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本棚・栗本薫



・目次

栗本薫「旅立つマリニア」グイン・サーガ120
栗本薫「幽霊時代」
栗本薫「風の騎士」グイン・サーガ105
栗本薫「湖畔のマリニア」グイン・サーガ104
栗本薫「ヤーンの朝」グイン・サーガ103
栗本薫「火の山」グイン・サーガ102
栗本薫「北の豹、南の鷹」グイン・サーガ101
栗本薫「豹頭王の試練」グイン・サーガ100
栗本薫「ルードの恩讐」グイン・サーガ99
栗本薫「蜃気楼の旅人」グイン・サーガ98
栗本薫「ノスフェラスへの道」グイン・サーガ97
栗本薫「豹頭王の行方」グイン・サーガ96
栗本薫「ドールの子」グイン・サーガ95
栗本薫「初恋」グイン・サーガ外伝19
栗本薫「消えた女官」グイン・サーガ外伝18
栗本薫「永遠への飛翔」グイン・サーガ94
栗本薫「熱砂の放浪者」グイン・サーガ93
栗本薫「復活の朝」グイン・サーガ92
栗本薫「魔宮の攻防」グイン・サーガ91
栗本薫「恐怖の霧」」グイン・サーガ90
栗本薫「悪魔の王子」グイン・サーガ89
栗本薫「宝島」グイン・サーガ外伝17
栗本薫「星の葬送」グイン・サーガ88
栗本薫「ヤーンの時の時」グイン・サーガ87
栗本薫「運命の糸車」グイン・サーガ86
栗本薫「蜃気楼の彼方」グイン・サーガ85
栗本薫「劫火」グイン・サーガ84
栗本薫「嵐の獅子たち」グイン・サーガ83
栗本薫「アウラの選択」グイン・サーガ82
栗本薫「魔界の刻印」グイン・サーガ81
栗本薫「ヤーンの翼」グイン・サーガ80
栗本薫「ルアーの角笛」グイン・サーガ79
栗本薫「ルノリアの奇跡」グイン・サーガ78
栗本薫「疑惑の月食」グイン・サーガ77
栗本薫「魔の聖域」グイン・サーガ76
栗本薫「大導師アグリッパ」グイン・サーガ75
栗本薫「試練のルノリア」グイン・サーガ74
栗本薫「地上最大の魔道師」グイン・サーガ73
栗本薫「パロの苦悶」グイン・サーガ72
栗本薫「嵐のルノリア」グイン・サーガ71
栗本薫「豹頭王の誕生」グイン・サーガ70
栗本薫「修羅」グイン・サーガ69
栗本薫「豹頭将軍の帰還」グイン・サーガ68
栗本薫「蜃気楼の少女」グイン・サーガ外伝16
栗本薫「風の挽歌」グイン・サーガ67
栗本薫「黒太子の秘密」グイン・サーガ66
栗本薫「鷹とイリス」グイン・サーガ65
栗本薫「ゴーラの僭王」グイン・サーガ64
栗本薫「時の潮」グイン・サーガ63
栗本薫「ユラニア最後の日」グイン・サーガ62
栗本薫「ホータン最後の戦い」グイン・サーガ外伝15
栗本薫「赤い激流」グイン・サーガ61
栗本薫「夢魔の四つの扉」グイン・サーガ外伝14
栗本薫「ガルムの報酬」グイン・サーガ60
栗本薫「鬼面の塔」グイン・サーガ外伝13
栗本薫「覇王の道」グイン・サーガ59
栗本薫「魔王の国の戦士」グイン・サーガ外伝12
栗本薫「運命のマルガ」グイン・サーガ58
栗本薫「フェラーラの魔女」グイン・サーガ外伝11
栗本薫「ヤーンの星の下に」グイン・サーガ57
栗本薫「野望の序曲」グイン・サーガ56
栗本薫「ゴーラの一番長い日」グイン・サーガ55
栗本薫「紅玉宮の惨劇」グイン・サーガ54
栗本薫「ガルムの標的」グイン・サーガ53
栗本薫「異形の明日」グイン・サーガ52
栗本薫「ドールの時代」グイン・サーガ51
栗本薫「闇の微笑」グイン・サーガ50
栗本薫「緋の陥穽」グイン・サーガ49
栗本薫「美しき虜囚」グイン・サーガ48
栗本薫「アムネリスの婚約」グイン・サーガ47
栗本薫「闇の中の怨霊」グイン・サーガ46
栗本薫「ユラニアの少年」グイン・サーガ45
栗本薫 他「グイン・サーガ読本」

栗本薫「旅立つマリニア」グイン・サーガ120/ハヤカワ文庫JA/2008/04/15 旅立つマリニア、という割にはなかなか旅立たない120巻。 最近とみに読むのが遅くなってるので、数ヶ月も旅立たないままだったり。 だんだんミロク教(56億年とか言ってるのでやっぱ弥勒なんだろうな)が 怪しげな存在感を示し始めていて、良い感じ。やっぱラスボスは弥勒! 日本SFと言えば神狩り、神狩りと言えば弥勒殺しですな。 今回の印象としては、ヨナに彼女っぽい人がいた、というのを知って 愕然とするヴァレリウス。 「自分だけが置き去りにされたような気が」(p296) その気持ち、解りすぎる。 男同士って、なかなか「そういうこと」言わないからなー。 事が決定的になってから「実は」っていうパターン。 あとヴァレにいろいろ突っ込まれて「じゃあヤガにいって見てきましょうか?」 とかちょっとわがままぶってみたり、ヨナもちょっと疲れてる感じがしますな。 (最近仕事でこういう感じになること多し。まだまだ。) 今回はグインは殆ど存在感無し。 ともかく次巻とっくに買ってるので、また読み進めねば…… 願わくは、いつまでもグインの新刊が読み続けられることを。 @@@@@@@@@@@@@@@@ [JUN] @@@@@@@@@@@@@@@@ (20080708)
栗本薫「幽霊時代」/講談社文庫/1985/03/15 文庫本の表紙解説曰く「著者のみずみずしいSFへの初心が結晶」。 全く、そういう感じ。昭和53〜55年、作者デビュー直後からその2年後までの 短編集。一応SF短編集ということになっていて、オチの段で(かなり無理矢理) SFになっている。 「幽霊時代」「時計台」「ケンタウロスの子守歌」「水の中の微笑」 「エンゼル・ゴーホーム」を収録。 「グイン」以外の栗本薫作品を読むのはもう何年ぶりになるか。 何となく読み始めて、しかしこれが殊の外面白くて、思わず耽読してしまった。 何というか、久々に「小説」を読んだ気分。 最近活字を読んでなかった訳じゃないけど、昔(中高生の頃)思っていた「小説」 ってこんなだったよなー、的な。 この、瑞々しさ。荒々しさ。そして頼りなさ、はかなさ。 ここにあるのは「青春」の残像、とも思える。 作者の目から見た「現実」が(まだ)ここには存在していて、その切り取り方に 自分とは違う目線、自分とは違う感性で生きている”他者”の人生を垣間見る事が できる、そういうタイプの作品ばかり。いやホンマに、なんかこう、フィルムに 焼き込まれた過去の実像を今見ているような、懐かしいリアリティ。 なんつーか、「アニメ」じゃなくて「映画」みたいな。なんかね、雰囲気があるよ。 今またこういうのを書けるのかどうかは別として、当時の栗本作品は、確かに 「いい線」いってる。そう思う。 まあ、何にせよ今さら、既に世に出て20年以上も経とうという本に何を言っても 始まらない気もするけど、いや、なかなかいいものでしたよ。 あと、あとがきのあたりの今岡清との和気藹々とした夫婦掛け合いっぷりが 微笑ましい。不倫騒動当時の情勢を思えば、これもまたある程度意味のあるもの だったのかもしれないけど、当時を知らぬ身としては、ただ、微笑ましいのみ。 久々に火星人ゴーホームを読み返したい @@@@@@@@@@@@@@@@ [JUN] @@@@@@@@@@@@@@@@ (06/12/02)
栗本薫「風の騎士」グイン・サーガ105/ハヤカワ文庫JA/2005/12/15 読なんかグダグダな展開…… とはいえ、あの、ア○ト○ア○がここで復活をとげようと 一体誰が予想し得たであろうか……! (時々復活の予感をさせつつも結局みんな忘れてた。作者も忘れてたんじゃ なかろうか) 想像を絶するような恐怖の体験を超えてきた割には、それを グインの前で (説明的に)一気にまくしたててしまう(そして捨て台詞付きで逃走)あたりの 底の浅さというか、浅はかさというか、その辺がいかにもモンゴールの人だなあ、 という印象。正直その扱いこそが彼の哀れさの全てとも言える。 グイン世界を彩る妄執キャラに育ってくれるかどうか。期待したい。 あとさりげにリギアとか出てた。相変わらず世界狭い(けどかけちがってる) な……スカールが元気になったら会いに行ったらええがな。 @@@@@@@@@@@@@@@@ [JUN]@@@@@@@@@@@@@@@@ (20060301)
栗本薫「湖畔のマリニア」グイン・サーガ104/ハヤカワ文庫JA/2005/10/15 あー。途中からバレバレですよ>侍女の人。 全編通してマリウスのマリウスっぷりが実に良い感じ。 キャラに愛があるぜ……面白い面白い。 やっぱりファンタジー世界の「旅」はいいなあ、と思う。旅こそ(ヒロイック) ファンタジーの滋味だ。夜たき火を囲んでの会話とかさ。そういうの。 雨露をしのぐ描写さえなんだか良い感じ。 そして物語は何やら”世代モノ”に……なってくのかのう。 @@@@@@@@@@@@@@@@ [JUN]@@@@@@@@@@@@@@@@ (20060301)
栗本薫「ヤーンの朝」グイン・サーガ103/ハヤカワ文庫JA/2005/08/15 待つ側、ヴァレリウスやカメロンの姿が描かれる。 冒頭、イシュトのつたない手紙。「いろいろ心配かけてすまなかった」あたりで 不覚にも涙する。イシュトの中の人がましい部分に。 しかし今巻の見所はなんと言ってもイェライシャ対グラチウスの戦闘シーン。 なんつーかこんなに本格的な(漫画チックな)「サイキックバトル」を この作品で見たのは初めてなんじゃないだろうか。 然し迫力は十分、ヴァレリウスの部下たちが文字通り木っ端にされてしまう 勢いのぶつかり合いの中で、(またしても) ヴァレリウスの抑圧されていた力、眠れる才能が見いだされる。 まあ(恐ろしく年寄りの連中に比べれば)全然若造であるところのヴァレリウスは いいように使われてるんだけど。でもやっぱりヴァレリウスの評価が高いと 妙に嬉しいな。本来は攻撃魔法系らしい。 記憶のないままサイロンに帰りたくないグインは、またマリウスと二人旅。 色々アレな義兄だけど、旅の仲間には最適な奴だ。 今度の旅は、目的地が決まっている。リンダのいるパロへ向かうのだ。 @@@@@@@@@@@@@@@@ [JUN]@@@@@@@@@@@@@@@@ (20060301)
栗本薫「火の山」グイン・サーガ102/ハヤカワ文庫JA/2005/0?/15 グインに斬られて死の淵をさまよってたイシュトが良い感じで目覚めた。 グインとスカールは大森林を焼き尽くす森林火災の中を度胸で生き延びた。 以下次号。 @@@@@@@@@@@@@@@@ [JUN]@@@@@@@@@@@@@@@@ (20060301)
栗本薫「北の豹、南の鷹」グイン・サーガ101/ハヤカワ文庫JA/2005/05/15 「ディーンさま。私は、いまはじめて――あなたを見たのです。あなたのまことの  魂を――その白い、ふしぎな羽根のかたちを。」(p139) ヴァレリウスがマリウスの存在を再認識する下りは(ここ数巻続いている) マリウス再評価ブームの一端を見せている。いや、それだけならいいんだけど。 ここんとこのヴァレリウス(に対する作者の描写)は安定してるし…… ルブリウスの恋とかじゃない、とは思ってるんだけど。 ああ、そんな事はないよね。きっとね。 ていうかヴァレリウスはナリスを神格化し過ぎてちょっとヤバイですよ。 リギアもなー。もうスカールがこんな具合だし、そろそろさ。帰ってきて やれよ…… なんかこう、もう物語が(というかキャラクターが)作者の手を離れてガンガン 動いてしまってる感じがする。制御しきれてないんじゃないの、と。でもまあ それはそれで。お陰でイシュトヴァーンもなんか端役的な扱いになってしまって。 無軌道で面倒くさいから退場させられた、みたいな。 スカールは「俺こんなキャラじゃないんだけどさあ」と言い訳しながら喋る喋る。 作者も止められないのだろう。死期も見えてる感じだしな…… グラチウスが良い感じにヤバさを露見させつつあって、これがまたゾクゾク させてくれる。ひょうきんな爺さんの体をしてはいても、800年を生きる 黒魔道師。スカールの前で見せた酷薄さが印象深い。 いやまあ、それはそれとして、アレですよ。早く次巻を!! @@@@@@@@@@@@@@@@ [JUN]@@@@@@@@@@@@@@@@ (050608)
栗本薫「豹頭王の試練」グイン・サーガ100/ハヤカワ文庫JA/2005/04/15 ついに! 100巻!!! とかそういう数字とは全然関係のない内容なのが何とも言えずグインだよな。 100巻の表紙で裸体に荒縄をかけられる主人公ってどうなんだ。某板では 「乳首がスレる!」とか嫌な話題に。 基本的に99巻と同じ様な展開を足踏みしつつ。おっ、記憶が!?……やっぱ 思い出せませーん、の繰り返し。うーん、じらすねえ。 あんまやってると飽きるぜ。しかしラストに驚きの登場人物が!ていうか あんたこんなとこで何やっとん>黒太子。 ……最近(ここ20巻くらい?)どうも「ヒキ」を意識しすぎなんじゃないの、 と思うんだけどどうだろう。こういうの、最初は「おお!早く!早く次巻を!」 とか思ってたけど、それが「そうでもない」シーンでも取りあえず効果音と テロップでどうにか誤魔化しちゃってる(このあと驚きの展開が!)感じが、 特に前巻と今巻とで強い訳ですよ。 等と嫌事を言いつつ実はこれ読み始めてからもうトイレにも行かずに読み 終わってしまったですよ。やっぱグインが出てると話が締まる締まる。 小説一冊一気読みなんて久々だよホント…… マリウスの歌声に我を忘れて(というかハラスを忘れて)飛び出しちゃう あたり、まだまだこの人本調子じゃないのね、という感じではある。ハラスは せめて安らかに。 マリウスって何のために存在してるのかイマイチ掴めないキャラ(いやなんて いうか……存在感はあるけど、みたいな)だったけど、この瞬間の為に配置されて たんだなーとか思う次第。あとはあのトンチキがあさっての方にグインを探しに いってたり、すれ違ってたり、そういうので引き回されないことを望む。 えーと、つまり、 早く次巻を!! @@@@@@@@@@@@@@@@ [JUN]@@@@@@@@@@@@@@@@
栗本薫「ルードの恩讐」グイン・サーガ99/ハヤカワ文庫JA/2005/02/15 イシュトの手に落ち、虜囚となったグイン。だがウーラやザザの助けを借り、 ルードの森に住まうグールにモンゴール軍を襲わせ、その混乱の隙に逃げ延びる。 グールの子供を助けた事からグールの住処に案内され、その生活ぶりを見て回る 下りなんかはちょっとした水曜スペシャルで、本編の流れからは浮いているん だけど、こういうのが挿入される事で、この「異世界」、ファンタジーの世界に 対する興味がかきたてられる。良いファンタジーっていうのは、読者の脳の中に その異世界を生成する力があるかどうかだと言われているけど(指輪の中つ国が 脳の中から消えなくなったりするあの感覚。或いはウィザードリィの没入感)、 やー、こういうの良いね。読んでて楽しい。 等とマッタリしているうちに、目覚めて以降初めて一人ぼっちになったグインに 自己存在への不安が襲いかかる。あわてて「守護者」の役割を取り戻し、自分の 逃亡騒ぎの隙に逃がしてやった連中の事が気がかりに。だがそこで、イシュトを 甘く見ていたグインに、イシュトの猜疑心の結果が突きつけられる。 だが、それと同時に、豹頭の中の記憶は―――― つづく。 @@@@@@@@@@@@@@@@ [JUN]@@@@@@@@@@@@@@@@
栗本薫「蜃気楼の旅人」グイン・サーガ98/ハヤカワ文庫JA/2004/12/15 ノスフェラスの地から中原へ。 自分の居るべき場所へと砂漠を渡り始めるグインに、 ウーラとザザという、魔界の旅ではお馴染みの道連れが連れ添う。 今巻の表紙を見て久々にブハッと吹き出した。ぱんつ一丁で ムキムキのグイン。あーそうそう、こういうの”も”グインだよなー。 ようやく調子を取り戻してきた豹頭王だが、まだ自分に関する記憶は抜け落ちた ままだ。「以前の」グインが「アウラ」等に関してそうであった様に、全く リセットされた訳ではなく、ただ思い出せないだけ、である様なのが 救いと言えば救い。 途中ロカンドラスの霊に連れられ「グル・ヌー」の跡地を見学したのち、 ウーラとザザを従えて砂漠を渡りきるグイン。だがケス河の河畔で グインを迎えたのは― 中原、「人」の世界に戻るにはまだまだ魔界異界での冒険があるものと (ちょっと)期待していたのだけど、もう事ここに至ってはヤーンもしびれを 切らしたのか、そうは問屋が卸さぬとばかりに主要キャラを惜しげもなく ぶつけてくるのだった。 グイン、うまくやれよ、と祈りつつ次巻に続く。 @@@@@@@@@@@@@@@@ [JUN]@@@@@@@@@@@@@@@@ (2005/01/24)
栗本薫「ノスフェラスへの道」グイン・サーガ97/ハヤカワ文庫JA/2004/10/15 マリウスの魂が強烈に語り歌われる、個人的にかなり印象深い巻。 芸術家の魂、ってやつを、批判でも称揚でもない、だが力強い リアリティで語ってみせる。 足手まといで役立たずで無責任で、と、とかくボロカスに描かれてきた彼が、 その「歌」ひとつでその場全員を納得させるシーンはかなりキた。 皆(僕も含め)目が覚めた様にマリウスを見る。 物語の大きなうねり、って奴の中で、それでも生き残ってきた 各キャラクターが、それぞれ存在感(生き様)をバシバシ示してくる。 サリアの娘をBGMに、タヴィアがイリスを思い出すシーンには、 正直背筋がゾーっと来た。 でもイラストのマリニアはちょっと成長しすぎだと思った @@@@@@@@@@@@@@@@ [JUN]@@@@@@@@@@@@@@@@ (2005/01/24)
栗本薫「ドールの子」グイン・サーガ95/ハヤカワ文庫JA/2004/06/15 栗本薫「豹頭王の行方」グイン・サーガ96/ハヤカワ文庫JA/2004/08/15 ナリスの死による哀しみもリンダの若さを押さえきれない云々。 と言うわけでリンダがここに来て急激に輝きを増している。もう名台詞多し。 「私はだって、ただの何も知らない二十になるならずの世間知らずの未亡人  にすぎないんですのよ」(96巻・p89) とか言いつつハゾスを誘惑しまくるうら若き未亡人(でも乙女)。 ハゾスもリンダも何やらまんざらでもない雰囲気があって、いやー こういう微妙な立ち位置の確認作業(何ソレ)とか燃えるゼーとか思う。 有能な外交官より妖艶な乙女!それは或いは真実かもしれぬ。とか 言っちゃったりなんかしちゃったりしてコノ!という。下からモソモソっと 広川太一郎が登場しそうなノリ。いやマジでマジでー。 リンダって一時期影の薄さ極まってたから、豹頭王の花嫁って言われてもナー、 みたいな感じだったけど、いやいやどうして、ヤル気ですよこいつ! グラチウスによりノスフェラスの激変が伝えられる。不毛の砂漠に雨が降り、 緑が茂り始めているという。荒涼としているが故に美しかったかの砂漠は、 グル・ヌーの毒気無き今、曾てカナンの都を支えた豊かさを取り戻そうと している様だ。 で、まあ、そんなそぼ降る砂漠の中で、あいかわらずボンヤリフラフラ 彷徨き回ってるグインの記憶リセットは、あーこれも「豹頭王の花嫁」への 前哨なのかなー。 何にしてもみんな集まってグインの事をあれこれ話してたり、グインが 野獣っぽかったり、あー、グイン・サーガ読んでる、って感じ。 いや、面白いよ。新刊出たら真っ先に読みたいくらい。 @@@@@@@@@@@@@@@@ [JUN]@@@@@@@@@@@@@@@@ (2005/01/24)
栗本薫「初恋」グイン・サーガ外伝19/ハヤカワ文庫JA/2004/05/15 若き日のナリスの憂鬱。 崇拝される側の、崇拝されるだけで理解されない事への諦め。 フェリシア夫人にそそのかされ、ついカッとなって地方官の娘を弄んでしまう。 全編通して冷静なフリをしているが、その背伸びしているが故の 「行動と感情のズレ」が何とも言えず若く、青く、痛く、魅力的だ。 外伝なんだけど、何となく本編の一部の様な雰囲気。グインの外伝っていうと、 もっと一冊の中に起承転結がキッチリある、サービス満点冒険満点、て印象が 有ったんだけど、これはもっとこう、ナリスの肖像画というか、ナリス好きが ナリスを見て、ああ、やっぱりナリスだなあ……うっとり……みたいな、そういう 需要に向けた作品だと思った。前巻に続き、といよりはより明確に「ナリスもの」 というジャンルの一冊。 ナリスというキャラクターの、その「ナリスらしさ」に久々に触れて、やっぱり この人はこういう青春を送ったんだなあ、とかしみじみと思い返すのだった。 フェリシア夫人との関係とかも、作者のちょっと突き放した様な描き方が心地 よくて、ああナリスらしいなあと思う。この「らしさ」を感じる瞬間ってのが、 こういう長編ものを読むときの快楽の一つだと思うんだけど、どうだろう。 正直読後感は爽やかとは言い難いけど、ナリスというキャラクターが多少なりと 心の中に残っている人は、これを読んで久しぶりに彼の存在に触れてみて欲しい。 @@@@@@@@@@@@@@@@ [JUN] @@@@@@@@@@@@@@@@ (2004/12/16)
