喋る角の生えた毛だらけのムスメッコをプリーズ! (いろいろヤバイ)いやもー、成長過程全部がカワイイ。可愛すぎる。グアー。 凄いよ。もー。 兎に角「岩本だから」みんな凄い奴で且つイイ奴なんだけど、それがこの作品に 限っては全然嫌味じゃない。やっぱ年輝のキャラがイイんだよな。こいつの場合は その「凄み」に、ちゃんと理由がある。彼の凄さはその「弱点」故なのだ。 その「弱み」の部分が物凄く魅力になっていて、それがまたこの作品のテーマとも 深く繋がっている。キャラクター造形と物語の軸合わせが見事に合致していて、 展開に無理がない(無理矢理は岩本作品の専売特許みたいなもんだけど)。 そして美女と野獣は見事に互いに「憑き」合って……あー! 俺も!俺も!!俺もー!!!(マジ泣きしつつ遠吠えする29歳) ……いや、失礼。でももうダメです。ニヤニヤしながら、寝ます。 あー、チクショウ、面白かったナァー…… ……生まれながらに選ばれた才能を持たない身なれば、せめて「苦労」をしよう。 ちゃんと「苦労」して、痛みの中でまっとうな人間になろう。とか思うだけは 思わされる。苦労味噌でも舐めたい気分だ。 僕の人生は僕の足下にしか無い。 今更だけど、やっぱちゃんと「俺の人生」を生きようと(至極真面目に)思った。 @@@@@@@@@@@@@@@@ [JUN] @@@@@@@@@@@@@@@@ (03/05/05)
岩本隆雄「鵺姫真話」/朝日ソノラマ/2000/08/31 高校生が戦国時代にタイムスリップして、現代の知識を使って大活躍! ……みたいな話。昔良くありましたよね…… でも、そこはやっぱり岩本隆雄。他に類例が見出せない位の詰め込みっぷりは この作品でも健在だ。いやもう、これでもか!っちゅー位の作り込み様。ホント 密度が濃い。錯綜したタイムパラドックスもなんとか納得、「鵺姫」の正体に 一段落ついたー、と思ったら、更にそれを上回る展開がー! 展開の密度が異常に高いので、どうしてもご都合主義的というか、突拍子もないと いうか、トンデモというか、ちょっといい年した大人が本気で読むのは恥ずかしい 様な部分も有るんだけど、その辺作者だって解ってやってるんだと思う。そういう 「恥ずかしさ」を描ききった(そして読み切った)先に、この作者の作品でしか 味わえない、あの独特の感動があるのだ。 正直今、こんな「感動」を味わえるのは、この人の作品だけだと思う。 もーあのラストはグラングラン来たよ。タタタタマラネエ!これだ!これこそ 岩本だ!この明るさ!この希望!夢!武者震いの様な高揚感!うわーこんな所で 終わるのかー!続きは!? 才気溢れる若い(ティーンエイジャー)連中が、危地に及んで見せる、冷静な 判断力と決断力、そして行動力。ああ!これだ!この「決断力と行動力」!! コレガタマラネエノダ!(自分には無いからね)! あとみつ姫萌え。一目見ただけで命をかけて(一生をかけて)守ってしまい たくなるお姫様。コレダ!コレダヨ!いわば風祭陽子!例えば、少年が始めて 読む「小説」でこの少女に出会ってしまったらどうなるか!そいうキャラを、 入念に設計して作ってある。 小説的「ネタ」をぎっしり、もういっぱいいっぱいに詰め込んで、でも「ノリ」 というか、「熱」を失わない。詰め込んだ仕掛けは無理矢理全部生かしてしまう。 生かせてしまう。その腕力。冒頭でチラリと触れられる金不足のフリとか、もう 細かい所がいちいち生きていて、なーんかもー読んでて嬉しくなる。 これホント、小学生新聞とか、「子供の科学」とか、学年誌とか、そういうので 連載してたらピッタリなんだよなーとか思った。チャレンジとかでさ。 柱のアオリで「次号、少女の意外な正体が…!?」とかさ。 兎に角この清涼感と明るさに痺れた。いい年して少年小説読んで嬉し泣き(ラスト の展開のあまりの「嬉しさ」に)させられたよ。自分の人生を自分で切り開き、 夢に向かってまっすぐ生きる、壁にぶつかる事を楽しみにさえしている様な、 頼もしい連中。自分を彼等に重ね、嘗て自分にも(僅かにせよ)あった中高生の 頃の、あの「何でも来い!」的な気分を、久々に味わった…… そして鏡を見て、溜息をついてみた。 @@@@@@@@@@@@@@@@ [JUN] @@@@@@@@@@@@@@@@ (03/02/07)