栗本薫「消えた女官」グイン・サーガ外伝18/ハヤカワ文庫JA/2003/12/15 サブタイトルに<アルド・ナリス王子の事件簿1>とある。事件簿て! 王子様は名探偵ですか!?流石にクラッときて、しばらく読む気が遠のいて いたんだけど、一年も寝かせてしまっては、と思って読み始めた。 これが結構、というか普通に、「グインサーガとして」面白い。 巻末作者あとがきに、ちょっと地味過ぎたかな、という言葉があって、まあ確かに 地味は地味。でもディーン(マリウス)とナリスという兄弟が、一体どういう風に その子供時代を過ごしたのか、それを垣間見るだけでも結構満足感があった。 こういう「自分の作品世界フォーマットで別ジャンルの話が書ける」なんてのは 作者冥利に尽きるんじゃないだろうか。筆の速度があればこその技だとは思う。 読者としては、長大な「サーガ」に厚みを持たせてくれる、ってのが「外伝」の 魅力でもあり、歓迎したい所。 ナリスは15歳。アルシス―アル・リース内乱から20年。その負い目を自身の魅力で 払拭するチョイ前。マルガ離宮がまだ重苦しい空気を湛えていて、後の華やかさに 包まれる直前。後に惨劇の舞台ともなる……などと思いながら読めるのも、長編に 付き合ってきた読者の特権、の様な気分。 しかしこう、ディーンのナヨナヨっぷりがもう。 「どうしたの、ディーン。感情的に行動してはいけないよといつもいっているだろう」 この後も生涯こんななんだけど。 というか最近はもう開き直って大変。然しこの頃のナリスを神の如く崇拝していた マリウスの姿を見れば、その後の、詳しくは語られていない部分(モンゴール時代) を想像することがより容易になりそうだ。その辺も何れは語られるのだろうか。 リギア17歳がまたイイ。男装の麗人喋りに萌える。 「そうですとも。ああいう女の子たちが、きれいな王子様だの、それから勝手に  『きれいな王子様』だと決めた私みたいなのにどういう夢を描いて、どういう  身勝手な妄想をして、どういう期待をもつか――ほんとに、《自分》、自分  ばっかりですよ。それで、そういう期待にこたえないと、もう、冷たいだの、  ハチの頭だの」 リギアも結構苦労してる。色恋も知らぬげに、と思ってたらもう女官に手をだしたり してるらしい……リギア……やっぱなー。でも明るくて豪放磊落でアッサリしてて 前向きで。ヴァレリウスとデートしてたころのリギアを思い出すなあ。遠い日だ。 ま、それなりそれなり。「ナリスもの」として、面白かったですよう。 @@@@@@@@@@@@@@@@ [JUN] @@@@@@@@@@@@@@@@ (2004/12/15)
栗本薫「熱砂の放浪者」グイン・サーガ93/ハヤカワ文庫JA/2004/02/15 栗本薫「永遠への飛翔」グイン・サーガ94/ハヤカワ文庫JA/2004/04/15 げらげらげら。いや失敬。 でもやっぱ笑うよな。皮肉じゃなくて。気持ちよく。 ここまでの展開をずーっと読んできた読者にとっては 「ああ、やっぱそうだったのネ」的な、驚く様な展開ではないけど、それでも 今回グインの「正体」(の一部)が確定した訳で、それなりの感慨がある。 パロの古代機械によって、アモンともどもノスフェラスに飛ばされたグインは、 ちゃっかり追いついてきたグラチウスの誘いによって、死の谷グル・ヌーへと 導かれる。放射能満ちる毒の障壁の前で逡巡するグラチウスを後に、今度は 入寂して果てたはずのロカンドラスがやってきて後を引き継ぎ、グインを グル・ヌーの中心「星船」に連れて行く。墜落より三千年、主人の帰りを待って いた船は、主人を迎えて活気づく。星船のコンピュータの語る言葉の端々から、 グインは己の正体を知っていく。”廃帝”グインはこの船の船長だったらしい。 ノスフェラスのどこかに飛ばされていたアモンも星船に乗り込み、二人を乗せた 船はグインの発する特殊磁場(なんか出てるらしい)を受け止めるために浮上、 宇宙にでて一路故郷ランドックを目指そうとする、が…… えーと。つまりグインは宇宙人だったわけですよ(爆)。みたいな。女神たる 嫁に追放された元”調整者”で、その昔地上の大都市カナンを滅ぼした(原因の 一つとなった)宇宙船の船長で、転送のショックで記憶が無かった、って訳。 宇宙船は地中に埋まってて、船長が帰ってきたからって地面を割って発進。 流石は宇宙戦艦。グインも頭を抱えていたが、読者はもっと頭を抱えてる。 いやもうこの上なく楽しいんですが。この辺の独特の喜び方は、グイン読み ならでは、かも。いやもう星船周りのメカ描写というか”SF”描写のゆるさは ちょっと古今希に見る出来なので、その辺も是非楽しんで読んでいきたい。 ・コールドスリープ方式で凡銀河にわたって正義を執行する調整者ってのも  気の長い連中と言えよう。 ・宇宙船発進”理由”の下りはもう少し何とか……特殊磁場云々の所は正直  よくわかりませんでした。 ・外宇宙をわたる絶対生物を「冷凍」する下りとか好きだ。アモンは星船の  力を借りなければ宇宙に出られなかった=重力から逃れられない?んだから、  このままバリヤーとかで閉じこめて手近なブラックホールに落とし込むのが  良いんじゃないかと。 で、まあ何千年も前にフラレタ(らしい)前妻より今のケイロニアの妻の方が いいなァとか言って転送範囲ギリギリの所を無理矢理転送されて帰ってくれば、 「俺は――誰だ?」 またか!面白すぎる。早く続きが読みたいわ。いや、本心から。 ……なんかこの文章読むと凄い皮肉ってるみたいだけど、ちゃうねん、と。 ホンマに面白いんよ。もう全てが「味わい」になってるというか。全肯定。 いわばターンエー。 ここ暫くグインを読んでないという人にネタバレ込みで話してみたら、星船発進 の下りで「なんか”おたくのビデオ”みたい」と言っていた。ああ、的確だ。 @@@@@@@@@@@@@@@@ [JUN] @@@@@@@@@@@@@@@@ (04/04/26)
栗本薫「復活の朝」グイン・サーガ92/ハヤカワ文庫JA/2003/10/15 あっけなく。 あっけなく悪夢は(ひとまずは)去った。 前半で「あの」古代機械の細かい描写が出てくるけど、文章を見る限りは 結構普通のマシンの体をしているようだった。扉絵の生命っぽい絵はちょっと違うの では、と個人的には思う。もっとこう、ありふれた既製品のようなものの方が面白い。 シャットダウン処理をするあたりとか(多分わざと有りモノの用語を使っているの だろう)に興味を覚える。ヨナがコンソールでタイピングしてるあたりからして、 なーんか…… アモンに対してグインが語る、彼の「人間観」がズシリと来る。弱いがこその崇高さ、 という様な。はかないからこそ気高い。でもそういう「価値観」を共有できるのは結局 そういうモータルな存在にだけなんじゃないだろうか。なまじ人の知性を取り込んで しまったが故にアモンには「それ」が効いたのかもしれない。 で、まあグインはアモンと一緒に古代機械によって「どこか」へ転送されてしまった。 以降、事後処理の描写が延々と続く。荒れ果てたクリスタルに留まった ケイロニア軍の協力もあって、復興は始まっている。 イシュトヴァーンは”追い銭”を貰って彼の都イシュタールに(あの国も描かれ ないだけで、屹度色々あったろう。これはこれで興味がある)帰ることに。 去り際の旧友ヨナとの対話シーンが、淡々としていて逆に泣けた。 イシュトの「ああいうところ」がちゃんと残ってるってのが、また切なくて。 「それはもう、友達でもなんでもなくなってしまうんだよ」 「友達」というのは、実際維持していくのは難しい。間に利害が絡んでしまうと、 それはもう友達ではない。「友達」でいる、というのは、だから互いに繊細で 無くてはならない、と最近つくづく思う。或いは桁外れにルーズであるか。いや、 奢る方はそうでもなくても、奢られる方は、どうしてもね。そういうのが積み 重なって、気がつけば「友達」ではなくなってしまう。気をつけよう(何の話だ)。 然しまた主人公不在のシリーズになっちゃったら寂しい様な。でも今はイシュトも ヴァレリウスも充分主人公格だからいいけど。個人的には最近のイシュタールの 様子なんか気になるので、その辺を描写してくれると嬉しいのだけど…… ではまた @@@@@@@@@@@@@@@@ [JUN] @@@@@@@@@@@@@@@@ (04/01/08)
栗本薫「魔宮の攻防」グイン・サーガ91/ハヤカワ文庫JA/2003/08/15 92巻を読む前にざっと読み通す。 魔宮の奥深くで繰り広げられる、アモン対グインの攻防というか舌戦というか。 またアモンお前喋りすぎやろ、という感じもなきにしもあらずなんだけど、お陰で 設定が色々と明らかに。 今巻個人的に最も大きかったのはアレクサンドロスの容姿等に関する語りで、 アレクサンドロスも豹頭でした、彼も「調整者」でした、そしてグインも、みたいな まあグインに関しては前々からの設定を裏書きした事になるわけで、いや、いよいよ SFじゃん!とか(願わくばこのまま光瀬SFみたいな味わいで終わって欲しい。 クトゥルー方面に開口しないで、って、無理かねえ。いや僕そっちの素養がない からさ)。 また同時に最大のツッコミどころでもあろう、アレクサンドロスの容姿について 今まで触れられてなかった件に関しては、多分レムスとかクラスの王族じゃないと 知り得ない(ナリスでも駄目だったのか)情報だった、って事なんだろうなあ。 古文書とか。 取りあえずアドリアンは助かって良かったネ! さー、さっさと92巻に取りかからなきゃ。 ではまた @@@@@@@@@@@@@@@@ [JUN] @@@@@@@@@@@@@@@@ (03/11/04)
栗本薫「悪魔の王子」グイン・サーガ89/ハヤカワ文庫JA/2003/04/15 栗本薫「恐怖の霧」グイン・サーガ90/ハヤカワ文庫JA/2003/06/15 いよいよ90巻。あと10冊で100巻だ(外伝を含めればとうに100を越えているが)。 ナリス亡き後の中原問題が、グインと”悪魔の王子”アモンとの対立という形で 今後の軸を定めていく。急がず、焦らず、だが以前の様な停滞感は無く、ただ 黙々と活字の量だけ時間が経過している感じで、読みやすい。ヒキもわかりやすく 且つイヤらしく、この開き直ったかの如き「連載」っぷりが気楽でいい。 マリウスも、リンダも、ヴァレリウスも、彼等の中心だったナリスを失い、その 代わりにグインという巨大な太陽の周りに配置された事で、また安定して輝き 出した。何となくこれが彼等の「本来の」あるべき場所なのだ、という様な感じ。 まあ各キャラに深み(ドロドロとした内面)が減ってるってのは多分にあるけど、 でもそれは描写レベルを引き上げないとスピード感が落ちるからでもあろうし、 大体ケイロニアベースで物語が展開してるときはこんなものだ。銀英伝の帝国と 同盟の描写のノリの違いみたいな。 適度な驚異、適度な強敵、適度な気持ち悪さ、適度な笑い、全てはこの豹頭王を 際だたせる為のアイテムに過ぎないかの如く。いやそれはそれでいい。嘗ての 「おいおい、何処へ行こうとしてるんだこの話は!?主人公はどこへ行った!?」 みたいな、拒絶半分興味半分で読んでた時期も、今となっては妙に懐かしい。 作者も勝手なら読者も勝手なものだ。 ただ一つ、シルヴィアを除いては……キャラの深み、というか「痛み」の描写で 筆を走らせると実に巧い栗本節が、90巻ではここに集中している。ああ、こう なってはもう、本当に”あの”外伝の語る如くなってしまうのか…… そのシルヴィアの哀れ極まる「***が****!」な姿と同じ巻で、主犯たる ユリウスやグラチウスを”憎めない”タッチで描いてしまうのも(どこまで自覚 しているかは兎も角)実にイヤらしくていい。人の心は、所詮そういうものだ。 それはグインでさえも。「健全」だからこそ、決して理解できないであろう シルヴィアの闇を、グインは今回のようには斬り捨ててしまうかもしれない。 いや、シルヴィアはねえ、もう可哀相と言うしか。明らかに病人なんだけど、 あの健全を絵に描いた様な国じゃ、精神医療だけは発達してなさそうだしな…… ヴァレリウスも気がつけば大変な位置に立っていたりして、悲しみを胸に秘めて 遠い目で笑いながら己の本分を果たそうとしている。フードをまぶかにかぶって 口元でニヤリ。これだ!これがヴァレリウスだ!いやーなんかこういうキャラに なる予感は有ったんだよなー。過去を背負うことで魅力を増すのだ。 で、また話題の90巻あとがきな訳ですが。然しホント、(慣れたとはいえ)この あとがき誰に向けて書いてるんだろう。いや別にいいんですよ。お話は面白いん だから……としか言えないわな。でもホント、この人「忘れられない」んだなあ。 神の最大の恩寵は忘却だというけど、身体的に「忘れられない」(昇華できない) っていう人は居るわけで、そのときの感情とかも全部覚えてる(過去を美化しない) タイプの人は、人生辛いだろうとも思う。粘着質、だからこそ100巻に手が届く シリーズを描き続けられるのであり、それはもう「そういうものなのだ」としか 言えない。良いも悪いもない。だから、「あとがきなし版グイン」っていうのが 出たとして、そっちを買うかというと、あとがき付きを買っちゃうと思う。 アレも込みでの「グイン・サーガ」な訳ですよ。 ではまた @@@@@@@@@@@@@@@@ [JUN] @@@@@@@@@@@@@@@@ (03/07/10)
栗本薫「宝島 上」グイン・サーガ外伝17/ハヤカワ文庫JA/2002/10/15 栗本薫「宝島 下」グイン・サーガ外伝17/ハヤカワ文庫JA/2002/11/15 何故”ヴァラキアのイシュトヴァーン”が、海を捨て、内陸深いスタフォロス城 に至ったのか、その「海との別れ」の発端の様な物語。面白かった。 兎に角素直にスラスラと読め、尚且つ「あー、なるほどな、そう言うことがあった のか」と納得させる内容。何というか、時間に沿って淡々と(悲惨な事態が) 展開し、終わってしまう。驚くほど「そつがない」感じ。 決定された歴史を埋めるには、あんまり無茶も出来ないって事か。 いや、つまらなかったとかそういうんじゃなくて。面白かった。普通に「宝島」 ものとして読んでも、面白い。海賊とか呪いとか宝物とか。 外伝の持つ「あやしげな」感じがちゃんと出ていて良い感じなのだった。 いや、ま、ちょっと抵抗(ひっかかり)が無さ過ぎて、これ以上語る事も無いんだ けど、ひとつだけ。あとがき(以前の調子を取り戻しつつある様だ)にサイデンの 名前が!高校生の頃からサイデン激ラブの拙者としては、それだけでもう。 あー、作者サイデンの事忘れてないよ!サイデンよかったねえ。 そんな感じで(どんなだ) @@@@@@@@@@@@@@@@ [JUN] @@@@@@@@@@@@@@@@ (03/04/04)
栗本薫「ヤーンの時の時」グイン・サーガ87/ハヤカワ文庫JA/2002/12/15 栗本薫「星の葬送」グイン・サーガ88/ハヤカワ文庫JA/2003/02/15 アルド・ナリスが死んだ。 だが、悲しみというよりは「ああ、良かったねナリス、やっとグインに会えて」 みたいな感想の方が大きかった気がする。正直、一時期のド暗い雰囲気を思えば、 ナリスとグインは会見を持たないままで終わりそうな勢いだった訳で。それが 叶っただけでも、ヴァレリウスじゃないが、なんかこう、ちゃんと「終わらせ」 られたなー、という、妙にストンと落ちた感じがある。その「後片付け」たる 88巻も、巷では「まだ葬式やってんのかよ」とか言われてるみたいだけど、これは これで(僕には)必要だった。というか、後半はきっちり次の展開へ向けての 整理・仕切り直しが始まっているわけで、ヴァレリウスもリンダもいつまでも ボーっとしてんじゃねえよ、という感じ。グインにばっか頼ってちゃ駄目だぜ。 ナリスがグインの頭に触れ、その実体の感触に涙している姿を見て、僕も思わず ウッとなってしまった。彼、グインの存在の奇跡こそは、何よりもナリスにとって 憧れをかき立てるものだったであろう。それに遂に手を触れられた、その感動や 如何ばかりか。 ナリスもねえ、正直そんな好きじゃなかったよ。何度も騙されてきたし、あの (インタビューを受ける竹中直人並みに)いつも演技をしている様な感じが どーにも苦手だった。ケイロニアとかモンゴール(ゴーラ)とかの、こう地に足の 付いた感じの描写が好きな身には、あの「パロ」をそのまま一つの人間にした様な、 妖しいキャラはどうにも馴染めなかった。いや、正直、最後まで。 でも、良かったねえ、どんな身体になっても、頑張ってきた甲斐があったねえ、と。 会いたかった人物に会って、自分が探求してきた事に誤りが無かったことも解って、 中原の未来を託すべき人に託せて。そりゃ心残りではあったろうが、この展開の中で アムネリスの様に「繋ぎ」として書き捨てられるのではなく。 88巻のラストを包む濃密な静けさ。 葬式って奴を何度か体験した身には、この(あまりに日本的な)葬式風景が、 ちゃんと染みる。葬式の内側、身内の、あの脱力した感触、予想外の弔問客…… 悲しみと喪失感と、しかし「もう終わってしまったのだ」という、ホッとした様な 雰囲気が、夜の中に満ちていて、某人の通夜を思い出させる。 人が死ぬ、ということに対する、定まらない感情のブレ、そして、一つの「終わり」 の安らかさ。その空気感が、異世界ファンタジーでありながら、あまりにリアル だった。 「星の葬送」を作り上げた、あの場に集まった民衆達には、また明日があり、毎日を 生きていかねばならないのだ。然し、それはそれとして、「けじめ」の瞬間に立ち 会っておかねばならぬ、という気持ちは解る。一つ「区切り」をつける様な、巧く 言葉にはならないが、その行動には共感する。 あの「地上の星」の光景は、矢張り魂を揺さぶらずには居らない。 なんか、ホントに静かな気持ちになった。 いやー、でもリンダとイシュトの「霊前ですよ!」プレイは妙に興奮した。 「ああ、だめ、だめよ、やめて……」って。流石に笑ったが、でもその心情はよく 解る。失ったモノをうめたい者同士が居れば、そういう事は自然だ。焼けぼっくい に何とやら、今回はまだその辺深い描写は無かったけど、なーんか、この辺やっぱ 伏線?スカーレットの様に、イシュトについていってしまえ!とか一瞬思って しまったが、やっぱその辺、お姫様はなあ。中原の平和にはそれが一番だが。 あとフェリシアの妖艶美女っぷりをいつか描いて見せて欲しいものだ。それはもう 本当に美しかったのだろう。今の佇まいを見ていても、それは解る。リンダが 嫉妬するのも可愛くて良い。あ、マリウスの駄目っぷりも相変わらず素晴らしい。 やー、こうやって色んなベクトルに突出した連中が一同に会してみても、グインが 立っているだけで、何か安心だって気がするのは、いや流石にこの物語は 「グイン・サーガ」なのだなあとか思う。 何れにせよ、グインを主人公に据えることで、栗本薫は、いや、グイン・サーガは 復調を果たしたと思うが、如何。 @@@@@@@@@@@@@@@@ [JUN] @@@@@@@@@@@@@@@@ (03/03/20)
栗本薫「運命の糸車」グイン・サーガ86/ハヤカワ文庫JA/2002/08/15 読むのが惜しくて先延ばしにしてたけど、漸く読んだ。面白かったよ…… 「かもしれぬ」「あるいは」が相変わらず多いけど、それもグインらしさだし。 兎に角レベルの高い一冊だった。やっぱグインが出てくると締まるよ。 あとがきでも言及されている様に、ただケイロニアの連中みたいな「常識的」な 人達だけが出てきても「物語」は展開しない訳で。電波野郎達が無茶をやって、 「ドラマ」が展開して、そこにグインがやってきて王道を!という快感。 イシュトが「覚醒」させられていく様な下りは(乗せられていると解っていても) 非常に快感だった(でもゼノンとの戦闘シーンとか端折りすぎでは……もう その辺は展開上邪魔なのか)。 今巻あとがきがまた良いのよ。引いた視点で作品を語ってて、でもなんか往事の 栗本節が効いてて。こりゃー完全復調って感じなんでしょうか。読後感も良いし、 ヒキも良いし、あの苦しい時期を乗り切った甲斐があったというものです。 みんな諦めちゃ駄目だ!グイン読もう!たった86冊だ。 それにしても光の公女の最期の哀れなこと。冒頭からここまで、辛酸を嘗め 尽くして、それでも生きてきて、挙げ句この最期。まだ24,5の若さで。 でも最期まで、好きにはなれないキャラだった。それはそれで凄いことかも。 ここまで一緒にやってきた重要キャラを、ごく脇役の如き描き方で退場させて しまう。これこそ栗本薫。ここまで持ってきて(生かしてきて)おいて、情も無く 切り捨てられる。この乾いた感じ。普通こんなあっさり殺さないでしょう。 あー、結局、この作品世界のキャラクターは、もう作者の演出意図の外側で 「生きて」いるのかもなあ、という感じ。作者が「あっこんな死に方はちょっと」 とか思っても、勝手に死んじゃう、んじゃないかと。然しこの後カメロンが大変 そうだな(不倫説がイシュトの中で再発するのでは)。ガンバレ。 物語が(そして或いは作者が)安定しているのはひとえにグインの登場によるもの と思える。ラストの一騎打ち(グイン一人勝ち)のシーンは、何か美しい映像を 見ている様だった。まだキタイの呪い(催眠)は消えてないみたいだけど、さて この先どう展開するのか……ていうかさっさとグインとナリス会わせてやってよ 頼むから。 さー次は外伝かー。またそのうち。 @@@@@@@@@@@@@@@@ [JUN] @@@@@@@@@@@@@@@@ (02/10/30)
栗本薫「劫火」グイン・サーガ84/ハヤカワ文庫JA/2002/04/15 栗本薫「蜃気楼の彼方」グイン・サーガ85/ハヤカワ文庫JA/2002/06/15 84巻冒頭のリギアのうろの来た下りがちょっと読みづらくて放置していたのを、 休みの日を使って二冊一気読み。一気読みできるだけの牽引力がちゃんとある。 リギアの描写は作者の愛憎が籠もっているというか、がんばっても所詮は女、 みたいな悲しさが有って、説得力はあるけど、読んでいて辛いのだ。 あとがきの歴史的な面白さはまあ置くとして、これだけの巨大な物語がちゃんと 「理にかなった」展開をしている事に素直に感動する。 血まみれでナリスの部屋に飛び込んで、途端に弱腰になるイシュトとか、 その違和感が後で「ヤンダルの後催眠」で「謎解き」される快感、みたいな。 読者的にはその辺の考証はどうでも良くて、たとえその「謎解き」が ワイルドカードを使ったモノであっても、要はどれだけうまく納得させて 呉れるか(騙して呉れるか)が命。後付でもいいんだ。 そういうのが「読み応え」に繋がる。 然し実際、正伝だけで85巻ですよ。本棚の一区画が全部グイン。物語が作者を 導く、とかいうけど(些細な記載ミスこそあれ)これだけの「うねり」を 制御できるというのは、矢張りこの作者を置いて他には無いのではないか、と いうのが正直な気持ち。今の作者はどうか知らないけど、最初の設計図を引いた 時の栗本薫、は天才だった、のだと思う。 読んでいて思ったんだけど、人命には軽重があるんだよな、とか。 戦場で英雄が活躍する、というのは、辺りを血の海と化す、と言うことで、 それは数の差こそあれグインもイシュトも同じ事。マルガでの殺戮シーンの 執拗な描写は、イシュトの「悪役」っぷりを表現していて、それなのに アリーナ村での会談では、それぞれの殺戮集団の長、が苦笑をまじえながら 懐かしい友の様に(いや、本当に彼等は懐かしい友なのだ!)のんびり会談を している。或いは狂王イシュトを前にしてさえ、彼の「更正」を望む嘗ての友。 その異様さ。 彼等の後ろには、無慮大数の無辜の民の血が流れている。それを思い出させる 描写も多い。それでも彼等は友として、敵として、「文化的」人間的な関係を (どうにか)続けている……戦争時代、というのはつまりこういうものかと。 (例えば、ゼノンの苦戦を予測していながら「良い経験になる」とか言ってしまう  グインとかね。その「良い経験」の下には死ななくて良い兵士も居る筈で。でも  戦争を職業にしていた場合、そう言う風に考えるのは普通なんだろうなあとか) とまれナリスも元気が出てきた事だし、次回はイシュト対グインだし、あー、 そろそろ新刊出るんかなー。あ、外伝?キタイかな。そろそろまた「対キタイ」 のレイヤーで展開するのかしら。 ホント、素直に次巻が楽しみなのです。 @@@@@@@@@@@@@@@@ [JUN] @@@@@@@@@@@@@@@@ (02/08/07)
栗本薫「嵐の獅子たち」グイン・サーガ83/ハヤカワ文庫JA/2002/02/15 いやー今巻も面白かった。面白かったんだけど、白眉はやっぱりあとがきで。 ”「源氏物語」を書いている最中の紫式部に「最近の展開は気にくわない」と  文句をつけるやつってのはいたんでしょうかねえ。いま、「源氏物語」に対して  そういうアヤをつける人ってのはまずいないでしょう。それはもう、確定した  人類の文化遺産なのですから。自分がしてるのは、ありきたりの連載小説の  ただばか長いやつを書いているなんていうんではなくて、人類の文化遺産を  建設してるようなことなんだっていう自覚を私がもっと持っていれば何の  問題もないことだったんだなあと思います――”(p307) これって多分「突っ込み待ち」なんだと思うんですよ。そう思いたい。 さてその文化遺産にも喩えられる「グイン・サーガ」という長いお話の中では、 今巻は(も)重要なターニングポイントになっていて、中盤、例のヒゲオヤジと イシュトの一騎打ちシーンなんざもう「ここぞ!」というシーン。その後ゴーラ 王に訪れる「一瞬の平穏」が、もう死ぬ間際のお情け、みたいで非常に怖い。 怖い、というか、うう。 ホントならたぶんもちっと「自由の気分」を味わうか何かさせてやってから 一気に蹴落とす所なんだろうけど、兎に角もう残りがあんまり無いからなあ。 展開結構キツキツ。痘痕も靨かもしんないけど、それはそれで読めてしまう。 長年の読者故か。 然しなんかスカールただのばかちん見たいに描かれているがあれはどうなのか。 「男である」ことに固執しすぎな気もする>スカール。まーそれが彼の選んだ 「最後の生き方」なのかもしれない。何となく。 ヴァレの方も前よりもっと「なりふり構わぬ」姿になってきていて、あー、状況 は刻々とテンパってきている。唯一グインと、ケイロニアだけがまとも、と いうか。 ユリウスの言う、グインはリンダの事が本当は……というのは、読者達の中では 延々語られ続けてきたことで、とうとう作中にダイレクトな表現が出た!という インパクトがあった。これはこれで気になる…… あー、いや、皮肉抜きで、早く次が読みたい。麻薬的に。 @@@@@@@@@@@@@@@@ [JUN] @@@@@@@@@@@@@@@@ (02/02/17)
栗本薫「アウラの選択」グイン・サーガ82/ハヤカワ文庫JA/2001/12/15 感想書き忘れてました。 この巻、見所はまーリンダとグインの再開、とかアドリアン大活躍、とか古代 機械適当すぎ、とか有るんだろうけど、個人的にはもうグインとレムスの対話! あの対話を通して語られた内容が、かなり鋭いところを突いていて、傑作だった (「コミュニケーション不全症候群」並み)と思うんだけど、書くタイミングを 逸した……惜しい。ので、以下付箋貼った所から抜書き。メモ程度。 冒頭、「お前が笑えと命じたときに笑い、お前が踊れといったときに踊る、魂なき 人形だけ」に取り囲まれているレムスを哀れむグインに「それのどこが、いけない んでしょうか?」と問い返すレムス。グインは一瞬返答に詰まる。 「俺は――それでもなおそう思う。……俺はたとえどのようにおのれが苦しんだと  しても……理解を得られなかったとしても、それが不当だと思ったとしても――  あるいは、それが不当だと知っていてさえ――やはり、俺は……相手は人間で  あってほしいと思う……人間なればこそ、おのれの意志によって苦しんだり……  憎んだりもする――ゆきちがい、すれちがい――一方的に要求を叩きつけても  くる――だが、それだからこそ……」 「そう――たぶん、だが、それだからこそ、すべては正しいのだ。人形たちは判断  することをせぬ――」 「かれらはもうお前を二度とさげすんだり、わずらわせたり、反逆したりすることは  ないだろう。お前は安泰だろう――だがそのかわり、お前はまた二度と、その  おのれをさげすんだり、反逆したり、かろんじていた相手に、おのれの成長を  認められ、相手が自らの誤謬をいさぎよく認めてお前を受け入れた、という  喜びに出会うこともなくなってしまうのだ。」 この至極真摯でまっとうな回答に、レムスはレムスなりの真実で反論する。 「ぼくにいわせれば、そんなのは力をあらかじめ持った人間の贅沢な傲慢なたわ  ごとにすぎないけれど。あなたにはわからないですよ、グイン。」 レムスの言い分解りすぎる。グインの言うことが「正しい」のは明かで、レムスの 言い分がグインの前には歯が立たないことは見え見え。でも、レムスの言うことも 物凄く「わかる」。アンタには一生わからないだろうよ、惨めな自分の気持ちは! グインの「自信」に無性に腹が立つ。解る解りすぎる! 「あまりにご立派すぎて、ヘドがでそうだ」 レムスの哀れさ、惨めさ、卑小さ……全く「自信」が持てない、のに、血筋だけで 「王」となってしまい、追従と陰口の中、誰一人信じられなくなってしまった、 流されやすい、気弱なごく普通の少年なのだ、レムスの「本体」は。その引き籠もり 系マイナス要因の塊みたいな姿は、もうおぞましいんだけど、実に良くわかる。 分不相応な自尊心を持つ少年が、内側から自信に満ちた「大人」を前にした時の、 このあやふやな言動が実にリアルだ。「アンタには解らない!」でも助けてホシイ。 ホントは素直になりたいんだけど…… この作者のこういう感性がたまらなくイイ。実際あの年齢になっても(失礼ながら) 未だにそういう「ヒネてスネた」少年の気持ちを、今まさに「そう」であるかの 様に語れるのは流石という他無い。 悪魔の子供を産まされ、狂気に追いやられた妻アルミナを人形の様に変えたレムス。 「それ以上どうしろっていうんです?ほかに道はなかったんですよ。すべてか無か、  そのはざまに立たされたとき、あなたならどうするんです、グイン?」 「俺ならたぶん、すべてか無かという選択を強いるような環境そのものと戦って  それをうち破ろうとするのだろうな」 グイン……レムスが逆上するのも解る。 この巻のメインはp168からの、グインがレムスを見限る下り。これは痛い! あーなんかもーレムスなんですけど>自分。完全にレムス側。 「あんたは良いよ、最初から何でも持ってて!俺には何も無いんだ!(だから  チャンスが訪れたとき、罪を犯してでも奪い取ったんだ!それのどこが悪い!)」 とまあそう言うこと。 「本当のぼくの気持ちなど何ひとつ考えても、わかってもくれやしないんだ!」 「餓鬼だな、小僧」(p172) ここからレムスの「正当性」をはぎ取って行く下りは実にもう何というか。 自分の都合の良い様にしか物事を考えられない餓鬼っぷりが露わに。 あー、やっぱレムスだよ!! レムスが「どうなるか」でこの作品の価値は全く変わる。 納得できる展開で、レムスを「大人」にできるかどうか。ごく普通の青年である レムスに、余りに重い荷だが、それを自らの力で(納得できる展開で)克服できる かどうか。それが(個人的には)今後の注目点となっていきそう。 更正してね…… (そしていつまでも餓鬼のままの自分をレムスに仮託して救済の快感を得ようと  言う、真の意味での”餓鬼”が私だ!) @@@@@@@@@@@@@@@@ [JUN] @@@@@@@@@@@@@@@@ (02/03/12)
栗本薫「魔界の刻印」グイン・サーガ81/ハヤカワ文庫JA/2001/10/15 前巻の続き、というか。パロ領内に入ったゴーラ軍とケイロニア軍は、レムス (或いは竜王)の策略でぶつけられそうになる。ケイロニア側の鮮やかな逃走! で取り敢えずの衝突を逃れたグインは、手兵を連れてレムスとの会談に臨む。 淡々と展開されるレムスとグインの対談。グインはレムスの向こうにありありと キタイの竜王の臭いを感じており、間もなく竜王が姿を表す――思ったより静かな 対面となっていた。拍子抜け、っていうんじゃないけど、ふーん、竜王ってこんな 感じなのか、と。 グインにとっての「正義」とは何か、という語りの部分が非常に面白かった。 正義は時代の流れの中にある、自分はケイロニアの為に正義を行うのであって、 中原そのものやパロの内政に干渉しようというのではない、たとえナリスが 殺されようと、パロが魔導の王国になりはてようと、ケイロニアに害が及ばない 限りは―― その生まれ持った絶大な能力故に、自分の心が「絶対正義だ」と囁く部分に懐疑を 抱いている。その辺の、何て言うか、率直さというか、グインらしさが好き。 竜王も何か哀れを誘う部分があって、うーん、どうなるんだこの先。 あとがきは成る程丁度良いバランス。今後ともWebサイトでどんどん毒吐いて あとがきではこの程度の温度であって呉れれば。 @@@@@@@@@@@@@@@@ [JUN] @@@@@@@@@@@@@@@@ (01/11/10)
栗本薫「ヤーンの翼」グイン・サーガ80/ハヤカワ文庫JA/2001/08/15 ふーやっと読み終わったよ。いや面白いですな。話の展開もサクサク進んでて、 でもその中にヴァレリウスとグインの久方ぶりの対面があったりとか、タルー (もうやつれ果てて……惨めというか……容赦無いよな)の死があったりとか。 あんな山奥の洞穴で最期を迎えたタルー軍の思いやいかばかり。妙に印象深い。 イシュトが出てくると画面が寒くなって、辛ーい気分になるんだけど(イシュトが 機嫌がいいとホッとしてみたり)、グインが出てくると妙に暖かくなるのとか、 もうこの辺完全に作者の掌の上で転がされてる読者です。うーん。いや、面白いよ。 タルーについて自分たちを襲った謎の用兵軍団(どうもゾンビー兵らしい)の 情報を求めて、中原の中立地帯からパロ国境内のシュクへと兵を進めるイシュト。 そのゴーラ軍を再び謎の軍団が襲う!と言うところでつづく。81巻読もー。 @@@@@@@@@@@@@@@@ [JUN] @@@@@@@@@@@@@@@@ (01/11/10)
栗本薫「ルアーの角笛」グイン・サーガ79/ハヤカワ文庫JA/2001/06/15 「これまでの七十八巻というのは  壮大なるプロローグでさえあったのではないか」 と、あとがきにある。 いよいよ始まるのだ、「大戦」が。 その、いよいよ始まるぞ、という、これが合図の「角笛」という訳だ。 状況自体は予定通り順当に進んでいて、これという展開は無いんだけど、でも ここから始まる戦争は、もう「全てが終わるまで」終わらない。 「いま、その長き獅子のやすらぎを破るときがきたと告げねばならぬ。  ルアーの角笛はいくさ近きを告げて燎原に響き渡り、いまやまさにパロの  戦火はわがケイロンの裾野にまでも及ばんとしている。たつべきときが  きた―」(p92) ゴーラ・ケイロニアそれぞれが、それぞれの思惑でパロの「内戦」に対して 兵を送る。それも、王自らが率いて、だ。ゴーラ王イシュトヴァーンの方は、 この機会に一気にパロをも自分の版図に納めてしまおうとして居る様だ。一方 ケイロニア王グインは、まず全体の状況を見定めんとパロ近くまで南下中。 パロの向こうに居るキタイの竜王の影を追いつつ、ナリスとの接触を考えて いる様だ。そして仮死より蘇ったナリス(何かちょっとやばそう)は、 ヨナ・ヴァレリウス等腹心と、クリスタルに対しての状況を図っている・・・ いやそれにしてもケイロニアがステキ過ぎる。 老いて尚堂々たる体躯のアキレウス大帝と、その”息子”グインの巨体が 並び立つシーンの美しさ、居並ぶ諸将の晴れがましい気持ち、それを見守る 国民の誇らしさ、等々が伝わって、実にもう、イカス。 あとがきでもケイロニアの堂々たる軍勢の描写(及びその他の軍の描写)に ついてはちゃんと「こういうのが描きたかったんだ」と言及していて、その辺も 含めなんだかまるで憑き物が落ちたが如きさらりとしたあとがきに。 いや、「(爆)」のない文章がこんなにも美しいものだったとは!「(笑)」も こうやってちょこっと書かれるだけなら本当に可愛げがあって華やかで良い。 ああ、この調子で行ってくれ、と、いや別にあとがきが作品自体に影を落として いたとかそんな事は無いんだけど、やっぱり単純に嬉しいと言うか。 ケイロニアが主だからか、作品自身の文体も「グイン・サーガ」の本流を堂々と した口調で語っていて見事。以前の作品の調子の「揺れ」を、その時々で全く違う イシュトヴァーンの印象の解説や、あとがきでもそれとなく触れていて、ああ もしかしたら作者も「時代に流されてたなー」みたいにふと客観視する瞬間が (或いは反省として?)有ったのかも、とか思ってしまうけど、まあそれはそれ。 以下雑感 ・自分を置いて行ってしまうのか、「仕事と私とどっちが大事なの!」と  ごねるシルヴィアに手を焼くグイン。つーか扱い下手すぎ。  何となくシルヴィアに作者の愛が入ってる気がしてしまう。可愛いのだ。  可愛い、というか、本当に可哀想で、グインじゃなくても守ってやらなきゃ、  幸せにしてあげなきゃ、と思ってしまう。この子の「自立した笑顔」を見る  までは、俺は終われないぞ、というか・・・でもそれは「父性愛」。  それにしてもあのグインの態度はどうなんだ!俺ならもっとこう・・・!とか  思ってしまう程に、シルヴィアのいとけない感じがたまらない。でもやっぱ  こういう子は、自滅していくんだろうな・・・売国妃へ・・・いや、うーん。  戦場に連れて行く訳にも行かないだろうけど・・・あれだけ「かまって音頭」を  踊っているシルヴィアにツッコミしか入れられないグインはどうかと思いました。 ・太古王国ハイナムのくだりも、あーこれこの後噛んでくるんだろーなーと  期待させる。やっぱグインは「妖しさ」もないとね。 何にせよ、中原全体を巻き込んだ大戦は、今その端緒が開かれたばかり。 あと20巻じゃとても完結すまい。それが、嬉しい。 あとがきの(爆)が無くなるなら文字サイズが大きくなった事なんて気にしない @@@@@@@@@@@@@@@@ [JUN] @@@@@@@@@@@@@@@@ (01/06/20)
栗本薫「疑惑の月食」グイン・サーガ77/ハヤカワ文庫JA/2001/02/15 栗本薫「ルノリアの奇跡」グイン・サーガ78/ハヤカワ文庫JA/2001/03/15 78巻を先に読んで「?何でヴァレリウスが居んの?スカール??」とか 思ってたら、77巻買い損ねてたのね。気付かなかった。スカールがやってきて 去っていって、ヴァレリウスは旅から帰ってきて、ナリスは死んでしまってて。 展開は忙しいんだけど、鳥瞰がないというか、視点が低くてリアルタイムで物語が 進んでいる感じ。外伝のノリかな。情報量を上手く制御しているというか。 ナリスの死の真偽を読者にもはっきり伝えないまま、だんだん「あー、やっぱり」 と思わせていく感じが、作中の「その他の人々」とシンクロ出来てて面白い。 この辺は作者の力量だよなーと思う。 でも全体的につなぎ、って感じ。スカール(魅惑のアロマ含有)の空振りっぷりが ちょっと哀れでもあり。 リギアが今後どう絡んでくるかは割と気になる。 何か複線っぽい別れ方をさせてるし。あの「国・家・親・弟に縛られている自分」 「その”しがらみ”が無ければもっと思うままに生きられる」「でも駄目・・」 みたいな懊悩というか苦悩は真摯な感じで良かった。ともするとバカ女化する リギアだが、考えてみればまだ年若いんだし、その血筋と美貌と行動力を取り除いて 見れば、非常に等身大の女性だったのだな、と思える、のは僕が年を取ったからか。 彼女は結局「状況」の前に己の「気持ち」をたわめてしまう普通人であり、その辺 マリウスとは好対照。マリウスにしてみれば己の「今の気持ち」こそが真実であり、 過去も未来も関係ない。その真実の為には妻も子も、友人の信義も、国さえも犠牲に して平気(というか意識に無い)という。この辺の描き具合も栗本薫ならではだと 思う。あまりにも自由すぎて、ちょっと理解し得ない様な人間も確かにいるのだ、 そしてそれは「そういうもの」なのだ、という妙な確かさがある。 イシュトはすっかりアブない人になりつつある。経営者としては切れるけど、その分 他人に容赦無し、という。信長っぽい感じ。やっぱり最後は光秀に討たれるのかも。 正直あんまりオカシクなってしまうと今後の大激突(があろう)での読者の「痛み」 が減る気がする。うーん。 魔道師という、存在そのものが危険すぎる者達が居ながら、この中原がどうして 安定を保っていられるのか、保っていられたのか、をそれとなく示していく下りも 面白い。結局「モラル」が崩れたとき、全てはあっけなくひっくり返るのだよ。 それは今まさに僕たちが直面している問題でもある。 兎に角今巻は読んだだけ、という感じ。感想は、無い。展開が激流になっているので 一冊一冊を取り上げて感想を吐きにくい・・・というのを言い訳にしつつ。 ヴァレリウスの減らず口が久々に聞けて妙に嬉しい @@@@@@@@@@@@@@@@ [JUN] @@@@@@@@@@@@@@@@ (01/04/18)