岩本隆雄「ミドリノツキ 上」/朝日ソノラマ/2001/06/30 岩本隆雄「ミドリノツキ 中」/朝日ソノラマ/2001/08/31 岩本隆雄「ミドリノツキ 下」/朝日ソノラマ/2001/10/30 「今、祭りが始まったのだ。全人類の未来を決める、巨大なイベントが。」(上p112) 背筋ぞわわーーーー。 この「背筋ぞわわー」こそが僕にとっての「センス・オブ・ワンダー」の印なん だけど――ってこの書き出しは「星虫」の時の感想と同じですな。進歩がない。 でも、ああ、全く、岩本隆雄の小説ってのはどうしてこうぞくぞくさせるのか。 こう言うの、小中学生の頃よく妄想したよ。ある日突然、世界全体が「祭り」に突入 してしまう。ある日突然空を覆う巨大なUFOが世界中に、っていうアレ。地球幼年期 の終わり、或いは「V」。でも、「それ」を妄想の域から小説に仕立てるまでの間 に、無限とも言える距離がある。その「妄想」を読者に信じ込ませるだけの筆力が 無いと、書きたくても書けないよなー、と思うが如何。 男の意地が世界を救う。 「確かに怖い。命も惜しい。ずっと平和に生きていたい。しかしここまで関わって  逃げ出したりしたら、どれだけ長生きしたって、そんな人生、意味あるわけない」 (中p207) ……と、誰もが心では思う。でも、そこから本当に行動に移せるかどうか、が結局 自分の人生で自分が主人公になれるか否かの分かれ目なのだと思う。自分の信念に 対して命を、躊躇なく”命”をかけられる潔さ。「信念」なんて奴が、時間と共に グズグズに崩れてしまう事を知らぬが故の、真っ正直な、意地。 「男の意地」を貫き通させる為、物語はいささか以上のご都合主義で展開する。 息をもつかせぬ奇跡の連続。出てくる登場人物はみんな輝いていて、主人公の 命懸けの挑戦は常に成功する。でもそれでいい。それがいいんだ。だってこれは 朝日ソノラマから出ている少年少女向け正統ジュブナイルSFなんだから。 どんでん返しに次ぐどんでん返し、次々降りかかる予想もしない展開、それに対し 「ごく普通の少年」が、時に思考停止し、時に頭を悩ませ、脇役的位置から、地球の 運命を左右する位置にまで駆け上る。ご都合主義が無くて出来る話では無い(でも、 主人公の描き込みに力があるから、説得力があるのだ)。詰め込みに詰め込んで、 読者を振り落とさないギリギリのスピードで最後まで走り抜けた、まさにジェット コースター的な作品だった。いや、読み終わったときは実際爽快だったよ。 然しこの青さ。否定的な意味じゃない、やたらに力が余ってる、夏休み前の雑草 みたいな、太陽に向かってぐんぐん伸びゆく様な青々しさってのはどうだ。この作者、 一体いつまでこの調子で書き続けられるのか。挫折も、諦めも、「青さ」の勢いの 前にはね飛ばされるが如き。そしてその感覚を読者に受け入れさせる力量。 これはこれで、もう一つの「芸風」と言えるのかも知れない。 挫折と諦めにまみれた男がこの作品から何かを受け取るとすれば、それは矢張り 「男の意地」って奴だろう。意地を張らずに何が男かよ、と。森本レオ曰く、 「ここでやめたら俺達は何だ!?タダのバカじゃないか!」 自分の力でやること。自分の信念(そんなものがあるなら)を裏切らないこと。 醜くても、下らなくても、諦めずやること。「意地」で自分の背筋を通すこと。 向かい風に胸を張れ。 @@@@@@@@@@@@@@@@ [JUN] @@@@@@@@@@@@@@@@ (02/10/29)
岩本隆雄「星虫」/朝日ソノラマ/2000/06/30 「人間は、地球の種なんだ!」(p235) 背筋がじわーんとする。良いSFかどうか、は結局この「背筋じわーん」が有るか どうか、という所で判断するSOW感覚信者。 今回の再刊版で初めて読んだ私です。いや面白かった。面白かったですよ。言われる だけの事はあった。そういう実感。期待しても期待しすぎにならないだけの出来。 なんか盛り上げ方とかに滑らかさがない(素人っぽい)のさえ逆に魅力だ、みたいな 感じで。感動的なシーンを描くときの言葉の足りない感じとか、多分そういうのは 技術でカバー出来るんだろうけど、それ以前の「基本の力」が強くて。 ジュブナイル、だよなこれこそ。