栗本薫「魔の聖域」グイン・サーガ76/ハヤカワ文庫JA/2000/12/15 「怪物!」  リンダの朱唇から、激しいことばがもれた。 「いまに、見てるがいい。必ず――どんなことをしたって、お前を出し抜いてやるわ。  私が、このまま屈していると思ったら大間違いよ。――これまでだって、黙って  屈してきたと思うのならそれは大間違いというものよ・・・(p132) リンダの造形って最初の最初から一貫して変わらないものだなあとか思った。 いや、この啖呵には背筋がぞぞぞっとした。良いシーンだ。 不気味に変容したクリスタル王城の描写では、ここぞとばかりに栗本魔界節が冴える。 月の目玉とか。アルミナ妃の狂気描写(この手の描写の容赦の無さこそは栗本!)も その対比としての清冽なリンダの描き方も、実に堂に入っている。巻末のヒキの 見事さ(いやそりゃまあ誰もナリスが死んだとは思っちゃいないだろうけど、でも、 ああ、早く続きを!続きを読ませれ!)も含め、前巻今巻と実に牽引力のある 内容だった。一気読み。これでこそ。これでこそ「グイン・サーガ」というものだ。 ・・・とはいえ当のグインがなーんか腰が重い感じ。のろけは良いとしても、やっぱ 王様になるとそうそう簡単には動けないのだろうか。個人じゃなくて国全体の意向、を 考えないといけないからなあ。にしても。早くメインストリームに巻き込まれて くれい(巻き込まれたらでも物語の最後まで一直線だろうけど)。 陰惨な戦闘シーン(いくさシーン、というか)も妙に冷たくリアルで良い感じだし、 最近また「物語」そのものの力(シモンズ言う所の「繋ぐ虚無」、データスフィアに ある「物語」)が作者の煩悩を凌駕してるなー、という感じ。引っかかる事無く 読める。竜王のナリスへの興味の下りはまあおいといて。 果たしてアルド・ナリスの運命は!?魔の子アモン(デビルマンかッ)の行く末は!? マリニアはその不憫さも手伝ってケイロニアのアイドルに!? 「その、とき──  そのときであった。」 ・・・早く続きを読ませれー! ※今回の「あとがき」は前巻程じゃないので読んでも大丈夫。相変わらず爆発してる  けど。 それでもレムスの復活に一縷の望みを抱いているレムス派 @@@@@@@@@@@@@@@@ [JUN] @@@@@@@@@@@@@@@@ (01/01/11)
栗本薫「大導師アグリッパ」グイン・サーガ75/ハヤカワ文庫JA/2000/10/15 最初に「あとがき」読んじゃったんで、暫く読む気もしなかったんだけど。 おおおおおお面白い面白いぞ。これだからこの作品は恐ろしい。 前巻であれだけ「幻滅ー」とか言ってたくせに>拙者。つくづく 「作者と作品は別物」だよな。読み終わった後に「あとがき」読んでたら こんな感想書く気失せてたかも知れないけど・・・ 「地上最大の魔道師」をどう描写してみせるのか、とワクワクしていたら・・・ 惑星サイズの顔!ぐははははは。いや笑っちゃう位良いのだ。実に良い。 こう来たかー!!という。嬉しくてねえ。いや、何より嬉しかったのは ヴァレリウスが目に見えて元気になっていく描写。彼本来の、まだアムブラ弾圧 に関わる前の「若き上級魔道師」としての魂が蘇ってくるのが心底嬉しかったよ。 彼の目に光が戻ってくるのが目に見える様でねえ。 「おぬしは本来、そういう陽気なたちじゃろ。あのパロの麗人にかかわって  かなり本来のさがを矯められていたのかも知れぬが、それでこそ、おぬし  らしいよ。」(p50) いや全く!全く!! 自分の不明を素直に嘆じたり、力のないことにいじけてみたり。これが ヴァレリウスだったんだよ!そうとも。ああ、作者の中にちゃんと「あの」 ヴァレリウスが生きていてくれたことが嬉しい。 「まこと、よう参ったな、若き魔道師よ。そしてよう、われのこの魂のおくつきに  まで達してわれを呼び覚ましてくれたな。礼をいおう。」(p69) 偉大な存在に畏敬し、素直に自分を省みて卑下してみせる若者を、老人達が 笑いながら慰めてやってる。いやー、イイ。ヴァレリウスってホント 「じじい受け」するよな。いや解るけど。こういう素直で、でも野心もある 「弟子」を持ちたいんだろうなー、と。 「勿体ないな、折角よいものを持っておるに。どうだ、この一連の戦争が  終わったら、わしに弟子入りしてみては。おぬしなら、わしは喜んで  引き受けるよ」(p146) 出来ればナリスなんかに関わらせずに、後継者たる魔道師として育ててやりたい ・・・と思ってしまうイェライシャの気持ちが解りすぎる。 アグリッパによって開陳される「この宇宙」の背景、が前半の見せ場。想像を 絶する知性が語るに相応しい、想像を絶する(然しSFファンには馴染み深い) 壮大無比な宇宙観。無限に広がる大宇宙、が更に無限に連なる平行宇宙。 以前からチラチラと姿を見せていた<<調整者>>の正体が明らかに。それは 様々な種族の、知性の極みに達した者達によって構成されている・・・ ・・・らしいのを観ると、レンズマンを思い出したり。 アグリッパの口からは「神」さえそういったものの一層でしかないという発言が。 「我々が神と呼んでいるものも大多数は、まことの全能者、ということではなくー  土地神、非常な力を持つようになった伝説的な存在、人間のレベルをこえて  しまった個人、そしてそのはるか昔の外来者のなれのはてにすぎぬ。」(p91) ホントは詳しく知ってるけど明言は避けるネ、とか全く情報の制御が上手い。 ヨナと組んだナリスの「ニヤリ笑い」な感じの策士ぶりの復活がまた嬉しい。 まだ完全復活とは行かないみたいだし、ベック公とか、展開は明らかに辛い 方向に向かってるんだけど、それだからこそ。 ヤンダルもアグリッパによれば無茶苦茶な相手でも無さそうだし。知能で 戦える(ナリスの土俵に持ち込める)敵っぽい。いや、コレはコレで楽しみ。 ・・・でも今巻は、ヴァレリウスだよなー。いやー、これだから止められない。 こういうのはホント、長編ならではの喜びだと思う・・・ ・・・とかってこういうヨイショっぽい感想を心から書いても、あのあとがきが 有ると「何コイツ作者に怒られたからって急にへつらいやがって」とか 取られかねなくてイヤですね。何もあんな事書かなくても。いや解るけど、でも 重版の際は一考すべきなのではないかしら>早川。 でも、ホント、作品と作者は、別なんだ。そう思う。 ・・・だからこそ、簡単に作者との意見のやりとりが出来るWeb時代を僕は怖れる。 作者のWebページとか観てしまって、「幻滅」してしまうのが怖いんだ。逆に ありのままも面白い!って思っちゃうと、それはそれで歩み寄りすぎで、客観視 出来ないから駄目だと思うん。これから先の時代、読者もまた自分のバランス 感覚を磨いていかなければならない。勿論作者も。そんなことを思ったり。 @@@@@@@@@@@@@@@@ [JUN] @@@@@@@@@@@@@@@@ (00/11/22)
栗本薫「地上最大の魔道師」グイン・サーガ73/ハヤカワ文庫JA/2000/07/15 栗本薫「試練のルノリア」グイン・サーガ74/ハヤカワ文庫JA/2000/08/15 いやもう辛くて辛くて。物語に牽引力が無くなるとどうしても文体の逝きっぷりに 目が行ってしまう。途中で何度投げ出したことか。嘗てページから一瞬たりとも目を 離す事が出来ずに一気に読み終わったあの「グインサーが」をだぜ?それ位凄い。 物語世界を愛しているが故に、どうしても愚痴の一つも出てしまう。 ここ数ヶ月グイン読みが集まると「あの文章は無えよなあ」てな話に花が咲く。 それはそれでいっそ楽しいものだが、それにしたってここ最近の言い回しのくどさ には皆辟易している様で、下手するとこの辺で脱落者がごっそり出かねない勢いだ。 「いまの聖王宮のなかがどうなっているのかは、もう誰にもわからぬことで  あったから、その内部がじっさいにはどのように動いているのかは、誰にも  わからなかった」(p226) こんなのは序の口である。その凄さは、正直百年の恋も一瞬で冷めさせるだけの ものがある。誤字脱字、のレベルじゃなく(もともと誤字脱字は驚くほど少ない) もう言葉のセンスそのものが辛い。作者及び盲目的ファン(そんなの居るのか)に してみれば「そんなら読むな!」って事になるんだろうけど、それはもう重々 承知の上で。いや面白くない訳じゃないんだよ。決してつまならない訳じゃない。 久々のルードの森の空気には心震えたし。でーもーさー。言葉遣いの酷さは今に 始まった事じゃないにしても、グインの「なんか来るぞ!」以来のショックが全編に わたって展開されたという感じで。今までで一番酷い気がする・・・ でもこういうのって結局「好き嫌い」の問題に収束してしまうんだろうなあ。 こないだ久々に「王家の紋章」読んだら、やっぱり絵が凄いことになってて、でも 新刊が売れ続けている辺り、もしかしたら似てるのかもなあと思ったり。そもそも これだけの長さの作品を1人の人間が破綻無く作り上げるという事自体未曾有の 事な訳で、その辺を忘れてるわけでも無いんだ。でもなー、と。ううう。 作品は作者のものだとは思う、思うけど・・・もう少しどうにかならんか、と 望んでしまうのは読者のわがままだろうか。 キャラ的にはまだ諦めもつきかけていたのだ。もう「そういうもの」として。 ナリスの駄目人間っぷりにはもう慣れたし、ナリス様を「姫君」と呼ぶヴァレにも (なんとか)堪え忍べる様になった。リギアとデートしてた頃のヴァレを心に しまい込んで、ヤオイ(カタカナ表記)には目を瞑ってやり過ごす術を覚えてきた。 そんな風にしてヴァレ×ナリに関してもう殆ど諦めかかっていたところに現れた イェライシャ老が「冷静な作者の目線」を代弁してみせたりして、またあらぬ 「正常化」の期待を抱かせてしまう。まあ作者もキャラ萌えのレベルと物語を俯瞰 するヤーンの如き視点とが渾然一体となってるんだろうなとは思う。切り分け なんか出来ないんだろう・・・とはいえ、少なくとも私には、あの「ヤオイ」を 心底喜んでる読者が居ようとは思えないのだが・・・・ それでも74巻はそれなりに面白かったのだ。ナリスの母親の登場なんかは実に 栗本的で面白い。もうぐちぐちした繰り言で読者の心を逆撫でする位なら、こう やってどんどん新展開を盛り込んで行って、100巻できっちり終わってくれても と思ったり。 さてしかしこうなると気になるのは次巻アグリッパの造形。ここまで凄い凄いと 持ってきて、果たしてどんな存在を我々の前に造形して見せてくれるのか。楽しみ でもありそこが一番気がかりでもある。それなりに期待はしておこう。 すいません全然まとまりませんでした。今回も。 @@@@@@@@@@@@@@@@ [JUN] @@@@@@@@@@@@@@@@ (00/10/02)
栗本薫「パロの苦悶」グイン・サーガ72/ハヤカワ文庫JA/2000/05/10 何か読み終えて間が空いてしまったので印象だけ・・・ 衝撃の今巻中、一番の驚きだったのはP245あたりを頂点とするヴァレリウスを心配する ナリスの「感情」描写。ナリスが、我々読者の前で初めてその「ココロ」を明らかに した決定的瞬間。いや吃驚した吃驚した。 今まで、口先ではさも心配している風な事を言っていても、腹の底では怜悧な「計算」 が働いていて、最後には矢っ張り仮面を付けていたことが見えてきて「ああ、やっぱり こいつは普通の人間じゃないんだ!」とか思わされてきたものだったけど・・・ 個人的には「裏では何を考えているのか解らない」ナリスが好きだったん。でも、一度 こういう描写やっちゃうと、後戻り出来ないでしょ。もうこれは決定的。うーん。 リギアがヴァレリウスの事を心配する下りは、ヴァレリウスにモロ感情移入して 読んでたワタシにとっては結構ウレシイ様な。でももうこの二人の間には、あの 頃のような空気は流れないんだろうけど。 ヤンダルとナリスのくどいやりとりは以前のグインとグラチーの問答を思い出す。 こういうクドイの、作者は必要だと思って書いてるのかなあ。個人的には苦手で。 然しキタイの怪物達がどんどん露出してきて、ここに一番居るべきあの豹あたまの 姿がないのは不安だ。何となく、グインとナリスは生きてまみえる事は無い様な 気がする・・・ ヤンダルは割とショボイ・・・つーか結局先祖は違っても、こっちの文化で生まれ 育ってしまったから、どうしてもああなっちゃうんだろうな・・・つーか、やっぱ 全然話の通じない異次元知性体敵にしてしまうと、「物語」が立ち行かないだろうし なあ。そっちへ行くと「雪風」になってしまう。でもラスボスは何となく「神」とか そういうレベルの様な気もするけれど。世代的に。 衝撃と言えば古代機械の謎がまた一つ明らかに。古代機械ってこういうのだったのか。 何となく手塚/横山メカくさい・・・「生きている機械」。一子相伝の秘密はコレか。 哀れなのは(今はもう多分彼岸の人となってしまった)レムスと、妻アルミナ、そして その子供であろう。辺境であれだけ感情移入した、あの「レムス」がいつかまた我々の 前に帰ってくるときはあるのだろうか?「中興の祖」とたたえられる筈の彼の運命は? ・・・あんまりかわいそうな目に遭わさないで欲しいと願うのだった。 さて話題の腰巻き。「ヴァレリウスのもとに、意外な人物が」・・・ 「地上最大の魔導師」つったら、やっぱ伝説のあの人でしょうか。アグリッパ。 名前しか知らないけど・・・うーん・・・ ホントに印象だけでスイマセン。まとめる気力が無いっす。 @@@@@@@@@@@@@@@@ [JUN] @@@@@@@@@@@@@@@@ (00/06/19)
栗本薫「嵐のルノリア」グイン・サーガ71/ハヤカワ文庫JA/2000/03/15 最近ずっと云ってる気がするけど、ホントに急展開。 パロを襲う時ならぬ嵐と共に、全ての展開にGOサインが出された感じ。 堰を切ったように、秘められていた計画や思惑等々が表舞台に姿を現し始める・・・ 久々に我らがレムス君が登場したかと思えば中身は完全にヤンダル・ゾックに 乗っ取られてるみたいだし、ヴァレ君はと云えば最後の「心の」砦とも言える リーナス公を(直接の原因にはならなかったにせよ)毒殺してしまうし。挙げ句が ナリスの反乱決行。然しまあ何よりもまずヤンダルの宣言が大きいでしょうかね。 リンダの前で、嘗てレムスであったもの、はいんいんと語る。 「アルミナのみごもっている子ども」 「その子が−いずれ、パロに、おそるべき闇王国のいしずえをひらくこととなるで  あろう。北の豹めに阻止されぬ限り、いずれ、パロは長く闇王国とよばれる神秘と  謎の本当の魔道帝国とすがたをかえ・・・」(P72) ああ、このまま嘗てのレムスに帰るときは無いのだろうか?とすると「中興の祖」 は「闇王国の中興の祖」って事になるのか・・・それとも・・・以前ヴァレ君が 予想した様に、レムスの力もそれなりに存在していて、ヤンダル・ゾックをすら 利用していたり・・・はしないのだろうか・・・まだまだ「彼」そのものの謎は 全く表に出てきては居ない訳で、最後の鍵を握る人物なのかも知れない。 アルミナは可哀想な事にならなければいいけど・・・ 「われわれは星に帰る手段を手にいれ−星々をわたり、この世界をすべてわれらの  ものとする力を手にいれる。」(p74) 「お前は魔界の入り口をときはなとうとしている−お前は、魔界との回廊をつなごうと  している!」(p77) 「われわれの先祖ははるかあの星々の海をこえてきた−安住の地をもとめてではない。 やむなく愛するもとの世界、ただひとつのふるさとを追われ、《調整者》と称する あの悪魔どもに追い立てられ、かりたてられてはるばると星の海を逃亡してきたのだ」 (p202) いや、まあヤンダルゾック軽く姿現し過ぎ、あと喋りすぎ、ってのは有るんですが。 もっとこう陰々滅々というか、影の存在であって欲しい感じはします。バカみたいに 強い存在なのに妙に敷居が低くて違和感が・・・で、まあこの別世界からの侵略者を 押し戻すのが「調整者」(グインとか)になる訳か。うーん。SF。 だとすると、然しナリスなんかの出る幕がどれくらい残されているのか・・・ 何処まで彼が(その天才的頭脳で)「読んで」いるのか知らないけど、何せ相手は 人ならざる者だからなあ。グイン(ケイロニア)が介入してくるのはそんなに早く 無さそうだし、うーん・・・作者は死なないかも知れないとか云ってるけど、死ぬ でしょう。これは。ねえ。 矢っ張り「魔道」っていう絶対的な力をどう物語の中で制御するかってのが難しい なあと。電気どころか内燃機関も存在しない世界に超高速ネットワークと核兵器が あるようなモノだから・・・ ともあれ、早く次巻を!という。 今巻のヴァレリウスは以前の「人間ヴァレリウス」に戻ってて、妙に嬉しかったり。 やっぱヴァレリウスって「こう」でしょう・・・ @@@@@@@@@@@@@@@@ [JUN] @@@@@@@@@@@@@@@@ (00/05/08)
栗本薫「豹頭王の誕生」グイン・サーガ70/ハヤカワ文庫JA/2000/02/15 タイトルは「豹頭王の誕生」。 だがその戴冠シーンの描写の短さには戸惑いすら覚える。うーん。 この辺のぢみさがケイロニアなのか。まーケイロニアは放っておいても うまくやってくのは判ってるし、それに比べてパロの陰謀やらモンゴールの 簒奪王の苦悩の方がクローズアップされるのは仕方ないかね。 ・・・まあ然しあれですよ。シルヴィアに押し倒されるグイン。うはー。 淫魔に「仕込まれていた」シルヴィアならではというか。取り敢えず 良かった良かったという所か。売国妃とか、嘘でしょ?みたいな初々しさ。 何かホッとしたりして。何なんだこの感触は。 ケイロニアのアキレウス大帝をして「あばばばば」とか云わせしめた マリニア嬢は矢張り耳が。何が辛いと云って、マリウス(影薄い・・)の最大の 魅力たる「歌」がこの娘には伝えられない(のかも知れない)という。 嗚呼全くどこまでこの作者は・・・まあそれはそれで英明な取り巻きの中で立派な 人間に成長するのは間違いないんだけど、マリウスの気持ちを思うと。 パロの方は相変わらずというか、なんか勢いに任せて突き進んでいく感じもあり。 もすこしいろいろ練ってからやった方が、とも思うんだけど、なんせヤの字の人が 狙ってるから、そうそうゆっくりともしてられないのか。なんつーか、魔道という 強烈(かつ便利)な力を持っていながら、それが使えないまま現実的な手段として 「反乱」をやる馬鹿馬鹿しさ、みたいなのも少し感じたりもするけど、多分例の 魔道師の縛りだけじゃなく、魔道の力で為された行為には、人民が賛同しないって 言う様なのもあるんだろうな。 然しこの人たちの「反乱」の理由ってのが実に多層レイヤーで、この辺如何にも パロ人らしい。一つの「反乱」という行為に対して無数の理由付けがなされる。 大義名分と云うより、どうしようもない「流れ」に対しての様々な解釈、という 感じになってきてて、うーん、これがつまりナリスなのか、とも。 然し一方のレムス王が全く姿を見せないのはどうなんだろう。辺境の頃はかなり レムスに肩入れしていたワタシだけに、何とかナリスとの戦いの中で聖王としての 威厳なりを手に入れて「中興の祖」らしくなって欲しいのだけど。何せ出てこない からな。今なにしてんだろ。 イシュトの病理を正面から冷静に語った部分は非常に興味深い。この作者は 「この方面」には詳しすぎるくらい詳しいだけに、敢えて「そういう」解釈を 入れて来なかったような気がするんだけど、これだけ簡潔で、何より専門用語を 省いた「わかりやすい」言葉で書かれれば、今までのイシュトの異常とも云える 性格の変化の「説明」として十分に納得がいく。何というか、文章にちゃんと 「品格」が有って良かったんだ。 さてこの病理を見据えた上で、初めて彼を救う光明?が見えてきた気がする。 結局彼の様な精神はミロクの「全救済」の様な精神が受け止めてやるしか無いの ではないか。それは現世での栄光からは離れる道かも知れないが、最後に イシュトが(生きながらえたとして)たどり着くのはミロク教徒の胸の中なのでは ないか・・・向かい合う相手の心を映す鏡の様な精神なればこそ、イシュトに 何をも求めないミロク教徒の前で、初めて「自分」になれるのでは。そんな気さえ するのだ。ラストの雰囲気は結構良かったしね・・・。 とかまあ今回もアタマからざっとめくって思いついたことを列挙しただけで 終わります。スイマセン。こんなもんです。ええ。 ・・・然しもうこのあとがきだけはどうにかならないのか。あとがきさえ無ければ。 この(爆)とかを喜んでいる読者が一人でもいるというのなら話は別だけど。 もう誰も怖くて作者にそのことが云えないのか、云っても聞こえないのか。 物語の力、ってやつと、作者とは、別物なんだなあとかつくづく思うのだ。 @@@@@@@@@@@@@@@@ [JUN] @@@@@@@@@@@@@@@@ (00/02/28)
栗本薫「修羅」グイン・サーガ69/ハヤカワ文庫JA/1999/12/15 ああ!あああ!我らがサイデン宰相閣下がッ!!! モンゴールの英明なるサイデン閣下は、悪霊に身体を乗っ取られ、挙げ句 カメロンによって腹をまっぷたつに切られて亡くなられた。 これが嘆かずにいらりょうか。高校時代、城東のサイデンと呼ばれた (呼ばれてない。でも自称していた)ワタシだが・・・ てなわけで急転直下の69巻。 2時間弱で読破。過去の巻の中で最も早く読み終わったものになると思う。 何か・・・変なバランスの巻だな・・という印象。確かに面白いんだけど。 サイデンが斬られた後の物語展開のあっさりさはどう読んでいいのか躊躇う程。 もう少し書いても・・・モンゴールという(一応の)大国が簒奪された瞬間 なんだしさ・・ タイトルが「修羅」の割にはあんまり修羅でもないし。なんかね。 確かに冒頭のシーン(身重のアムネリスを首締めて無理矢理・・・)なんかは 実にこうヤクザなオヤジと薄幸な妻、みたいで痛々しかった訳ですが。 イシュトの過去の悪行という悪行が全て暴露された上でこの軽さですか。 何か違う。妙に上手くいっているというか上手くいきすぎというか。 「これの何処が修羅!?」みたいな。 カメロンの弁舌とか見てても作者があとがきで書いているように、なんか 「法廷モノ」的別作品みたいだし。まあそういう違和感も、それはそれで 如何にも「グイン・サーガ」らしくて良いんですけどね。うーん。 うーん・・・例えば、過去の亡霊にイシュトが錯乱して、挙げ句自滅して、 目も当てられない様のなか、逆ギレでバーサーカーと化した彼(等)によって 突如裁判場は血の海と化す・・・みたいなイシュトの豹変=「修羅」を 予想していたので、ちと肩すかしではあった。 今巻のメインイベントたる法廷シーンは、何というか・・・カメロン オン・ステージ、という感じで、イシュトもアムも出る幕なし。 どんどんこの裁判の「裏」へと踏み込んでいく下りは「おお、成る程!」 という感じで面白かった。流石に巧い。ただ闇雲にイシュトを救おうと言う だけでなく、その背後に「真の敵」の匂いをきっちり嗅ぎ取っているあたりは 流石カメロンと言うべき。 命がけでイシュトを守ろうとするカメロン。病人も女子供もお構いなし。 その姿は不気味でさえある。マジでルブリウスの民なんじゃないかという程 イシュトの行く末を心配しているが、どうもイシュトのあの落ち着きぶりとか 強運ぶりとかをみていると「いいじゃん、もうイシュトの好きにさせたれや」 という気分にならないでもない。「陛下と呼べ」以降のあの態度もちょっとな。 いっそ辞めたらどうか。裏切ったら。それでイシュトが豹変して 「修羅」になったら斬ってしまえ。なんか気持ち悪いんだよな。 最近のオヤジさん。 「イシュトヴァーン陛下と呼べ、カメロン」(p276) ・・・・ああ、そうか、「修羅」はカメロンにとっての事なのか。 「陛下と呼べ」以前から、カメロンとイシュトの関係の危うさは見え隠れ していたんだけど、ついに、とうとう、来るべきモノが来た、という事か。 カメロンの思いも、イシュトには通じていないのだ。イシュトにとっては、 カメロンも己の野望の為の道具に過ぎないのだ・・・・ さて今回の事件、モンゴールにとっては不幸な出来事では有ったけど、 一千の手勢を中枢にやすやすと進入させ、あっという間に攻め込まれて 落とされてるんじゃ、所詮その程度の国だし、その程度の軍隊だった訳だよ。 あれだけの警備をあの程度の混乱で抜け出せてしまうってのも問題だし。 こればっかりはもう仕方ない。と思う。 ・・・そう思ってしまうのは、多分読者がイシュト側に立ってしまうからだろう。 アムネリスの怒りというか哀しみというか絶望というか・・・はもっとも だとは思う(リンダとイシュトが!フロリーまで!みたいなのもあり)けど 何か語り口の視点がイシュト側に有る様で、読んでて割とイシュト側に荷担 した気分で居る自分を発見するのだった。勝者の論理に与する方が気楽だから。 確かに考えれば考えるほどアムネリスの「かわいそう」さが浮かぶ。 なまじゴージャスな外見と気丈な心を持ち合わせているだけに、その内の か弱い部分が覆われてなかなか見えないんだ。でも、その運命の数奇さと不幸さは 涙を誘わずにはいられない。ああ、それでも公女は生き続けるだろう。 子を産み、育てる事が出来れば(それも不安だけど)、何らかの報いも 有るかも知れない・・・今はただ「頑張ってくれ」と祈るしかない。 あと今回登場のフェルドリックの娘アリサ、ってのが妙に印象強く描かれていて。 巻頭の言葉もそのアリサのものの様だし。妙にキャラ立ちしてる所を見ると あ、またこの作者なんか思いついたな、ってのが見えて面白い。まあ 何にも無いかも知れないけどさ。でもミロクだし。ミロク教VSイシュト っていう構図は今後それなりに大きくなってくるような気がするのだ。 ヨナとかも出てくるだろうし・・・ アムの口から語られる、モンゴールのノスフェラス遠征の真実も衝撃的。 まあこの辺は流石に我々も予定調和の一つに入れていた事実ではあるけど うーん、双子がルードの森に飛ばされたのも、そうなると、矢っ張りキタイ・・ 今回のガユスにしても、「アリの亡霊」にしても、兎に角ヤン・・もとい あのキタイの竜人、の仕掛けたワナで有る可能性を否定できない。 この世界において殆どワイルドカード的な存在である奴の存在のお陰で、 この作品が「救われている」ところは結構有ると思うんだ・・・何でもあり的。 勿論もう一つの可能性として、グラチウスの影も大きい。手持ちの中原の 勢力をきっちりしておきたい、というところから仕掛けてきたのであっても おかしくはないと思う。ゴーラをまとめ上げることで、勢力図を確定し、 対キタイ戦に備えたいのかも。 ただ、真実「アリの亡霊」だとは、思えない。奴に其程の力が有ったとも 思えないし、何より、この世界は(魔道も含めて)非常に科学的なもので 構成されている。妖怪は居ても、死人の亡霊はそう簡単には現れまい。 そんな気がするのだ。やっぱグラチーかな・・・グラチーが召還した亡霊。 とかまあ思いついたことを羅列しつつ今回もぐちゃぐちゃのまま終わるのだった。 刊行予定 2月上旬 70巻「豹頭王の誕生」 3月上旬 71巻「嵐のルノリア」 @@@@@@@@@@@@@@@@ [JUN] @@@@@@@@@@@@@@@@ (99/12/30)
栗本薫「豹頭将軍の帰還」グイン・サーガ68/ハヤカワ文庫JA/1999/11/15 読み終わったら、喉がガラガラでした。 最近自室でグイン読んでるときは(マヂで)叫びながら読んでることが多い。 「マルークケイロン!」「マルークグイン!」とか叫んでるうちはまだしも、 盛り上がってくると「うぉおおおおお」とか「のがああああ」とか人外の 呻きを発しつつ読んでしまう。電車の中では読めないよ。 どうにも感情をドライブされてしまう。何だかんだ言っても、小説でここまで 熱くなれてしまう自分には今更ながら驚く。いや、ワタシにそうさせる この物語の力に、驚かざるを得ない、のだ。 しかしまー、あと30巻位しかないのに布石置く置く。あとがきなんか見てると もう100巻で完結させるのを諦めたようなフシが見られて、ファンとしては この物語が永遠に続いて呉れよという願いが無いでも無いだけに、複雑な気持ち。 今巻は、タイトルの示す如く、物語時間で2年、実時間で5年の旅を終えて ついにグインがケイロニアに帰還する下りである。兎に角もーお涙頂戴節炸裂。 「挽歌」の時も泣いたけど、また別の「泣き」が・・・何て言うか、この作者 こんなにもケイロニアをイカス国に描いて、一体どういう「落としまえ」を つけるつもりなんだという恐ろしささえ感じる。其程にこの国の魅力は強烈だ。 歓喜の渦の最中でも、今後の大ケイロニアの行く末について冷静に(でもないか) 語ったりするあたりは「勝って兜の緒を締める」感じがしてこれまた 彼の国の魅力が炸裂しているのだった。イカスぜ。やっぱここが舞台だと 文体も「らしく」がっしりとしていて、良い感じ。ホントにケイロニアを 「良いように」描くよな・・・愛さずにはいられない。これが今後の不幸を 暗示しているのでなければいいのだけれど・・・ ああ、それにしても黒曜宮に入ってからアキレウスの前に辿り着くまでの 描写のじれったさたるや。ああああ、早く、早く、早く!!という感じ。 たまりませんわ。歓喜の頂点に向けてこれでもかこれでもかとじらしていく、っての 好きだよな・・・そういう趣味なのか。P193で懐かしの十二選帝侯並びに 十二神将の名がずらずらと述べられていく下りの、血の騒ぎ様ったら無かった。 勿論読み上げたとも。叫びながら読み上げたさ。もー。 そんな訳でグインはケイロニア王となって、シルヴィアを妻とすることに。 いろいろいろいろあったシルヴィアとグインだけど、これで目出度く 夫婦者となった・・・らしい・・・んだけど。なんかねえ。 結構ラブラブな描写(豹の大将の口の巧さには驚いた。多分しょっちゅう逃げ出す シルヴィアを慰めてるうちに、照れが無くなったんだろうな)が続いてただけに 急にシルヴィアの影が薄くなったあと、アキレウスからの「命令」でシルヴィアを 娶る事を承諾した様な描写が結構気になったり。グインの口から求婚の言葉が ちゃんと無いのが、ねえ・・・うーん。やっぱ「違う」んだろうか・・・・ねえ。 で。 その裏では例によってゴーラ皇帝イシュトヴァーンが「蹴っ飛ばしたくなる様な」 笑みを浮かべたりげえげえ吐いたりしている訳で。あの笑みは然したまらんな。 いや、魅力だと思うん。「今後のイシュト」の魅力が初めて実感として解った 気がする。あと何故マルス伯ばかりが・・・っていうのは、単に約束事だから、 伏線だからっていうのだけでも無くて、もっと外因的な理由がありそうな。 然しイシュトの「悪」の魅力が増すにつれて、周りの連中、とくにカメロンの 煩さが妙に気になったり。あんたら心配し過ぎ。確かに不安定だけど、もっと イシュトと「対等に」接してやってくれよ・・・なんかね。理解してやってくれ。 毒くわば皿まで、だぜ。 こいつらの描写があるお陰で、決してこの物語が「めでたしめでたし」的 結節点をさえ迎えることなく、どんな感動も怒濤の流れの一場面に過ぎないことを あらためて感じさせる。マリウスの今後、またマリニアの様子などの不穏な描写も 含め、基本的に目出度い展開の筈なのに、読後感は嫌な予感に満ちて・・・ 次巻のタイトルはズバリ「修羅」・・・・うむう・・・ マリウスの「詩人の魂」の下りも、さらっと描かれてはいるけど結構重い・・・ マリウスは、マリウスなのだ。良くも悪くも。こういうのは (人によるとはおもうけど)結構嬉しかったり。自分が嘗て「生きるために」 諦めたものに、彼はまだ縛られている。彼の恐怖はだから良く解るのだ。 自由を奪われる恐怖。彼には歌がある、だけではなく、歌が無くては 生きている意味もないのだ。そういう人間が居てくれても良い。 彼らに諦めた夢を託す、一般人としては・・・だから何が辛いと言って、大空を 自由に飛ぶべき小鳥を鳥かごに閉じこめる、その描写を見るのが辛い。 彼は、自由であるべきなのだ。たとえそれがマリウス一家にとっての 幸せではないとしても。解っておくれタヴィア。 ま、そんなカンジで。 @@@@@@@@@@@@@@@@ [JUN] @@@@@@@@@@@@@@@@ (99/11/24)
栗本薫「蜃気楼の少女」グイン・サーガ外伝16/ハヤカワ文庫JA/1999/09/15 えーと。今更ですけどネタばれ注意。 カラーイラストがなにげにウィザードリィ風味。 或いはバーサーカー(皆殺し軍団の新しいイラストの方)か。 「ホータン最後の戦い」から一年ぶりの外伝。「黄昏の国の戦士」シリーズと 本伝を繋ぐ話とでも言うか。でも、今巻で展開される光景は、もうそんな 「つなぎ」で語れるものではないのだった。この巻に限らず、外伝シリーズは 作品世界の「なりたち」を語る、裏設定ばらしみたいな話が多いんだけど・・・ 今巻には、かのカナン帝国の滅亡の思い出を語りに亡霊が現れる。グインは、 斯くしてカナンの滅びる瞬間を、再体験するのだった。・・・本伝でなされた ナリスの「想像」を裏付ける為に書かれた話なのかな。 で、滅びた原因は、なんか「スタータイドライジング」の戦争シーンみたいな。 カナンの上で星船同士が戦って、落っこちて、その後放射能汚染で・・・ そういう事らしい。で、その戦闘の片方である《調整者》(惑星連邦くさい)が カナン滅亡後もこの星に何らかの影響を与え続けている可能性を匂わせたり。 グインはその手兵? ・・・カナン帝国って、実は機械文明華やかな世界だと思ってたんですよ。 コンピューターバリバリ使ってそうな。どっかで読み間違えてたのか。 で、いきなり馬車とか洗濯女とか出てきてガックリ。剣闘士が居たりする、 そういう世界なのね。ローマ帝国風。滅びるからアトランティスか。 どっちにしても、期待はずれというか・・・壮大さがイマイチ。 「あの」カナン帝国ってこんななの!?みたいな。 しかしそうなると、じゃあ古代機械はどこから来たのやら。てっきり カナン文明の産物だと思ってたんだけど、それ以前のものなのか・・・ 或いは地球外生命由来の文明なのか・・・なぞはふかまるばかりでございます。 うーん・・・しかし・・・何かこう、この外伝シリーズのグインは軽いねえ。 ドタバタしてる。重々しさがない。展開そのものがどうも落ち着きを 欠いている・・・落ち着いていると云うよりは、ご都合主義に身を任せてる感じ。 カナン帝国の滅亡シーンはもっと削って(そもそも何でこんなエロい、下卑た 話を挿入しなきゃならなかったんだ?カナンが「そういう」人間ばっかりだった っていうんならまだしも)セム/ラゴンとの再開をもうちっとゆっくり 語ってくれても良いのに。折角の再会シーンも、「風」で見せた鬱陶しい くらいの「泣き」は無しで妙にお座なり。砂漠を(ザザとかの力を借りて) ショートカットしたりして、おいしいとこ(蜃気楼とかセム村とか)だけ つまみ食い、みたいな旅の描写も妙に嘘寒いし。何か変。 ノスフェラスってもっとこう、怖いところだった気がするけどなあ・・・ もっと「みだらな生き物」とかがいっぱい居て。そう言うとこもカット しちゃったのかね。エンゼルヘアーとか。久々に見たかったなあ。 アレって多分「ふしぎな指けむり」と同じ材質だと思うんだけどどうか。 それにしてもシルヴィアの可愛さよ。うう・・・かなりかわいい。印象逆転。 水浴びついでに洗濯とかしちゃう辺り、なんかこう・・・ううう・・・ 良い娘じゃないか〜!(騙されてる?)「風の挽歌」の時はたまたま機嫌が 悪かったのかも。或いはあそこに至までにグインがまたいらん事言うたりしたか。 ノスフェラスに住みたいとか。しかしそれにしても蜃気楼の中でシルヴィアが 見た夢ってどんなだろう?あー気になる〜。うなじまでまっ赤になったり して、もう可愛いったらない。ケイロニアの頃の彼女を彷彿とさせる。 ・・・ユリウスもなんか良いキャラになっちゃってまあ。グインまで 「殺したいほど憎くはない」とか言い出す始末。あれだけ悲劇的な目に 遭った(筈)のシルヴィアも立つ瀬が無い。所詮は男と女か。拉致されて 薬漬けにされて犯されまくってても、結局は生きてるんだし良いじゃん、って 事なのか?(それともグインには「そういうこと」が全然解ってないのか) なんかなあ。描写からするとどうも「そんなに悪い奴でも無い」「憎めない」 みたいなキャラに持っていこうとしてる気がするんだけど。でもね。 今巻のかわいらしいシルヴィアを誘拐して薬漬けにして×××しまくったのか ・・・と思うと、やっぱり。でもそんなのさえ「人生の荒波にもまれた」とか 表現されかねない展開(カナンでの下りとか含め)なんで、ちょっと不安。 「貞操」なんて、大したもんじゃないとは思うけどね。幼さ、純真さを くだらない思い込みだとクサすのが作者の思惑なのかも。 グラチウスもあの頃は本気で対キタイ策に注力しすぎてグインまで 手が回らなかったみたいね。うーん。しかしユリウスがイ*** だったらマリ・・・やめやめ。下品でしたごめんなさい。 グインが「イヤだ」とか「できうるかぎり、断じて」とか言ってたりして 変な語法は今巻も山盛り。いちいち付箋つけるような事はしなかったけど 結構ひっかかるよ。まあ見てると結構揺り戻しもあるみたいなんで、 次巻までにはなんとかリセットしておいて欲しいと切に願うのだった。 ・刊行予定 68巻「豹頭将軍の帰還」(11/10) 69巻「修羅」(12/10)・・・この辺でパロのアレが? @@@@@@@@@@@@@@@@ [JUN] @@@@@@@@@@@@@@@@ (99/10/07)
栗本薫「風の挽歌」グイン・サーガ67/ハヤカワ文庫JA/1999/08/15 そう言えば「挽歌」ってどういう意味なんだろう。 ばん−か【挽歌】  1.中国で、葬送の際、柩車を挽くものがうたった歌。 2.死者を哀悼する詩歌。悼歌。哀傷歌。万葉集では相聞、雑歌とともに部立の基本。 うーん。使者を送る歌、だったのね。つまり、オロの為の「挽歌」ということ・・・ いやもう、泣いた泣いた。ボロボロ泣いたですよ。 今までにもグイン読んでて「うっ」と来ることは有ったけど、今巻はもう 「ううううううううううううううううううううううううううっっ!」 みたいな。いやもう、お涙頂戴の嵐。こう言うのにてらい無く乗るのは、実は 結構気持ち良いのだ。日本人の感動の根本はやっぱり「泣き」だしね。 兎に角こんなにボロボロ泣いたのは、グイン67巻の歴史の中で初めて。 うつ伏せで読んでたんだけど、眼鏡に涙が溜まって読めなくなったり。 P92、グインとオクタヴィアの再開あたりから始まる魔術的なまでの面白さ。 一行一行を読むスピードの遅さがいっそまどろっこしい!久方ぶりのグインは 多少以前の落ちつき(・・・)を取り戻した様で、良かった。 P100あたりでオクタヴィアの眼から語られるグインの魅力とか、こういうのも 久々。P104で「ヤーンのみわざはわれわれにははかりしれぬ」とか重々しく 言ってる辺りは「何カッコつけてんだよ!」とか(こないだまでのアレなグインを 見てしまった身にとっては)思ったりもしてしまうけど。 あぁ・・・・しかし。P164/165読み返して、またじわわーーんと来ちゃったよ。 1巻の約束が、今こうして果たされる・・・ 「おれのおやじだ・・・よい人間だ・・と・・・」(P169) ワー!泣けすぎる!!ってまた泣いてどうしますか。 ゴダロのとっつあんもこれで心置きなくあの世へいけるというものだ。 そしてその泣けまくるシーンの直後にに現れるカメロン。口笛吹いたりして、 グインの前だとなんか軽い気障男な感じ・・・なのは、グインが必要以上に 重すぎるんですかね。 「英雄は英雄を知るという。」 いや久々に「絵になる」つーか、サーガの1シーンが今まさに目の前で!! みたいな興奮は、流石。 ゴダロ一家をおそった衝撃の一夜が去っていこうとするときの、とっつあんの 「歌ってくれ、マリウス」(P213)のあたりでは、もうボロボロでした。ワタシ。 さて、P144でオクタヴィアが指摘しているように、どうもグインのシルヴィア姫に 対する「愛情」は、やっぱりちょっと「違う」みたいなのだ。雛鳥を護ろうと言う そういう愛情みたい。とすると、やっぱり「豹頭王の花嫁」ってのは・・・ にしても、オクタヴィア、マリウスのことけちょんけちょんに言い過ぎ。 いや、その通りなんだけどさ・・・ @@@@@@@@@@@@@@@@ [JUN] @@@@@@@@@@@@@@@@ (99/08/27)
栗本薫「黒太子の秘密」グイン・サーガ66/ハヤカワ文庫JA/1999/06/15 ・・・面白い。面白いんだが。 なんかこー・・・「底が割れてきた」というか。 ヤンダルの如何にもクトゥルー/魔界水滸な造形、メカメカしい星船の内部描写、 「パスワード」という語の響き・・・物語の展開と共にどうしても 「そう言う」部分が見えてきてしまうのは・・・・ああ、仕方ないのか。 なんかこう「グイン・サーガ」という物語に求めていた「典雅な雰囲気」が 霧が晴れるようにどんどん消えていってしまうのを嘆いてみたり。 確かにその昔この大ファンタジーが、星船の登場で一気にSFに近づいた時は 興奮したものだったけれど・・・やっぱり闇の部分が多いほど、作品は重厚にも 神秘的にも見えるわけで、全てに光が当たってしまうとどうしても・・・ 美しいネオン街も昼に見れば薄汚いものだったりするし。 「神狩り」なら神狩りらしく、もっと「捉えようの無いくらい高位の存在」 に対して卑小な人間(ナリス)が戦いを挑む(そんで滅びる)みたいな方が 個人的にはハマるんだけどな・・・ちょっと浅い感じが・・・ 他にも三大魔道士の存在を知らないスカールとか(・・・) 詩人よりSF作家向きな気さえするナリスの素晴らしい想像力とか イシュトを糞味噌に言う辺りでちょっとだけ復活する昔のヴァレ、でも やっぱりナリス様からは離れられないわ・・・みたいな下りとか (幾ら本人の口から説明されてもなー。結局ジュネじゃん。あーもー。) 無駄にうるさいクラーケンの下りとか、突っ込み所は山程あるんだけど・・・ まあ愚痴はおいといて。 ナリスが、ねえ。ラストの仕掛けなんか見てると、大義の前には人の命など どうとも思ってない辺りはやっぱナリスだよな〜と。ラストの 「いよいよ運命のはじまりだ。クリスタル大公がクリスタルに戻ったのだ−  −まもなく、さいごの宴がはじまるぞ・・・」 辺りの格好良さたるや。 病的で推し量りがたい不気味さが薄れて、「人」として生き、そして死ぬ 事を覚悟したナリスの台詞と読めるがどうか。それとも、これもまた ブラフなのか?ともかく、あの酷薄で華麗な男の復活の兆しが結構嬉しかったり。 あとそろそろグインも帰ってくると言うのでみんなしてグイングイン 言ってるのも解りやすくて良い。 あとヴァレリウスなんかは、昔のヴァレリウスの部分が多少なりとも (作者に忘れられないで)残ってたのが嬉しくて。ああ、でもだからこそ ナリス様べったりのヴァレは見たく無いんだよな・・・ スカールのイシュトに対する怒りがナリスのため、という形で歪められる辺りも 結構丸め込まれてますね?と言う感じ。いかにナリス様がカリスマかという。 でも読んでる方は「そうか?」みたいな気分になっちゃう辺り、或いは 作者と作品と読者の間に少しずつ少しずつ乖離が起きている様な・・・ ・・・あ、あと前巻であれだけ強烈な「引き」を使った星船の描写が 語り終わってみればおいおいこんだけかい!みたいな感じも有り。 いや、でもあの描写が終わるまではもの凄い牽引力だったんだけど。 兎に角早く読み進みたくて、ああ何で俺の目はこんなに文字を拾うのが 遅いんだ!とか思いながら読んだよ。こういうのは久方ぶり。 やっぱ「物語」の力は百難隠すね。 取り敢えずこの展開だとナリスは負けるでしょ。 レムスがパロ聖王として自分の足で立つのはナリスの屍を越えてから、かな・・・ まあナリスはそういう死に方で満足だろうし。 グインとは会わせてやりたくもあり、会わせてやりたくも無し。 まぁ邂逅のシーンを見てみたいという願望はあるけど・・・ スニの「アイー」を久々に聴いて満足の @@@@@@@@@@@@@@@@ [JUN] @@@@@@@@@@@@@@@@ (99/07/12)