1970年代学年雑誌連載系。以前ラジオドラマに なったと聞いたが、成る程続き物として向いている。中学生の目線の先に物語が ある様な。いや実際中学生(高校生だとちとキツイか)の時に読んでたら一生モノ 間違いなし。 やっぱり、どうあっても人類は宇宙に出なきゃ。 個人的には鈴木雅久氏の華やかな絵柄よりも、昔のSFベストセラーズみたいな 非まんが絵イラストだとより良かった感じ、とか言うとファンの人に殴られそう だけど。でも私は「あの手」の絵柄で読んでました。いや多分にノスタル爺 なんだろうけど。でもホント中学生の時に読んでみたかったなあ。うーん。せめて 初版が出た高校生の時に、っていやあの頃はバリバリのペシミストだったから 逆にけちょんけちょんに言ってたかも知れないなあ。 愛は地球を救う、なんて事は絶対にない、そもそも「地球」ってのは惑星の名前で あって「今の」生態系(宇宙船地球号?ケッ)じゃないんだよ、今の「緑の地球」 なんて「地球」に取っちゃ一瞬の出来事だし、人類の暴走で地上の生命が絶滅しようが 地球の知ったこっちゃ無えだろう、だいたい酸素て猛毒が世界を一度「浄化」して しまった過去を知らないか。どうせ地球は太陽に飲まれるし、いずれ宇宙は熱的死を 迎えるんだよ。全ては無常だ。人類の勝手な解釈なんざクソクラエ! みたいな事を現社の小論で書いて教師に嫌がられる高校生だった私。 確かにSFの「S」は薄い、というか甘い。いやそれ以前に美人で成績優秀で、でも それは猫かぶりで実は宇宙飛行士を目指すバイタリティあふれる少女が主人公、 或いは見た目は汚くてぼさぼさだけど家が大金持ちでプログラミングの天才、いざと なるとカッコイイ少年が副主人公。そんなキャラ設定だけでも甘くて甘くて歯が 溶けそうだ。でも、少女漫画を「現実はそんなに甘くないぜなめんなオラ!」とか 言って貶すバカは居ない訳で、その辺はちゃんと少女エミュレートして読むでしょ。 「薄さ」「甘さ」を中学生エミュレートで濾して読むのは当然(でなけりゃ昭和の 少年小説の類なんか読めないよ)。ご都合主義もなんのその、輝かんばかりの 「彼氏彼女」に自分を(恥ずかしげもなく)投影して、ワクワクしたりドキドキしたり (恋したり)しながら読むんだよ。 「夢は、叶えるためにあるのだから。」 それを心から信じ、口に上らせる事が出来なくなって何年経つだろう。でも僕だって その昔は「夢+努力=現実」(RADIコミ)が信条だったし、その頃の思考回路だって (三日月湖みたいに取り残されて)まだ残ってる。あの頃の自分が間違ってて、今の 自分の方が「真実」に近いなんて思わない。 呆れるほど楽そうな「進化計画」に対して、したり顔で「人類生存圏を宇宙に持ち 上げるにはどれだけの苦労が予想されるか」なんて説いた所で、結局僕たち人類は (出来れば今すぐにでも)宇宙に行きたいのではないか。宇宙の深淵を覗いて恐怖の 余り竦んでしまったとしても、いつか必ずダイアスパーを飛び出す様な人間が現れる。 遅かれ早かれ。大切なのは次代を担うワカモノタチ(ってな事を言う歳なのか僕も) にどれだけ宇宙への目を開かせるかだ。 「自分を構成する原子はもともと地球の一部、ひいては宇宙の一部なんだ」という、 もうあらゆる所で使い古された概念に対して、このキャラ達は新鮮な驚きを感じる。 この作品は、つまりそういう感動をこれから得る様な人達にこそ読まれるべきなのだ。 ・・・僕のよーに何もかもアキラメきった奴が読んでもそれはそれで楽しめるけれど、 もうノスタルジィでしかないしね。 夢のない時代だという(ああこれまたおっさんくさい言い回し)。実際僕なんか 「将来なりたいもの」が何もなかった。今も無い。自分は何になりたいんだろう、と 思いながら今も生きてる。曖昧な夢はとっくに現実に上書きされてしまって。 もう一度、夢を見よう。 ワカモノタチには、まず夢を見ることを知って欲しい。叶えるのは、それからだ。 (勿論こんなポジティブな作品だけじゃなく、光瀬龍も併読すること。) @@@@@@@@@@@@@@@@ [JUN] @@@@@@@@@@@@@@@@ (00/08/20)

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