栗本薫「鷹とイリス」グイン・サーガ65/ハヤカワ文庫JA/1999/04/15 兎に角面白かった。ここんとこ毎巻言ってる気がするけど ホントに面白かったよう。もー、ラストの「引き」の吸引力はもの凄い。 ああ!早く次巻を!! ここんとこ展開が早いし、何より変な文体が激減したのが嬉しい。 地に足のついた、というか。頼むからこのまま行ってくれよ・・・ で、今巻は矢っ張り、ナリスが「人間になった」描写でしょうかね。 ここ数巻のナリスの変化を感じてはいたものの、どこがどう変わって 「今のナリス」になったのか、というのが今一つ解らなかったのよ。 でも、今巻を見ていると・・ああ、そうか、彼はとうとう「人間」に なったのだ・・・と。「ヒト」ではなくて、人と人の間に生きる 一人格としての己を再発見したのだ。 個我の確立、というか・・・今までと違って、アルド=ナリスという 「個人」が確固としてそこにある、そう言う感じ。 以前の、天野画伯描くところの亡霊の如き、あの内面の欠損。 リギアがしきりに嘆いていたナリスの「哀れさ」。それが今はもう無い。 殆ど命そのものと引き替えにして、彼は「人間」になったのだ。 成程、これで「あなたじゃない、私があなたを選ぶのだ」と言う ヴァレリウスの言葉の(展開の上での)意味が漸く解った(頭悪すぎ)。 他者の存在を認めることによって、人は初めて彼我の区別を行える。 「その贈り物の名は、《信頼》というのだと」(P268) ・・・うわー、泣かせる。よもや昨今のグインで泣きが来るとは。 「剣を捧げる」っていうのは、つまり斯う言うことなんだよな・・・ (単なる友愛とかじゃなくて、やっぱり仕える/仕えられるの関係はあるんだ) ・・いや、ナリスのことだからまた裏で色々考えてるのかと思ってたんですよ。 急に人間くさいセリフを吐き出した頃は。ホラ、口先だけで相手を籠絡するのは 昔っから巧かったでしょう。・・・でも、何か、違うね。 ていうかスカール様が人格負けしてる時点で本物でしょう。 「スカール。中原は、狙われている」(P234) まあグル・ヌー語りの後でスカールがどう出るかはまだ怪しいところだけど。 だいたいナリスもイシュトのネタはまだ隠し持ってるしな。うーん。 まあ、生きてあと5巻程度みたいだし・・・謀反は案外早そう。 「死ぬ間際にいいヤツになるんじゃねえ」((c)ながいけん)みたいな。 ・・・で、今巻のもう一つの話題としては、何と言ってもリンダの カマトト、いやさその「処女性」についてな訳ですが(そうか?)。 果たして20歳で男女の性行為について全く知らないということが (あの情報国家で)有り得るのか? 人間がどれくらい情報によって生きている生物か、によるよね。本能じゃなく。 「周りが誰も話題にしない」「子供は天から授かると信じ込んでいる」 という情報規制の下でなら、有り得るのかも・・・・ 今巻のリンダの喋りなんか聴いてると、ちゃんと成熟した大人の もとお転婆姫様(難しいな)って感じなんだけど、やっぱり 斯う言うのがばっさり抜け落ちていたりする辺り、パロの奥深さを 感じずにはいられないという。うーん。「娼婦」ってどんなことしてると 思ってるんだろう>リンダ。 それに比べると、もうその辺知り尽くし&知り尽くされ夫婦の イシュト&アムは、お互い(アムもね)利害ずくでの関係だけど これはこれで「大人の二人」って感じで良いのだ。案外うまくいきそう。 アムの一瞬(P15とか)の毅然とした態度とか、やっぱ良い。巧いね。 あ、あと、レムスも格好良かったっすよ。たとえトカゲでも。 あのヴァレさんへの一瞥なんかは、おお、これぞあのレムス!みたいな。 お忘れかも知れませんが、私ずっとレムス派なんで。 いやまあそれにしてもナリスの喋りでどんどん謎がほぐれ・・っつーか より謎と謎が深く結びついてきた感じ。いや、この手の事実は既に 示されていたから、今巻はその整理編といったところか。読者に優しい。 しかしスカールが言ってたけど、ナリスは吟遊詩人なんかじゃなくて 「吟遊詩人よりもっと夢想家」たるSF作家になるべきでしたね。向いてる。 で、物語は昭和SF者のトラウマとも言われる「神狩り」へと、いよいよ SFの色を濃くしていくのだった(イシュトとか割とおいてけぼり)。 ・・・人は「運命」という名の神に一矢なりと報いることができるのか・・・? ああ、畜生、早く次巻を!! @@@@@@@@@@@@@@@@ [JUN] @@@@@@@@@@@@@@@@ (99/05/18)
栗本薫「ゴーラの僭王」グイン・サーガ64/ハヤカワ文庫JA/1999/02/15 いや、面白かった。マヂでマヂで。特にイシュトの・・・・・ あ、もうネタバレしても大丈夫よね。65巻も出てることだし。 もうここんとこネタバレ気にしてたら何にも書けないし。 そう、アムネリスとイシュトの間に子供が出来たんだけど、その事実を アムネリスの口から聞いたときのイシュトの 「えらいことになった・・・・」的動揺ぶりが素晴らしくて。 残念ながら(?)私はまだ父親にはなったことがない(その可能性もないがな) けど、男が初子を前にして感じる恐れ−というか怖れみたいなものは 何となくわかる。 「自由を売り渡してしまった気分」って奴だ。自分はまだまだ若くて 子供みたいなもんだと思ってたのに、子供の存在によって否応なく 「父親」にされてしまう・・・・それによって自分が縛られてしまう、 その縄が自分の首にじわりと巻き付く感覚。 何がキたっつって、p150で 「もしこれが−−リンダの子だったら−−リンダが、俺の最初の子供の母親に  なるんだったら・・・」 とか言ってる下りの切なさ。切なさというか・・・ 「解る!わかるぞその気持ち!イシュト!」みたいな。 この辺の、子供が出来たと知った瞬間の父親の不安感とか、暫しの苦悶の後に 妙にさっぱりしちゃう辺りとか、妙にリアル(ってだから私は父親には なったことないけどもさ)に感じられて・・・こういうのは イシュトだけじゃなく、世の「若い父親」の全てが、こういう段階を 経てきてるんじゃないかなあと思うのよ。いやもう、巧いなあ、と。 物語的にはは、この巻の辺り結構「見せ場」。 タイトルも連載開始当初から決められていたものだそうだし、兎に角 絵になるシーン満載。ゴーラ皇帝、サウルの亡霊が大空を覆い、イシュトを ゴーラ王に任命、民衆が大熱狂するところで今巻は終わっている。 情景的には派手で、民衆のココロはこの時点で鷲掴み!な訳だけど、 イシュト達にとっては、既にこれも魔導の力の一つに過ぎない。 過去のグラチウスとの関わりや、ナリス側からもたらされた情報と つきあわせると、どうやら矢張りこの仕掛けはグラチウスの手によるものらしい。 暗黒魔道士連合・・・多少懐かしい名前だが、これでいよいよ 豹頭王の物語とゴーラ王の物語が、その延長線上を交えてきた感じだ。 また新たな展開を予感させつつ、物語は怒濤の如く続くのだった。 あー、近所の本屋にはグインが入らないですよ。 畜生早く新刊が読みたい!週末にでも駅前に行かないと・・・・ 流行りの栗本バッシングにはイマイチ乗り切れない(アタマ悪いんだ) @@@@@@@@@@@@@@@@ [JUN] @@@@@@@@@@@@@@@@ (99/05/06)
栗本薫「時の潮」グイン・サーガ63/ハヤカワ文庫JA/1999/01/15 んん。リギアってやっぱただの馬鹿(にされっぱなしで終わる)女じゃ 無かったんだね。一人考えで「そこまで」たどり着くとは流石だ。 今巻前半は、そんな訳で割とリギアviewで展開する。ヴァレリウスの 今は失われた「良さ」が次々と思い出されたりして、ヴァレリウスファンには 懐かしくも痛い。 で、まぁ表紙を見ればネタバレも何も無いんだけど、そう、あのスカール様が 久々の大登場なのであった。白血病に冒され、明日をも知れぬ命と言われていた 彼だが、「一人の名医がやってきて」ノスフェラスの蠱毒を抜き出して いったのだという・・・・その医師の名は(当然)グラチウス。ああこいつ。 まぁそんな訳で今や病も癒えて元気満々(その復活ぶりをもうイヤと言うほど デモンストレーションしてくれるぞ)のスカールは、彼もまたキタイの 謀略の臭いを身近に感じていたこともあって、ナリスの誘いを受けてマルガへと 向かうのだった。 さて場面は変わってユラニアのモンゴール・・もといイシュトヴァーン軍。 イシュトの「凝り性」の質が出て、みるみる政治家−というよりは「建国者」 に変わっていくイシュト。これも又彼の「征服欲」を満たすものであったわけだ。 そしてその援護射撃を然り気なくやってのけるナリス・・・・ なんかもうカレカノの総集編もかくやという高密度な展開が嬉しい。 ああ、これであとがきがなければなぁ・・・とか。早川に 「あとがき無し版」を別刷りしてもらうとか。あとがきを袋とじにするとか。 じゃああとがき読むなよ>自分。いや、有るとついつい・・・ @@@@@@@@@@@@@@@@ [JUN] @@@@@@@@@@@@@@@@ (99/03/14)
栗本薫「ユラニア最後の日」グイン・サーガ62/ハヤカワ文庫JA/1998/10/15 ぬう。 読後から思い切り時を置いてしまったのですっかり内容を忘れてしまったよ。 と言うことで斜め読みでいい加減な感想を書きます。済まぬ。 つーかいい加減はいつもですが。 つーか誰も読んでないからいいか別に。 ・・・・帯にある63巻12月発売!はどうなったのよ。 タルーの行く末が気になって気になって。 個人的にはタルー割と好きなんで・・・あ、1月14日に延期? ふむ。 で。 内容は詰まるところタイトル通り。 二千年の歴史を誇るユラニアは、その親姉妹を手に掛けたネリイ諸共、 ”ゴーラの僭王”イシュトにその道を明け渡す形で あっさりと潰去ってしまった。 このところの鬼神の如き・・・本当に鬼としか言いようの無い、これぞ真に バーサーカーと呼ばる様なイシュトヴァーンの姿は、この行く先の暗さを 反映して居るとも思える。最早彼は戻ることの出来ない血塗られた道へ 足を踏み入れてしまったのだ、というそのだめ押し的な描写の中に、 それでも嘗ての生き生きした姿を垣間見せたりしてその辺がまた辛いのだ。 生き生きしてるんだけど、薄寒いというか・・・ 気がついてみると背中傷だらけ、みたいな。そういう。 魔道師の情報網、とか魔道師を使っての暗殺、とか 強力な武器を手に入れたらその最も効果的な応用方を考えつき すぐさま実行して見たがるあたり、本当に善悪の観念以前の生き物なんだなぁ ・・・・という感じ。それがまた強みではあるのだろうけれど。 さてこの巻では、ここしばらくご無沙汰だったケイロニアが 何の前触れもなく出てきたりして結構新鮮。 何というか、情報量が多いというか・・・結構お得な感じというか。 まぁ読者の方の多くがそうであろうとは思いますが、私もケイロニア好き好きで。 やっぱ一番安心できるというか、その国民になってみたい国家No.1というか。 ケイロンが出てきたのは当然グイン絡みな訳だけど、外伝での活躍(キタイで シルヴィアとマリウスを救出し、トーラスへマリウスを送り届けてから ケイロニアへ・・・という道をとったこと)が淫魔ユリウスによって ケイロニアにもたらされる。これは勿論グラチウスの罠、というか策略 なのだろうけど・・・で、その話を聞かされるのが懐かしや ランゴバルド候ハゾス。年来のハゾスファンには大受けであろうという。 「ハゾスの端正な顔」(p126)とか。端正な顔だったのね・・・ でもノリは昔のまま。p112の、オクタヴィアの旦那であるところの マリウスの正体をアキレウスの口から聞いたハゾスのリアクション 「・・・・それは大変」 なんかもう・・・ハゾス・・・ 「ユラニアの内紛どころではない」「ケイロニアの知ったことではない」 とか、この辺の自信というか力強さがもうたまりません。 アキレウスも孫娘の事を思ってしんみりしたかと思ったら、あっと言う間に 知謀長けた大王の顔になってみたり・・もうただただ燃える。 ああ、それにしてもアトキアのトール!黒竜騎士団!何と懐かしい名か。 グイン一行を迎えるためにノスフェラス経由でトーラスへ向かうことになる 彼等の目に、ノスフェラスの砂漠はどう映るのか・・・ 久々にエンゼルヘアーとかあの辺独特の自然描写が楽しめそう。 何にせよ取り合えずマリニア達には何とか生き延びて欲しいものだが。 彼等一家の敵は、むしろヴァレリウス辺りかも。ナリスが恐いんだよなぁ・・ ・・とまぁこれからの展開がいろいろと決まったところで、 いよいよ次のターンへと話は進んでいくのであった・・・ 次はいよいよ草原か。久しいな・・・ (元)黒太子ことスカール様も、ちっとは元気になってると良いけど。 @@@@@@@@@@@@@@@@ [JUN] @@@@@@@@@@@@@@@@ (990106)
栗本薫「ホータン最後の戦い」グイン・サーガ外伝15/ハヤカワ文庫JA/1998/09/15 面白かった・・・・ いや、前巻までの「アレ?」感覚が全く無いという、 それだけで十分。元々物語/キャラ立ては最高にいい感じなのだし 正直漸くこういうバランス感覚を取り戻してくれたか、と小躍りする くらいに良い終わり方だった。 外伝を締めくくるには完璧な水戸黄門的ラスト。 ヴァニラが女の子だった!とか(ああお約束の快楽!)。 いやー、流石にカル=カンが出てきたときは大笑いしてしまいましたが、 良い意味でツボにはまった作りが見事。いや、この明るさで締めくくる巧さよ。 読後感最高。ああ、これで作者の(爆)なかりせば。 兎に角前巻までの馬鹿さ加減も、本伝側のホモ臭さも全くない、見事な 「グイン・サーガ」だった。グインはやぱし斯う言う硬派でなくてはな。 シルヴィアの前で狼狽える姿も、何処かしら堂に入っている感じだし。 さて今巻の目玉は矢張り暗殺教団こと「望星教団」のその真の姿ですかね。 読者たる私もその裏暗いイメージばかりを見せられてきていたので結構新鮮。 ヤン=ゲラール教主の姿の奇異さやその生き様のかたちをまざまざと 見せられて、この世界の奥深さはまた一段と深まった。いややっぱSFは絵ですな。 ナリス並の美形なんて久々。 あの「アルゴン化」のプロセスも、恐らくはカナン時代の 遺産なのであろうか・・・ あと特筆すべきは末弥純の描くシルヴィア像。表紙は兎も角p263のソレ なんかは、実にこう「雛鳥」していてたまりません。 このイラストは後ろの「困ったなー」顔のグインもイカスですよね。 ・・・あー、しかしなー、グイン。 あれだけ「結局お父様の命令でしょ!?」とか言われてて 一言「愛してるからこそ!」が出ない辺りが何ともなー。イカスじゃん。 そんな訳無いじゃんよう、と読者は思うけど、でもシルヴィアにしたら 実際無骨で無粋な怪人、という印象だけなのかも知れないしな・・・ で、だ。 こんなに簡単に引き下がるあたり、絶対何かあるでしょう>グラチウス。 シルヴィアに何か仕込んだ可能性大。「売国妃シルヴィア」への道。 まあ、彼等(グイン&シル)の将来は結構暗いらしいんで、その辺は 予想される話ですけれど、どうでしょうかね? 今巻のシルヴィアはホントに「か細い女の子」て感じで 可愛かっただけに(末弥イラストの力もあり)、どうにも・・・ えー、そう言うわけで、まだ心の傷の癒えないシルヴィアを そのまま連れ帰るのは難しいと考えたマリウス(今シリーズ大活躍) の提案によって、一行は一度トーラスへ向かうのだった・・・って 真っ直ぐ帰れるかどうかは疑問ですが。 「カリンクトゥムの扉」とか・・まだまだ結婚までの道のりは長かろう。 ・・・で、やっぱりカル=カンの正体はヤンダル=ゾック、説が有力ですか? @@@@@@@@@@@@@@@@ [JUN] @@@@@@@@@@@@@@@@ (98/11/10)
栗本薫「赤い激流」グイン・サーガ61/ハヤカワ文庫JA/1998/07/15 何か読了するまでに3ヶ月かかってんですけど>拙者。 嘗ては病院の待合室で1時間も有れば一冊読めたものだったがなあ。 ああ老いた老いた。老いたものだよ。 つーか、もういちいち引っかかって駄目でした。 慣れないと駄目だなぁ、と思いつつも「けんけんがくがく」とか・・ 中盤パロの下りはもうテキトーに読み飛ばしてしまいましたが・・ だってもー、ねえ。ナリス&ヴァレリーのいちゃつきぶりには 食傷気味というか辟易というか、 あーもー勝手に赤子プレイでもオムツプレイでもするが良かろう みたいな気分では有るんですが、それはそれ。 いや、ヴァレリウスの「ふっ切り」方にはそれなりに共感もしたのですがね。 拙者「そっちの方の趣味」はちょっと。 かといってナリスがヴァレリーの言う様に、リンダに「だまって俺についてこい!」 とか言いそうもないしなあ。大体リンダはまだ処女なんだろうし(予言関係)。 純潔を守って・・・やっぱり豹頭王の花嫁は彼女なのだろうか? そう言う訳でまあイシュトの方にカメラが移動するまでがタルくて。 イシュトメインに展開しだしてからはまさに赤い激流。 いや山口百恵じゃなくて水谷豊でしょう!みたいな誰も覚えてないツッコミで いちいち時間を取られているから読むのが遅くなるんであって。 アリの亡霊化はお約束で、個人的にはハデスの亡霊(アリオンね) を思いだしてしまう私。「黒い種」がぐんぐんその根をイシュトの内に 張り巡らしていくのが分かる。戦って、戦って、戦い抜いて(V:秋山) みたいな日々の先に、何が有るのか・・・何もない・・・ カメロンの不幸はまだ始まったばかりだ。 とはいえ、今のイシュトは元気溌剌でいい感じ。元々どこかしら危うげな 精神構造の持ち主だったし、今更どうこうという話でもない。 この作品、名前の出てくるキャラクターで幸せなラストを迎えられそうなのって 誰も居ない感じだしな。 さくさく進む展開も心地よいし、やっぱりイシュトはこうでなくちゃね。 いやしかし久々に地図繰った。特に後半は地名と地図と照らし合わせながら 「おお成程」みたいな読み方。こういうの結構好きで。 で、まあ、レムスがナリスをスコボコにやっつけて呉れることを 密かに願っていたりする極レムス派の私ですが。 やっぱ青い血だし、カル=モルとはまだフュージョンしてるクサイし。 @@@@@@@@@@@@@@@@ [JUN] @@@@@@@@@@@@@@@@ (98/11/10)
栗本薫「夢魔の四つの扉」グイン・サーガ外伝14/ハヤカワ文庫JA/1998/06/15 ・・・いや、面白いんすよ。 面白いんですけど・・・でもねえ。 外伝ならではの重厚さ、というか格調めいたものが 今巻全く感じられない・・・でも面白い。 鬼面神ライ=オンの体内にある4つの各階層のイメージの多彩さに呆れ、 奥深さに心底舌を巻く。たった一冊の中に、マンガ単行本なら3回分の 「引き」が内包されている。 さて今巻もその「正体」を示すような情報が様々な形で グインにもたらされるが、どれも確としたものはなし。 「ランドックの王」であったらしい、という確信はいよいよ彼の中で 固まっては来たものの、肝心の「ランドック」が まだ全くその素性をあらわにしていない−という。 「馬鹿者!」  グインは大喝した。 「他のものならばまだしも、この俺が−この俺が、《アウラ》を−  母にして姉にして神なるアウラを、たばかられて見まごうことが  あるとでも思うのか、この愚か者どもめ!」(P280-281) ・・この辺は嘗てのグインぽくて良いかも。 やっぱ軽い台詞回しよりは斯う言う方が・・ 塔の第三層『カナン第一の植民地スィーク』の、 どことなくもの悲しい空気がSFしてて良かったな・・・ うち捨てられて、何千年もの時が過ぎ去った植民都市・・ この別の惑星にある植民都市は、かつてはカナンの都市と「回廊」で結ばれ、 宇宙神ク=ス・ルルフーをまつる神殿都市だったという。 ・・・いよいよクトゥルーか・・・・ ・今回ちょっと「凝ってる」なー、と思ったのがP65末の引き。  マンガだよねぇ、この引き方。巧い。あー、でも、やっぱ文体がさー・・ さて、本伝を読まねば。外伝を読み終わる前にもう本伝が出てしまったよ。 @@@@@@@@@@@@@@@@ [JUN] @@@@@@@@@@@@@@@@ (980717)
栗本薫「ガルムの報酬」グイン・サーガ60/ハヤカワ文庫JA/1998/04/15 「いやあ、とうとう、**も***しまいましたねえ」(あとがきより) と云うわけで− ネタバレ気にしてたらここから先一行も書けやしないので 発売されて以来既に2カ月。流石にもう大丈夫だろう、と勝手に決めて− いやあ、とうとう、アリも死んでしまいましたねえ。 この巻買う前に、友人宅でラスト数頁だけ先読みしちゃってて −こういう邪道な読み方結構平気でやるんですけど− まぁこういう展開になるであろう事は 前巻から分かり切ったことだったんですけれども。 で、まぁ急ぎで読む必要な無いであろうと思っていたらもう6月。 この日曜を使ってようよう読了したという次第。 しかし・・・ なーんかねぇ。イマイチ。 一巻まるまるじらしのテクが入っているとはいえ何かこう・・・ 文章が・・・ねぇ。ゴーラ周辺の描写だから、なのかも知れないけれど・・・ 平気で「ストーカー」とか使ってしまう辺り。 もうこれは「おたくのヴァレリウス」と並ぶ 不用心さと言えよう。読者としては、冷めてしまうことこの上無し。 あとがきに(爆)とか平気で使うのも、ねえ。なめんなというか。 いやまぁその辺は個人的好き嫌いの話なんですけれども。ただ、 放っておくと小説の内部でまで(笑)とか使われそうで・・・ まぁ作者と作品は別物だとは思いますが。 ただ・・・やっぱ昨今の乱発が招いた悪文、と取れなくもないであろ。 正直今の「グイン」は、もう、その持つ「物語」にのみしか魅力を感じられない。 嘗ての文体の持つ重厚なミリキは、カケラも残っていないように感じてしまう・・・ 気のせいだと、良いのだけれど。 あ、いや、でも良いんですよ。「物語」は面白いんだから。 @@@@@@@@@@@@@@@@ [JUN] @@@@@@@@@@@@@@@@ (98/06/08)
栗本薫「鬼面の塔」グイン・サーガ外伝13/ハヤカワ文庫JA/1998/03/15 流石にもう書いても大丈夫でせう。 いやー、もう何書いてもネタバレになるという昨今。 大体この巻なんか表紙からしてが− 取り合えず、この巻だけで ・グインは識域下に「本当の記憶」を封印されているらしいこと ・彼が「宇宙」に帰るには、ルーエの三姉妹と呼ばれる宝玉が必要であるらしいこと ・宝玉の名は瑠璃のユーライカ、碧玉のオーランディア、琥珀のミラルカであること ・グインは何らかの咎を受けて、記憶を消されてこの地に送り込まれたらしいこと ・送り込まれた目的は、竜人ヤンダル・ゾッグを倒すことにあるらしいこと ・そして竜人ヤンダル・ゾッグこそはこの宇宙の法則に縛られない、  異宇宙の存在であるらしいこと− などがいきなり明らかになった。 ヤンダルは詰まるところ、クトゥルー神なのであろう。 栗本薫と云えばインスマウス、という位(云わねえ)、栗本世界には 欠くべからざる存在でもあるし。 で、グインも同様に、この宇宙ならざる宇宙からやってきた ターミネーターである、と。眼には眼を。クトゥルーにはクトゥルーを。 そして今、シーアンの内部では、何かが「誕生」しようとしているらしい・・・ 次々とグインを襲う”怪異”! まさにこの外伝は「魔」の世界に満ちている。 パロの科学的魔術の世界とは似てもにつかぬ、闇の「魔」。 ところがそれに対峙する「王」グインは 今までの自信満々な所が少々欠けてきてて、 どちらかというと「自信過剰」な雰囲気が見えてきて・・・ これも興味深い。 オマケに噂の暗殺教団(これが又キツイ!団員を不治の病にして、 クスリで縛るなんてな、まるでゲルショッカーだ)は姿を現すわ マリウスは久々に歌うわ、鬼面の塔は唾を吐くわ、シルヴィアは身も心も完全に 駄目になってるらしいわ・・・うーん。ちょっといろいろ有りすぎ。 いやー、もう目が離せません。次は一体どうなるのやら・・・ 本伝より絶対面白いと思う @@@@@@@@@@@@@@@@ [JUN] @@@@@@@@@@@@@@@@ (98/06/08)
栗本薫「覇王の道」グイン・サーガ59/ハヤカワ文庫JA/1998/01/31 うーん・・・いやー、動き出したねぇ。 「一冊一冊が激動とヤマ場」との作者の言にも有る様に、 もうその激動ぶりたるや落ちる滝の如き勢いである。 静かなマルガ、人気のないガルム峠の山道、 だがヤーンの御手は場所を選ばず 今がその最大の見せ場とばかりに糸を紡ぐ。 イシュトもいよいよ”覚醒モード”というか 覇王モードに突入した様だし(覚悟完了、という奴だ。 アリストートス卿の命運も尽きたか。南無。) ナリス&ヴァレリウスは当たり前の「仕事」の様に クーデターの計略を立てて行くし (しかしまさかアルミナ姫・・ああッ。何かもうレムス可哀想すぎる。)、 グラチウスはホイホイ出てくるし 然もその口からはキタイの竜王の企みがいきなり明るみに出てくるし その企みの触手がまた予想以上に深く広く 魔道の王国パロに伸びていたりして ぐああああ。凄すぎ。 イシュトに手を組もうと語るグラチウスの口からは、 見えないところで動いていたキタイの魔手が今次々と明らかになってくる。 (そしてそれをこっそり聞いている存在感のないヴァレリウス。) 気が付くとパロ王さえが(!!)キタイの手下にあるかという。 やはりカル=モルの亡霊は消えては居なかったのだ! ・・・これはもうとんでも無い長計にはめられていたと見るべきだろう。 つまり以前ナリスが語った様に、パロの双つの真珠が「誤って」 ノスフェラスに飛ばされたことも、 キタイに無関係では無いのかも知れぬ、という事だ。 かの魔手はまた、この地上であの星船の有様を知る数少ない人間、 我らが黒太子スカール(白血病モード)にすら伸びているらしい。 それらと同時に対グイン、対グラチウス戦すら進行させている訳で。 ああ何という巨大な「敵」!!! 一体竜王ヤンダル・ゾッグとは如何なる者なのか・・・ この「敵」の前にはあの<闇の司祭>グラチー (ってヴァレさん呼んでるぞ。良いのか)ですら その版図を削られつつあるという。 イシュトに語って聞かせた言葉が全て真実とは限るまいが、 このまま行くと、いずれグインとグラチウスが 「共通の敵の前に手を組む」可能性も出てくるのでは・・・ ・・・・・ううう・・・ 場面場面は閑かなのだが、そこで明かされていく「現状」は 恐ろしくドラスティックだ。 ああもう面白い!面白すぎる! ああああ今直ぐ次の巻を出してくれッ! 一月に2冊書き下ろす勢いがあるならその半分をグインに注いで せめて月刊グインをッ! ・・・いやもう奥さん、今を逃すとこのサーガの一番美味しいところを リアルタイム(!)で楽しめなくなっちゃいますぜ。 ”今直ぐこの長大なサーガに参加しよう!”だ。 そんで、みんなで新刊が出る度に「読んだか!?」「読んだ!!」ってやろう。 あー次はまだか〜 @@@@@@@@@@@@@@@@ [JUN] @@@@@@@@@@@@@@@@ (98/02/18)
栗本薫「魔王の国の戦士」グイン・サーガ外伝12/ハヤカワ文庫JA/1997/12/15 月刊グイン12月号。 面白い!無茶苦茶面白いやん。何か一気に読んでしまったよ。 矢っ張りグインは良いねえ。無敵の王様・・・中原対東方の未来の図式を とうとうと語る(p160〜)下りなんざもう・・・ このところずっとそうだけど、今巻も展開が無闇と速い。 キャラも大量に出てくるし、アクションシーンもハリウッド映画ばりに満載だ。 演出の巧さ、特に今巻は押しと引きの巧さが光る。グワーッと盛り上げて すとんと落とすその巧さ。 例えば中盤、中原の未来とかを語って場の雰囲気を盛り上げ、 子供達を探索に走らせて遂に発見した「さかさまの塔」!いよいよ乗り込む! という所で、実はその塔が観光名所化されていて 呆気にとられる(p198)辺りや、ラストの(・・・あ、云わない方が 良いのかも・・・云っちゃうけど)大バトルの後、 いよいよ此の扉の向こうにシルヴィア姫がっ!! と思いきや、とらわれの王子マリウス(余談ですが、「モンティ・パイソンの ホーリー・グレイル」見て以来、マリウスってどーしてもあの沼の城の王子の 姿が重なって・・)が 「グイン−ああ、グイン!」とか出てくる辺り、もう拍手喝采である。 大笑い。巧すぎる。その直前、p279の最後の方で「もしや・・」 と思って、280ページをめくると、ああ、やっぱし・・的。 お約束なんだけど、こうも正面切ってやられると(またキャラがはまってて) 笑うしかない。やられた・・ カル=カン(猫まっしぐら)も実に良い味出しているし、青鱶団(鱶、は 「ふか」。音読みはショウ。調べました。分かんなくて)のシャオロンや リー・リン・レン(彼等の姿は「黒い兄弟」を彷彿とさせる・・・)も 一々キャラが立っていて凄い・・・。 このところのグインの面白さは矢張り、乗りに乗った展開のスピードと、 それに伴う密度に有るのだと思うす。 凝った描写よりも台詞を多用しており、それが 全てがスピーディに展開している感じを与えるのだと思う。 勿論格調高い文体での戦闘シーンや、ちょっと「引いた」文体で描かれる パロの宮廷スズメの類の描写もまた「グイン」なのだけど・・・ 筆先一つで物語そのものの緩急を自在に使い分ける・・・ 「さかさまの塔」なんか、もう随分前から(一昨年の年末から?)「引き」で 来ていたのに、あっさりと通り過ぎてしまうと言う(少年漫画なら「塔」で 此の後まだ半年は引くところ)・・。 その辺、ページ単位の速度が物語世界の速度に引っ張られている様な、 強烈なスピードを感じさせる。此処暫くの停滞から比べると、 今はもう爆発した様な大転換だ。 それでいて、「グイン・サーガ」としての物足りなさは全く無い。 グインの巨大な身体の、鋼の様な筋肉の、聡明極まる頭の、素晴らしい剣技の、 そしてそのカリスマ的「正義」の魅力を全て描ききって、グインファンは もう満腹なのであった。実際p162辺りの壮大な未来図を一気に語らせても、 彼の口から出れば、それが重みのある真実の展開に聞こえてしまう・・・ 結局、このサーガで一番魅力的なのはグイン自身なのだ、と改めて感じた次第。 で、ついつい次の巻までの時間調整を忘れて読み急ぎ過ぎてしまいました。 ああ・・次はまだか・・・ああああ・・・ @@@@@@@@@@@@@@@@ [JUN] @@@@@@@@@@@@@@@@ (97/12/18)
栗本薫「運命のマルガ」グイン・サーガ58/ハヤカワ文庫JA/1997/11/15 前巻からのスピード感は、マルガに入っても衰えず。 イシュト達はヴァレリウスの手助けもあり、巻半ばでナリスに謁見し 巻末ではナリスに自らの運命共同体となることを誓わせる。 まぁ云ってしまえば今巻はそれだけの内容な訳で、描かれる時間もたった一晩。 このサーガの、これ以降の重大なターニングポイントでありながら 主な登場人物は4人。リリア湖の、波の音の聞こえる静かな別邸の中で 中原の未来を左右する、歴史的な決定は下された。 たった一晩ではあったが、ナリスとヴァレリウスの中での時の密度は 凄まじいものがあったに違いない。 特に我らが(とかつては云ったものだが)ヴァレ君の心中如何ばかりか。 彼は懐かしき日常の平和と、ナリスのサーガの行く末とを天秤に掛け、 ひたすら悩む。だが、 「もう、決心がつきました。あなたを一人でゆかせるわけには参りません。  私も御一緒に参ります。永遠に」(p240) 斯くして、あの妙に親しみやすく面白い奴だったヴァレリウスは ナリスと地獄への道を歩き始めるのであった。 イシュトは、ここではナリス&ヴァレリウスの「動機」に過ぎない感もある。 勢い余って泣いたり叫んだりするが、内面は其程描かれていない。 その逞しく野望に燃える外面だけが、さらされている。 「あなたを俺のものにしたい−パロをあなたにあげることで−」(p168) 兎も角、斯うしてナリス&ヴァレリウスという中原切っての策謀コンビは パロ王座の簒奪者への道を歩み始めた。彼等二人の知謀を持ってすれば 或いはそれも簡単なことかも知れないが、果たして・・ 一方のイシュトは、嘗てケイロニアでグインに裏切られた(と感じた)時の ショックから遂に立ち直り、いよいよゴーラの王へと突っ走って行く・・ ・・・のだろうか・・ ああ、兎に角「つづきを!!早く!!」 全てはヤーンのしろしめすままに・・・ さて外伝12を読むか・・・ @@@@@@@@@@@@@@@@ [JUN] @@@@@@@@@@@@@@@@ (97/12/15)
栗本薫「フェラーラの魔女」グイン・サーガ外伝11/早川書房/1997/10/15 グイン! ああ! やっぱりこの”王さま”がメインだと雰囲気が全然違う。 矢張り彼こそは、この壮大なサーガの主人公に相応しい。 然しシルヴィア姫に一目惚れしてから既に数年、 気がつくと何かどんどんキャラが立ってきてて、いい感じだ・・・ P228で冗談を言うグインのハードボイルドな格好良さがもう。 矢張りシブい男は阿呆な冗談を一人で言っててこそ。 黄昏の国の赤い街道をぬけ、ものごとすべての境界なる ノーマンズランドをよぎり、キタイの一都市 フェラーラへとたどり着いた一行。 ノーマンズランドの出口で出会った妖魔のリアーヌと 人間の乙女ナディーンの頼みを聞くべくこの街へやってきたグインだが そこで待っていたのは、彼のノスフェラス以前を知る上での唯一の手がかり アウラ/ランドックという言葉に良く似た、 ランドシアのアウラ・シャーという神の名だった・・・ 本編で全滅だけが伝えられていた、あのパロの魔道師団の亡霊や キタイの竜王、そしてグラチウスも登場し、挙げ句には グインの出自さえ明らかに・・・は勿論ならない。まだまだッ。 展開密度の濃さは矢張り外伝ならでは。その中で、ちゃんと異形の化け物と 大だんびら一つで渡り合うシーンなどもあり、全くサービス満点。 然し・・・・遂に我らはキタイ地へとたどり着いたのだ。感慨深い。 此処は既に、クム等の「キタイふう」ではなく、「キタイそのもの」なのだ。 かの伝説の、噂でしか聞いたことのない国に、グインと我々読者は この世が始まって以来、初めて立つことになる(筈。多分)。 但し、このフェラーラはキタイとは言っても特殊な位置にあり、 古くから魔都と言われ、妖魔と人間(或いはその混血)が 長らく共存している都市である。 ここではグインの姿もそう珍しいものでは無い。 グインのような亜人がそこらじゅうに当たり前の様に居るのだ。 もういきなり世界が(中原とは)違う。 キタイという国そのものは、今竜王の手によって大きな変貌を遂げつつある 様だが(という話も出てくる)−。 これから以後、中原とはまた別の世界が展開されていくのかと思うと 楽しみでならない・・・・でもあんまり「魔」に寄りすぎると ヒロイックファンタジーじゃなくて伝奇物になっちゃうかも・・ とにかく無茶苦茶面白かった・・やっぱグインはいいねぇ・・ @@@@@@@@@@@@@@@@ [JUN] @@@@@@@@@@@@@@@@ (971031)
栗本薫「ヤーンの星の下に」グイン・サーガ57/ハヤカワ文庫JA/1997/8/15 グイン・サーガ57巻。 今巻の主たる舞台はクム。 中原の中の東方と言われるクムの、その特異な風俗、空気、そして食い物!!が 存分に味わえる、今巻はいわばクム肝硬変、ちゃう観光編、という感じである。 ・・・それにしてもバルバル。あの美味さたるや! 「クム名物というべき、白い米の粉で作ったねっとりしたパンに  辛く煮つけた肉と白と緑の野菜をはさみこんだ簡便な食物」、バルバル。 オリーおばさんの肉饅頭、あのガディの歯ごたえとは違う、「ねっちょりした」 口触りがもう!ああ! P160以降しばらく続く全国美味いもん巡りな描写は、 57巻を数えるグイン史上、希に見る美味さ(想像上)だった。 チチアの朝売りの魚の揚げた奴とかもー・・・腹が減って・・ こうして読み返していると、パブロフの犬の如く、涎が・・・ ・・・本編はかなりの大転換点なんだけど、それよりも イシュトが自由に好き放題やってて、其れを見てるだけで嬉しい。 やっぱりイシュトヴァーンてこういうキャラだったんだよな。 一時期の死んだような彼を見て心を痛めていた私としては、喜ばしい限り。 前巻でクムのタリオ大公の首を取ったイシュト(取ったのはカメだけど)は、 その余勢をかって一気にクムの都ルーアンを攻める。 このまま攻め落とすかと言う勢いだったイシュトだが、今や冴えきった頭脳と 其れを超える天性の「カン」が、彼に策略を授けるのだった・・。 タリク王子の生命を取引の武器に、さくさくと計略を立てていくイシュト。 全ての準備を整えた後、ヴァラキアのマルコと供に只二騎、パロへと向かう! このスピード感!!! 中盤、あの淫魔ユリウス(裏には当然グラチウスが!)につかまったりしながらも、 巻末ではもうマルガに着いているというこの速さ。 今の自由なイシュト=イー・チェンに相応しい、身軽な展開だった。 そういう演出なのか、実に爽快。だらだら続くパロ編とは違うぜ、というか・・・ 巻末の「リンダっ娘」という音で、一気に辺境編のあの空気が甦ってくる・・ イシュトとリンダは、果たして再会するのか!?彼等にとっても5年ぶり、 読者にとってはもう何年ぶりだか・・・ 兎も角、待たれよ、次巻! ・・外伝の続きはまだかなぁ・・・ @@@@@@@@@@@@@@@@ [JUN] @@@@@@@@@@@@@@@@ (97/08/18)
栗本薫「野望の序曲」グイン・サーガ56/ハヤカワ文庫JA/1997/5/31 56巻。内容的には前巻の続きというか、この2冊で一回というか。 兎に角面白い。 「グイン」の大きな魅力の一つに この堂々たる戦闘シーンがあるのだけど、 全くこの二巻というもの、久々に血が沸き立った。 うきうきと戦争を進めていくイシュトヴァーン。 情報を集め、軍議を開き、作戦を練り・・ そして何より最強の戦士として、先頭で戦う。 その姿の、何と生き生きとして魅力的な事か! 民衆から−平和を望む者からすればイシュトヴァーンの存在は 真に悪鬼そのものであるのだが、それでも惹かれずにはいられない。 p146の、あの「赤い街道の盗賊」の復活!!というシーンでは、 (あまりにあざといにも関わらず)背筋がゾクゾクした。本当に巧い。 実際どのくらいの期間「盗賊」をやっていたのか思い出せないが、しかし やっと彼の本来あるべき所へ、歩むべき道へ戻った!という感じがする。 イシュトはこうでなくちゃ、とかそう言う感じ。一時期の駄目さ加減が 嘘の様だ。もう満足感腹一杯という感じである。 で、これで今巻は決まりかと思いきや、 陽の落ちた赤い街道を、ずらり並んだと松明が照らし出すシーン(p196)の、 これまたゾクゾクすることと言ったら! 活字ながら、その文字の描き出す、この世とも思えぬ美しさに打たれた。 今巻が最後かもと噂される天野イラストが、さらりと描き出す そのシーンのイラストが、また素晴らしい。 本当にこの世のものとも思えない、イメージの強さで迫る。 ・・いや本当によく練られている。流石だ。 挙げ句にp215で駆けつけるカメロンの、駄目押しの格好良さ。 もう言うこと無しである カメロンはしかしイシュトの行方を心配する。 イシュトが今の様に「生きて」行くためには、矢張り 「いくさをかいばとして」与え続けなければならないのだろうか。 これから彼の行く道にどれだけの血が流されて行くことか。 死の道の果てに何を見るのか・・・ 世界征服をさえ宣言する、今のイシュトは本当に無敵に見える。 たとえアリストートスと雖も、今のイシュトを止めることは不可能だろう。 イシュトはアリを斬って捨てることさえするかも知れない。 先日友人とその様な話をしたのだけど、いやもうアリの役目は 終わったんじゃないか、と。 イシュトを再び戦場へ連れ出す(然も将軍として)というのが ヤーンが彼に与えた役目だったとしたら、それはもう果たされた。 もうイシュトは一人充分でやって行ける。その自信もついたはずだ。 カメロンもいるしな。まあ行けるとこまで行ってくれい。 然し。果たしてアリはどうするのか。矢張りパロへ赴くのか? イシュトヴァーン将軍を連れて? ナリスを見てアリは、或いはアリを見てナリスは、どう感じるだろう? 栗本薫の容赦ない辛辣な筆が、徹底的に描写してくれることを望みつつ。 兎に角、続刊が待たれるのであります。次は7月末か。 @@@@@@@@@@@@@@@@ [JUN] @@@@@@@@@@@@@@@@
栗本薫「ゴーラの一番長い日」グイン・サーガ55/ハヤカワ文庫JA/1997/2/28 グイン・サーガ55巻。 と言うわけでグインの55巻である。今回は久方ぶりに戦闘シーンの連続。熱い。 イシュトの武人としての、その魅力を存分に堪能できる一巻。 自軍に数倍するクム軍を相手に、速力を武器に駆け抜けるモンゴール騎士団。 その先頭に立つイシュト。奴の鬼神の如き戦士ぶりと、智将としての冴えを見よ。 何より久々に生き生きしたイシュトヴァーンを見るのは、嬉しいものだ。 やはりこいつは戦場に置いてナンボだな、とつくづく思う・・・ 読んでいると、戦場の熱気がこっちにまで伝わってきて、 何とも曰く言い難い興奮が襲う。 「−まったく、俺と一緒にいると誰でも面白え目が見れるなあ」(P285) 全く、全く!!いや、ヴァラキアのイシュトヴァーンの面目躍如である。 今巻は、先のユラニアの事件について、各国が対応を議論するシーンがあって、 そこで久々にケイロニアの十二選帝侯&十二神将達の会議シーンが展開されていた。 その会話がもうケイロニアを心の故郷としているワタシには泣けて泣けて。 素朴で、さわやかで、裏腹無くて、ただ国の事だけを考えて・・・・やっぱいいわ 「さわやかなまっすぐな北の国」(P41)は。 しかし結構ゴツイオヤジ達が顔つき会わせて 「こんなときグインがいてくれたらなぁ・・」とか言って溜息ついてる図は 結構オカシかった。でも「らしい」けど。いい人達だ・・・ それに比べてパロはねぇ。 なんかヴァレさんは完全にナリス様の手下だし。いやそれよりヴァレリウスの 描かれ方が「ルブリウス」っぽくなってきてイヤだ・・・かつて「おたくの」と 形容されて某女騎士殿に恋をしていたときの彼とはもうえらい違いである。 斯うしてみてると矢っ張りナリスが一番強いのかなあ・・・当分は・・ グインは主人公でもあるしさっさと外伝なりで冒険を再開して貰いたいものです。 あとがきを読むと、56巻の−とか言う話が出てて、取り合えず56巻が先らしい。 ああ。グインの「完璧な」スーパーマンぶりを早くまた見たい。 よじれ上がる筋肉、音を上げて振り下ろされる大だんびら、飛び散る肉と血、 そして素晴らしく切れる頭脳・・ そればっかりだとまた飽きるんですけどね。 まあ今巻は存分に楽しんだ一冊でした。アリの出番も少なかったし。 @@@@@@@@@@@@@@@@ [JUN] @@@@@@@@@@@@@@@@ (97/03/10)
栗本薫「紅玉宮の惨劇」グイン・サーガ54/ハヤカワ文庫JA/1996/12/15 グイン・サーガ54巻。 うわあ。語れねえ。とてもじゃ無いが何を言ってもネタばれにいい・・ とか言ってたらはや数カ月。 なんだもう55巻でてるの?え?とっくに?いや最近忙しくて。 じゃあいいか。 ついに、ついにと言うべきクムの三公子とユラニアの三公女の婚礼の儀式が かのアルセイス紅玉宮で行われた。ユラニアの人民のみならず、読者の好奇の 眼差しを一手に引き受ける大イヴェントである。 モンゴールの・・というかアリストートス卿の肝入りで展開されたこの儀式は 当然血を持って華々しく伝説化されるのであった。 モンゴールの騎士団が固める中、ネリー&タルーのカップルを残し、公子公女は惨殺 (内一名不明)、ユラニアの主だった重臣も肉塊と化した。大公も、宰相も・・・・ 果たしてユラニアは名実共にネリイの(そして夫たるタルーの)ものと 成るのだが・・ どうも最近ネリー&タルーのカップルが好きで・・・・。 いやー、いいわ。筋肉馬鹿っぽくて。・・危害がこっちに来ない内はね。 (同類:天使の夏っちゃんこと小早川嬢) いや、天野氏描くネリー見てると、今にも「をーほっほほほほほほ」とか 聞こえてきそうで。 前半、カメさんの組んだイシュト救出システムが、果たして これからどう動いてくるか・・・楽しみは尽きません。 まあまだ買ってないけど55巻はまたクム対ユラニアで血深泥なんだろうなあ・・ ゴーラの大地も血によって少しは若返るか。 ・・・で、「黄昏の国の・・・」は、まだなわけね。 明日にでも55巻買いに行かねば @@@@@@@@@@@@@@@@ [JUN] @@@@@@@@@@@@@@@@ (97/03/04)
栗本薫「ガルムの標的」グイン・サーガ53/ハヤカワ文庫JA/1996/9/30 グイン・サーガ53巻。 舞台は再びモンゴールである。 全てを捨ててイシュトヴァーンのもとへとやって来たカメロンは、 イシュトを汚す存在であるアリストートスを亡き者にしようとするが・・・ 果たしてカメロンは、名誉の為ならイシュトをも殺せるだろうか? それが出来ないで滅びる気がするな・・・ 後、ついにオクタヴィア&マリウスの愛児誕生。娘であった。 マリニア、と名付く。果たしてこの娘の行く末は・・・ 正直、今巻は「所詮モンゴールの片田舎の事件」って感じは、する。 派手さを欠くよな・・今ごろグインの方はもう無茶苦茶な剣と魔法の世界を 闘い旅しているんだろうな・・・と思うと、そっちの方が読みたくて仕方がない。 イシュトはもう少ししっかりしろ・・・ こんな男(なよなよ過ぎる)では無かったと思うんだけどなぁ・・ カメが来てから急にジュネな香りが漂ってきてちょっと嫌だわ。 ところで、オリーおばさんの肉饅頭、は関西で言うならば 551の蓬莱のソレを想像しながら読んでるんですが、どうなんでしょ。 @@@@@@@@@@@@@@@@ [JUN] @@@@@@@@@@@@@@@@
栗本薫「異形の明日」グイン・サーガ52/ハヤカワ文庫JA/1996/6/15 52巻。 内容的には前巻の続き。 兎も角、今巻は後半のナリスのヴァレリウス伯(宰相!)に吐く台詞がメイン。 前半リギアの「女故のあさはかさ」みたいな描かれ方はちょっとどうかとも 思うが、相手がナリス&ヴァレ君では勝ち目は無いか・・・ さて。 キタイへ!魔道の王国へ! 全てが東の国、ノスフェラスの彼方へと向かい始めた。 そのへん、例の外伝ともかなり雰囲気を沿わせて来ている。 影で操られているかも知れない王、過去の科学文明の遺産が実は魔道の体系の 上に有ったのではという認識、最早だれも信用できない程のキタイの魔道攻勢・・・ ナリスというのは、見えすぎるが故に、不幸なのだ・・・・ 全ては真理究明の為。彼を生かしているのは彼自身の意志か それとも運命神ヤーンか・・ そして最後にその息の根を止めるのは、運命か、ヴァレリウスか、それとも・・ 我々は、少なくとも我々に近い思考形態を持つヴァレリウス伯(もうヴァレ君など とは呼べない・・・)の目を通して、この後を見守っていく・・ 「それでは別の名前を教えてあげよう。もう知っているかもしれないけれど  −これからさき、さぞかしパロの人々は、−そしてやがては全世界のものたちが、  その名を何回もきくようになる名前をね。キタイの王にして世界最大の暗黒魔道師、  世界に一大魔道王国を築き上げようとたくらみ、おそらくはパロにむかって現在も  毒牙をのばしている男の名を」 ヤンダル=ゾッグ! 今まで、ただ存在が言われていただけの謎の魔道王国キタイ、その姿が朧気ながらに 見えてくる。その都に18年前、パロの双子が世に生まれた年に現れた半人半獣の 竜人ヤンダル=ゾッグ。果たして何者なのか。その思惑は・・・ 全てはあの古代機械の力に収束している様でもある。 精神作用の増幅装置であるとするナリスの説によれば、魔道に強大な力の有るこの 世界に置いて、それは詰まるところ世界を滅ぼす力をも持ちうるという事になる・・ いろいろなものが世界の舞台に姿を現した。果たして続刊は何時出るのか?外伝は? グインの筋肉馬鹿の世界は描かれるのか?とらわれの王子様マリウスは脳天気に やってるのか、最近のモンゴール方面も気になるしあああ早く続刊を! ではまた。 @@@@@@@@@@@@@@@@ [JUN] @@@@@@@@@@@@@@@@
栗本薫「ドールの時代」グイン・サーガ51/ハヤカワ文庫JA/1996/4/30 51巻。 うっわーーー・・・ いいのかオイ。 まぁ、奴にとっちゃどーってこと無いのだろうけどねぇ・・・しかし・・・・ ああ! 言いたいけど言わない。 読んでビックリ、よ。 しかし作者も言ってるけど、思い切ったなぁ・・・ いや、あらかじめ「そうなるべくして」展開していたとは云え・・ 取り合えずヴァレリウスは今巻も可哀想であったよ。 タイトル通り、ドール(悪魔みたいなモノと思ってくれい)の時代に突入だ。 今まで闇に潜んでいた魔道師が表に現れ、その恐るべき力を発揮し出している。 条項で縛らなければならない程に強い力を持つ魔道師の存在は、今までそれほど 表には現れていなかったのだが・・・ 対立していた筈のナリスと魔道師ギルドが手を結び、また、混乱収まらぬパロの 下町、学問の自由を保障した筈のアムブラには、我らがヴァレリウス「伯爵」により 弾圧の嵐が吹き荒れる。なんとあのオー・タン・フェイ老師までもが投獄・・・ 当然「何も知らぬ」リギアは、学生を率いて立たんとする。ああ・・・ 果たしてパロのみならず、中原の命運は・・・ ナリスと魔道師ギルド連合、そして豹頭王(まだだけど)グインもが向かう 謎多きキタイの地とは? また、いよいよ婚儀を迎えるアル・ジェニウスは本当にキタイの魔道師 カル=モルから解放されたのか? そして我らがヴァレリウスの運命は?(いや、ナリスに見込まれた時点で尽きては いるか・・・可哀想に・・・) しかし・・・ ヤーンの御手によって紡がれた糸、は、単に奇跡では無かったのだ。 古代機械の「誤作動」も、双子とグイン、イシュトヴァーンの出会いも。 「このような驚くべき事実をして、《偶然》と考えて良いのか?」 全てはキタイの地へ収束していく。 ああ・・・・しかし・・・ショックが大きいぜ・・・・ 早くも来月52巻刊行予定。 待たれよ! @@@@@@@@@@@@@@@@ [JUN] @@@@@@@@@@@@@@@@
栗本薫「闇の微笑」グイン・サーガ50/ハヤカワ文庫JA/1995 50巻。 50巻だよおっかさん。 だからという訳ではないが実にドラスティックな展開。 アムブラの市庁舎は燃え上がり、首謀者も人質も、全て焼け死んで仕舞う・・・ 果たしてそういう結果を招いた指示をしたのは今や影の側に生きつつある 我らがヴァレリウスだ。ということになっている。 ドラスティックな変化と言えば 特にここんとこ殆ど主人公的活躍のヴァレリウス君にとっては、もう その存在自体が変わってしまう様な・・・ ああ! 矢張り彼は魔道の徒なのだね。見えすぎて仕舞う。 心は人並みの幸せを求めていても。 たといリギアみたいな馬鹿女に嫌われたっていいじゃないか! とか言うと暗殺されそうだから止めるけど。 ヴァレ君がいくら嫌われる存在になっても、俺は信じるぞ! ナリスのイメージも、変わったというか、久々に真の姿を見たというか・・ やっぱ人間ぢゃないわ。私もすっかり騙されてたよ。 これからパロをどうして行くつもりなのかね、あの男。あの冷たい目と冷たい心で・・ さて、聖王アル・ジェニウスの前巻での変貌ぶり。 どうやらカル=モルから解放されたみたいで なんかいい感じの「王」となった。 時代は変わる。文化的民主社会ではなく、戦乱の世に・・ 生き残る為には王政復古、強力な王権による権力集中をすすめて行かねば・・・ アムブラの学生街では歴史に残る大弾圧が始まろうとしている。 最早文化と自由の都は失せた。 それもまた、ヤーンの編糸に繰られているのだろう・・・ いやー、実に読みごたえのある巻であったよ。面白かった・・・ ヴァレリウスに感情移入しまくりで、読むのが辛かったけどさ。 パロの副宰相ヴァレリウス「伯爵」の 今後の活躍と、彼の心が少しでも安らがん事を。 死ぬまで無理かもしれないけど・・・。 でもそろそろ豹頭王グインに会いたいんですが・・・ 外伝はまだ? ではまた。 @@@@@@@@@@@@@@@@ [JUN] @@@@@@@@@@@@@@@@
栗本薫「緋の陥穽」グイン・サーガ49/ハヤカワ文庫JA/1995 やっとこさ読了。 最近本読みに集中できなくてイカン。 いつもならものの数時間で読める程のリズムとおもしろさであった。 パロの学生街アムブラで起こった暴動は今や煮詰まり、ナリスはランズベール塔に 軟禁され、キタイの男カル・ファンはぽっと出の癖に大役を張る・・・ 聖王レムス君は只のカル・モルつきからまた新たな人格が登場、なんか 魅力的な感じになってるし、リギアとヴァレさんもなんとなくいい感じだし。 今巻ではやはりヴァレリウス君の活躍が良いわ。前巻でも言ったような気がするけど。 p171のイラストには感激だぜ。天野描くところのヴァレリウスって 今まで「ちょっとをたく」な暗い奴、だったのに、かっこいいじゃんよう。 魔道師ギルドの姿もおぼろげながら見えてくるし、新たなステージに向かって 動きだした事は間違いないのであった。 ナリスの思考によって語れる古代機械とグインの登場の意味、など、今回はシリーズ のオオモトを再考させる仕掛もあってなかなか楽しかったのであった。 グイン・サーガ、いよいよ次巻は50巻! 全100巻を前に、折り返し点を迎えようとしている。 是非この機会にこのシリーズを読まれる事をお奬めします。ホントに面白いですよん。 ところで主人公たるグインの枝サーガがいよいよスタートするらしい。 タイトルは「幽霊島の戦士」とか。 あー楽しみだぜ・・・・ ではまた。 @@@@@@@@@@@@@@@@ [JUN] @@@@@@@@@@@@@@@@
栗本薫「美しき虜囚」ハヤカワ文庫JA・480円/1995 グイン・サーガ48巻である。 今年の秋には50巻、折り返し点を迎えんと ハイペースで出ております。ファンとしてはもうただただ嬉しい・・ 相変わらず主人公たるグインは出てこない。 しかもパロ篇。 しかし 面白い! ここ数巻の中でもかなりおもしろかった部類。 ここの所レムス国王はカルファンという男のすすめもあってか キタイ風の儀式張った体制に変わってきている。 王はすなわち神である、という事を言い出し 学生たちの反発を買う・・・ ただでさえ不穏な学生街アムブラでは 私塾の学生と王立学問所の学生が喧嘩を始める それの説得に出たナリスに、学生たちの 「パロ国王、アルド・ナリス陛下万歳!」 の声。 ナリスは反逆罪でランズベール塔へ幽閉されてしまう。 そこへ訪ねてくるヴァレリウス 彼等の会話は以後の展開を観る上で面白いかも。 ナリスはやはりこの作品の主要キャラクターだったのね。 最近あんまり陰謀とかしてないと思ってたが・・・ 権力などに興味がなくなったのかとおもっていたら 最後の最後で・・・。さすが・・・! しかしあいつ、「鉄仮面」、まだ生きてるのね。 何十巻にもわたって・・薬付漬にされて・・・ 忘れてたわ。 あああ早く続きが読みたい!の @@@@@@@@@@@@@@@@ [JUN] @@@@@@@@@@@@@@@@
栗本 薫 グイン・サーガ47「アムネリスの婚約」ハヤカワ文庫JA 480円/1995 はあぁぁ いつもながら 面白かった。 うむ。 今巻はなかなかに色々と有ったぞ。 グインの遠征に関してはいずれ外伝2,3冊ほどで描くという。 早くしてくれぃ。 ナリス様はすっかりリンダのとりこだし イシュトはついにやってきたカメロンと会ってごきげん アムネリス(ただの女よ)はカメロンの進言通りにしてイシュトと婚約だ。 今巻はなかなか見逃せないですよ。 で、まぁいろいろ有ったわけですが何より! 我等がヴァレさんの久々の大登場。 もう独断というかアレですが、ヴァレリウス! あああんたの気持ちは痛いほどわかる。 いい奴だ・・・ もちろん立派な魔道士ではあるし僕なんかより行動的なんだけど なんちゅーか、リギアに対する想いとか、もうたまらんす。 今年中に50巻までたどりつく予定のこのシリーズ。 いよいよ折り返しでしょうか。 今年は当たり年となりそうです。 @@@@@@@@@@@@@@@@ [JUN] @@@@@@@@@@@@@@@
栗本薫 グイン・サーガシリーズ46巻 「闇の中の怨霊」(早川書房)460円 を読了。 今巻もグインの単独の旅には触れていず ユラニア戦役の事後処理の描写が、それもそろそろ終わりに入っている。 将たるグインを失ってする事も無くなったケイロニア軍が去り 残りのゴーラの2国、クムとモンゴールがそれぞれの思惑など秘めて 事後処理に乗り出す。 しかし 前半のクムのたるー王子とユラニアのネリィ姫(ブゥッ・・)の密談シーンは もうなんとゆーかほほえましいとゆーかおぞましいとゆーか 迷シーンである。 しかしタルーとネリィの夫婦(となるらしい)・・・ 筋肉ブ男と筋肉醜女・・・ でもなんかほほえましいの。 中盤、アリストートスと魔道士の会話は注目。 ここでは多分はじめてまとまった形でパロの魔道の塔や 魔道そのものの歴史が語られる。成程、そーゆー位置づけだったのか、という。 で、「あちらこちらで愉快な陰謀」(P147)がくりひろげられる汚れた(・・・) 描写の後、清らかな(・・・)イシュトとリーロ、小姓たちのほほえましい描写。 リーロという少年を拾った事でイシュトは明るくなった訳だが 昔のイシュトに戻った・・と読者がホッとしていると、妄執の男アリが リーロを殺してしまう・・やっぱりね。やると思ったけど。 次回からは舞台はパロに戻るという事で ああ主人公たるグインはいつになったら表舞台に帰ってくるのやら。 まーそのへんは外伝を読み返す事でしのぐか。 しかし今年は久々にグインが定期的に読めたことであるなぁなどと 感慨もあり。 「エルザイムの戦い」が43巻で、一年の間に4冊出た訳か。 まだ5冊/年の勢いには届かないまでも・・・・ グイン・サーガ、言っては何ですが結構片手間に読めるシリーズでして ぽつぽつと読んでみるのもいいかもしれません。 個人による長編では現在世界最長、そのうえ全100巻を目指しています。 今ならまだ間に合う、まだ半分、という・・オススメです。 ではでは。 @@@@@@@@@@@@@@@@ [JUN] @@@@@@@@@@@@@@@@
たたえまつれ ミロクの恵みを 人は愛し合うために生まれてきた 武器を捨てよ 殺すな 貞節に生きよ 地の塩として いのちある動物をくらう身を恥じよ 木も草もいのちを持つ仲間なれば      −ミロクの詠唱より てな訳で おおもう出たかの 栗本薫 グイン・サーガ シリーズ第45巻 「ユラニアの少年」早川書店 を読んだ。 いやー・・45巻だぜ。45巻。書き下ろしで45冊(プラス外伝9冊)・・・ 凄いス・・やっぱり。なんだかんだ言ってもこのパワーは凄い。 その上これらは氏の著作の一部なのだから・・・ 今回主人公グインは姿を見せず(一人で旅をしている) 今回のユラニア戦役の後始末がいよいよ始まろうとしている。 ユラニアの猛将青髭オー・ラン既に亡く、頼みのグインも去った。 もはやユラニアはゴーラ3国の盟邦モンゴールとクムによって どうともされようという・・・ やっと折り返し地点の見えてきたGUIN SAGA。 時間に余裕のある方は是非とも シリーズ頭の「辺境篇」だけでも読んでみて下さい。 ではでは。 @@@@@@@@@@@@@@@@ [JUN] @@@@@@@@@@@@@@@@
栗本薫 他「グイン・サーガ読本」早川書房/1995/11/15 しまった。中身全然観てなかったので、こないだなんとなく開いたら、 外伝「黄昏の国の戦士 第一部 幽霊島の戦士」とか載ってるんじゃんよ。 ぐわあぁぁ。知らなかった・・・・ でも、なんか懐かしのゾルーディアとか出てくるものだから、仕方なく 「イリスの石」読み返したわ。だって全然覚えてないのだもの。鳥頭な私・・・ 久々に(6年ぶりくらい?)読んだけど、面白いわ。これ。 ミイラの陳列された部屋描写とか、地下牢の閉鎖感とか、実に良い・・・ その巧さにしばし浸った・・・ で、「イリスの石」を丁度更新に出掛けていた免許センターで読み終えた私は、 すぐさまこの外伝、にとりかかった・・のはいいんだけど、なんか出掛けたりしてて、 おまけに読み終える直前に51巻が出てしまって、結局10日がかりで読了。 面白かった・・・・・・ いやー、久々にグインの「筋肉だけで切り開く」展開が気持ちよかったよ・・・ 矢っ張り奴は「人間」であると共に「けもの」でもあるのだな。 異世界に入り込むと、それはそれで似合う奴。やっぱ奴には政治より「剣と魔法」よ。 ゾルーディアのあの怪物、疑似生命体ザンダロスは生きていた。否、元々生きては 居ない疑似生命であれば、死ぬことはなかったのだ。果たして、再びあの死の都、 今は浮遊都市、幽霊都市となったゾルーディアで、死闘が繰り広げられる。 グラチウスの誘いにのり、いよいよキタイの都ホータンへと向かうグイン。 道連れは美女にして今はカラス(ガーガー・・可愛い・・)のザザ、 そしてあの狼王の息子ウーラだ。 ああ・・・続きが早く読みたい・・・けど正伝もあるしな・・・・ 兎も角、これはこれで「外伝」とは云えある意味で正伝(今までの外伝とは別で、 時間軸が同じなのだ)なので、平行して読みたいですね。 ではまた。 @@@@@@@@@@@@@@@@ [JUN] @@@@@@@@@@@@@@@@

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